因習ハンターのアルガくんは嫁探しばかりに精を出している。 作:山雅将暉
出したかったキャラ出せたぞ〜。ただ戦闘描写がキャラの格に見合ってるかどうか微妙な気がする。気が向いたら意見ください。
戦いとは駆け引きの世界である。格上の戦士に勝つ現象の大半は駆け引きによって生まれる。逆もしかり、腕のいい戦士が格下に負けるのもまた駆け引き。
「丁方ないか!? 半方ないか!?」
二つの賽の合計が奇数か偶数か・・・・・・ただ駆け引きのみを決闘とする神聖な勝負もまた存在する。やはり外界の文化はあまりにも深い。
「お客さん?」
考えすぎていたようだ。壺振りに急かされるなか、先程まで振られていたお椀とそのなかを回転する賽を想像する。『凝』でも見破れない手腕には感服するが、このアルガ=フロスト・・・・・・容赦せん!
「いいだろう。半に俺の
「「「おおっ!!?」」」
伏せたお椀に乗る壺振りの手に僅かな脂汗が浮かんだ。
「お、お客さん! さすがに全財産ってのは・・・・・・もう少し手心ってもんをね。な? 今日の晩飯も食わねえといけねえだろ?」
「壺振り・・・・・・俺は今回、稼いだ全ての金を持ってきた。先日の敗北分は合わせて30万ジェニー。そして今俺が賭けているのは60万ジェニー。わかるな? これは挑戦だ。俺はあのとき奪われた30万を奪いに来た!」
「いいぞ異邦人の旦那ァ!」
「そこに痺れる憧れるゥ!」
「さあ血湧き肉躍る勝負のはじまりだァ!」
「「「は〜ん! は〜ん! は〜ん!」」」
そう。これもまた駆け引き。金額を下げさせようとした壺振りにこれ以上の命乞いを許さないための歓声! この場を味方につけて、ヤツの駆け引きを折る!
「か、勘弁してくだせえ! 俺はもうあんときの売上全部使っちまってんでさぁ!」
「支払い能力が無い・・・・・・と?」
「そ、そうでさぁ!」
必死に相槌を打つ壺振りだったが、俺は首を傾げて見せて「おかしいな」と呟く。
「じゃあおまえはなぜ、そこで壺振りをしている?」
「!?」
そう気づけ。ことの本質を。
「背負っているのは店の売上だけか? 違うだろう。この賭博屋の誇りを背負い、その椀を伏せているその手は飾りか? それを開き、客の魂を喘がせることこそ貴様の本懐! 希望と絶望を操ってこそ丁半博打の壺振りじゃないのか!?」
「あっしの仕事はそんな大層なものじゃありやせん!!」
壺振りの止まらない脂汗が着崩した着物のなかへと吸い込まれていく。心なしか、艶やかだった黒髪に薄い白が浮かびはじめた。
「誰か止めてくれェ! このお客さん完全に頭イっちまってる!」
「怖気付いてんじゃねえよ壺振り!」
「そうだ! 俺らから奪った金吐き出せやァ!」
「オラジャンプしてみろ! ジャンプ!」
壺振りは「ひぃぃぃぃ」と情けない声をあげながら、椀を持つ手をガタガタと震わせた。
「はぁ・・・・・・わかった」
俺の発言で空間がシーンと静まり返る。周囲の博打撃ちたちは呆気に取られた様子で俺を見ていた。一方、壺振りは目をぱちぱちと瞬かせながら誰よりも速く言葉を呑み込んでほっと安堵の溜め息を吐いた。
「そ、そうですか。助かっ———」
「———これではおまえの魂を真に震わせるに値しない」
「ぁへぇ?」
バックの底から譲り受けた魂を解放する。
「いいだろう。
「なァァッグッ!?」
ジャポンに国外逃亡した日、知らぬ間に作られた口座に振り込まれていた生活資金200万ジェニー。おまえの力を借りるぞジン。
「これで貴様を倒す!」
「はァ? アァッ? うぉぉぉぉワァアァ!?」
壺振りは重ねられた札束を目で数えて、思わずお椀から手を離して腰を抜かした。
「さあ開くのか! 開かないのか! その手に宿った覚悟を見せてみろ!」
問われた覚悟に過ぎったものはなんだったか。家族、これからの生活、今日飲むと決めていた酒、それら全てを賭けた大博打に壺振りは壺振りとして、その魂を奮起させずにはいられない。
