災害の女神になったので異世界巡ります。神話の時代から 作:Revak
数日の間、ローフェは内政をしていた。
近場に狂った神の気配はなく、街を安定させる方向で進めていた。
ローフェは防御系の神ではないので強力な結界などは張れない。中位程度の結界なら張れるが。そのため何かあったら即座にローフェに
そのために街の周辺の村には
「ローフェ様。お客人が来ております」
メイドがそう言った。
ローフェは執務室で書類にサインをしていた。
ただのサインではない。神の力が籠ったサインであり偽造は不可能だ。
「誰が来ている?」
「オーディン様です」
その来客にローフェは驚いた表情を見せた。
「オーディンが? ……通せ」
「畏まりました」
そうして少し待つとオーディンが入ってくる。
かつてと変わらぬ姿でやって来たオーディンは笑顔を見せた。
だが、その顔には大分無理している感じが見て取れた。
「久しいな、オーディン。何の用だ?」
「うん。再会を喜びたいところだけど……私にも無理が来たんだ」
そうオーディンは苦笑した。
「……そうか。介錯ぐらいはしてやろう」
「いや、それには及ばないよ……私達神が最期の力を振り絞る事で残せる神器を、私も残そうと思ってね」
「……そうか」
「うん。それで……神器を残せないほどに狂った神や、それだけの力のない神は今……神都に向かっている」
「神都に? 何故だ?」
「……悪を司る神が、神の悪意を集めているんだ……」
「そうか……」
悪を司る神はローフェも一度会ったことがある。
一回ちょっかいをかけてきて雑に攻撃したら尻尾を撒いて逃げていった男神だ。
名はイブリースという。
「彼にはいつも助けられている。彼が集めているのも、これ以上被害を広げない為……だから私も、彼の為に力になろうと思う」
「──その決断を尊く思う。それだけのことが出来る者は少ないだろう」
ローフェは素直に称賛した。
己の命と引き換えに武器を残せると言っても、ローフェは死にたくないのでそんなことしたくない。
同じ立場だとして、例え時間が経てば狂うと知っていても、死にたくないという思いの方が強いのだ。実際に一度死んでいるからこそ。
「うん……だから。これでお別れ」
そういうとオーディンは光り輝き始めた。
「新しい私と……人を、未来を、よろしくね」
そうオーディンは心から笑い──槍となった。
槍は落下することなく浮遊している。
「……オーディン……」
ローフェは槍を取った。
柄と穂の部分は銀色をしている、穂は両刃の槍だ。
装飾は少ないが柄と穂の間に大粒のダイヤモンドが挟んである。
取り回しやすい形の槍である。
持つと槍の名が頭に浮かんできた。
「グングニル、か……行こうか……グングニルよ」
ローフェは槍──グングニルを持って外に出た。
向かうは神都。最終決戦が始まる。
■
空をローフェは飛ぶ。
ローフェは空を飛ぶのが好きだ。人間であった頃では出来ない事だし、非日常感満載だからだ。
それに空から地上を見ると自分のちっぽけさを実感できるのもある。
自分は今領主の様な存在だが、それでもこの世界に比べれば小さい存在なのだ、と。
そうして飛んで行くとモンスターたちが行く手を阻んでくる。
ワイバーン型のモンスターにドラゴン型のモンスター、怪鳥型のモンスターなどだ。
これらは実在する種族であるが、このモンスターたちは違う。人の想いによって生まれたはかない存在である。
「余の前を遮るな」
ローフェはそう言いグングニルを振るった。
グングニルから超高密度に圧縮された風の刃が飛んだ。
刃は百メートルにも上る巨大な物でモンスターたちがバッサリとなぎ倒された。
だがモンスターの群れは全滅していない。
「ストームコール」
空に暗雲立ち込め、空から雷の雨が降り注ぐ。
幾つかは外れるものの殆どはモンスターたちに自然の雷以上の力を持つ雷が命中し、消滅させていく。
このモンスターたちを逃がす訳にはいかない。逃がせば脅威となるから。だから無視して突破が出来ない。
しかし残るのは後三体。サクッとグングニルで斬り裂き消滅させた。
そして神都に向かって飛んで行った。
