災害の女神になったので異世界巡ります。神話の時代から 作:Revak
第12話
八百年の時が過ぎた。
ラモトラは発展し、全地方への入植が済んだ。
その過程で色々問題も起こり、ラモトラ内で幾つも国が興るような事態になったが、それは置いておこう。
ローフェはこの数十年は俗世に関わらず、一人のんびりと暮らしていた。
かつて貰った家に結界を張り、侵入を難しくした状態でのんびり家庭菜園なんか作って暮らしている。
身体能力が高いので庭の雑草抜きやら水を与えるの何かは楽勝だ。何なら魔法使って楽できるし。
そうして街で買った本を庭で読んでいると、結界内に侵入者が来た。
ローフェが張っている結界は第六環魔法の
範囲は約二百メートルと自宅と庭を被ってお釣りがくる程度の範囲だ。
維持に常に魔力を消費するタイプの結界で、効果は魔法名の通り人やモンスターを遠ざける結界だ。
精神に干渉し侵入を防ぐことが出来る魔法だが、レベル二十以上の者や精神操作系に対策をしている者には通じない。
だがローフェが居る森にはモンスターが住まうので、モンスター程度を避けるには便利なので使っている。
その結果以内に侵入者が二人。
さて、どうするかとローフェはインスタントコーヒーを啜りながら考える。
この森自体、ローフェを崇める宗教災禍教によって聖域とされており、侵入は固く禁じられている。
それを知った上での侵入か、あるいは何も知らない無知なる者、どちらなのか。
まぁ、家の前まで来たら対応しようか、とのんびり考えながらローフェは読書を再開した。
そうして十分ほど経つと、人の足音がした。
どうせならこのまま待つか、と読書の姿勢を崩さず待つ。
深い森の中、太陽の光に照らされて本を読む美女というのもまた絵になるだろうというよこしまな考えである。
「……本当に、居た……」
やって来たのは二人の男女だ。
片方は二十代程の男だろう。
黒髪黒目の男で、優男と言った雰囲気の男だ。女が寄ってきそうなイケメンである。
身長は百七十二センチ。ローフェより若干高い程度。
もう一人は小柄な女性──というよりは少女に見える者だった。
外見年齢は十四歳程度。華奢な体をしている。身長は百四十センチ程度だろう。
金髪と、特徴的なのは虹色の目だ。これは彼女の種族が純粋な人間種ではなく人間種の一つ
ローフェは二人を見、本を閉じて問いかけた。
二人は庭に入って来ていた。庭に柵などは無いので侵入し放題なのでこれはしょうがないだろう。
「……余に何か用か?」
その問いかけに、二人は息をのんだように見えた。
圧倒的上位存在からの問いかけだ。心弱き者ならこれだけで死ぬかもしれない。
ローフェは若干の怒りを感じている。読書を邪魔されたのもそうだが、聖域扱いされている場所に自身の許可なく来た人間程度に。
「わ、私たちは貴女様に助けを求めに来たのです」
男の言葉に更にローフェは機嫌が悪くなった。
力があるんだから人を助けろ、というのはローフェは嫌いだ。
まぁ、宗教組織の実質トップなのでその組織内の問題ならば手を貸すが、そうでないなら別だ。
「……余に何を求めているのだ、定命の者よ」
ローフェは定命の者、という言い方があまり好きではないが、あえてそう言った。
ローフェには死の概念がある。死ねば肉体も消滅するので蘇生魔法も通じず、死ぬ。
だからローフェも正確には定命の者の一人だ。不老不死に近いというだけで。
だがそれでもこの世界で最も長寿な者の一人ではあるだろう。
「……人を、救って欲しいのです。女神様」
「人は既に、余の──いや神々の手を離れている……仮に滅ぶのだとしても、それは人の
ローフェはそう断言する。
仮に大魔王か何か現れて、それが人類を滅ぼすというのならそれは人が乗り越えるべきものであって神が打ち砕くべき敵ではない。
だからローフェはこの数百年、人の大きな争いなどには介入せず、現世で活動する際も力を落とした上で大きな事はしてこなかった。
ラモトラでの竜の一件以降はローフェが居ようと居なかろうと同じ結果になる事しかしてきていない。
