夏休みの太陽がギラギラと照りつける、とある静かな海岸。
波の音がザザーンと心地よく響く中、桜が丘高校軽音部——通行名「放課後ティータイム(HTT)」の5人は、絶賛合宿中(という名の海水浴)を満喫していた。
「うひょーーっ! 海だーっ! カキ氷だーっ! スイカ割りだーっ!」
ビキニ水兵風の水着に身を包んだ平沢唯が、砂浜を駆け回りながらバンザイを叫ぶ。
「唯、走ると足取られて転ぶわよ! ……まったく、合宿だって言ってるのに全然練習する気ないんだから」
と言いつつも、麦わら帽子をかぶりながら嬉しそうにパラソルの下でサンオイルを塗っているのは秋山澪だ。
「まあまあ澪ちゃん、せっかくの夏休みなんだから! 琴吹家特製の冷えた麦茶と高級メロンも用意してあるからね〜」
おっとりとした笑顔でクーラーボックスを開けるのは琴吹紬。
「よっしゃ! メロンいただき! ……って、梓、お前さっきからずっと日陰から出てこねーな?」
田井中律がサングラスを額にひっかけながら、パラソルの陰でちょこんと体育座りをしている中野梓を覗き込んだ。
「あ、律先輩……。私は日焼けしたくないですし、そもそもこれってバンドの合宿ですよね? ギターの練習はいつやるんですか……?」
ジト目で先輩たちを見つめる梓。
「あはは、あずにゃん、堅いこと言わないの! 海で食べるごはんはおいしいよ〜!」
「唯先輩、食べることしか考えてないじゃないですか!」
そんな、いつも通りの賑やかで平和な放課後ティータイムの時間が流れていた。
——その時までは。
突然、雲ひとつない快晴の空に、バリバリバリッと空間が割れるような不吉な亀裂が生じた。
「ヒッ!? な、何あれ!? 雷の音!?」
澪が弾かれたように立ち上がり、唯に抱きついた。
「えっ、何!? 空が割れてる!?」
律が目を見張り、むぎ(紬)も「あらあら?」と目を丸くする。
次の瞬間、眩い光とともに、砂浜の上に**ドサッ!!**と大きな影が叩きつけられた。
砂煙が舞い上がる。
「ゲホッ、ゴホッ! な、なんだ急に!? また転移か!?」
砂煙の中から現れたのは、黒髪でどこか冴えない雰囲気をまとった一人の青年——ムコーダ(向田剛志)であった。
「いたたた……急に足元が光ったと思ったら……って、あれ? ここ、どこだ? 海……?」
ムコーダが周囲を見回す。しかし、彼が立ち上がる暇もなく、その背後から圧倒的な存在感が放たれた。
**「む……? ここは……異界か? 潮の香りがするな」**
砂煙を押し返すように現れたのは、銀色に輝く巨大な毛並みを持つ超巨大な狼——伝説の魔獣、フェンリルのフェルであった。その体長は大型バス並み。鋭い爪と牙、そして周囲の空気を圧迫するほどの猛烈な威圧感(プレッシャー)を撒き散らしている。
さらに、フェルの背中からパッと飛び出してきたのは、プルプルと揺れる青く透き通った愛らしい物体。
『あるじー! うみだー! しずむやつー!』
ネットスーパーの従魔、スライムのスイである。
『オレもいるぜー! なんか凄え景色だな!』
パタパタと小さな羽を羽ばたかせて飛ぶのは、ピクシードラゴンのドラちゃんだった。
だが、そんな異世界の賑やかな一行を目にした地球の女子高生たちの反応は、当然のごとく——
「「「「「キャーーーーーーーッ!!!!?????」」」」」
悲鳴が海岸に響き渡った。
「で、出たーーーっ! 怪物!? 巨大な犬!? ドラゴン!? 妖怪の類!?」
律が目玉を飛び出さんばかりに見開き、澪の背中に隠れようとするが、肝心の澪は恐怖の限界突破を起こしていた。
「ひぃぃぃぃぃっ! た、食べられるぅぅ! 唯ぁぁぁぁっ!」
「澪ちゃん落ち着いて! 私だって怖いよぉぉぉ!」
ふたりで固まってがたがた震え、腰を抜かしている。
梓も顔を蒼白にし、とっさに砂浜に転がっていたビーチボールを構えた。
「な、なにこれ……! 映画の撮影!? ううん、本物!? 唯先輩、下がってください!」
むぎだけは「まあ……! おっきなワンちゃんと、可愛いゼリーさん……?」と目を輝かせているが、恐怖で立ち尽くす4人の熱量には押されていた。
「あ、あの! 落ち着いてください! 害はありませんから! 噛み付きませんから!」
ムコーダは慌てて手を振った。
(やばいやばいやばい! 急に日本の海岸みたいなところに飛ばされたと思ったら、女子高生たちがパニックになってる! つーか、ここ地球か!? 日本か!?)
