器用なシーフになったので、何事も卒無くこなして生きたいTS転生者 作:しーふぇー
この世界には
剣を扱うのが上手いソルジャー、魔術に長けたメイジ。
鍛治を得意とするスミス、商いに特化したマーチャントなんてものもある。
そして役割に応じて様々なスキルを取得していくのだ。
ボクの場合は、探知や隠密。
そしてそれらを取得できる役割が、シーフというわけ。
基本的に役割で差別をしてはならないというのがこの世界の教えだけど、シーフというのはいくらなんでも字面が悪い。
似たような役割にスカウトなんてものがあるせいで、ハズレ扱いされることもある。
一般人が冒険者になることなく、普通に生きていく分にはシーフでもそこまで苦労はない。
役割に合わない職に就く人間も珍しくはないし、スキルがなくとも鍛錬で同等の成果を出すことは可能だ。
ただ、孤児のように一人で生きていくしかない人間が取れる選択肢は少なくない。
それがシーフとなれば尚更である。
ボクがそんな状況に陥ったのは、そもそも父のせい。
地方の役人だった父は、領主の不正を直訴した結果、その不正の責任を押し付けられて殺されたのだ。
母はもともと体が弱く、父が亡くなったことで体調を崩し、父を追うように亡くなった
犯罪者の娘の孤児であるボク一人が、残されたわけだ。
不器用な人だった。
真面目で頑固、曲がったことは許せない。
しかしそれを指摘することが周囲の不和につながっていると気づかない。
悪い人ではなかったと思う。
だが決して、人に好かれる人物ではなかった。
ボクもあまり、好きではない。
一人になってから冒険者として成り上がるまでの人生は本当にいろいろなことがあった。
シーフであるために周囲からは疑いの目を向けられたし、容姿が優れているせいで、余計なトラブルも引き寄せてしまう。
回生のロザリオの件もそうだけど、他にも色々と。
ただ、強くなることは楽しかった。
一人で生きていくための力をつけているという実感もあったし、トラブルを実際に跳ね除けることもできたのだ。
総じて、決定的に大切なものを失わずに生きてこれたことだけは良かったと思う。
そんなこの世界の父親の末路と、それから歩いてきた人生が、ボクに一つの決意をさせた。
器用に卒なく、自分の力で生きていこう、と。
そもそも、それがボクの憧れだったじゃないか。
シーフなら、それができる。
この力は人をボクから遠ざけるけれど、同時に一人で生きていく上で非常に万能な力だ。
探知や隠密と言った、単独行動の際に優秀なスキルを有し、鍛えれば強大な魔物とだってやりあえる。
これほど、一人で生きていく上で優秀な役割もない。
どんな逆境だって、シーフであれば生きていけるのだ。
とはいえ、ボクの知名度が高くなるにつれ、ボクに不審な目を向けるものは少なくなってくる。
そりゃそうだ、昔ならともかく今のボクは得体の知れないシーフの小娘ではなく、シーフのシルフィアなのだから。
だから、ここ最近はボクに対して優しい言葉をかけてくれる人も増えた。
彼らが悪意がないには、探知を使えばすぐわかる。
だが、だからこそ困るのだ。
冒険者は一人で生きていくことのできる職業だけど、だからといって本当に一人で生きる人は稀なのだから。
とはいえそういう時でも、シーフという役割は役に立つ。
あんまり嬉しい役の立ち方ではないけどね。
+
「――戻りました」
木々の上から、今回パーティを組んでいる者たちの前に降り立つ。
さながら忍者かなにかのようだが、シーフなので間違ってはいない。
今回ボクがやっていたのも、隠密しながらの偵察だからだ。
「ゴブリンの数は小型が十、シャーマンが二、アーチャーが二、指揮するジェネラルが一です」
「ありがとう、シルフィアさん」
「……後衛の数が多いわね」
現在ボクは、とあるパーティと合同でゴブリン退治の依頼を請け負っていた。
街道直ぐ側に拠点を作ってしまったゴブリンたちを退治するという、シンプルな依頼。
問題は拠点の場所が深い森の中で、かつ攻め込みにくい場所にあるということだ。
敵の数を把握するのも難しく、そこでボクが助っ人として雇われた。
加えて言うと、現在組んでいるパーティ”
全部で十人の大所帯パーティなのに斥候系――スカウトやシーフ、アーチャーやレンジャー等――の
割とこのパーティはこういうことが多いので、フリーの斥候であるボクが雇われることが時折ある。
