インポテンツ提督がヤンデレ鎮守府を切り抜けるようです   作:赤目のカワズ

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第2話

 インポテンツでマザーコンプレックス。そんな俺と結婚してくれる女性は果たしてこの世に存在するのだろうか。大和撫子の死滅した現代日本には絶望と憤りしか覚えない。

 

「うぐっ……ほうじょう、お酒……」

 

「提督、今日はもうよした方が……」

 

「ええい、上官命令だぞ! 聞かないと南に飛ばすぞ!?」

 

「ああもう……でしたら、あと一杯だけ。それで終わりにしましょう。ね?」

 

「あー、さすがはお母さん、話がわかるなぁ、うんうん」

 

 上機嫌で頷き返す俺とは対照的に、鳳翔はどことなく呆れ顔だ。どうしてそんな顔をするのか、酩酊した思考回路ではさっぱり分からない。

 鳳翔は鎮守府内でも数少ない、気兼ねなく会話を出来る相手の一人だ。

 事の発端は、彼女が時折開く居酒屋での酒の席で、うっかり持病(インポテンツ)について口を滑らせてしまった事に起因する訳だが、それを抜きにしても、俺は彼女に首ったけだ。

 母を思わせる柔らかな微笑、そして抱擁感。垂れ目越しの優しげな視線は、亡郷における少年時代をフラッシュバックさせる。

 あの時、あの時間、俺を見守ってくれていた母の温もりを彷彿とさせる鳳翔の存在は、今や俺の心のオアシスだ。

 少しばかり気安い態度をとってしまうのは自分自身反省すべき点ではあるのだが、特に嫌な顔もせず、にこやかな接客に従事する鳳翔の姿を見るにあたって、ついつい気が緩んでしまう。

 

「もう疲れたよ鳳翔、毎日毎日仕事仕事。俺は何時になったらここから解放されるんだ? 戦局はどうなんだ? 上層部は何も答えてくれない……」

 

「何時もお疲れ様です、提督。今日はせっかくの非番ですし、日頃の疲れを思う存分癒してください……最も、飲むのはほどほどにしてもらいたいのですが」

 

「分かってる分かってる。母さんはすぐこれだ……」

 

 愚痴と反目をいっぺんに吐き出しても、鳳翔はにこやかな笑みを浮かべるだけだ。それが俺の気分を一層楽にしてくれる。

 よくよく考えれば、妙齢の女性が母親云々コブ付き云々名指しで呼ばれる事を、鳳翔は内心どう思っているのだろうか。艦娘以前に、俺は男として無礼千万にあたる行為を平気でやっている気がした。

 それが言外に伝わったのであろうか、俺のどんよりとした視線を受け止めて鳳翔は首を傾げる。

 

「どうかされましたか?」

 

「いや、何……内心鳳翔は、こんな提督に失望していたりするのかと思ってな。一部下としては、こういう上司の所に割り当てられて、さぞ残念がっているのではないか?」

 

 そこまで口にして、俺は自身の失態を知った。酒で滑らかになった舌はぺらぺらと己の内心を吐露する事に汗をかいてさぞいい気分であろうが、困るのは鳳翔だ。

 立場的に上司を批判する事など出来ないであろうし、上司からそんな風な目で見られているともなれば、彼女もいい気分はしないであろう。

 俺は先ほどの言葉を撤回しようと、しかし気恥ずかしさもあいまってか中々ニの口が告げず、顔を隠すようにして軍帽を深く被りなおした。

 

「いや、悪い。今のは失言だった。忘れてくれ」

 

 顔の赤みは酒だけでない。視線を上にあげる事が途端に出来なくなってしまった。

 鳳翔はいったいどんな顔をしてこの話を聞いていたのか。おっかなびっくり視線を向けてみたい好奇心よりも、恐怖の方が勝る。

 ところが、回っていた酔いが急に醒めてきた最悪の気分を前に到来したのは、天使であったのだ。

 

「そんな顔をなさらないで下さい、提督」

 

「……鳳翔?」

 

「確かに、提督は誉れある海軍軍人にふさわしくはないのかもしれません」

 

「…………」

 