「う、ウゥゥゥァアァ! や・・・・・・やってやる。やってやるぞゥ!」
壺振りはいつもの口上を何度も頭で反芻した。「これっきりだよ、お名残り惜しいが勝負!」と、数えきれないほど復唱していた。
「こッ・・・・・・」
「「「こッ!?」」」
博打撃ちたちに急かされる壺振り。しかし、喉が。声が出ない。
「ごくっ、ここここ・・・・・・がっアァ、ここここれれれれあ、がぐォッォオ!? ここここの」
強烈なストレスが老いを加速させる。黒髪はすっかり灰色に染まり、脂汗伝う顎に座する髭さえも銀色に変わった。
「こぉこここれれれききききききき———」
「!」
その瞬間、俺は見た。壺振りに突如として湧いたオーラがお椀に浸透していく様を。土壇場の覚醒というより、なけなしの覚悟。それを振り絞った老廃物とも言える汚れたオーラを奮い立たせた。
「いいぞ! 壺振りィ! テメェの覚悟が齎した能力を見せてみろォ!」
「こここ・・・・・・ぎィっ、これっきりだァ、お名残り惜しいが勝負!」
バキリとお椀が割れた。壺振りなけなしの覚悟の結末は!?
————
ジャポン・サカヒロ港区第三賭博屋まえ。
アルガは出禁になった。
「負け・・・た」
勝ったからではない。一人の壺振りをありあまる凄みで再起不能にしてしまったためだ。最終的に彼はその手に掴み上げたお椀の破片を握りながら気絶してしまった。
だが後悔は微塵もしていない。最高の勝負ができたと夜空に光る星空にさえ誇らしく言える。
※因みに壺振りが発現した能力は賽の目の操作だった。
「・・・・・・さて、飯どうしようか?」
漁師の手伝いで稼いだ金もジンから受け取った生活資金も出し切った。今日の残額は正真正銘ゼロだ。夜ご飯食べるには山に出て狩りでもしないといけないが、故郷に比べてここの気候は生き物が生きやすい。蛇でも狙おう。
「よし。いくか」
そうと決まれば即行動。
「素晴らしい勝負でした」
「!!」
瞬間、アルガは飛び退いた。背後に立っていた何者かに声をかけられるまで気づかなかった。
(鈍ったか?)
漁師生活に身を窶して早1ヶ月。念能力を使う機会があるとすれば、ソナー顔負けの『円』と釣った魚の冷凍保存のみ。アルガ自身がそう思わざるを得ないほどに戦いから離れていた。
ゴキゴキと自身の弛んだ心を引き締めるように首を鳴らしつつ、背後をとった何者かに注意を向けた。
「あの壺振りを勝負に乗らせた“胸”踊る口上」
あまりにも大きなそれ。反射的な『凝』が一瞬そこに寄ってしまった不可抗力に気づかないまま、彼女は続ける。
「そして勝負に向ける覚悟の“重さ”と楽しむ心が最高だった。敗北の結果よりも充実した過程に目を向けるところが特に・・・・・・」
またもや反射的な視線がそれをキャッチ。開き直ったアルガはあたかも警戒していますと言わんばかりに全身を眺めた。
タイトな黒袴に包まれた尻も胸も突き出た豊満な肢体、その身長と巻かれた腰帯の位置から足も相当長いことがわかる。しかし顔立ちは童顔で可愛らしい丸眼鏡が体付きとのギャップをさらに加速させる。一方で頸辺りから結われた三つ編みはある種の機能美を感じさせた。
「気が合いそう。ね? アルガ=フロストくん?」
(コイツまさか・・・・・・)
アルガの脳裏にジンと交わした最後の通話が過ぎった。
「鹿取爆・・・・・・雲斎か?」
「抜雲斎です。そんな物騒な名前してません」
危うく爆乳斎と走りかけた口をなんとか軌道修正させたアルガだった。一方で抜雲斎は浮かべた愛想笑いに僅かな青筋が立っていた。その表情で自分の考えていたことがバレてるのを察したアルガは両腕を背中に組んで直立不動の姿勢を貫いた。
「失礼な同僚が私の胸元を見ながら名前を間違えるんですよ」
ドゴォッ!!