「ジェネラル程度なら、皆さんなら遅れを取ることはないかと思いますが……」
「後衛にジェネラルを守られるとどうしようもないな。まずはこいつらを何とかしないと」
現在ここにいるのは、白銀の剣のリーダーでソルジャーの男性アルフォンスと、サブリーダーのガードであるジュリィ。
他にもメイジのリナがいる。
ボクを加えて4人のパーティ、比較的順当なパーティだ。
リーダー二人が色々と作戦会議をしているのを横目に、ボクはリナさんの方を見る。
如何にも魔女って雰囲気の格好と、デカイ一本のおさげの地味な雰囲気の少女だ。
そしてその雰囲気は間違っておらず、視線が合うとあたふたした様子でそれを反らした。
で、そんな事をしている間に、相談が煮詰まってきたようなのでこちらからある提案をする。
「……後衛は、ボクがなんとかしましょうか?」
「本当か? シルフィアさんにそこまでさせるのは申し訳ないんだが……」
「こっちは打つ手ないから、そうも言ってられないわね」
ボクは部外者だから、白銀の剣だけで事態を解決できるならその方がいい。
これもまた、卒無く冒険者として生きていくための鉄則だ。
今組んでいる人たちは顔なじみで、気心が知れいているからいいけれど、初見のパーティと組む際はあまりボクが目立つのは避けたほうがいい。
冒険者というのはプライドが高く、ゲストのはずのボクが自分たちの活躍をかっさらうことをよしとしないのである。
今回は白銀の剣だからいいものの、こういう提案は慎重にやらないと行けない。
とはいえ、決まってしまえば単純だ。
ボクが隠密して、後衛を暗殺すればいいだけなのだから――
+
「――こんなもの、ですかね」
ゴブリンを退治して、息をこぼしながら白銀の剣のアルフォンスさんに呼びかける。
そちらではジェネラルが既に息絶え倒れ伏しており、アルフォンスさん達は危なげなく戦闘を終えたことがうかがえる。
戦闘は、まずボクが後衛を不意打ちした後、アルフォンスさん達が突入。
撃ち漏らした後衛と、逃げ惑う雑魚ゴブリンをボクが始末している間に、白銀の剣が戦闘を終えた。
適材適所というかなんというか、拙い連携をするよりはこうやって役割分担をしたほうが、戦闘はうまくいくことが多い。
「お疲れ様、みんな。シルフィアさんも助かった。大丈夫かい?」
「いえ」
ボクは冷静に首を横に振って、大丈夫だと伝える。
後ろでリナさんが嬉しそうに顔をほころばせているのが見えたので、手を振っておいた。
手を振り返してくれた。
「それにしても、シルフィアさんは本当に強いね。やろうと思えばジェネラルも一人で倒せるんじゃないかい?」
「ええと……ジェネラル単体なら問題ないかとおもいますが」
この場にいる魔物全てとなると、どうなのだろう。
危険を避けるのも冒険者として必要なスキルだ。
多分、そもそも単独でこういう場所に突っ込まないので、実際のところはよくわからない。
「やっぱり、シルフィアさんも白銀の剣に入らない? 貴方にとっても、安心してパーティを組める相手っていうのは……貴重だと思うのだけど」
「……いえ、遠慮しておきます」
こうしてアルフォンスさんやジュリィさんから、パーティに勧誘されるのは初めてではない。
だけど、ボクは毎回それを断っていた。
「ボクは……シーフですから。パーティに入るということは、皆さんのギルドカードにボクの名前と役割が記載されますし」
「俺達は気にしないさ。君はリナやアーシアとも仲がいいし……」
「……ボクが気にしちゃいます。今の付き合い方でも、十分問題はないとおもいますよ」
「むぅ……」
実際には、一人でいるのが気楽だからなのだけど、気にするというのも嘘ではない。
何にしてもパーティにシーフがいると、依頼主を警戒させてしまう。
だから断っている。
そういう理由を使えるのが、シーフという役割そのものの唯一といっていい利点だった。
「今回も断られてしまったか。申し訳ない、不躾なことを聞いた」
「いえ、今後ともよろしくおねがいします。アルフォンスさん」
「ああ、こちらこそ」
世の中にはいい人もいて、悪い人もいる。
それはよく解っているのだ。
そのうえで、ボクは人との付き合いをできるだけ避けたい。
相手に悪感情を抱かせること無く、こちらが悪感情を抱くこともないような関係を築く。
理解してくれる人は、少数でいい。
それがボクの、シーフとしての生き方だった。