五分も飛べば神都に辿り着いた。
広間に着地する。かつての美しかった都はどこへやら。瓦礫の山になっていた。
そこは狂った神の巣窟だった。
「OOOOOOO!」
両手が剣になっている男神がローフェに突撃してくる。
ローフェはグングニルで突きを放ち吹っ飛ばした。
それと同時に背後から女神が矢を放ってくる。
すぐさま振り向き暴風を操り矢を反らす。
「これは……本気を出した方がいいな」
思わず引きつった笑みを見せてしまう程度には、狂った神たちが居た。
その総数は八百。神という上位存在を前にしてローフェは弱い。
ローフェも神々もレベル百。そしてこのレベルというのは基本例外を除き絶対の指標となる。
レベル差が十もあればその相手に勝つのはまず不可能だ。と言ってもそれはタイマンでの話で武装や仲間の差で勝てることもあるだろう。だが二十もあればそれは覆せない差になる。
そして八百のレベル百対一人のレベル百と成れば負けるのは当然一人の方だ。
だがローフェは数少ない例外側に位置する存在である。
例えるならばレイドボス、だろうか。レベルこそ同じだがステータスが馬鹿みたいに高いのである。
それこそ能力を五割封印し弱体化した状態であっても神殺しを容易に行えるぐらいには強い。
その封印を解いた。左目が映される。
ローフェを中心に半径百メートルが消滅する。
「では、最初から本気で行くぞ──
空から巨大な──神都の四割ほどのサイズを誇る隕石が降ってくる。
だが落下には時間がかかる。十分ほどかかるだろう。
その前に目の前の存在を殺す。そう考えたのか神々が一斉に襲い掛かって来た。
ローフェは出し惜しみなしで本気で権能を行使する。
「嵐のマント──」
太陽の炎、山火事を起こすほどの雷。山が崩れるほどの暴風。それら三つの災害をグングニルに纏わせる。
そして、雑に一振り。
その余波で神都の二割が消し飛んだ。
神都は約二十キロほどのサイズを誇る円形都市だ。
その二割……つまりは四キロが消し飛んだ。
当然その射線上に居た神々は消滅した。
仲間が一瞬でやられた。生物ならばそれに恐れ慄き逃げ出すだろう。だが神は生物ではない。
故に恐れることなく狂ったまま神々はローフェに襲い掛かった。
ローフェがグングニルを振るう。
その槍で貫かれ死に、その余波でも神が死んでいく。
グングニルで、素手で。暴風で、炎で、雷で、洪水で。殺していく。
約半分を殺したころ、異変が起こった。
空から巨大な神──狂った悪神が降って来たのだ。
大きく後ろに飛ぶ事で回避に成功する。
悪神イブリースは元は好青年といった感じの姿だったが、今はその欠片もない。
蠢く黒い触手の塊。隙間から見える肌と触手には歪んだ歯並びの牛の様な押しつぶすタイプの歯が生えている。
全長約十メートルほどの化け物でしかなかった。
イブリースは狂った叫び声をあげる。そして他の触手でつかみ、捕食した。
「? 何を──」
その行動の意味はすぐにわかった。イブリースが巨大化したのだ。
そしてその食われた神──剣の神武御雷の持つ雷を伴う剣を放ってきたのだ。
嵐のマントで軽減し、グングニルで迎撃は出来たが驚愕すべきことだ。
(神の力を得ている? そんなことは不可能……いや、なるほど。己の存在を代償に行っているのか)
本来神同士は独立した存在でペアリングは不可能だ。
だが一時自分をコアとし、他の神を燃料にもすることで演算させ融合を一時可能にした。
当然そんな荒業が続くわけがない。何もせずとも一日も経てば自壊するだろう。
しかし一日あれば今の地上を焼き払うには充分である。
イブリースが触手をローフェに向ける。
そして触手の先端から魔力のレーザー砲を放った。
光の速度で放たれた為回避は不可能。だが嵐のマントにより軽減は出来た。
しかしこのレーザーはダメージよりもノックバック性能に重きをおいていたらしく神都の外までローフェは吹き飛ばされた。
全力の飛行──風を操作する事で瞬間最大速度はマッハ七に達した速度でイブリースの元まで戻るも、そこでは既に半分ほどの神を喰らい更に巨大化しているイブリースが居た。