「フェル! 威圧感引っ込めろって! ほら、女の子たちが失神しそうになってんだろ!」
「ぬう……我は普通にしておるのだがな。異界の人間は弱すぎるぞ」
『スイ、わるいことしてないよー?』
『オレも暴れてねぇぞー?』
ムコーダ御一行の会話を聞いて、唯が恐る恐る目をパチクリさせた。
「え……? 喋った……? あの大きいワンちゃん、喋った……?」
「喋る犬なんて聞いたことないわよ! 唯、騙されちゃダメ! 絶対にあの人が怪物の親玉よ!」
澪が涙目になりながらムコーダを指さす。
「いやいやいや! 俺はただの人間です! 向田っていいます! 怪しくないです!」
「怪しいですよ! どこからどう見ても怪しいです! なんですかその格好、それにその生き物たちは!」
梓が必死に叫ぶ。猛暑の砂浜で、恐怖と緊張によって全員の汗が噴き出していた。特に澪と梓は、熱中症になりそうなほど顔を赤くして息を荒らげている。
(くそっ、どうする!? このままだと通報される……って、警察に信じてもらえるかも怪しいけど! とにかく、みんなパニックで熱中症になりかけてるぞ! 冷やして落ち着かせないと!)
ムコーダは頭を高速回転させた。
こういう時の手っ取り早い解決策は、異世界でも地球でも変わらない。——美味しいもので胃袋と心を掴むことだ!
「とにかく! みなさん暑いでしょうから、これを飲んで落ち着いてください!」
ムコーダは心の中で『固有スキル:ネットスーパー』を展開。
(冷たくて、酸味があって、リフレッシュできて……今の猛暑とパニックに効くやつ……よし、これだ!)
ムコーダの手元に、光とともに突如として現れたのは、キンキンに冷えた缶ジュースと、氷のたっぷり入ったプラスチックカップ。
「えっ……!? なにもないところから缶が出てきた……!?」
律が呆然と呟く。
ムコーダは手際よく缶のプルタブを開け、氷の入ったカップに注ぎ込んだ。
シュワッという音とともに、独特の甘酸っぱい爽快な香りが潮風に乗って広がる。
「どうぞ! 『タマリンドジュース』です! 甘酸っぱくて、疲労回復に最高なんです! 毒とか入ってないですから!」
ムコーダが差し出したカップを、最初に受け取ったのは意外にも唯だった。
「唯、ダメよ! 毒かもしれないのよ!?」
澪が止めるが、唯の鼻がクンクンと動いていた。
「……なんか、すっごく甘くて、キュンとするいい匂いがする……それに、あつい……喉かわいた……」
フラフラと吸い寄せられるようにカップを受け取ると、唯はゴクゴクと勢いよく飲み干した。
「唯先輩っ!?」
ゴク、ゴク、ゴク……プハァッ!!
