初めまして、御客人。こうして『外』と繋がるのは、初めてのことだが…まぁこんな世界のことだ、そんなこともあるだろう…。
…ん?『お前は誰か』?そうだなぁ、どう呼んでもらおうか…うむ、私のことは『カグ』と呼んでくれ。
私は数年前からある神社で神主をしていてね、もっとも既に誰もいないから代理ではあるのだが。
まぁせっかくだ。どうせなら見ていくといい。
誰かはつまらないと言うだろう、陳腐な喜劇をね。
「……ほむ?今夜は、随分と騒がしいな」
今夜は、ムカデさまが何やらソワソワしている。
神社も遷宮が決まったのだから、落ち着いて欲しいものだが…しかしこれは、もしかして誰か来ているのかね?
盛り塩の反応も減った後増えている、となると。仕方ない、面倒だが外に出向いてくるか…
「ではムカデさま、私は出かけてくるから…ぬ?」
「…おにい、ちゃん?」
「こともちゃん?何故夜に「おにいちゃん!」…っと、どうしたんだい……ほむ。キミが盛り塩を直してくれたのかい?どれ、茶でも淹れるとしよう。話は落ち着いてからするとしよう…」
おや。
まさか、夜歩きしているのがこともちゃんだとは思わなんだ。
しかし、わざわざ夜に出歩くとは…見れば、ポロもいないではないか。
一人で外を行くのは、無謀だろうに…一息ついてもらえれば良いが。
「…こく…こく…。…ありがとう、おにいちゃん。やっと、やすめたよ」
「そうかい、それはよかった。…それで。急かすようで悪いが、何故夜に歩いているのかい?『夜は危ないから出歩くな』と、いつも言われているだろう?」
「…その、ね。ポロが…しん、じゃったの…。いえなくて、おねえちゃんがさがしにいって…かえってこなくて…」
…あの子と、ポロが?
彼女たちが夜に呑まれるとは信じがたいが…いや、まさか『山』が、また?
いや、今はこともちゃんをもてなすべきだね…
焦ってはいけない、ね。
「…そうかい、それは大変だったろう。ゆっくり休んでいきなさい。…そうだ、盛り塩も戻してくれたんだったね?お礼を渡さなくては」
「おれい?もうおばけムカデ…じゃない、ムカデさまにもらったよ?」
「盛り塩を戻すのも、私の仕事だったからね。これは代わりにやってくれたお礼さ、受け取ってくれねば私が困るというものだよ」
「…うん、わかった。……これ、たいまつ?」
私が渡せるものは、これくらいしかないが……その松明は、掲げれば火が灯る。精々30秒といったところだが、おばけたちもたちまち離れていくだろう。火を休ませればまた使えるようになるから、うまく使ってほしい。
「…と、こんなものだね。忘れたときのために、メモも渡しておこう。…ごめんね、本当は私も付いていきたいのだが、そうもできないんだ」
「ううん、ありがとう。…それじゃ、いってきます。おちゃ、おいしかったよ」
いってらっしゃい、こともちゃん。
さて、私も準備をしないとね。
…今までは、失踪事件があろうと大きく動くことはできなかった。
私と『山』では、管理する領分が違うから…無理に手を出すことはできないし、元よりこの町に来た事自体が『掟』を破ったもの。
だけど今回は、こともちゃんに私が創った松明を持たせられた。
神主代理として来ている以上、本来渡してはならないが…他に渡せるものもなかったからねぇ?
『仕方ない』、というものさ。
とはいえ…『仕方なく』渡したものであっても、私が直接下賜したものだ。
それを知って…否、知らずとも。
懲りずにこともちゃんを狙うのならば…そのときは、私も遠慮せずに済むというもの。
「とはいえ、だ。こともちゃんが決着を付けるまで、こちらからできることはない。…本当、役に立たないなこの体は」
一度でいい。たった一度でも『アレ』に勝ってくれれば、後は私が始末をつけられる。
それまで待つ事しかできないが…キミなら、必ず勝てるとも。
ほむ。
気は進まないが…『アレ』が数多の人の魂を取り込んでいるのなら。
『御母様』に、話をつけなければ…。
い、いやきっと大丈夫だとも。これは現世に囚われた魂を解放するということでもあるからね。それに『掟』を破っているわけではない…屁理屈ではあっても、理屈ではあるのだし?
…と、とにかく早く済ませるとしよう。後回しにするわけにもいかないからね、うん。
「それで、『御母様』。此度の件、如何様に」
『対価には報いを。救済には代償を』
「…では、そのように。ありがとうございます、『御母様』」
許可も降りたことだし、急ぐとしよう。
ずっと、ずっと…待っていたのだから。
ようやく、お前を…ふふ、楽しみだ。
もう直時間だ。
私の仕事は後始末ではあるが…激励くらいは、しておきたいものだ。
『山』に繋がるトンネルに向かうと…うぬ?
