ガバガバ近代日本史(世界史) in 惑星パラドックス 作:AKI久
1914年(×) 第一次世界大戦
1917年(×) ロシア革命
1920年(×) 国際連盟発足
1921年(×) ワシントン会議で国際協調
パラド星は理性的すぎる?
経済は戦争の要因になり得る(ケインズ並感)
ヴェルサイユ条約も無いのに、流石経済の大家。
「今日は日英戦争をやるぞ~。
これが終われば、とりあえず世界史での日本近代史は終わるからな~」
「ヨーロッパだぁ!」
「アヘンやんないの⁉ 日本農園社をスルー⁉
1930年はやんないの⁉ アヘンだよ⁉」
いつも通りの騒がしさの中、教室に備え付けられたホワイトボードマーカーを教師は手に取る。
―――――
教師は簡単な年表を書きながら口を動かす。恐らく生徒達も概要は覚えていると踏んだからだ。
「先にざっくり流れを説明すると、1917年にイギリスから要求が来て、1921年に白紙和平が結ばれたのが日英戦争だ。これはみんな知っているよな?」
「まあ、小中学校でもやったし覚えてるよ。パプアニューギニア出身の先生だったから、色々聞かされた」
「よし、じゃあ日本史終わり! 予定を変えてヨーロッパ史をやろう!」
「『パプアに登る日輪』で見ました! 詳しく聞かせてください!
事実上初となる対等な国同士での戦争に恐怖を抱きながらも挑むんです!
侍にはなれない男たちが、それでも侍の誇りだけを抱いて突撃するんです!」
生徒達の間でもかなりの温度差があるようだ。だが、どちらもこの日英戦争について全く知らないという訳ではなさそうだと教師は思い、少しだけ安堵する。
「世界史だから細かい戦場についてはやらない。ミン先生任せだ。
戦争の簡単な推移と、それが世界にどの様な影響を与えたかをやるぞ~」
「1917年、イギリスが日本領東ニューギニアの返還を要求してきた。
日本はあの島に植民をしていたんだ。拡大していった結果、その領域がイギリスとぶつかり合って起きたとされている」
「1900年代に高めてしまった悪名のせいですか?」
生徒の中から鋭い指摘が飛んできた。これまでの授業と今回の戦争を繋げようとしている姿勢に、教師の胸は暖かくなる。
「それも名目には無くはないんだろうが、その頃には悪評は完全に落ち着いていたな。
それよりも経済的な理由が主な背景だと考えられている。
この時点で大日本帝国のGDPは2.4億£、1900年時点で1億£だったことを思えば17年間で2.4倍の経済成長を遂げたことになる。まだイギリスの方が僅かに上とはいえ、追いすがってくる存在を叩いておかない理由がない」
「加えて、イギリスが支配していたインドが分裂してしまったことで失った威信を取り戻すためのスケープゴートでもあったのではないかとも考えられている。東ニューギニアを得ても大した利益は出ないしな。今回も開国要求の時のようにすんなり要求が通るだろうと思っていたイギリスの議員もいたようだ」
「そんな軽い気持ちだったんですか? 世界2位に対して楽観的すぎませんか?」
現代の感覚からすればそう思うだろうと教師も同意する。だが、数字以外の、文化的背景とでもいうような部分も含めなければならない。教師としてはこれまで何度も強調したつもりだったが、生徒にとって中々その感覚を掴むのは難しいようだ。
「当時の西洋中心の価値観も影響しているんだろうな。
イギリスには、数多くの属国がある。大英帝国側は27か国が参戦、兵力全てを足し合わせれば陸軍325大隊に436隻の海軍を有している」
「日本側は、自身と保護国の一つである質が参戦。
この国は途中でイギリスがその保護国の移譲も条件に盛り込んだから参戦したんだ。
そっちは元々軍閥の一つだったから大した戦力にはならない。まあ覚えなくてもいいよ。
足し合わせても、陸軍240大隊に240隻の海軍しかいなかった。おおよそイギリスの0.7倍ってところだな」
「あれ? 結構ヤバくね?
一人当たり1.3~1.4倍くらいの人数を相手すんでしょ?