「あごッ!?」
そして抜雲斎の洗練された踏み込みとオーラの攻防力移動によってアルガに強烈なボディブローを喰らわせた。
(なんてパンチだ!?)
このとき、アルガは罪悪感もあって攻防力70くらいで彼女のパンチを受けるつもりだったが、あまりに洗練された動きに受ける直前攻防力を85まで高めたが、それでも受けるダメージは大きかった。
「避けないでくれてありがとう。アルガくんは紳士ですね。どこかのへそ曲がりの覗き屋とは大違い」
下げた三つ編みをたなびかせた抜雲斎はまた愛想笑いを浮かべ、腹部の痛みに悶えるアルガに背伸びして目線を合わせた。
「改めて、趣味と実益を兼ねた
「え? ワンナイト?」
ドゴォッ!
アルガはなぜかもう一度殴られた。
———-
ズズズッ。
蕎麦を啜る音が夜の街に響いた。屋台の立ち食い蕎麦屋から発せられるその音はジャポンの風情を感じさせる穏やかなものだった。
「誤解される言い回ししたのはそっちじゃねえか・・・・・・ズズッ」
一方でアルガの動悸は止まらなかった。黒髪巨乳美女と早くもワンナイトできるという期待とそれを裏切られて受けたあまりにも強い打撃がジクジクと痛んでいた。
「ズズズッ、誤解したのはそっちです」
「そうだな、そうだったよ。ズズズッ」
抜雲斎は今日を狩り時と決めていた。あわや一国と成りかけた強力無比な武力を掲げるヤヒス地区をたった一人で殲滅せしめた国際指名手配中の犯罪者。
ズズ〜ッ。
ズ〜ッ。
そのアルガと心置きなく戦うために彼女は蕎麦を奢った。
「ッア〜。なんで俺なんだ?」
「ふぅ。強いから」
「強いヤツと戦いたいのか?」
あまりにもシンプルな問いに意外にも抜雲斎は愛想笑いを引っ込めて首を横に振った。
「いいえ。充実した戦いを経て、この闘争心を満たしたいんです。いつも飢えっぱなしで足りないから。ズズ〜ッ・・・・・・ッハァ、私が本気で楽しんでいるときっていつも笑っていないの。愛想笑いも忘れて没頭しているときが一番充実するんです」
そう言った彼女はまた愛想笑いを貼り付けて、アルガの視界のなかへと割り込んだ。
だからあなたなら私の笑顔を消せるんじゃないかって期待しているんですよ?
首を傾けて覗き込む仕草には確かな愛嬌こそあったが、目はちっとも笑っていなかった。笑えていなかった。
「清凛隊って知ってます?」
「人類最高峰の念能力者が率いた組織だろ。おまえもメンバーにいたと聞いている」
抜雲斎はアルガから顔を離して、コクリと頷いた。
「あの頃は良かった。念能力を違法に広める集団を片っ端から斬って斬って斬り尽くしたあの三日間は笑う暇さえなかった。・・・・・・けれど清凛隊が解散して以来私の笑顔は絶えないの。不完全燃焼が続いてどうにかなっちゃいそう」
愛想笑いがさらに深まった。
「笑みの深さの分だけ苛立ってんのか」
「はい。腹が立って仕方ない。脆い肉体も、弱い癖に容易く邪道に走る犯罪者も、見ていてイライラします。私はこんなに我慢してるのに、彼らはやりたい放題欲を満たしているんですよ?」
不条理でしょう?