唯の目が、カッと見開かれた。
その瞬間、彼女の頭の上から効果音が見えるかのような衝撃が走る。
「ンんんんん〜〜〜〜〜っっっっ!!!!」
「う、唯!? どうしたの唯! 腹痛!? 毒が入ってたの!?」
澪が悲鳴をあげる。
しかし、唯の顔に浮かんだのは恐怖ではなく、至福と感動の表情だった。
「おいしいいいいいいいいっ!!なにこれぇぇぇぇっ!?」
「ええっ!?」
「甘いんだけど酸っぱくて、フルーティーで、お口の中がキュ~ッてなって、暑さが吹き飛んでいくよ〜! なにこれ、食べたことないフルーツの味がする!」
唯は頬を両手で包み込み、うっとりと目を輝かせた。
「え、本当かよ……? 唯、騙されてないか?」
律がおそるおそるムコーダからカップを受け取り、一口飲む。
「……! ほんとだ! なんだこれっ、めちゃくちゃ美味い! 炭酸じゃないのに喉越しが爽快で、なんか体にエネルギーが湧いてくる感じ!」
「私もいただいてよろしいかしら?」
むぎが優雅に一口。「まあ……! タマリンドの爽やかな酸味が、黒糖のような深い甘みと絶妙にマッチしていますわ。とっても贅沢なお味……!」
「あ、あずにゃんも飲んでみなよ! すごいよこれ!」
「え、えぇ……」
戸惑いながらも梓が一口含み、一瞬で目を輝かせた。「……美味しい。酸味が疲れた体に染み渡る……。ていうか、本当に熱中症になりかけてたのが楽になりました……」
最後に、泣きそうになりながら怯えていた澪も、みんなの反応を見ておそるおそる一口飲んだ。
「……ふあぁ……。あ、甘酸っぱくて……美味しい……。なんか、パニックになってたのがバカみたいにスーッと引いていく……」
タマリンド特有のクエン酸と甘みが、猛暑と恐怖で疲弊していたHTTの5人の心と体を一瞬で解きほぐしたのだ。
『む? おいムコーダ、我にもそれを寄こせ。美味そうな匂いがするぞ』
フェルが鼻をひくつかせる。
『スイもー! すいもジュースのむー!』
『オレにもくれよー!』
「はいはい、お前たちにもやるよ」
ムコーダはネットスーパーで大型のボウルとストロー付き容器を購入し、フェル、スイ、ドラちゃんにもタマリンドジュースを分け与えた。
『ぬおっ……! これは甘酸っぱくて心地よいな! 身体の奥から力が湧くような心地だ!』
『甘くて酸っぱくておいしいー! スイ、これすきー!』
『おー、酸味が効いてて夏にピッタリだな!』
猛獣に見えたフェルたちが、満足そうにジュースをゴクゴク飲んでいる姿を見て、HTTの面々の警戒心は完全に氷解した。
「な、なんか……よく見ると、このおっきいワンちゃんも、ぷにぷにちゃんも、ちびドラゴンちゃんも……すっごく可愛い……?」
むぎがうっとりとスイを見つめる。スイは嬉しそうに『ぷに〜?』とむぎの足元にすり寄っていった。
「きゃーっ! ゼリーちゃんが懐いたー!」
「ゼリーじゃなくてスライムのスイですけどね……ハハハ」
ムコーダは苦笑いしながら汗を拭った。
「いやあ、助かりました。怪しい者じゃないって分かってもらえて。俺はムコーダ。しがない旅人……みたいなものです」
「私は平沢唯! 軽音部でギターやってます!」
「秋山澪です……さっきは大騒ぎしてすみませんでした……」
「田井中律! 部長だ!」
「琴吹紬です」
「中野梓です。……ムコーダさん、さっきの魔法みたいなのって何だったんですか? それにそのジュース……」
「あー、これはですね、俺の『固有スキル』みたいなもので、離れた場所から食べ物を取り寄せられるんです」
ムコーダが適当にごまかそうとすると、唯がガタッと音を立てて身を乗り出してきた。
「ムコーダさん!!」
「うわっ!? な、なんですか!?」
唯の目は、先ほどまでの恐怖など微塵もなく、爛々と輝いていた。
まるで宝箱を見つけた子供のような、純粋で恐ろしいほどの情熱が宿っている。
「ムコーダさん……あなた、もしかして……**すっごく美味しいごはんが、無限に作れちゃう人ですか!!??**」
「えっ? あ、まあ……手元に食材はあるので、料理は一通り作れますけど……」
「決まりだーーーっ!!!」
唯がバーンと勢いよく叫び、ムコーダの手を両手でガシッと握りしめた。
「ムコーダさん! 私たちの合宿の……**『専属シェフ』になってください!!**」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!???」