野球のスタメンがサッカーのスタメンと戦う感じでしょ?」
「計算早いな……。それなら、まあイギリスも意見が通ると思うわな」
生徒達自身で歴史の事象を身近なものに置き換えている。理解を深める上で有効であり、自ら歩み寄ろうとする姿勢が見えたことに教師は破顔した。
「まあな。
大日本帝国は戦争することを選び、1917年8月17日に開戦したわけだ。
日本史でやるだろうが、一応簡単に戦争を説明するぞ~」
―――――
教師は白板の上に日本列島と、それから離れた位置にオセアニアの簡単な地図を描いた。
「大雑把に分けて、本土とオセアニア戦線がこの戦いで主軸となる」
「パプアニューギニアを要求されたから、そこは確保し続けなきゃいけないんですよね。逆にその島のイギリス領を占領したいんですよね」
「そうだぞ。
陸軍100大隊を派遣し、制圧した。すぐに終わったので、近くにあるイギリスの支配下にあったオーストラリアにも攻め込んだ。そんな欲をかいたから、逆にパプアニューギニアを取られたんだけどな」
先に赤色のマーカーで島を塗り、その上から青で塗り返す。そして、もう一度赤で塗った。
「政府だけじゃなくて軍もガバるのかよ!」
「すぐに取り返したから……。
そんなことで陸軍総戦力の半分近くはオセアニアに滞在し続けた。
なんで一部を駐留させたまま他へ進軍しなかったかは謎だ」
「あの……中学ではそんなこと習わなかったんですけど……」
生徒達は日本軍の体たらくに飽きれているようだ。それどころか、中学校までで習った誇らしい戦場でみっともないことが起きていたことに落胆している様子の者もいる。彼らを授業に引き戻すべく、教師は口を開いた。
「まあ言っちゃ悪いが、そんなに重要な拠点でもないし。
結果だけ見れば、大した損耗もなく最終的に相手の領土を占領はしただけだし。
だけど、2回の本土決戦は知ってるだろう?」
「『琵琶湖は燃えているか』『バトル・オブ・オバマ』『皇国の分け目』など色々ありますよ!
炎が燃え盛る中、御所だけがお掘りのおかげで火の手を逃れているシーンがなんというか……詫び寂びですねぇ!」
「うちはそこらの作品あんま知んないわ~。どれがおすすめ?」
生徒達は有名な題材となった途端、息を引き返した。この調子なら少々省いても問題なさそうだと教師は授業プランに修正をかける。
「はいはい、そこらへんは日本史で語ってもらえるから進めるぞ。
18年の3月、19年の1月に京都へイギリス軍が上陸してきた。二回とも押し返せたが、2度目は京都地方のほぼ全体を征服されかけた」
「年配の方は今でも鬼畜英兵なんて言っとります。うちの知り合いの家の柱にその時の銃痕が残っとりますわ~」
「それは改築してないだけだろ。京都って金のない田舎だってのは本当なんだな!
よっ! 電車が3分に1回しか来ない地方!」
「……殺す。あんたをモダンアートに仕立て上げたる! 覚悟しいやぁ!」
また京都地方との格差問題が噴出してしまった。様子を見るに本気という訳では無いようだが、早めに止めなければならない。小さな火種が大過を引き起こすことなど、歴史を学んだ者なら誰もが知っている。
「まあまあ、イギリスに京都が重要拠点だと思われていたからだから。抑えて、抑えて。
御所、つまり天皇の本拠地を落とせば戦意が落ちると英国が考えたからだと言われている。
同じ君主制の国だからこその考えだな。あっちで言えば、ウインザー城やバッキンガム宮殿を落とされたるようなものだと思ったのかもな」
「反対に大日本帝国は、東北・九州・大阪のどれかが攻められると考えていた。
どれも基幹産業が栄えていて、落とされたら軍需品の補給も大変になるからだ。
敵もそこを狙ってくるだろうと推測し、大阪に残りの100大隊を駐留させ、イギリス軍が上陸しようとしてきたら鉄道で急いで展開する防衛計画を選んだ。あえて上陸は許すが、それ以上は許さないことで消耗を強いる作戦だな」
「……まあ、先生がそこまで言いはるなら、うちが我慢してあげます」
教師の説明により生徒は落ち着いたようだ。この調子では、日本史ではどうなってしまうのかと同僚の教師へと同情と心配の念が湧いてくる。
「はいはい、ありがとう。
そんな訳で第一回の侵攻は京都地方の小浜に対して行われた。この時日本海軍はオセアニアに居たから、上陸に対抗できなかった。だが、本土の軍が居た大阪からそれ程離れていなかったことから、すぐに対処し数か月で国土から追いやることができた」
―――――
教師は白板の上に日本の戦力配置を簡単に記していく。
「第二回は翌年の3月、夕日ヶ浦海岸に上陸してきた。この時も海軍はオセアニアだ。
この時は日本陸軍の予想が大きく裏切られたから、対応が遅れ戦禍が広がった」
「当たったことないじゃん!」
「そもそも外れるほど上陸されてないだろ!」
生徒達の鋭すぎる指摘に教師は何も返せない。
「う~ん、授業をしっかり聞いていて偉いってことで。