「でも、私個人としては…………いつも頑張っている提督が、私だけに、私だけに、こういった脆い一面を見せて頂けるのは……少し、嬉しかったりします」

 

「天使だ……」

 

 そうか、天国はここにあったのか。桃源郷は、黄金の国ジパングは確かに存在したのだ。

 ラブリーマイエンジェル鳳翔を前に、俺は涙を零す。神よ、確かに貴方は安らぎを与えたもうた。今の俺なら右頬ばかりか股間の紳士に向かって急所攻撃されても文句は言わない。むしろ左頬の代わりに、進んで露出する。

 

「うう、やはり、鳳翔が居てくれると心のバランスが安定するな……」

 

「言い過ぎですよ」

 

「いやいや、褒めても褒め足りんよ、鳳翔の事は」

 

「もう、上手い事言ってくれますけれど、本当にお酒はこれで終わりですからね?」

 

「ははは、そこを何とか」

 

 とっくの昔に空になった日本酒。鳳翔さんの店ではとことん燗酒を攻める。勿論、季節によってそれはまちまちだが、肌寒い日々を過ごすのであれば燗をつけてもらわなければやってられない。

 

「あー、この一杯のために、日々を生きている気がするな……」

 

「もう……明日二日酔いになっても知りませんよ?」

 

「大丈夫大丈夫。元々俺は下戸なんだが、下戸って奴はすぐ酔うがすぐ醒める。モウマンタイだよ」

 

「肝臓を傷めますよ?」

 

「うっ……そう言ってくれるな」

 

 まだまだ壮健を誇っていい年頃で、健康の事を気にしたくはない。それに、病気なんてのは気の持ちようだ。煙草酒を延々とやり続けて九十歳まで生きる輩もいれば、酒もたばこも一切やらない奴がさっさと早逝する。世の中、何が起こるかなんてわからないものだ。

 最も、健康云々に対し、何かを言う筋合いはないだろう。インポテンツなどという大病を患っている訳だからであって、こいつが治る保証はどこにもない。

 一瞬の内に広がり始めた心の闇を払拭するが如く酒を一気に飲み下すと、鳳翔が小悪魔めいた笑みを浮かべながら、

 

「そういえば、飲酒がEDを誘発すると聞いた事がありますね……」

 

 やめてくれ鳳翔。女性の口からEDだなんて、正直めっちゃ興奮する。それに俺のインポテンツは心因からくるものだ。

 からかわれた俺は、思わず吹き出しそうになったのをぐっと堪えて、反撃を開始する。

 

「鳳翔、EDじゃなくて、別名称で言ってくれないか?」

 

「……! あらやだ、提督、本当にもうお酒はよした方が……!」

 

 朱の差した頬で、遠慮がちな声をかけてくる鳳翔。ぶっちゃけた話セクハラ問題で裁かれそうだが、熟れた林檎のように動揺する鳳翔の赤ら顔が見られたのだ、十分おつりが回ってくる。

 しかし、ここまで来ると、酒の勢いが怒涛の追風となって俺を責めたてるわけで。

 

「ほら鳳翔、言ってみてくれ」 

 

「そんな、もう、提督っ」

 

「インポテンツ。プリーズ、リピート、アフター、ミー。インポテンツ」

 

「…………イ」

 

「い? もっと大きく言ってくれないか? 言っておくがこれは上官命令だぞ」

 

「…………インポテンツ」

 

「グラシアス。今日は良い気分で眠れそうだ」

 

 録音すればよかった。

 可哀そうに、今や鳳翔は顔を俯かせ、酷く赤らんだ顔を必死に隠そうとしている。ぶっちゃけた話インポテンツはそこまでアダルトな用語ではない筈だが、なんていったって響きがエロい。

 それにしても、ここまで恥じらいを見せてくれるなんて、やはり鳳翔は最後の大和撫子なのかもしれないな。もっと、その羞恥で歪んだ顔を間近で見たくなる。

 気づくと、俺は身を乗り出してカウンターを挟んだ先にいる鳳翔に顔を近づけていた。

 

「やだ、提督っ!?」

 

 後ずさろうとした鳳翔は、草食動物よりも脆弱な存在だ。逃げれないように肩に手をやるだけで、彼女は簡単に肉食獣の前に屈してしまった。

 その頤に指を走らせる。

 

「もっと見せてくれないか? 鳳翔の可愛い顔を……」

 

「そんな、私、まだ……」

 

 憲兵なんて糞くらえ! ぶっちゃけ股間の紳士が再起不能状態でもいくらでも楽しめる!