胸の内を曝け出した抜雲斎は「はっ」とようやく喋り過ぎた自覚を持ったのか、決闘の場所だけを言い残し、二人分のお代を支払って先に行ってしまった。残されたアルガは抜雲斎の中に巣食う強烈な精神性を目の当たりにしてふと思った。
「あれもまた因習か」
逃れられない強迫観念は幾度となく体験していたが、あそこまで心に侵食した衝動ははじめて見た。
「ごちそうさん」
「はいよ。あの子の闇を受け止めてあげなよ」
「おばちゃん話聞いてたの?」
———
立ち食い蕎麦屋のおばちゃんに背中を押されながら、アルガはあの鬱屈した想いに応えるべく、サカヒロ大江山の山頂に辿り着いた。
シュッ、サッ、ババッ!
そこには長柄の薙刀を振るう抜雲斎が居た。脇、背中、腕を擦り抜ける様を幻視するほどに長柄の扱いが上手かった。
「抜雲斎」
「なん、ですか?」
その様子がアルガに至極順当な仮説を立てさせた。
「おまえ、本当は薙刀で斬りたいだけだろ?」
逆袈裟に振り上げた刀身がピタリと止まった。振り返った抜雲斎にはこれまでで一番深い愛想笑いを浮かんでいた。
「笑えない冗談です」
「そうか?」
「ええ、私の悩みはそんなにちっぽけなものではありません」
ブワッ!!
立ち昇るオーラは滝が空へ流れていくような激しさだったが、その激しさが却ってアルガに確信を抱かせた。
「図星か? 俺には自分で悩みを大きくしているようにしか見えないぜ」
「・・・・・・犯罪者の分際で少し話を聞いたぐらいで私の心を勝手に定義しないで」
「犯罪者かぁ。それ言われると弱いな」
“
青い杖を具現化し、右手に掴んだ。
「そうだな。俺も一地区ぶっ潰した大罪人だ。だからこそ言えることもある」
パキパキと氷が瞬く間に生成され、手斧の形状をとって鋭利な刃物の部位が月光を反射した。
「人を殺すのは最悪の気分だったが、因習をぶっ潰すのは気持ちがいい。感じたことはしっかり言語化しろよ? 奢ってくれた分の余計なお節介だ」
ギリッと強い歯軋りの音が夜に響いた。鳴らした張本人は苛立ちが止まらないのか引き攣った愛想笑いを浮かべて、薙刀を強く握り締めた。
「『豊かな巴で呑み込んで』」
「!!」
抜雲斎の言葉とともに彼女の持つ薙刀の刃に蛇の紋章が刻まれた。いや、それだけではない。薙刀に宿っていたオーラが明らかに跳ね上がった。
「“
(特定のワードを呟くことで具現化した武器の性能を高める制約か。それとも持ってる武器を強化する強化系の力か)
「ふふふ、不愉快で堪んないよアルガくん。ターゲットに弱音を吐いたのは今日がはじめてだったのに、その仕打ちがこれってあんまりだよ」
「なんだ、打算ありきで思い出話をしてくれたのかよ。俺って意外と好感度高かった?」
「さっきまではね」
人間関係って難しいな。アルガが呟きを耳にした抜雲斎の変わりようは異常の一言に尽きた。まず立ち昇っていたオーラが消えた。
『凝』。
すぐさまナムロとの戦闘での反省を活かし、『隠』を警戒してオーラを目に集めたアルガだったが。
「しィッ!!」
「ッ!!」
ガキンッ!
瞬歩と呼ばれる予想以上に速い踏み込み。低い姿勢から放たれた逆袈裟懸けを素早い攻防力移動で手斧にオーラを集めてどうにか防ぐ。
「惚れ惚れするほど速い『流』ですね」
ですが、と抜雲斎は続けながら、薙刀を弾かれたように引いて、後ろ手を回り、“八雲蛟”が今度は反対側からアルガの右脚を狙った。
“
『円』を用いない僅かな指向性を宿した連鎖的な氷結が抜雲斎の下へ向かう。
パキパキッ!
