異世界を救ったTS姫様と勇者は、現代に帰還しても男女カップルチャンネルの配信でてぇてぇ営業して生きていく。ダンジョン配信もやるよ 作:vhuphje
「崩れる!」
ミナトさんの声と同時に、補修跡の上から岩が落ちる。
砕けた岩が通路の中央へ落ち、俺たちが戻る6番機の方向にまで広がってきている。
「リョウ、下がって!」
俺たちと落石の間へ、金色の障壁が斜めに広がった。
ガンッ!
落ちてきた岩がその面へぶつかって止まる。
二つ、三つと重なるたびに光の面が沈んだ。
「っ……重い!」
イオリは術式で作った障壁を支えながら、俺とミナトさん、それから後ろの通路を見る。
「6番側、空けたままにするから!」
「後ろの通路は生きてる!」
ミナトさんもすぐ退路を確認していた。
岩甲獣はまだ動いていた。
壊れた右前脚を引きずりながら身体を起こし、もう一度こちらに頭を向ける。
俺は岩甲獣を7番側の壁から引き離すように、反対側へ回り込んだ。
岩甲獣の頭が俺を追う。
右前脚をつくたびに、巨体は沈むが、突っ込んでくる力がなかなか消えない。
『姫様のバリアすご』
『光ってる!!』
『勇者早く終わらせろ』
『逃げて~~』
『いうて魔王よりは弱いでしょ』
三人とももうコメントを見てはいなかった。
岩甲獣が急に身体を振った。壊れた右前脚では踏ん張れず、予想より大きく巨体が横へ流れてくる。
右脚で踏ん張れず、巨体そのものが飛んでくる。
外殻の端が右肩へ当たり、身体が壁へ飛ばされる。ドンッ、と背中が壁へぶつかった。
右腕に痺れが走ったが、剣は握れている。大丈夫だ。
「リョウ!!」
「リョウくん、握れる?? 腕は?!」
指を握って開き、そのまま腕を上げる。肩を越えたところで痛みが走った。
「動く。肩は痛いですけど」
「分かった。追加の落下なし。後ろも生きてる。無理ならすぐ抜けるよ」
イオリは頭上の障壁を見上げ、それから岩甲獣を見る。
「……この一枚はいま動かせない」
落石を受け止めたまま、6番側への通路を守っている。あれを外せば、また岩が落ちる。
「でも、短時間なら――もう一枚出せる」
「二枚、同時に?」
「短時間だけ。小さくして、あれを止めるんじゃなくて、軌道をずらすだけなら」
ミナトさんが後ろを確認した。
「退路はある。でも、あれを残したまま下がれば追われる」
イオリが一度だけ息を吸う。
「……続行するよ!」
岩甲獣が頭を下げて突っ込んでくる。
落石を支えているイオリの障壁は動かない。
その横へ、もう一枚の小さな金色の面が斜めに現れた。
岩甲獣の肩がぶつかる。正面から巨体を受け止めるのではなく、ほんの少しだけ進路を横へずらす。
「今!」
その脇を抜けて、俺は岩甲獣の首の後ろへ回る。
前側の厚い外殻と背中側の殻が重なる隙間へ剣を入れる。
一度目は浅く押し戻されたが、角度を変えて同じ場所へ入れ直し、そのまま魔力を流した。
刃が外殻の奥まで抜けた。
岩甲獣の動きが鈍ったところへ、もう一歩踏み込んで剣を押し込む。
太い前脚が床を擦り、巨体が沈んだ。
岩甲獣はそのまま起き上がらなかった。
「ミナトさん!」
「周囲反応なし。後方も異常なし!」
「二人とも、そのまま離れて!」
俺とミナトさんが落石の下から外れたことを確認してから、イオリは支えていた障壁をゆっくり傾けた。
積み重なっていた岩が金色の面を滑り、崩落部とは反対側の壁際へ落ちていく。
最後の一つが床へ転がったところで、障壁が消えた。
「っはあ……」
イオリが大きく息を吐いた。
ミナトさんは頭上と退路をもう一度確認すると、すぐ肩の無線を取った。
「亀戸管理、榊です。岩甲獣は停止。壁面に局所崩落あり。負傷1も、歩行可能。8番以降の点検は中止して帰還します」
短い応答が返ってくる。
「ということで、8番から10番は今日はなし。壁の確認を先に入れてもらう。続きは別便で回せるし、リョウくんも肩を打ってるからね」
「はい」
「リョウ、帰ったら肩は診てもらうからね」
「分かった」
そこでようやく、ミナトさんが胸元のカメラへ目を戻した。
「配信、生きてる?」
『乙』
『生きてる!!!』
『三人とも無事!?』
『勇者右肩大丈夫か』
『8~10中止了解』
『7番どうするの?』
「はい。三人とも歩けます。リョウくんの肩はこのあと確認してもらいます。それと7番ね」
ミナトさんは壊れた観測機へ視線を戻す。
「うーん、どうやら外装は壊れてるけど、本体の記録部は生きてそうに見えるねえ。内部ログを確認できるか見てみようか。崩落側には入らなくていいよ。通路側の保守口に触れそうだから、そこから内部ログだけ確認しようか」
イオリが端末を7番機に直接つなぐと、画面へ数字が流れ始めた。
「あ。内部ログ、生きてます。通信が切れたあとも本体では測り続けてます」
イオリが記録を取得していく。
「7番機本体に大きい衝撃が入ったのは……7時38分」