 そんな邪な気持ちが俺の全身を支配し始めるのに、さして時間はいらなかった。

 キスだけでも! キスだけでも! しかし、その時の俺は、とある事実を失念していたのだ。

 居酒屋の入り口には、鍵がかかっていない。

 

「………………」

 

「し、不知火っ!?」

 

 愕然として振り向くと、入り口の引き戸をうっすらと開け、少女がこちらの様子を窺っていた。

 月光に反射する蒼い髪留めでショートポニーを作る彼女は、一見年相応の溌剌さを持っているようにも思える。その実、その心が秘めるのは凍てつくような視線と冷静さだ。

 すらりとした体躯に、鋭い眼光。こちらを監視していたであろう少女は、ゆっくりと戸を開けて、店内に入ってきた。

 

「ど、どこから聞いていた? どこから見ていた?」

 

 もはや言い訳が無用である事を悟った俺は、単刀直入に不知火を問いただす事にした。

 

「インポテンツがどうのと、婦女子に対し破廉恥な物言いを強要させ、あまつさえ、股間のビッグマグナムで鳳翔さんを暴行しようとしていた所からです」

 

「待て待て待て! 捏造だ!」

 

 俺のマザコンがばれなくてよかったと楽観視する事は到底できそうになかった。

 不味い。端から見てもセクハラかプレイの一種としか見えないのだ。誰かに見られようものならば弁明の余地は存在しないというのに、何故鍵を閉める事を怠ってしまったのか。

 急激に覚醒を果たした俺は、泥酔していた自分自身を呪うしかなかった。

 

「けだもの」

 

「うぐっ…………」

 

 辛辣な物言いが、次々と押し寄せる。不知火の冷徹な視線に、俺は生きている気がしない。

 彼女が俺に辛く当たるのは昔からで、今回はよりにもよってという思いがある。駆逐艦の中でも精神年齢が低い者達であれば誤魔化しようがあっただろうし、よくここを訪れる呑兵衛達であったならば、俺の酒癖の悪さから色々と察してくれただろう。

 しかし、彼女は何故ここに? 不知火がこの居酒屋を利用しているなんて話、一度だって聞いた事がない。

 俺が思考停止に至っている最中、不知火は我関せずといった風にずかずかと店内に乗り込むと、俺と隣の席に腰を預けた。

 

「鳳翔さん、スミノフを一つ。オレンジジュースで割って下さい」

 

「……あっ! はい、只今」

 

 同じく思考停止に至っていた鳳翔であったが、商売気質か、不知火の注文でようやく我に返って、そそくさと支度を始めた。

 無言で佇む不知火に合わせて、落ち着きを求め始めた尻を座らせる。

 

「…………不知火も、こういう所に来るんだな」

 

「いけないですか?」

 

「いや、別にそんな事は……それにしても、ウォッカか。お酒、強いんだな」

 

「いえ、少々ロシアに縁があるだけです」

 

「…………?」

 

 その言葉に俺は違和感を抱いた。駆逐艦不知火とロシアに縁など存在していただろうか。戦前の記録を事細かに覚えている訳ではないため、はっきりとはしないが。

 しかし、今重要なのはそんな些細な事ではない。問題なのは、この室内を支配し始めた居心地の悪さに他ならない。

 暗怪、暗礁、暗雲、黒雲……。

 沈黙を打開するための勇気を捻出する事に、どれだけの時間を要しただろうか。

 そこまで準備に時間をかけておきながら、震える唇、そして微かに漏れ出る域でしかない声色に、俺は己の肝っ玉の小ささを感じ取った。

 

「……その、不知火君、は」

 

「君?」

 

「いやいや、不知火。先ほどの事はどうか内密に頼む。どうも俺は酒癖が悪くてな……さっきのあれは酒の勢いもあって冗談が過剰に演出されてしまっただけなんだ」

 