「なに?」
そして彼女は容易に凍った。黒い袴は見る影もなく白に染まり、たなびく三つ編みも宙を踊ったまま氷像へと至った。さしものアルガも呆気に取られた。抜雲斎が放っていたオーラの力強さはこの程度でやられるものではない。
バリンッ!
「便利で不便なんですよ? 強さって」
その推測は当たっていた。氷像を内側から蹴破ったとしか思えない姿勢を維持しながら、抜雲斎は飛び後ろ蹴りをアルガの頭部に繰り出した。
「ッ!」
咄嗟の攻防力移動を顔面に覆い、ダメージを最小限に抑えたアルガは後退しながら『凝』を発動。
「『凝』禁止〜」
しかし直前に接近した抜雲斎に腕を掴まれ、胸骨に向かっての強烈な膝蹴りがアルガを襲った。
「ごはッ!?」
それでもアルガはダメージ覚悟で『凝』を絶やさなかった。そして見えた。抜雲斎の全身を覆う白いなにか。
「ゴホッ、ゴホッ。煙、棉? いや雲か。蹴りを喰らったとき少し冷たかった」
「謎解くの速いなぁ。・・・・・・でも、それがわかったとしてもあまり意味はありませんよ。それより、速く本気を出してください。愛想笑いが止まりません」
嘲るような口調で抜雲斎はアルガを煽った。だがアルガは不敵な笑みを浮かべて、“何も持っていない右手”を抜雲斎の足元に翳した。
あれ? 杖はどこに———
ズシュッと抜雲斎の違和感は痛みとなって表れた。
「え?」
左肩を貫いた槍の如き形をとった氷。“
「よそ見厳禁」
「!!」
僅かな隙で接近してきたアルガはすでに右拳を振りかぶっていた。迫り来る右ストレート。普段なら躱すのも容易なそれを氷槍に身体の動きを封じられた抜雲斎はガードせざるを得なかった。
「ぐッ!!」
ミシミシと割り込ませた“八雲蛟”の長柄が嫌な音を立てるが、遅れてやってきたオーラに保護されてどうにか後退しながら防ぎきった。
「受けの攻防力移動が随分とお粗末だな。その『具現化系』以外の『発』を防ぐ雲に守られているせいか?」
ドォンと身体を木に受け止められた抜雲斎の表情は空虚そのものだった。丸眼鏡が向かう先は満月だったが、抜雲斎の視線はそれより遥か下、今し方遅れを取った戦士を漠然と眺めていた。
「それとも『隠』を使われたことに驚いた・・・・・・なんて言わねえよな。一応断っておくが、俺はおまえの望むような戦闘はできないぜ?」
愛想笑いを消した抜雲斎が大木を背に立ち上がった。
「私の“八雲蛟”はアルガくんの言う通り『具現化系』以外の『発』に対する絶対的な防御力を持ちます」
(! なぜそれを教える!?)
「具現化する際に特定のワードを口にし、“八雲蛟”の雲は何物をも傷つけられないという制約でこの絶大な効果を得ています。そして、この雲は“八雲蛟”を具現化している際にしか生成することができません」
抜雲斎にとってこれは一種の敬意だった。自身の複雑な制約を組んだ能力の隙を見事に突いてみせたアルガへの。
「おい黙れ抜雲斎!」
「いいえ、黙りません。これは私の原点に返るために必要な儀式なんです」
「は?」
しかし、真の理由はどこまでも自己を尊重したものだったため、アルガは抜雲斎を止める理由を失った。
「満たしたい欲の正体がずっとわからなかった。闘争心という広い定義の言葉に囚われて、本当はなにをしたかったのかをずっと見失っていた」
ブオッ、荒波の如きオーラが抜雲斎から溢れ出した。その強大な『練』は数m離れたアルガの身をも包み込むほどだった。それでもなお、オーラに包み込まれた彼自身は威圧感を然程感じず、むしろ好奇心に塗れた童に手を惹かれていくような奇妙な感覚を味わっていた。
「そっか・・・・・・私、そんな闘い方がしたくて“こんな能力作ったんだ”」
「? っ!」
瞬間、アルガは『円』を行使した。雲が無害とわかった以上、次繰り出す念攻撃に“
雲、雲、雲、雲。