ムコーダの絶叫が海岸にこだました。
「ちょっと唯!?」澪が焦って止めに入る。「初対面の人になんてこと言ってるのよ!」
「そうだよ唯、ムコーダさんたちだって予定があるかもしれないだろ!」律も突っ込むが、唯は引き下がらない。
「だって! だって! 澪ちゃん! むぎちゃんのお家のごはんもすごく美味しいけど、ムコーダさんのこのジュース、魔法みたいに美味しかったんだよ!? こんなに美味しいジュースを作る人が作るごはんだよ!? 絶対、ほっぺたが落ちて宇宙まで飛んでいっちゃうよ! それに、フェルちゃんたちもお腹空いてるかもしれないでしょ!?」
『ぬ? ほう……この娘、良いことを言うではないか。おいムコーダ、我はお腹が減ったぞ。肉だ。この異界の肉とやらを食わせろ』
フェルがニヤリと(犬の顔で)笑う。
『スイもー! おいしいごはんたべたいー!』
『オレも腹減った! 宴会だ宴会!』
「お前たちまで乗っかるな!!」
ムコーダは頭を抱えた。
「ね? ワンちゃんたちも食べたいって言ってるよ! ムコーダさん、お願い! 私たち、演奏の練習がんばるから! 美味しいごはん作ってくれたら、最高に楽しい合宿になると思うの!」
唯のキラキラとした瞳、そしてフェルたちの「肉を食わせろ」という無言のプレッシャー。
さらには、何が起きているのか分からず呆然としながらも「ムコーダさんのお料理、私も食べてみたいかも……」と興味津々のHTTメンバーたち。
異世界から突然現代日本の海岸に飛ばされたムコーダ御一行と、夏合宿中の放課後ティータイム。
奇妙で、美味しく、そして賑やかな「異世界×軽音部」の合同合宿が、今まさに幕を開けようとしていた——!
「専属シェフ……って、俺たちはただ迷い込んできただけなんだが……」
ムコーダは頭を抱えたが、目の前の唯の爛々とした眼差しと、フェルの「ぬ? 肉はまだか」と言わんばかりの圧には抗えそうにない。とにかく一旦落ち着いて状況を整理するため、ムコーダはこっそりと自分の固有スキルである『アイテムボックス』の中身を頭の中で確認してみることにした。
(待てよ……急に空間の裂け目に飲み込まれてここに飛ばされたが、アイテムボックスの中身はどうなってるんだ? ネットスーパーはさっきジュースを買えたから使えるとして……)
意識を集中してアイテムボックスの容量と保管物を確認すると、ムコーダの顔に「これならいける」という確信が浮かんだ。
フェルやドラちゃんが直前に異世界で狩り集めていた、超特級の超高級魔獣肉が手付かずのままバッチリ残っていたのだ。
**【アイテムボックス内の保管食材】**
* **アース・ドラゴンのモモ肉**:5kg
* **下処理済みのコカトリス**:3羽
* **ブラッディホーンブルの肉**(サーロイン、ヒレ、シャトーブリアン):合計6kg
* **オークジェネラルの肉**(肩ロース、バラ肉、シロコロ):各2kg
* **異世界の市場で仕入れたシャキシャキ野菜**:3kg
(よし……! ネットスーパーの調味料と組み合わせれば、この砂浜で最高のバーベキューができる! 幸い、フェルたちのご飯もこれでなんとかなるし、腹が減ってはなんとやらだ)
「よし、わかりました! 料理、作りましょう! ちょうど手持ちにうまい肉がたくさんあるので、これから海岸でバーベキューにしましょう!」
「やったーーー!! BBQだー! お肉だー!」
唯がその場で跳びはね、律が「よっしゃあ! 肉祭りだー!」と拳を突き上げる。
ムコーダは手際よくネットスーパーから大型の大型BBQコンロ、高級備長炭、網、トング、紙皿、そして魔法の万能調味料たちを取り出した。
網の上で炭がパチパチと心地よい音を立てて熾り始めると、ムコーダは手際よく異世界の極上肉を調理し始めた。
### 異世界×現代調味料の極上BBQメニュー
**1. アース・ドラゴンの炭火焼き・ほりにしのスパイス仕立て**
ドラゴンの中でも屈指の引き締まった肉質を持つアース・ドラゴン。厚切りにしたモモ肉に万能アウトドアスパイス「ほりにし」を豪快に振りかけ、炭火で一気に表面を焼き固める。
噛みしめた瞬間に広がる肉汁の旨味と、ガーリックやハーブの香ばしさが爆発!