『さっきのが現れた時間か?』
『738了解』
『デカブツが現れたときの歪みで機械が逝ったか』
コメント欄、こういうのが好きそうな人たちの集まりになっている。
さすがミナトさんのチャンネル。
「……待って? その前の方が変ですね」
イオリが表示を拡大した。
「6番と7番の基準距離、618.4メートルですよね」
「うん」
「ここ。一回だけ634.7、異常値です」
「……その差分だけ機械が動いたのか?」
ミナトさんが呟いた。
「動いてないよ。6番も7番も固定されてた地点のままだよ」
それなら、動いていない二つの観測点の距離が、一瞬だけ16メートル以上増えたことになる。
「しかも、それよりあとに7番の通信が途切れてます。大きな衝撃は26分後ですね」
コメント欄が一気に加速した。
『???』
『距離伸びた?』
『岩甲獣の衝撃より距離異常のが先じゃん』
『これ初期のダンジョン発生のやつじゃない?』
『やっぱり異世界編か』
『これダンジョンの活性化してますやばいです』
ミナトさんの表情が少し変わった。
「……似てはいるね」
『ひえええww』
『5年前の距離異常再発?』
「似てる、までだよ。同じ現象かはまだ分からないよ」
イオリも携帯型空間歪計の記録を開いた。
「僕たちが6番から7番へ来た時間帯には、こっちには同じ異常は出てませんね」
「じゃあ、ずっと続いてるわけでもないのか」
「少なくとも、僕たちが来た時には出てないね」
ミナトさんが答えたところで、コメント欄の考察はもうその先へ走り始めていた。
『第三新宿の裂け目と同じかも』
『これ異世界案件では?』
『異世界からなんか来てる説』
『異世界は早計』
『でも横に勇者と姫いるんだぞ』
「いや、これで異世界には直接ならないよ……?」
ミナトさんが苦笑した。
「昔の亀戸と似た距離異常かもしれない。そこまでは考えられる。でも、距離がおかしくなったところから異世界までは、まだ何段もあるでしょ」
『5年の経験が生きてる』
『まあ慎重にね』
『異世界帰還者の見解は?』
ミナトさんがコメントを見て、俺たちへ視線を向ける。
「……『異世界帰還者の見解は?』……だそうですけど、どうですか?」
イオリは画面の数字をもう一度確認してから答えた。
「僕たちは、地球のダンジョンと異世界に関係があるかはずっと調べたいと思ってます。でも、いま分かったのは、固定されてる二つの観測点の距離が一瞬おかしくなったことです。それと異世界がつながってるかは、まだ別の話です」
『なんで本人が一番慎重なのw』
『でも姫様めっちゃ気にしてるだろ』
『異世界イベ続きすぎだろ』
「そりゃ僕たちも気にはなりますよ。気になるから、比べるんです」
「私は昔の亀戸の記録を見直す。同じ時間のほかの観測点もね」
「僕たちは、今日の携帯計測と、次の遠征で取る記録を比べます」
俺は倒れた岩甲獣を見る。
「俺はあいつだな。成体はもっと奥にいたんだろ。なんでここまで来た」
「じゃあ、三方向に宿題だね」
ミナトさんが話題を閉じる。
通信ユニットを交換し、7番の通信だけはその場で復旧させる。
「管理側でも受信確認。外装と壁は引き継ぎ。今日はここまで」
『遠征匂わせやめろ』
『遠征??』
『各自宿題持ち帰り』
『お泊りデート予定開示してて草』
『これは異世界勉強会コラボ決定』
++++++++++
入域ゲートを抜けるころには、俺の肩を心配するコメント、過去の亀戸ログを探すコメント、異世界説を巡るコメントが入り混じっていた。
「はい、無事に外まで戻ってきました!」
ミナトさんが三人を画角へ入れる。
「今日は10の点検予定のところ7番観測点で終了。7番観測点の通信は復旧しました。でも、壁と外装、それから8番観測点から10番観測点は引き継ぎます。ログについては、出せることが増えたらまた〈ミナト探索記録〉で話します!」
『おつみなとん』
『三人とも無事でよかった』
『距離異常の続報待ってる』
『過去ログ班まだ帰ってこない』
「二人とも今日はありがとう。最後に何か告知ありますか?」
「あります!」
イオリが一歩カメラへ近づいた。
「明日は僕たちのチャンネルでゲーム配信です!」
『ゲームきた』
『通常営業』
『この流れでゲームw』
『ゲーム1ヶ月ぶり屋根』
『遠征じゃないのかよ』
『遠征、忘れられる』
「ただ、最近やってるような協力系ゲームじゃなくて、今回は、僕たちが5年前に遊んでたゲームで、本気対戦します!!! あ、あと遠征もちゃんとやります!」
『おw』
『5年前!?』
『召喚前のやつ?』
『男子高校生時代のゲーム了解』
『それは見たい』
『遠征の扱い軽くて草』
「実はこれは、前からやる予定だった配信なんですけど――」
そこでイオリが、妙に得意そうな顔をした。
「――今日、新しい目的ができました!」
は?