トンネルはこっちだったか?いや、向こうの道だったか。
これでは迷子みたいではないか…うん?あれは…
これは、墓か?それに、この残滓は…
…そうか。ポロ、キミはもう…
「ごめんね、私が花を添えることはないよ。…まだ、休んでもらうことはできないからねぇ」
キミも、役目を果たしたのだろうね。
けれど…今宵の私は、好き勝手やるつもりなのだよ。
待っていたまえ、私もどうにか『山』に向かうから…もういっそ、ここから登るか。
「んぐぐ…よい、しょっと。ふぅ…やぁ、こともちゃん。応援しにきたよ」
「…おにいちゃん?いま、どこから」
「まぁそれは置いといて。渡した松明を見せてくれないかい?…よし、これなら『山の神』の眷属にも効くだろう。次会うときは、お姉さんと一緒に、ね」
「…うん!いって、きます!」
頑張ってくれ、こともちゃん。
お姉さんと一緒に、とは言ったが…それだけでは寂しいだろう、私もどうにか…うん?
そういえば私、今下から登ってきたよな?
どうしよう、私不審者に見えてないか?
さすがにそれは嫌なのだが…まぁこともちゃんは優しいし、見て見ぬふりを…いや幼子に気を遣われるのは不味いな、人としても神としても。
「そこのところ、どう思う?よまわりさん」
「」
「なんだ、つれないな…そうだ。これからは子供たちのこと、工場じゃなく神社に運んでおくれ」
「」
…おや、行ってしまったか。
話は聞いてくれたようだし、問題はないだろうが…いやはや、今宵でなければ聞き届けてくれないだろうけども。
私が『掟』なんぞに縛られなければ、廃工場に囚われる子は…
…私にできることは、そう多くはない。
よまわりさんへの言いつけだって、『掟』スレスレもいいところだ。
こともちゃんが攫われた縁がなければ、会うこともできなかっただろう。
どうしようもないとはいえ…犠牲を考えるのは、いつだって気が沈んで良くないね。
「さて。そろそろ頃合いだろう。私も行くかね」
「…ようやく着いた。お疲れ様、こともちゃん」
「…おにいちゃん!おねえちゃんが、おきてくれないの…」
「大丈夫、生きているとも。お姉さんの灯火は、消えていないよ」
うんうん。『ぐっどたいみんぐ』というやつだね、これは。
お姉さんも無事なようだし…ここからは、私の出番だね。
「さ、こともちゃん。お姉さんを連れて帰るんだ。後は私がやるから」
「…おにいちゃん、は?かえらない、の?」
「これからやることがあるからねぇ…すぐに戻るから、心配いらないさ。お姉さんは、頼んだよ」
「…また、ね。ぜったいだよ」
もうくたくただろうに、本当に…優しい子だねこともちゃんは。
…やはり生かしておけないな、『山』は。
もうあの子たちが苦しまずに済むように…ここで、終わらせようか?
なぁ…『山の神』よ。
【■■■■■■■■?】
…うるさいなぁ、静かにできないかい?
貴様はもう負けたんだ、大人しく…
おい、なにこともちゃんの左目貰おうとしているんだこの。
そんなに欲しいのなら…たんとくれてやるよ、私の炎を。
【■■■■■■■■■■!?】
私の炎は熱いかい?
それもそうだろう。私は……『カグツチ』と、そう呼ばれていたのだからね。
あぁ、『
どれであろうとも、私を示すものだし…今は、『カグ』でさえなければ問題ないんだ。
あれは人としての名前だからね、炎を使っているときは名乗れない。
…ほむ、名乗りは済んだ。本題に移ろう。
キミは、現世を生きる人間たちを取り込み、死した後も幽世に流さず囚われの身としている。
もちろん。それ自体は、元は現世に住まぬ我々には咎められない。
現世のことは、現世に住む者たちがしなければならず…外からの干渉は好まれない。
だが貴様は、我が炎を下賜した少女を襲った。
であれば、私もその縁を辿り貴様へ触れることができる。
ほら、よくあることだろう?
身分を隠した神への善行、そしてその対価として渡される神器。
それを縁に神自ら助けることも…まぁ、文句を言われることはあるまい。
貴様も元々は、善良な神だったのかもしれん。
だとしてもだ。
『山』は燃やす。絶対に、だ。
少女たちの笑顔は、それだけの価値があるから、ね。
…そのために、貴様は幽世に叩きつける。
なに、存外静かに休めるところだよ。
【■■■■■■■■■■■■■■】
…ふぅ。
一区切りついたけれど、まだやることは残っているからねぇ…
うん、恐怖を拭うことはできなんだが。
こともちゃんもお姉さんも、ポロも…勇気を示したのだから。
見守ってきた神様として、私も勇気を示さなくてはならないね。
…ごめんなさい、御母様。
命を、弄ぶことになるね。
やぁ、こともちゃん、ポロ。
ふふ、なぜここにいるかって?
なに、迎えに来たのさ。
あぁこら、『後は頼んだ』なんて顔するんじゃないよポロ。
キミもこともちゃんについていくんだよほら。
大丈夫、大丈夫だから。
ポロなら分かるだろ?