「それなら、今後一切お酒は飲まない事をお勧めします」

 

「うっ、しかし、それはだな……」

 

「不知火はどこか間違っていますか?」

 

「いや、確かにお前の言い分は正しい。だが、酒が俺の精神安定剤である点を踏まえると……」

 

「お母さんに暴行する前に、決断する事をお勧め致しますが」

 

「なっ、お前、もしかして最初からっ」

 

 そこで俺は白旗を上げた。戦闘の放棄だ。これ以上は戦線が拡大し、被害が深刻になるばかりであり、正に百害あって一利なし。

 落胆は体にのしかかり、自然と尻は椅子の先端側へと滑り落ちていく。

 酷くだらしのない恰好で、俺は戦後交渉を始めた。

 

「……何がほしい」

 

「買収ですか」

 

「そうとも言う。……しかし、何度も言うようだが、さっきのはじゃれあいの延長線でしかないんだぞ。なあ鳳翔?」

 

「え? ……あ、ええ、そうです。その通りです」

 

 ウォッカを割っている最中である鳳翔に声をかけると、空気を読んでくれたのであろう、こちらを支援する形で彼女も同意してくれる。

 実際、先ほどさして抵抗がなかったのも、彼女が俺の持病を知っている所に比重が大きいと思われる。レイプしようとした所で、それは色々と空しくなるだけだ。

 そういえば、あれだけ接近してもさしたる反発がなかったのは、呑兵衛にたいする対応苦慮もあったであろうが、なんだかんだでキスぐらいなら許してくれたのだろうか。 いや、酔っぱらってキス魔に変貌した隼鷹に頬をせがまれるのなんて鳳翔としても日常茶飯事であったし、俺との関係もその程度のものだったのであろうか。

 

「何か、いかがわしい事を考えていませんか?」

 

「な、何だって!? 誰もそんな事は考えてないぞ!?」

 

「なら、別にいいのだけれど」

 

 そう言って不知火は、カウンターに回ってきたウォッカのオレンジジュース割りを一気に飲み干してしまった。空いた口が塞がらない俺を尻目に、空になったグラスを見つめる。

 

「……何か嫌な事でもあったのか? 相談ならいつでも乗るが」

 

「先ほど嫌なものを見ました」

 

「うぐっ」

 

「別に普段から飲み方にはこだわりません」

 

「そ、そうか……いや、それにしてもさっきのは常軌を逸した飲み方だったぞ。まぁ確かに、上司にもスピリタスを一気飲みをする方がいるが」

 

「ふぅん……」

 

「…………」

 

 会話が続かない。酒で潤っているはずの口の根が、乾きを感じる。

 自然、潤いを求めて、俺の手は次なる杯に伸びた。

 

「提督、先ほども言いましたけど、もうそのくらいで……」

 

「いやいや、まだ飲める飲める……って不知火、突然立ち上がって、一体どうした」

 

「言っても聞かないようですので、落そうかと」

 

「落す? いったい何を……待った待った! 首を絞めようとするな! 俺は一応上官だぞ!」

 

「上官の、健康を、考えての、行為です」

 

「ストップだストップ! ギブ、ギブ!」

 

 死闘を繰り広げて数分、何とか交渉を成し遂げた俺は、荒い息を吐きながら不知火に向き直った。

 

「……不知火に落ち度でも?」

 

「大アリだ! やり方というものがあるだろう! 全く……」

 

「それでは、そろそろお帰りになられた方が宜しいのではないでしょうか」

 

「……お前に負けた気がするのは癪だが……まぁ、そうしよう、鳳翔、おあいそ頼む」

 

「分かりました」

 

 会計を済ませて帰ろうとすると、驚いた事に、不知火までもが金を払おうとしていた。

 

「何だ不知火。もう帰るのか」

 

「いえ、私がさっさと帰るように促したのですから、帰り道に何かあったら後味が悪いですし」

 

「どんだけ俺は信用されていないんだ……」

 

 がっくりと肩を下し、とぼとぼと店の外に向かおうとすると、後ろから声がかかった。

 

「また、いらしてくださいね、待っていますから」

 

「ああ……また、いずれ」

 