(四方を雲で囲まれた。だがどうする気だ? 確かに俺がこの雲をどうこうすることはできないが、これらは直接的な攻撃力を持たないと言ったばかりだろう)
「んふふ」
喉から溢れ出したような笑い声だった。なぜそんな声が出てしまったのかは抜雲斎の顔を見てすぐわかった。
「おまえ、笑うと口角下がるんだな」
「ええ、そうです。変ですかね?」
空の手指で頬を釣り上げるように揉み込んだ抜雲斎。どことなく不安気なトーンで尋ねた彼女に対してアルガの答えはあっさりしたものだった。
「変でもいいだろ」
抜雲斎の口角がさらに下がっていった。見ようによっては機嫌を落とした少女のような面持ちでも彼女は笑っているのだ。
「鹿取は武の探究に全てを捧げた名家でありながら決して私を受け入れることはありませんでした。500年の歴史が否定し続けた私をあなたは受け入れてくれるんですか?」
「・・・・・・」
抜雲斎の問いにアルガは答えず、ただ具現化した三本の"
求めた返答は武で語る。
「ええ。ええ! そうですね! 全ては私の求めた決闘場にて
雲が抜雲斎の求めるままに形を変える。アルガとともに包んだ雲の内部は瞬く間にテニスコート二つ分ほどの広さを持つ念空間へと姿を変えた。
“
「念空間か!!」
「アルガくん。私もう止まれないから!」
抜雲斎が黒袴の裾を切り裂いた。これで天賦の肉体は万全に動く。
———
『円』・・・・・・“
オーラを展開したアルガが使用した変化系の『発』。『円』は問題なく展開できたが、“
ダメか! この念空間でも『具現化系』以外の『発』は使えない。
「しィッ!」
必然的に戦闘再開の口火を切ったのは抜雲斎の斬り払い。好奇に震えた声を上げながらも一切の乱れもない横一文字の斬撃。
ガキンッ!
それは却って分かりやすい太刀筋を描き、アルガは三節棍の連結部で刃を絡め取った。
グワァ?
「!?」
瞬間アルガに訪れる重力の不信。抜雲斎が僅かに踏み込みに力を入れた結果、絡め取った薙刀の刃から力のみが暴れ出し、それはアルガの身体を回し、宙へ飛ばした。
「・・・・・・バイバイ」
惜しむような表情を浮かべながらもその一刀に一切の迷いはなく、全身の身を翻した推進力と『周』による破壊力を宿した斬撃がアルガの首を狙った。
「まだッ! 終わらんよ!」
パキパキッ! ガキンッ!
「ッ!!」
アルガの握る三節棍の両端棍の先が槌を象り、突如宿った氷塊の重さによる遠心力を利用し、抜雲斎の“八雲蛟”を弾き、先に地面に到達した左手でバク転する形で距離をとった。
「見覚えあるな。合気とかいう武術だろ? 薙刀でもできるとは思わなかった」
“戦士魂杖”の変幻自在の武器生成能力は、氷塊に包まれてなお顕在。三節棍は三つの“戦士魂杖”を効率よく運用するための形状。ただ、一度形を生成してしまえば再具現化するまでそのままという欠点は変わっていない。
「・・・・・・ぁ」
しかし抜雲斎の動揺はそこになく、全く別の要因だった。追撃しない天賦の肉体、いまいち研ぎ澄まされない意志。どちらも現在進行形で感じるそれが答えを出した。
(あれ。私、今ホッとした?)
安堵。単純だが明快なその感情に深く納得した。
(そっか。じゃあ“斬れ味落とそっか”)
鹿取抜雲斎が具現化している“八雲蛟”は、一部で斬魄刀と総称される武具である。斬魄刀の特徴として持ち手の意志が強く反映され、本人が無意識下で望んだ形を象る。そして、能力と攻撃力もまた同様に所有者の無意識と意識的な魂がそれを決定づける。
(死んで欲しくないと思っちゃったのなら仕方ないよね。アルガくん、私はあなたを殺さないよ。まあ、それはそれとして思う存分斬るけどね)
斬れ味は落ちた側から膨れ上がる抜雲斎の研ぎ澄まされた闘志に、アルガも一層警戒して構えた。
ダッ!