「うおあぁぁぁっ!? なにこれぇぇぇ!」
一口食べた律が目を剥く。「肉汁が……肉汁の弾力がすごい! 噛めば噛むほど肉の旨味が押し寄せてくる! スパイスも効いてて最高にジューシーだ!」
**2. コカトリスの炭火焼き丸ごとケバブ・砂漠の虎風ヨーグルトソース添え**
丸ごと下処理された高級魔獣コカトリスを遠火の炭火でじっくりとロースト。仕上げに爽やかな酸味とスパイスが効いたヨーグルトソースをたっぷりとかけて提供する。
「皮はパリッパリなのに、中の肉がふわっふわ……!」
澪が頬を染めてうっとりとする。「ヨーグルトソースのさっぱりした酸味が、鶏肉(コカトリス)の上品な脂と混ざり合って……いくらでも食べられちゃう……!」
**3. ブラッディホーンブルの3種のステーキ盛り合わせ・ほりにしのスパイスとたっぷりのグリル野菜と共に**
サーロイン、ヒレ、そして超希少部位シャトーブリアン。最高級牛肉を思わせるサシが入った極上肉を絶妙なミディアムレアで焼き上げる。彩り豊かな異世界のグリル野菜とともに皿へ盛られる様は、まるで高級レストラン。
「……あ、あたたたた……美味しい……」
梓が一口食べ、あまりの柔らかさに言葉を失う。「シャトーブリアン、噛まなくても舌の上でとろけてなくなっちゃいました……! こんなお肉、生まれて初めて食べました……!」
**4. オークジェネラルのトンテキ・スタミナ源のタレをかけて**
適度な脂身と強力な旨味を持つオークジェネラルの肩ロースを厚切りにし、甘辛くニンニクの効いた「スタミナ源のタレ」で香ばしく炒め上げる。
「ん〜〜〜〜〜っ! ごはんが欲しくなるお味ですわ!」
むぎが嬉しそうに口元を拭う。「タレの香ばしさと脂の甘みがベストマッチですわね!」
**5. オークジェネラルのサムギョプサルとシロコロのスパイスホルモン・ほりにしのかおり**
バラ肉をカリカリに焼き上げてフレッシュなサンチュ風野菜で包むサムギョプサル。そして旨味が凝縮されたシロコロホルモンをスパイシーに焼き上げた一品。
『ぬおおおっ! この歯ごたえと脂の旨味! やはりムコーダの作る肉料理は至高だな!』
フェルが勢いよく肉の山を貪り、スイも『ぷに〜! こりこりしておいしい〜!』と大はしゃぎ。ドラちゃんも『このホルモンってやつ、酒が欲しくなるぜ!』と大絶賛だ。
HTTの5人とフェルたちは、最初のお互いへの恐怖や警戒など影も形もなくなり、同じ網を囲んで無我夢中で絶品BBQを貪り食った。
そして、宴の締めくくりにムコーダが差し出したのが——
**6. ハーフカットメロンクリームソーダ〜器のメロンも頂きます〜**
くり抜いた高級メロンの半切りを贅沢な器にし、中にシュワシュワのサイダーと濃厚なバニラアイス、真っ赤なチェリーを添えた夢のようなスイーツ。
「「「「「きゃああああああっっっっ!!!!」」」」」
女子高生5人から、この日一番の歓声が上がった。
「すごい! メロンが丸ごと器になってる!」
唯がスプーンを手に取り、アイスとメロンの果肉を同時にすくって口へ運ぶ。
「んんん〜〜〜〜〜っ!! しあわせ〜〜〜っ! 冷たくてシュワシュワで、メロンが甘くて……もう私、ここに永住したい〜〜!」
「本当にすごいわ……お肉の後のこの爽やかさ……完璧なコースだわ……」
澪も夢中でスプーンを動かしている。
まさに大満足、全員が満腹で砂浜にゴロゴロと寝転がり、幸せな溜息をついていたその時だった。
「ちょっとみんな〜〜! 練習はどうしたの〜〜!?」