神様ってのは、理不尽なものなのだよ。
よしこともちゃん、ポロを抱いて進むんだ。
お姉さんとポロと、一緒にね。
私はみんなで笑い合う『はっぴーえんど』が、大好きだからさ。
…よし、行ってくれたか。
今からすることは、見られたくないからねぇ。
それじゃ…えぇと、命の対価は…
うん、これでいいだろう。
多分、こう…右目に指を添えて…
「御母様。命を一つ、譲ってくださいな」
あは、は。
そうか、痛みとはこんなものだったね。
死にはしないと、いうのに。
こんなに怖いとは。
あの子たちは、命懸けで…どれだけ、怖かったのだろう。
…帰らなきゃ。
こともちゃんたちも…ムカデさまも、待っているのだから。
「っおにいちゃん!その、めは…?」「ワン!」
「なに。願いごとを、ね。キミたちのためなら、安いものさ。それより……ほら。夜明けだよ」
まちによるがやってきます。
おねえちゃんがいなくても、ポロがいなくても、たとえ、わたしがいなくても、よるがきて、あさがきて、またよるがきます。
それでも…このあさは、あたたかいです。
「みて、おにいちゃん。へんなのひろった」
「…こともちゃん、本当にそれを飾るのかい?」
「ごめん、カグくん…!ことも、神社にその骨は置かないで、ね?」
「わう…」
・カグ
火之迦具土神。
幽世から現世を眺めている際、こともの姉であるともこの輝き(小説版夜廻)を見て脳が焼かれた。
その後無理やり人として町に入り込み、ともこと同じクラスへと編入した。
生まれてすぐに殺され、その後は幽世で暮らしていたため抜けているところも多く、昼間は呆れるともこに面倒を見てもらっている。
『山の神』に対しては敵意を抱いているが、神として滅ぼしに行くには建前が無く、尻尾を出すのを待ち続けていた。
『それ我のだが?喧嘩売ってるんか?』という屁理屈で全てを解決しようとしたため、御母様に少し叱られる。
右目はポロを蘇生する対価として捧げたが、元々死んだ神であるため、その前から昼間から怪異が見えていた。
「『実質無料』って言ったらともこちゃんにつねられちゃった」
右目を失ったことで夜側に寄った結果、他の建前なしに『すーぱーぱわー』を使えるようになった。そのため、こともが夜を歩くときは一緒に歩いている。
神主代理は都合の良い立場として貰ったが、同じ神の好で勢力を拡大していった。最近は神社を隣町にも広めたいらしい。
・ことも
原作『夜廻』の主人公。
原作通りに歩き続けたが、バランス崩壊松明があった分少しは楽になった、かもしれない。
ポロが生き返ったことで精神も回復してはいるが、あのときの記憶が消えることはない。
山の神が消滅したため、左目も無事だが…カグの伽藍洞の右目を見るたびに、じっとりとした目をしている。
カグをおにいちゃんと慕い、よく一緒に遊んでいるらしい。
もう夜を一人で歩くことはない。
・ともこ
こともの姉。
合って早々距離を詰めてきたカグには少し戸惑ったが、昼間のポンコツっぷりを見て世話を焼くようになった。
カグと一緒にいると左目の痛みが遠ざかるため、一種の安らぎになっていたらしい。
『山の神』の消滅後、カグの正体を知りながらも以前と変わらぬ関係を続けている。
カグの右目を見ては、湿度を醸し出している。ところで、火之迦具土神ってその体から多数の神が生まれたんですよね。
・ポロ
こともとともこのペットの犬。
カグのことは人外であることを感じ取り、警戒していた。…が、触れ合ううちに主人たちを傷つけることはないと認め、警戒を解いた。
蘇生後は夜がくる前と同じようにこともたちと過ごしているが、主人たちのカグへの目線がちょっと心配。この神本当に大丈夫か?
・ムカデさま
商店街の神社に住む神。
神主代理を名乗ってきたカグを不安視していたが、信仰を回復させていく姿を見て大喜び。
それはそれとして、火之迦具土神という高位の神が神主代理なのには疑問と冷や汗が残る。
隣町にも分社ができそうで楽しみにしている。
・御母様
伊邪那美神。
昔はともかく、今は死因である火之迦具土神への恨みはない…どころか、かなりの愛を注いでいる。
死者蘇生は好ましくないが、『山の神』に囚われた魂の解放と身体の一部を対価に捧げられたからと『仕方なく』好きにさせた。
カグの屁理屈は伊邪那美神から教わったことではあるが、そのゴリ押し様をみて御母様は教育を間違えたかと頭を抱えているらしい。
・よまわりさん
夜を廻る子どもを連れていくお化け。
カグとの面識はトンネル前が初めて。
カグによって行動ルーチンを弄られ、子どもをムカデ神社へと連れていくようになった。
・山の神
トンネル奥の神社にいた神。
信仰を失い堕落した後、原作通りに人間を取り込んでいたらやべぇ神に目をつけられた。
幽世では正気を取り戻し、伊邪那美神の下で下働きをしているらしい。
最近自分と同じ名前の存在が焼かれる夢を見た。