神である己は、必要以上に現世に干渉するべきではないと思うから。
「……そこをどうか、伏してお願いいたします! 戦乱に包まれているこの大陸に、平和を取り戻したいのです!」
そう男が土下座の姿勢で懇願した。
土下座も人類に伝わっている。元はローフェが広めた事だが。
「……戦乱に包まれている?」
ローフェはその言葉に疑問を抱いた。
ローフェの認識ではここ数十年平和な世が続いていたはずだ。大きな戦争もなかったはずである。
「はい。ダルマナック帝国の皇帝が老い……判断を誤り、この大陸の各国家に戦争を仕掛けました。現在、帝国とその属国、そして帝国に反する国々とで戦争が起きています」
この世界、痴呆も回復魔法で治せる。
回復魔法は肉体ではなく魂に依存した回復なので肉体の異常は全て魔法で治せるのだ。だから認知症なども治せる。
が、それはそれとして単なる判断ミスや老いによる価値観の固定化などは治せない。
ローフェは神眼の力で相手の嘘なども見抜ける。そのためこの男──ハジメが嘘を言っていない事もわかる。
「そうか……それなら猶更だ。余は人の世界に深く干渉する気はない。自分たちの力でどうにかするんだな」
こりゃ暫くのんきに観光とか出来なさそうだ、とローフェは遠い目をするが、その程度だ。
娯楽品は家に大量に買い込んであるし、尽きたら外に買いに行けばいい。黄金などを創造する事は容易なので金には困りえない。
「出来ないというのでないのなら、どうか! 戦争は激化し、この大陸全土に戦火が及んでいます! どうか、罪なき人々を救うそのお力をお貸しください!」
そう言われて、流石に手を貸した方がいいかな、なんてローフェは思ってしまう。
神眼で相手の言葉に嘘が無く、本当に国や人を思っての事なのだとわかる。
が、人は既に神の手を離れているのだから、手を貸す訳にはいかないという制約を守らなければならないと思う。
「駄目だ。他を当たれ」
「ワ……たしからもどうかお願いいたします。差し出せる物ならば何でも出します。ですのでどうか……!」
そう少女の方も土下座し、懇願し始めた。
(実年齢五十代でも外見幼女の土下座とか心に来るからやめてくれや)
ローフェは内心そう思いつつ表情には出さない。
この幼女、名をアルバスは魔法で老いを低下させ、寿命を延ばしている強力な
ここまで土下座されると、完全な神ではなく人であるローフェは心に来るものがある。
だが、神としてこの話を受ける訳にはいかない。どうするべきか──と一瞬目を閉じた。
「ん?」
次の瞬間、ローフェは真っ白な空間に居た。
(攻撃? いや違うな。精神だけ飛ばされたな)
ローフェは神眼でそう把握する。
「悩んでいるようですね、女神ローフェ」
そう声をかけて来たのは空と風を司る女神セラだ。
「女神セラ……何の用だ?」
ローフェは怪訝な目でセラを見た。
天上人に等しい存在である原初の神々が己に干渉してくるなど、ロクなことではないに決まっている。
実際に戦えば負けるだろうが、いざという時は神に弓を引くことも辞さない構えだ。
「いえ。人から神に成り上がった者に、アドバイスを、と思いまして……」
「……女神がそんな理由で地上に干渉していいのか?」
「えぇ、まぁ。神界では最近暇ですし……それは置いておいて。貴女は自由に動いていいのですよ」
「なんだと?」
「
「……人としての、選択」
それはこの数千年で選んだことない事だ。
享楽に乗じる事はあっても、己は神なのだからと一歩引いた目で居たのは確かだ。
「えぇ。貴女が再び世界を統治するもよし。世界を救う英雄になるもよし。逆に……個人的には困りますが、世界を滅ぼす邪悪になるのもよし、です。好きな未来を、選んでいいのですよ」
セラがそう言った次の瞬間、ローフェは元の自宅の庭に居た。
精神が戻ったのだ。
見れば、まだ土下座を続けているハジメとアルバスが居た。
はぁ、とローフェはため息を吐いた。
女神にこうまで言われては、傍観し続ける訳にもいかないだろう。
ローフェは人が好きだ。人が作る物語が好きなのだ。
だから、手を貸す事にした。