抜雲斎が再度突貫。薙刀の刃先に込められたオーラは『凝』と同等。それが突きとなって放たれた。
今更そんな攻撃・・・・・・!
紙一重で躱した刃はすぐさま躱した先のアルガに向き、胴体を薙ぐ斬り払いに切り替わる。
まッだ躱せるッ!
大きく仰け反ったアルガは三節棍のリーチを活かして、腕力のみで抜雲斎に振るった。そのとき、アルガの頭上を以上な速度で通り過ぎた刃はオーラの攻防力移動をすでに終えていた。
バキィッ!
「がッ!?」
石突がアルガの左脚のふくらはぎを直撃、骨折の痛みに思わず勢いを緩めてしまった三節棍が虚しく空をきり、とうとうアルガが膝をついた。
しかし残り一本の“戦士魂杖”はまだ武器の生成能力を発動していなかった。
ズシュッ!
鋭く伸びた氷塊を前に抜雲斎は左腕と“八雲蛟”を捨てた。
「んふッ、あ〜ぶない♡」
“八雲蛟”を手離し、左腕に刺さった瞬間、氷塊が生成される軌道をなんとか逸らした。そしてオーラを込めてない防御方法を用いたために、抜雲斎は別の箇所にオーラを回す余裕ができた。
左脚の上段蹴り!
側頭部を狙った蹴りに対し、頭部をオーラで守る。
ガシッ!
「!?」
上段蹴りはフェイク。長い右脚を活かして膝裏をアルガの肩に引っ掛け引き寄せる。左腕に刺さった氷槍が深く食い込むのも気にせず上体を起こし。
「がッ!?」
膝蹴りを顔面に喰らわせた。
「倒れないでよアルガくん! まだ足りないからァ!」
そのときアルガの左手がどこかを翳した。先刻の『隠』を用いた“戦士魂杖”の脅威を身をもって知っていた抜雲斎は反射的に目を『凝』で覆い、その先を追った。
「ごゥッ!?」
三節棍を掴んでいたはずの右手が抜雲斎の顎を撃ち抜いた。だが、抜雲斎の脚は以前変わらず、アルガの肩に引っ掛けられている。
この手応え・・・・・・。
「んふふ、騙されちゃった」
攻防力移動のキレが増している。それに見たところ念空間の維持にオーラを割いていない。念空間が完成した時点で抜雲斎が調整する必要はないってわけか。つくづくタイマン特化の念空間、性格がよく出てやがる。
アルガが思案しているうちに抜雲斎が無傷の右手を開いてオーラを集約する。同時に足元に落ちていた“八雲蛟”が姿を消した。
「“八雲蛟”」
ワード無しでの具現化!?
両手で短く握り込んだ薙刀を抜雲斎が振り下ろす。
ブシュッ!
(ぁ・・・・・・斬れ味が戻ってる!?)
突き刺した右肩と首の境目から飛び散る鮮血が、彼女に反射的な青褪めた愛想笑いを浮かべさせた。
「ってェなァ!」
だがこれで倒れられるほどディヤの序列一位を誇った戦士は甘くない。左手に握る杖が即座に短剣を象る。
(四本目の杖!? いや違う。具現化し直した杖か!)
ブシュッ!!
