「改めて答えを聞きに来たわ、如月望さん」
「懲りませんね」
「よく言うわ。先週と違って、ずいぶんと覚悟の決まった表情をしているくせに」
「……疲労が顔に出ている状態をそう呼ぶのなら、それで構いませんよ」
よりにもよって、大事な担当アイドルが2人が外しているタイミングで。
十王星南は約束通り、私の答えを聞きに来た。彼女という優れた才能を研ぎ澄ます手伝いをしろ、その傲慢な願いを叶えるため。
陽ちゃんから許可は貰っているし、私としても後学のためにその申し出を受け入れたいところなのだけれども。
「十王星南さん、こちらを」
「これは?」
「あなたを調べました。その範囲で、今のあなたにとって真っ先に上がる課題。その解決法。私の出来る範囲でまとめています」
「……」
「どうぞ、ご確認ください。大変だったんですよ。その資料を作るのに1週間掛けて、2人のことを拗ねさせたんですから」
「2人って……陽と美鈴?」
「ライブ後だから休暇をあげたのに、どうも私が星南さんのことを考えているのが気に食わなかったみたいで。まだまだ子供ですよね」
「大差ないわよね?」
「大人になれば分かりますよ」
「私とは1つしか変わらないわよね!?」
何やら驚いた声を上げながら、星南さんは静かに書類に目線を落とした。読み進めていく彼女の表情が段々と強ばっていく。
「……あなた、これ、1週間で作ったって言った?」
「はい」
「その間、2人のプロデュースは?」
「休暇は2日でした。なので以外はいつも通りですね。営業含め外部とのお仕事は偶然セーブしていたところでしたけど」
「……」
「おかげで今、疲れているんです。星南さんと余計な言い争いはしたくないくらい」
尤も。自分の欠点を既に自覚している彼女が、その対応策を考えついていないなんてことはないのだろうけれど。問題はそれを、星南さん本人がどう受け取るかだ。
「……あなた、さすがね。陽が認めているだけあるわ」
「お褒めに預かり光栄です」
「これは心の底からのお願いよ。私のプロデュースをして欲しいわ、如月さん。あなたでなければ、私はここで終わってしまうの」
「いいですよ。私のアイドルが、まだまだあなたに輝いていて欲しいと、そう願っているので」
「陽が?」
「言ったでしょう、先週に。陽ちゃんは誰よりもお姉さんであるあなたが大好きで、あなたというアイドルの活躍を願っているんです。担当プロデューサーとして、その願いは無下に出来るものではありませんから」
さぁ。十王星南さん。
取引といこうじゃないか。
「私は陽ちゃんのためにあなたをプロデュースする。あなたは、あなたのために陽ちゃんと秦谷さんのプロデュースに"関わる"。悪くないと思いますよ」
「……」
「まぁ……2人のプロデュースに関してはあくまで私主体とさせていただきますけどね。プロデューサーは私ですし、いくら学園長の孫とは言えど、十王姉妹が揃っている状況で好き勝手をするのは非常によろしくないので」
「あら、どうして?」
「いや、好き勝手してるってこれ以上言われたいんですか」
ただでさえ、私が陽ちゃんを見つけられたきっかけのライブが、星南さん含め生徒会の推薦という勝手だったのに。
「好き勝手しているつもりはなかったのだけれど……」
マジかこのシスコン。
「……でもそうね。陽を生徒会副会長に任命している時点で、私の職権乱用を疑われていたのかもしれないわ」
「そうでしょうそうでしょう」
「でも、いいの?それは陽の望むところではないのではないかしら」
「それは100も承知ですよ。その上での提案です」
それに。陽ちゃんはお馬鹿じゃない。
「あなたの視線も関心も、全てを手に入れることが出来るのなら。陽ちゃんは笑って受け入れてくれますよ」
「……」
「星南さんがあのカップルを眺めていられるか、そっちの方が怪しいです」
「ぐ……っ」
「最近の陽ちゃん、良く笑ってくれるんです。可愛いですよ」
今にも血を吐きそうなくらい顔を顰めている。せっかくの綺麗な顔が勿体ない、これが一番星の姿か。目も当てられないな。
「……陽は、本当に。美鈴のことを愛しているのね」
「そうみたいです。そして同時に、あなたの背中を追い続けている」
こんなふうに。
ガラリと無遠慮に開いた入口の方を見る星南さんは目を見開く。そこにいるのは、私の大切な担当アイドル2人。
「陽に、美鈴……」
「……」
「えっと……その表情は……?」
「これは、如月さんと会長。どちらに嫉妬すればいいのか分からなくなった顔ですね」
「……」
「ふふ。心配しなくとも、わたしだけはずっと陽ちゃんの隣ですよ?」
「美鈴、私に追い打ちをかけないで」
「何も言ってないんだけど」
綺麗な瞳を半分ほど伏せて、陽ちゃんは私と星南さんを交互に見る。いつになく機嫌が悪いというのは伝わってくる。でも、さすがにそれだけじゃない。
「星南」
「……ええ」
「わたし、全力のあなたを、H.I.Fで倒したい」
「もちろん。一番星として、全力で迎え撃つことを約束するわ」
「……だから、見ててね。わたしのこと」
ライバルとして、星南を倒したい。そう言った陽ちゃんの瞳は、爛々としていて。その表情を引き出すことが出来るのが私ではないことに、ほんの少しだけザラリと心が擦れた。嫌だな、担当アイドルに、こんな感情を抱くだなんて。
「美鈴とのユニットじゃない。十王陽が、一番星になる」
「超えてみせなさい。あなたの持てる全てで、太陽の輝きで」
だから、お願い。
今だけは、振り向かないで。陽ちゃん。
日陰にいる私に、あなたは眩しすぎるから。
ストックが尽きました