あれは守屋の葬式の日だった。
「またお前に先を越されるとはな……」
上地とは中学校からの付き合いで、その頃からどこか浮世離れしたようなそんな雰囲気を持つ男だった。
俺たちは同じ高校に進み、守屋と仲良くなり、一緒にへたくそなバンドを組んだりした。それから、俺だけが別の大学──二人よりもほんのちょっとだけ偏差値が上の大学だ──に進んだ。上地が三年の時に留年を食らった時だって、俺たちは三人で仲良く飲み明かした。
つまるところ、俺たちは親友だった。しかし、そんな親友である俺をもってして、やはり上地は掴みどころのない、いつだって頭の片隅で誰もあずかり知らぬようなことを考えている男だった。
いつかきっと、上地は風船のようにどこかに飛んで行ってしまうと思っていた。そして、守屋が死んだことで誰かが掴んでいた彼の紐は離されたのだと思う。
葬式の後、俺たちは二人で居酒屋に入った。明るい話など出るはずもなく、だが昔からの習慣で俺たちは飯を食う。上地はいつものように大好きなチキンカツをむしゃむしゃと食べていた。
上地はレモンサワーを半分ほど飲んでから、苦々し気に言った。
「まったく。今回もしてやられたよ。守屋の野郎。相変わらず、うまいな。婚約者なんか作り始めた時には、今回こそもらった! っと思ったのによ」
俺は耳を疑った。いくら上地が変わった奴とは言え、十年来の親友の死に際して言う言葉ではない。
ショックで何も言えない俺の無言を肯定と捉えたのか、上地はペラペラと続きを話した。
「まぁ、俺よりもお前の方が悔しいか。正直言って二人は俺よりずっとうまいもんな。前回はお前が勝ったが、今回はリベンジ成功って感じか。どんな感想だ?」
「ちょっと待て! 何を言ってるんだ! 全然わからないぞ!」
「わからないってお前……まさか!」本当の本当に驚いた顔で上地は言った。「忘れたのか……いや、確かに考えてみればうまい手だ。さすがだな……だがそれでも今回は守屋の勝ちか……」
困惑する俺を見て、上地はいつも通りの笑顔を浮かべながら、指を立てて説明を始めた。
「この世がゲームだと思ったことはないか? というよりもゲームなのだが。俺とお前と守屋はもう随分長い事このゲームで対戦し続けてきたんだ」
「なにをバカな。第一ゲームだとして何を競うというんだ守屋は死んでしまったではないか」
「それだよ。俺たちは誰が一番最初に死ねるかを競ってるんだ」
「ば、罰当たりだぞ!」
「まぁまぁ、落ち着けよ。お前の戦略は見事だが、ちょっとくらい話を聞いてくれ。この世の生きとし生けるものはすべてこのゲームに参加してるんだよ。如何にして素早く、そして芸術的に死ぬか。芸術的にってとこが重要だぜ。自殺なんて汚い手を使う奴は絶対に勝てないようになってるんだ。一番いいのは他人の手で殺されることだな。だって考えてもみろ、相手からしたら一人のプレイヤーを勝たせちまってるんだ。こんなに順位を上げるのに好都合な死に方もあるまい。守屋の奴はうまくやったよ。居眠り運転のトラックに突っ込まれるなんて、すごい死に方だ」
「お前の言葉は矛盾してる! 死んでしまうことが勝ちっていうなら、何度も対戦なんか出来ないはずだ!」
「お前だって輪廻転生くらいはまだ覚えているだろう? 一回の命が終わったって。次の命がある。前回のお前はすごかったぜ。あの零戦に乗って誰もいない岩に激突して死んだからな。俺と守屋はそりゃもう悔しがったさ」
「そ、そんな……!」
俺はなぜだかこの荒唐無稽な話に気圧されてしまった。もしかすると、話をする親友の目があまりにもまっすぐこちらを見ていたからかもしれない。
「信じないならいいさ。確かに記憶を消しちまった方がわざとらしくない死に方が出来そうだ。俺はよくそこの差で負けちまうからな」
こともなげに言う上地が恐ろしくて、俺はその場から逃げ出した。その姿があんまり慌てていたように思えたのか。上地が心配した声色で追ってくる。
「ま、待てよ! そんなに怖がらなくても────」
ドン。という鈍い音がなった。
上地は白いバンに轢かれた。腹からは内臓が飛び出していて。すぐに助からないことがわかった。
俺は上地に駆け寄った。先ほどの恐怖よりも、いままでの友情が打ち勝った。
「や……った。久し……ぶりに……二位……だ……」
上地はそう言って死んだ。
二人の親友を無くしてから四十年が経った。俺の終わりはもう近い。だがやり残したことはない。
もしその時が来たら、あの二人に「お前今回は全然駄目だったな。さ、もう一回やろうぜ」なんて言われるのだろうか。
最近はそんなことばかり考えている。