「其方の言うとおりにしたとして、余に何を差し出せる?」
これは重要な事だ、と強くハジメを見た。
己は何の対価もなしに動く願望器ではない。だからこそ、対価はしっかりと貰わなければならない。
「国を救った暁には、災禍教を国教とし、あなたを崇めたてる聖堂を作ります!」
たいと思う、などではなく作りますという宣言。
神として正直崇められる事にステータス的メリットは無いが、神としての威光は通しやすくなるだろう。
今、災禍教を国教とする国は無い。
一応聖堂こそあるが規模は八大神──原初の神々の事──の聖堂と比べると見劣りする。
数千年前は大規模な宗教組織だったが年月によって廃れているのである。
「……わかった。それを対価とし、力を貸してやろう」
ローフェはそう言い、椅子から立ち上がった。
「だからその姿勢を辞めよ。仮にも国を救うと謡う者がしていい物ではない」
その言葉にハジメは嬉しそうな顔で、「はいっ!」と元気よく返事をしたのだった。
ローフェは無詠唱化した魔法を唱える。
無詠唱化にはメリットが二つある。詠唱時間が無いことによる即座の魔法の発動。もう一つは
今回無詠唱化したのは単なるかっこ付けである。
唱えたのは
一部のクリエイト系魔法を除き、創造系魔法は維持に魔力を消費する。
一部、というのは上位の鉱石創造系の魔法や香辛料創造の魔法などだ。
この魔法は道具なら何でも作る事が可能で、今回ローフェは椅子を二つ創造した。
ローフェが座っているのと同じ持ち運びしやすい形の白い椅子だ。
「さ、座るといい。国を救う為の計画ぐらい、あるんだろう?」
「め、女神さまと同じ視線に立つなど……」
実在する神と同じ目線に立つなど、神の存在を信じる側にとってみれば恐れ多い事で、楽に出来る事ではない。
「余はその程度気にはせん。さ、座れ」
「そ、そう言う事ならば……」
遠慮しがちに二人は椅子に座った。
「それで、大本の帝国……あー、ダルマナック帝国? とやらを滅ぼすのか?」
その問いかけにハジメは苦い顔をした。
「……はい。あの国は、もはや存在することが害です。ですが……この大陸の四割を支配している大国です。滅ぼすのは、容易ではありません」
「ですが、女神さまの力をお貸し頂ければ、それも不可能ではないと思いますのじゃ」
そうアルバスが言った。
実際、国を亡ぼすぐらい余裕だ。
封印を解いて適当に災害をまき散らせばそれだけで国は滅ぶ。
日本だって同時に津波と地震と噴火と隕石が来ればどうしようもなく滅ぶだろう。
だが、ローフェにそれをする気はなかった。
そんな荒業で滅ぼすとなるとその国の罪のない者たちまで大勢死ぬことになる。それはローフェの望むことではない。
「力を貸す、とはいったが大規模に余の力を使うつもりはない。それこそ国を亡ぼすなら一夜あれば充分だが……それだと人の為にならない。まぁ、合戦などで余が力を貸し、勝利を齎す程度ならいいが」
「……すべてをしてくれるわけではない、と?」
「そうだ。そんなことをすれば再び世界は
「……わかりました。でしたら、策があります」
自信に満ちた瞳でハジメはそう言った。
「その策の内容は?」
「はい。私の妹が嫁いだ先に、援助を求めようと思っています。妹はジュリアード王国の公爵家に嫁いだのです。隣国ですし、対岸の火事とは言えません」
「ふむ……あぁ、そう言えば名を聞いてなかったな。其方は? ……まぁ、良いところの出なのだろうが……」
「これは失礼を。俺……私はハジメ・ウーア・ルクセンブルクと申します」
この世界、家名があるのは貴族か、大きな商家だけだ。
貴族の場合は家名に続き領地名もついてくる為、名前が三つになる。
ハジメの場合はウーアが家名。ルクセンブルクが領地名になる。
「ワシはアルバスと申します」
もう片方の少女は貴族ではないらしく、名前だけを言った。
「今更不要だろうが、余はローフェ。災害を司る女神だ」
こうして遅い自己紹介が済んだ。
「では、その妹のもとで帝国戦をすると?」
ローフェが確認の為問いかけた。
「はい。公爵家ともなれば、国に働き掛けることも可能でしょう」