日本は今度こそ経済的に発展した地域に来ると考えていた。一度目が御所とは離れていた位置で撃退できてしまったから、相手の目論見に気が付けなかったんだ」
「それに、この期間も政府はそれらの地方に工場を建てていた。もしもに備えて軍事的なものが多かったと記録されている。
まあ経済界からその地域を傷つけられないようにお願いされていたというのもあるんだろうが。だから、最も発展している地域である東北に陸軍は拠点を移した」
「九州から距離離れてるじゃん。矛盾してるでしょ。
大阪ならどっちとも同じ位の距離にある中間点なんだからさ」
「イギリスは文化的には発展してる京都を狙って失敗したんだから、今度は日本の端の方にある経済的発展地域を狙うだろうと日本は推測した。最悪九州が落とされても関門海峡があるから、イギリスが他へと攻め入るまでに日本陸軍が移動できるだろうと踏んでの判断だ」
「あれぇ~、日本がまともっぽいぞぉ~」
「もうみんな知ってるけど、また外れるんだよね……」
教師は必死に当時の背景と合理的な判断に基づいたであろうことを説明した。それでも生徒達は結果にばかり目が行ってしまっている。それ自体が悪いことではないが、もう少しその時の目線に寄り添ってくれてもいいじゃないかと教師は少しだけ不満を感じてしまう。
「一方イギリスは、日本の迅速な抵抗から推論通り御所は絶対に落とされたくないのだろうと考えた。そういう訳で、小浜からそれ程離れていない夕日ヶ浦海岸、同じ京都地方に上陸した。この時、警備が以前と変わらない、それどころか薄くなっていたことに将校達が警戒していたと記録に残っている。罠かと思い、かなり警戒してしまったせいで進軍速度が遅くなり、京都地方以外までは手を伸ばせなかったとされている」
「お互いに勘違いしてたのか……う~んこのすれ違い」
「……ほら、PKも守る側の方が不利だし……。
あれ、ということはイギリスもガバった? ヨーロッパ史の主役が?」
「一度目より深く進攻されてしまったが、翌年の上旬には撃退できた。
オセアニアも落ち着いたから、全艦隊で日本近海を警備したことでこれ以降イギリスが上陸をすることが出来なくなった」
「そうして開戦から三年後の1921年1月13日にイギリスからの白紙和平の提案を受けて終戦。
これの背景にはどんな事情があったと思う、なんとなく出席番号49番、答えてみろ」
指名された生徒は、嫌そうに口を開く。
「うわ……今日は大丈夫だと思ってたのに……。
イギリスの軍人が減り過ぎたとかですか? 何度も追い返されちゃってる訳ですし」
「いい観点だけど、外れだ。そして、ここが世界史的に重要な部分だ。
当時の双方の死亡・負傷者・政府が戦争に費やした資金を書いていくからノート取っておけよ~。まあテストに具体的な数値は出さないから安心しろ。論述で正しい数値を書けたらちょっと加点してやるくらいだな」
―――――
教師は白板の地図を消し、次々に数値を書き込んでいく。
「死亡者はイギリス20.6万人に対し日本20.5万人。
負傷者は42.3万人に対し、43.1万人。
ここまでは大丈夫そうか?」
ホワイトボードの横に当時の大日本帝国の人口6030万人と付け加え、戦闘で損耗した人数が人口比で約1%ということを示す。
「あんまり戦死した数は変わんないんですね。攻められたのに、なんか意外」
「待って! 負傷者は多いのに死亡者が少ない!
アヘン! アヘンのおかげだ! やっぱアヘンしか勝たん!」
「はいはい、とりあえず戦争による人的損傷はそこまで差がないことが分かるな。
1890年代からの軍拡がなければここまでの結果にはならなかっただろう。
もしも、以前にロシアと協力して戦場に立っていなければ、日本は負けていたという専門家も居る。軍事研究や軍拡の必要性に気が付いたきっかけだからな」
この歴史のつながりは、論述問題として良い設問になりそうだと教師は思いつく。英雄が登場せず、外国との連携が含まれている世界史らしいものになりそうだと、一人ほくそ笑む。そして、さり気なく自分のタブレットにその案をメモする。
「そんな訳で、ここだけ見ればほぼ互角と言ってもいい程の戦果だ。
だが、経済的にはそうはいかない」
「京都攻められたもんね~」
「……これまで馬鹿にして悪かったよ。俺、何も考えてなかった……。
辛かったし、大変だったよな。そりゃあ本土で一番発展が遅れるよな……」
「おぉ……京言葉じゃないって分かってますが、複雑やわ~」
生徒達は悲観的な想像を膨らませている。そこから和解が進む、教える側としては複雑な気持ちになる光景が繰り広げられている。教師は一度咳ばらいをし、白板に数字を書きながら説明を再開する。
「イギリスは£799万もの費用を費やした。当時のイギリスのGDPが£2億5200万だったことを思えば、年間の総生産の3.2%もの金が戦争につぎ込まれたことになった。GDPは国内全体の数値であるのに対して、費用は政府が払うものだから負担は数字以上のものだったぞ」
「それってかなりやばくない?