砂浜の奥から、麦わら帽子にアロハシャツを着た女性が走ってきた。桜が丘高校軽音部顧問——**山中さわ子(さわ子先生)**である。
「もう、先生が車で荷物を運んでる間に勝手にいなくなっちゃって……って、あら?」
さわ子先生の鼻がクンクンと動いた。
砂浜に漂う、高級備長炭と絶品スパイス、そして焦がしタレの芳醇すぎる香り。そして、転がっている高級メロンの器。
「な、なにこれ……すっごい良い匂い……! え、何食べてたのあなたたち!?」
「あ! さわちゃん先生!」唯が起き上がる。「あのねあのね! ムコーダさんがすっごく美味しいBBQを作ってくれたの!」
「ムコーダさん……?」
さわ子先生の視線が、コンロの横で片付けをしていたムコーダへと向けられた。
さらに、その背後に横たわるバスサイズの巨大銀狼(フェル)と、飛んでいる小竜(ドラちゃん)、プルプルのスライム(スイ)が目に入る。
「……え?」
さわ子先生は目を擦った。二度見した。
「え、なにあの巨大な生き物!? ぬいぐるみ!? え、本物!? 喋ってない!?」
「さわ子先生、落ち着いてください。怪しい人たちじゃないです(肉は凄かったですが)」と梓がなだめる。
しかし、さわ子先生の意識は、テーブルの上に少しだけ残っていた「ブラッディホーンブルのステーキ」と「トンテキ」の皿、そして「ほりにし」のボトルに吸い寄せられてしまった。
「あ、あまりにも美味しそうな匂いに耐えられない……一口だけ……」
さわ子先生は吸い寄せられるようにトングを取り、残っていた肉を口に放り込んだ。
**「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっっっっっっ!!!!」**
さわ子先生の目が見開かれ、かぶっていた麦わら帽子が頭から落ちた。
「な、なにこの肉……!? 柔らかいのに噛み応えがあって、脂が一切しつこくない……! そしてこのスパイスとタレの調和! 絶品……絶品すぎるわ!! 30年生きてきて、こんな美味しいお肉食べたことない!!」
さわ子先生はハッと目を見開き、両手でムコーダの肩をガシッと掴んだ。その力は、元重音部(ヘヴィメタバンド)の元リーダーらしい凄まじい握力だった。
「あなた! お名前は!?」
「は、はい!? 向田(ムコーダ)ですけど……!?」
さわ子先生の目が、肉の美味しさと興奮でギラギラと怪しく光る。
「向田さん! あなた、今すぐ桜が丘高校に来なさい! 軽音部の副顧問……ううん、**『軽音部専属・給食指導兼専属調理スタッフ』**として我が校に就職しなさい!! 毎月の給料は奮発するわ! 琴吹家(むぎの家)のコネを使ってでも絶対に採用枠を作るわ!!」
「えええええええええっ!? 就職!?」
「さわちゃん先生ずるい! 私たちの専属シェフだよ!」と唯が抗議する。
「いいじゃない! 学校に来てもらえば毎日これが食べられるのよ!?」とさわ子先生が鼻息荒く言い返す。
『ぬう……ムコーダ、就職とやらは良く分からんが、我が毎日この肉を食べられるなら悪くないぞ』
とフェルまで調子の良いことを言い出す始末。
「ちょっと待ってください! 俺、そもそも異世界から(たぶん一時的に)飛ばされてきただけで、この世界の住人じゃないんですから!! 給料とか採用とか無理ですからー!!」
青空の下、怒涛のスカウトを繰り出すさわ子先生と、それに乗っかるHTTの面々、そして困惑し切ったムコーダの悲鳴が、夏の海岸線にどこまでも賑やかに響き渡るのであった。