「だが、どうやって動かす? 人情で国は動かないぞ」
「……帝国を滅ぼした際には、帝国の領地を幾つか明け渡します。更に……アルバス。あれを」
「うむ。
唱えたのは異空間に物資をしまう事が出来る魔法だ。容量は魔力量や魔法の威力に依存する。
異空間から青く輝く剣が出て来た。
「アダマンタイトの剣か」
「はい。国宝の一品です。強力な魔法も込められている魔剣です」
神眼で見れば確かに、国宝クラスと言える強力な魔力が込められているのがわかった。
「なるほど、それを差し出すと……」
「はい。それに、国の宝物庫の鍵は皇帝の一族しか開けられなくなっています。私なら開けれるので、その中からも持って行かせようかと」
「……悪くはないな」
ローフェはそう考える。
革命がなった暁には~というたらればだが、それをするために情報源であるハジメに前金である国宝もある。
更に妹が嫁いでいるとなれば動かすには充分だろう。
「わかった。その計画で行こう。妹が嫁いだ先の領地名は?」
「はい。妹……アンナが嫁いだ先はマルクス・ルッセル・カルコゾ卿が治めるカルコゾ領です」
「そこならば余が一度行った事がある。転移魔法で行こうか……その前に準備する。少し待っててくれ」
「わかりました。お願いします」
「あぁ、そうだ。一つ聞くのを忘れていた」
ローフェは真剣な表情で問いかける。
「何故、そこまでする? 国を見捨てて逃げることも出来るだろう?」
そんな問いが来るとは思ってなかったのか、ハジメはきょとんとした表情をした。
ローフェにとっては大事な質問だ。嫌なことから逃げて来た己にとっては、逃げずに立ち向かう人間の心理が知りたいのだ。
「……確かに、すべてを捨てて逃げるのもいいかもしれない。だけど──俺は皇子。その責任から逃れる事は出来ない」
そうかっこつけたような顔で、そう言った。
ハジメはダルマナック帝国の第一皇子である。
だが、妾の子だった。
最初の内はよかった。望まれて生まれた第一子として、可愛がられ英才教育を施された。
そして順調に本妻の子も生まれた。男だった。
しかし問題はなかった。ハジメの方が先に教育を受けていたし、才覚も表していたのだから。
だが──皇帝が老いて変わってしまった。
才覚を現し、政務を黙々とこなすハジメよりも、愛嬌があって可愛らしい第二皇子カールの方を可愛がり──皇帝の地位を渡そうとしたのだ。
当然、周囲の者は猛反発だ。
所詮はスペアとしての教育しか受けていないカールよりも、最初から皇帝に就くことを前提に教育されてきたハジメの方があってるに決まっている。
だが皇帝は反対する者を容赦なく処刑した。
そうして周囲の反対意見を黙らせ、カールを皇太子に任命し──ハジメに対し反逆罪をでっち上げ殺そうとしたのだ。
老いとはかくも恐ろしいものである。
間一髪。親友であるアルバスが気づいたことでハジメは刺客を返り討ちにし、逃げることが出来た。
もはや帝国内に居場所はない。最初は、他国で隠れて暮らすしかないのか、と諦めたこともあった。
だが皇帝は愚かにも程があった。若き頃は勇猛果敢な軍師だった皇帝は、ハジメが反逆し己に牙をむくことを恐れた。
結果、周辺国家全てに戦争を吹っ掛けた。
本人の理論としては他国にハジメが居るかもしれないから、ハジメを殺し後顧の憂いを無くす為だというが、はたから見れば狂人の戯言である。
当然他国は猛反発し、そんな人物は居ないというが皇帝は嘘ついてるな殺す! とばかりに軍を差し向けた。
もはや老害である。
更に本人はボケていないと回復魔法を受けることを拒否し続けている始末。
結果、帝国に反発する国と帝国に与し戦争を広げ利益を得ようとする国とで別れ大戦争が起こったのだ。
戦争とはばかばかしい理由で起きるものでもあるのだ。
ローフェはそれらの過去を知らない。王子様が何か言ってるな、程度でしかない。
だがそれでも、その強い瞳には憧れを抱いた。自分には持ちえない物だから。
「そうか……では、余は旅の支度を整えてくる。ここで待っていてくれ」
そういうとローフェは家に戻るのだった。