小遣いなら減っても弁当とか作ってもらえるけど、国家予算だったらどうしようもないじゃん」
「……日本、大丈夫? 防衛側だよ?」
「日本は£77.9万を戦費に費やした。当時のGDPは£2億6400だったから、大体0.3%程度で済んだ」
白板上、両者の戦費を円で囲う。そして、費やした金額に約975%もの差があることを明確にする。
「先生、数字の桁間違えてるよ。£779万でしょ。分かり辛いから、円で書いて」
「当時の国際通貨だったから我慢しような。それと間違えてない。
理由としては、戦中も国内の経済が止まらなかった、わざわざ地球を半周してまで遠征する必要が無かった、イギリス向けの高額な輸出品、例えば自動車や電話等の輸出が止目られたことで別の国に高く売れるようになったからといったものが挙げられる」
日本側の戦費の横に、経済的な傷が浅かった理由を書き連ねていく。口頭で説明したもの以外の理由、各大企業の生産する部品や高級品がイギリスに売れなくなったことで国内での値段が下がった事、余剰がイギリス以外の国に届くようになり新たな販路が開拓されたことなどを付け加えていく。
「これの影響で、イギリスは戦費もそうだがそれらの商品を以前より高い値段で他国から集める羽目になり、民間の景気も落ち込んでしまった。
さっきの数値からも分かるが、それをしり目に日本はこの戦争中にイギリスのGDPを超えて世界一になったんだ」
教師は両者のGDPにアンダーラインを引き、£1200万もの差があることを強調する。
「戦争は儲かる。アヘンがもっと売れる。アヘンが足りてたおかげ」
「いやイギリスは損してるだろ。あっちも清にアヘン売りまくってたじゃん」
「こういった理由からイギリスは戦争を早く切り上げる必要があったんだろうな。
サンクコスト効果なんていうが、元を取ろうと固執してしまいがちになる。それなのに損切りを素早く行えた点は、流石大英帝国と言わざるを得ない。そして、長期に渡る遠征の果ての戦闘であっても、その面では互角だったということが自力を物語っている」
今一度負傷者の数字を意識させるべく、それらの数値の周りをトゲトゲで囲う。
「日本の勝利といってもいいが、土地や権利といったものが得られた訳じゃない。まあ、国家や国民的には黒船を追いやれるようになったっていう喜びはあっただろうがな。つまり、金銭や兵士を失ったが、感情的な報酬しか得られなかったということだ」
「ともかく、同じ規模同士の国が戦っても大損すると世界は学んだ。
この戦訓からこれからの大国は直接的な戦闘よりも、様々な手段で世界中に影響力を増やす方向に動いていく。現代史でやるが、勢力ブロックってやつだな。
まあ植民地が儲からない上、そのスペースも無くなってきたのもある。だが、この戦争はその流れを決定づける、世界の歴史を変えた一戦だったんだ」
「勢力ブロックなら、1923年に日本も立ち上げるんじゃなかったですか?
イギリスと違って貿易を中心とした経済的なやつ」
「近代の範囲だけど、長くなるから今回は置いておくぞ。他の歴史を知らないと分かり辛い。それに近現代史で嫌という程やるから楽しみにしとけよ~」
「最後に、1929年に江戸時代から続く身分制度が廃止されて、晴れて日本は完全に近代国家と呼べるようになった。力を示したこともだが、法制度的にもこれで完全に国際社会でも一端と見られるようになったって訳だ。
あ~長かった~」
教師が無意識的に一度大きく伸びをする。ここまで他教科との兼ね合いや生徒の管理で気疲れしてしまっていたようだ。
「なんで身分制度が残ってたんですか?
侍以外も兵士になれるし、農業だって商業化されたって言ってたじゃないですか?
経済的にも逆格差があったって習ったし、維持する理由が分かりません」
教師は伸びた体勢のまま固まってしまう。
「……多分、いつものだな。
一説には、オランダから宗教差別や人種差別も禁止してるのになんで身分で差別すんのと聞かれて気が付いたらしい。保護国の住民は征服された側だからこんな待遇だと勘違いしていた。解放されて一番喜んだのは、侍って話だな」
「ガバかよ! そればっかだな!」
プレイ中:
・イギリスの宣戦布告
なんで? 録画を見返しても訳が分からない。
特に交流もしてなかったのに、突如東ニューギニアの返還と保護国質の移譲を突きつけてきた。そしてイギリスにとってピュロスの勝利にもならなかったのが謎。初めて白紙講和したかも。どうして日本は何も要求しなかったんだい?
本作はこれにて終了です。裏話が活動報告にあります。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=344817&uid=341458