「……なんだ? 聞いてないぞ??」
「今決めたからね。リョウも知らない目的です!」
俺に返してから、イオリはもう一度カメラへ向く。
「僕とリョウが昔から男子の親友だったことを、大盛ラーメンを食べずに証明します!」
得意そうに意味不明なことをいい出した。
『まだラーメン引きずってて草』
『ゲームでどう証明すんだ』
『勇者焦ってるw』
『異世界っぽい異常の翌日にゲームするの??????』
『世界の謎を目の前にしてゲーム配信するな』
『考察厨涙目wwww』
『異世界もゲームも両方やってええんやで』
『帰還配信平和すぎんだろ』
「異世界の謎が出たからって、明日の予定はなくならないです!」
イオリが即座に言い返す。
「それに7番の記録は持ち帰って確認します。僕たちだけで今ここで答えが出るものじゃないですからね」
「その間にゲームはする、と」
ミナトさんが笑う。
「はい!ゲームします!」
『強い』
『切り替えが早い』
『かわいい』
「私の方は、今日の7番は昔の亀戸のログと比べておくね。出せることが増えたら、また次の〈ミナト探索記録〉で話します。お楽しみに!」
『みなとんが考察してるのに勇者姫様はゲーム』
『不公平で草』
『待ってる』
『謎の分業体制』
「分業じゃないからね?」
ミナトさんが笑ってコメントに返事した。
「遠征もちゃんとやります!」
イオリが付け加える。
そのあと今日の作業内容を簡単に確認して、配信は終わった。
カメラから赤いランプが消える。
「……で」
機材を外しながら、ミナトさんがイオリを見る。
「男子の親友だったって、ゲームでどう証明するの?」
「それなんですよ」
「決めてなかったのかよ」
「新しい目的ができたって言っただけで、方法まで決まったとは言ってないでしょ」
「配信であそこまで言い切ったのに?」
「明日までに考えればいいんです!」
イオリが胸を張った。
ミナトさんが笑いながら、近くの椅子へ腰を下ろす。
「じゃあ作戦会議?」
「お願いします!」
「俺も参加するのか」
「当たり前でしょ。リョウとの親友関係を証明するんだから」
どうやら、普通に昔のゲームで対戦するだけでは済まなくなったらしい。
「だって大盛ラーメンをもう一回食べるのは嫌なんですよ」
「そこが基準なんだね……」
イオリが必死に案を出す。
「たとえば……たとえば、ものすごくゲームが上手いとか」
「女の子でも上手い人いっぱいいるよ」
「そもそもイオリも、俺の家でいつもやりこんでたといっても、配信してるような男のガチ勢ってほどの腕前じゃないだろ」
それを、ミナトさんと俺が潰していく。
「じゃあ、徹夜でゲームしたことがある」
「それもいるね」
「イオリはすぐ寝てたろ」
話はどんどんおかしくなった。
「……ゲームセンターで閉店近くまで対戦してた」
「それは本当に女子でもいるいる」
「もう明日のゲーム配信からズレてるぞ」
「……ミナトさん、全部潰さないでくださいよ!リョウも真面目に考えて!」
「だって男子だった証拠にはならないもん」
「残念だったな」
完全に正論だった。
イオリが腕を組み、本気で考え始める。
「じゃあ何かないかな。僕とリョウが、5年前よりも前から、こういう感じだったって分かるもの」
「親友だったことなら、そっちの方がまだ証明しやすそうだけどね」
「男子の、まで付けないといけないんです!」
「なんでそこにこだわるの?」
「重要だからです!」
よく分からないが、イオリ本人には重要らしい。
「リョウも考えてよ?」
「俺もか?」
「明日、僕たちのチャンネルの配信なんだから当事者でしょ?」
「普通にゲームすればいいと思ってた」
「目的が増えたんだよ」
「勝手に増やしたんだろイオリが」
「いいから。作戦会議だよ!!」
イオリがそう言って、俺とミナトさんを指さした。
「明日までに、大盛ラーメンを食べずに男子親友だったことを証明する方法を考えます」
「それ、ゲームするより難しくない?」
「ミナトさんも、今だけでも協力してください!」
6番機と7番機の間の距離が伸びた理由もよく分からないまま、俺たちは今度は、5年前の男子高校生をどう証明するかを考えることになった。
14話をお読みいただきありがとうございました。
毎日お昼投稿だったのがきょうだけ予約時間の設定を間違えておりまして、遅れてしまいました。
大変申し訳ありませんでした!!
どうせ、よろしくお願いいたします!