 嗚呼、天使が離れていく。俺の憩いの時間が彼方へと消えていく。

 

「嗚呼、悲しき男の性よ」

 

「…………」

 

「……何だ不知火、不機嫌そうな顔をして……やっぱり、まだ食い足らなかったんじゃないか?」

 

「別に、何も」

 

「何もって顔じゃないだろうそれは。……おいおい、先に行くなってば。送ってくれるんだろう?」

 

 若干早歩きの不知火に追いつく。夜風は体感温度を急激に貶めて、酒で火照った体は早くも身震いを起こしつつあった。さっさと帰って眠りにつきたい。

 鎮守府内を歩いていると、早々に私室が内設されている建物にたどり着いた。俺のプライベートルームは執務室の一つ下の階にある。

 一方、艦娘たちの部屋はこの建物には存在しない。同型艦ごとに整然と部屋部屋の立ち並ぶ、一種の学生寮のような形を取っていて、これはもう少し歩いた所に存在する。

 本来はここで不知火と別れる筈だったのだが……それを踏まえた心情を吐露するのであれば、苛立ちは募るばかりだ。

 原因は、勿論傍らの少女。

 廊下の曲がり角に差し掛かった頃、俺は震える口調で彼女に尋ねた。

 

「不知火……、一つ、聞いてもいいか?」

 

「何ですか」

 

「お前は、俺の事を一体いくつだと思っている?」

 

「……? 質問の意味がよく呑み込めませんが、容姿相応かと」

 

「ふむ、ならば、わざわざ建物の中にまで入り、わざわざ俺を私室まで見送ろうしているその意義を問いただしたい」

 

「…………不知火に何か落ち度でも?」

 

「無論、落ち度はない! だがな、そこまで心配してもらわんでも俺は一人で歩けるし一人で自分の部屋にくらい戻れる! 俺をいくつだと思っているんだ?」

 

「お母……」

 

「ええい、それはもういい! とにかくだ、明日もまた早い! お前もさっさと自室に戻れ!」

 

「……泥酔した提督が、同じく泥酔した隼鷹さんと同じ部屋で朝を迎えたという話が耳に届いていますが」

 

 突如として前後不覚に陥った俺は、冷静を保つ事が出来ずにその場で立ち止まってしまった。

 嫌な汗が吹き出しはじめるのを感じながら、ゆっくりと不知火と目線を合わせる。

 冷静に、普段通りの口調を心がけ、泳ぎ始めた視線を力づくで彼女のもとへ。

 

「…………サテ、何ノ話カナ」

 

「動揺してるのね」

 

「……あれは、その、だな、いや、間違いは絶対に起きてない筈だ! 二人とも服着てたし!」

 

 それに俺、インポだし!

 不知火の烈火の如く追及に年柄もなく涙をこぼしそうになった俺は、必死に弁解を続けた。

 それにしても、先ほどから彼女にはペースを握られっぱなしだ。

 風の噂によれば、艦娘にはベースとなる検体が存在するケースがあるとの話を聞いた事があるが、それを踏まえればせいぜい不知火は十代後半、こうして劣性に回り続けるのは情けなくてしょうがない。

 

「と、とにかくだ、ここまで来れば、さすがに見送りもいらん事は分かるだろ?」

 

「ええ、そうですね」

 

「うむ、では、見送りご苦労。……見送りご苦労!」

 

「…………」

 

「……ええい、分かった分かった! 最後までよろしく頼む!」

 

「ええ、期待に応えて見せます」

 

「そんな気張る必要はどこにもないと思うんだが……」

 

 妙な責任感を見せる不知火に俺は首を傾げながらも、内心、嬉しいものもあった。

 不知火が俺の事をどう思っているかは定かでないが――評価としては及第点にも届くかどうか――最後の最後まで共に歩こうとするその態度は、上官としても誇らしい。良き部下を持ったものだ。

 まぁ、その上司へ向けた働きを、飲んだくれの連行なんぞには使ってほしくなかったのは確かだが。

 

「提督」

 

「……何だ」

 

「お酒の飲みすぎには、気を付けて下さい」

 

「まだ言うか! しかも上戸のお前が!」

 

 もう少し、威厳のある提督になりたい。

 


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