薬指は多くの技術を保持している。特に有名な物の1つとしては廊下の技術が挙げられるだろう。この技術は特殊な空間を作り出すという技術だ。簡単には他者からの攻撃は受けないし出口も複雑であるため脱出も困難だろう。つまりその技術が使われたここは要塞でもあり、人を閉じ込める牢獄でもあった。名前は蜘蛛の巣、本来相容れない5本指達が集結し1つの目的を達成するために複雑に絡みつく。
そんな蜘蛛の巣の1ヵ所に本来はお互いに忌み嫌い、目を合わせることさえも嫌う者達が集まっていた。
神託代行者、元アンダーボス、元長兄、元マエストロ、地慧星。都市全体でも屈指の実力者と言える者達が中心にあるか弱い存在を見つめていた。
ある者は何も感じず、ある者は切望し、ある者は愛情をこめ、ある者は期待し、ある者は嫌悪を抱いた。
中心にいる赤子の名前はヨシヒデ、今後5人の親方によって育てられることになる。
「娘ちゃん。気にくわねぇことがあったら、いつでも言いな。どんな形であれ,,,必ず、お返ししてやるからな。」
「お父さん、このぬいぐるみ欲しい」
「そうか。娘ちゃん、どれだ見せてみろ。」
数年が経過した、ヨシヒデは年相応の身体へと成長した。むしろ都市では栄養不足でまともに育つことができない子供も多くいると考えると恵まれた身体をしているといえる。しかし親指と小指の親方から心身両方への暴力を受け薬指の親方からは見たくもないグロデスクな芸術を見せられる日々であり、幸福とはほど遠かった。
そんなヨシヒデにとって人差し指と中指の親方は安心できる存在であり、特に中指の親方は欲しい物があればなんでもくれる心優しき親であった。
「この黒色のぬいぐるみか?こっちの白い方じゃなくていいのか?」
「うん、こっちの黒い方が可愛いから。」
「そうか、なかなかパパの趣味と似てこないな。こんだけ白を勧めてるのにな」
「嫌だ、私は黒がいいの」
ヨシヒデはふくれっ面になり不満をアピールする。マティアスはたじたじになり急いで娘の機嫌を取ろうとする。
「娘ちゃん、そんな顔するなよ。安心しろよ俺が買ってきてやるから。それでこれはどこに売っているんだ?」
マティアスはヨシヒデが見ていたカタログを覗きこむ。
「Y社の裏路地のぬいぐるみ屋か。あの辺に通じてる扉は知らねえな。よし連絡してヂェーヴィチ協会に運んでこさせるか。」
数日後、ヂェーヴィチ協会は優秀であった。彼らは数日ほどで報復後の帰宅中であったマティアスの元へ届けに来た。きっとまたヨシヒデの笑う顔が見れると笑みがこぼれ、ラッピングされたプレゼントボックスを抱えながら意気揚々と蜘蛛の巣へと帰っていった。
「ただいま娘ちゃん、やっとぬいぐるみが届いたぞ。」
「ほんと?見せて見せて。」
ヨシヒデはプレゼントを受け取ると満面の笑みを浮かばせながらラッピングを外していった。その光景はとても微笑ましい物であった。しかしプレゼントボックスが開けられるとヨシヒデから笑みは消え、代わりにうるうると涙を浮かべ始めた。
箱の中に入っていたのは白色であった。
ヨシヒデは涙を流した。これは愛する父親からの罰なのかもしれないと、これから先は自分の欲しい物を買ってくれないのこもしれないと考えてしまった。
「なんで?お父さん、私悪いことしましたか。」
「違うぞ、ヨシヒデ。俺は間違いなく黒色を選んだはずだ。いったいどうしてだ。糞さてはあの店運ばせるのを間違えやがったな」
ヨシヒデは泣き続けていた。自分の大好きな父になにか不手際をしてまったのではないか。嫌われてしまったのではないかと。
「ヨシヒデ、安心しろ。お前はなにも悪くない。」
「本当ですか。私なにも悪くない?」
「あぁそうだ、だから泣き止めよ。せっかくの可愛い顔が台無しだぞ。」
そう言うとマティアスはヨシヒデの頭を撫でた。
「ぬいぐるみに関しても安心しろよ。もうちょっと時間がかかるかもしれないけどすぐに取ってきてやるから。」
「すっすみませんでしたぁ。ただのミスだったんです。だからどうかどうか命だけは」
ぬいぐるみ屋の店の中では店主が一人の大男の前に額を床につけていた。
「てめえが白色を入れたせいで俺の娘ちゃんが泣いたんだ、そこが故意かどうかはもう関係ねえ。」
中指にとって彼らの家族を悲しませるという行為はミスであろうと許されざる行為であった。これから店主は罰を受けることになる。
「さてと帳簿によると運送するぬいぐるみの色を間違えた奴には12行7項P列、左手の指を引きちぎると書いてはあるが。」
そう聞くと店主は安堵した、指程度であれば死ぬことはない。少なくとも今は乗り切れるそう思っていた。
「だが俺が納得できねぇ、色の区別もできない脳なんざ必要ないだろ。」
店主は再び恐怖に包まれた。もはや希望はない。それでも一縷の望みをかけて逃げ出さざるを得なかった。
「はぁ、間違えるだけじゃ飽き足らず、逃げ出そうとするなんてな。もう考えるまでもねぇな。
即決処刑だ。」
「よぉ娘ちゃん、良い子にしてたか。」
ヨシヒデはソファに座りながら、魔法少女アニメを見ており、ちょうど悪役に光線を放ち討伐するシーンが流れており、ヨシヒデは目をきらめかしながら見入っていた。
「うん、お帰りお父さん。ひっ」
ヨシヒデが声に気づき後ろを向くと顔面蒼白になった。
「うん?俺の顔になんかついてるか?」
「おっ、お父さん血が、血が」
マティアスの顔からズボンにかけて大量の血がびっしりとついており、ヨシヒデは恐怖で涙を流しそうになった。
「あぁ、心配すんなこれは全部返り血だ。パパは傷一つついてないぞ。」
「それよりも娘ちゃん、ほれ欲しがってた奴、取ってきたぞ。」
マティアスは血が少しついたプレゼントボックスをヨシヒデに渡す。ヨシヒデは不安を持ちながらも同時に期待感を持ちながらラッピングを開けていく。
中には黒色のぬいぐるみがあった。
「わあ、黒い方だ。ありがとうお父さん。直接取りに行ってくれたの?」
「あぁ、言っただろ取ってきてやるって。なぁ娘ちゃん嫌なことがあったらすぐ言ってくれよ。俺が解決してやるから。」
「うん。お父さん、ありがとう。」