逆手に持ち替えたそれは無情にも抜雲斎の腹部を貫き、内蔵に到達。人間が生きるために必要なものを生み出す機関を抉り、引き裂き、致命傷を与える。
「参った」
「ぁぇ?」
直前、死を覚悟した抜雲斎への凶刃が止まった。意図せず与えた重傷に加えて鮮明に浮かんだ死のイメージ。前者が理由の大半を占める夥しい量の冷や汗を浮かべて抜雲斎は、“戦士魂杖”を消した左腕に抱かれて、床に下ろされた。
「あ、アルガくん・・・・・・生きてるの?」
「ああ、生きてるぜ。悪かったな、殺し合いにするつもりはなかった」
微妙に食い違った確認を得て、すぐさま“八雲蛟”を消した抜雲斎は無傷の右手で傷口付近を触診しながらビリっと破った黒袴の裾を当てる。
「良かッたァ〜」
彼女の安堵する様子を見て、アルガは抱いていた違和感にようやく得心がいった。
「おまえ、殺意無かったろ?」
「え? あ、いやぁ、そのぅ」
殺意無く決闘続けていたという事実に抜雲斎は少なからず罪悪感を感じていた。自分自身であれば決闘で真剣勝負をされないことに深い屈辱を感じたはずだからだ。
「お互い様だ」
「あ、じゃあアルガくんもなんだ?」
同じ気持ちを持っていたことをなんとなく嬉しく思いながら抜雲斎は微笑んだ(ただし口角は下がる)。
「おまえの身体は攻撃したくない部位がデカすぎる」
「ちょっとそれどういう意味!?」
怒りのあまり口角が上がった抜雲斎はそのデカい部位を揺らしながら、アルガの胸倉を掴んで前後に揺さぶった。
「それに俺・・・・・・人を殺すときは、国や世界が危なくなったくらいの理由がねえとダメなんだ」
「・・・・・・やっぱりあなたがヤヒス地区を滅ぼしたのは、徹底した男尊女卑と行き過ぎた侵略行為が理由だったんだね?」
コクリと頷いたアルガに抜雲斎はニッコリ(口角ダウン)と笑って、胸元から携帯を取り出した。
「アルガくん、嘘ついてごめんね。実はまだアルガくんの指名手配はされていないの」
「??!? なにィ?」
今日一番の動揺がアルガを襲った。
「V5加盟国のオチマ連邦があなたを国際指名手配するよう強く進めていましたが、ヤヒス地区の被害を諸に受けていたベゲロセ連合国はアルガくんを保護観察処分として自国のプロハンターに監視させるつもりでした」
国ごとの思惑の違い、オチマは自国の悩みの種が解消されたとはいえ、それを為した存在を危険視し、ベゲロセはその武力に目をつけ利用しようと考えた。
「で、間をとって私が調査することになりました。まだシングルですが、これでも国際指名手配犯を年間360名ほど捕獲ないしは処刑していますので」
「おまえ凄えな」
あと国際指名手配犯どんだけ多いんだよ。逆にダブルの
さまざまな疑問が湧いたアルガだったが一先ず呑み込んだ。そしてこれはアルガはまだ知らないことだが、プロハンターがダブルの称号を手に入れるためには自身で育てた後輩ハンターがシングルの称号を獲得しなければならない。実績だけを鑑みれば抜雲斎は現役のトリプル
ピッポッパ。
「はい、これで報告は終わりました。アルガくんが賞金首になることはありません。・・・・・・少なくとも今は」
残念そうで嬉しそう。抜雲斎はそんな複雑な表情を作っていた。
「了解。日々の生活態度には気をつけるよ」
「そんな学校の内申点感覚で指名手配されるわけじゃないですからね?」
くすりと微笑みながらもなにかを名残惜しむ表情を見せたことでアルガはなにかを察した。
「また戦ってくれるか?」
「え?」
キョトンと首を傾げた抜雲斎にアルガは続ける。
「いや、なんか思ってた以上に鈍ってたからさ。抜雲斎が時々稽古つけてくれるだけでかなり良い錆落としになるなぁと思って・・・・・・」
抜雲斎の口角は下がり切っていた。それはもう思わず溢れたオーラが『練』と見紛うほど漲らせるくらいに上機嫌だった。
「はい・・・・・・一生あなたの錆を落とし続けてあげます」
「よろしくな!」
なにか重いなにかが宿った言葉にアルガは快く頷いた。
「さて・・・・・・出ようか」
頷いてしまった。
「いいえ、ここからは出れません」
「ん?」
それによってこの後、二人の関係は急展開を迎えることになる。
「私の念空間に課された制約を説明しましょう」
次回・・・・・・場合によってはR-18になるかもしれない。