最初は十メートル程だったその姿は十倍の百メートルにも達する程で、神都の城を超えるほどの化け物であった。
ローフェは三つの災害を混ぜた攻撃を放つ。
暴風に雷に炎が混ざった攻撃だ。
イブリースは魔力の盾を展開し、防御する。
数秒ごちゃまぜの災害と盾がぶつかり合うが、最終的に災害の方が打ち勝った。
イブリースの胴体に風穴が空く。
しかしじゅくじゅくと肉が腐るような音と共に再生していき、一分と経たずに再生が終わった。
「
ローフェは魔法を唱えた。
これまで散々近接戦をしておいてなんだが、ローフェは本来
ただ神という上位種族の為身体能力もレベル八十代程に高い。だが戦士系のクラスにはついてないので戦士の
この世界には
一時的な自己強化。敵の探知。隠密などだ。
魔法もまた多岐に渡る。
魔法にはランクがあり第一環から第十環。魔法の理を超えた無環魔法まである。
ローフェは第十環魔法まで使える
それにローフェは特殊な神なので魔法は他者に教わるか魔導書を読まないと習得できないという欠点があるのだ。だからあまり使わなかった。
今唱えたのは相手の現在のHPを見る魔法と現在のMPを見る魔法である。
現在の、というのがネックで最大HPなどは見れない。
相手のHPとMPがオーラのように見える。
その魔法で見れば魔力が減っていったのが身に見えてわかった。
(再生に魔力を消費するタイプか)
それならば死ぬまで攻撃すればいいだけだ、とローフェは天候を権能で変えた。
そして雷雨が降り注ぐ。
雷が文字通り雨のように降り続けイブリースの巨体を襲う。
イブリースは狂気の声を上げ、防御の権能を行使する。
雷にのみ耐性を付与する事で雷の雨をしのごうという考えだ。
ローフェはグングニルを投擲した。
投げると同時に命中し、イブリースの腹に風穴が開く。直径五メートルほどの大穴だ。
グングニルの持つ能力の一つ、絶対命中の投擢だ。
過程を無視して当てることが可能で相手のあらゆる防御能力を無視してダメージを与えれる。
そして投げた槍は手元に自動的に戻る。
次の瞬間にはローフェの右手にグングニルがあった。
「暴嵐の剣」
ローフェは左手に風で出来た大剣を装備した。
イブリースは腹の大穴を再生させつつ触手を振るう。
触手の速度は初速からマッハ二。ソニックブームを伴い攻撃してくる。
ローフェはそれを飛行で回避する。
時折体をかすめるも嵐のマントによって軽減され致命傷には届かない。
残った神々がローフェに遅いかかる。
「邪魔だ!」
だが雑に振るったグングニルと剣によって吹き飛ばされ、残った神々も殆どが死んだ。
しかしその隙はでかい。
神々に向けて攻撃した一瞬を狙いイブリースが跳躍。
そして触手を束ね巨大な槍とし、ローフェに向かって落下した。
(回避──いや出来ん! ならば!)
ローフェはグングニルと剣を構え突きを放つ。
触手の槍と衝突し、衝撃波がまき散らされる。
余波で神都の殆どが吹き飛んで行き、城もついに崩壊した。
ローフェは押し負けていく。
力ではほぼ互角。なら負けている理由は単純なウェイトの差だ。
ローフェの体重は装備込みで約八十キロ。対しイブリースは数十トンは下らない体重を持つ。
故に押し負け、地面に落ち陥没し、ついには地面に埋まってしまった。
「な、め、る、なぁぁぁ!」
ローフェは暴風の権能を全力で使い周囲を吹き飛ばし、イブリースも吹き飛ばし地面から這い出た。
「ふん!」
そしてグングニルを投擲。再びイブリースの腹に風穴が開く。
そしてついに──隕石が着弾する。
隕石は丁度イブリースに命中した。
超巨大隕石が落下し、神都が砕け散る。
ローフェには影響がない。自分の力で傷つくような仕様は無いのだ。
神都が崩壊し瓦礫の山となって地上に落下していく。
その中にはイブリースの姿があった。
元のサイズ程度まで縮み、力の殆どを使い果たしたが──まだ生きている。
生きているならば止めを、とローフェはせめて自身の手で終わらせてやろうと突進し、突きを放つ。
イブリースは最期の抵抗とばかりに防御に全力を回すが、ローフェの攻撃力を上回る事は出来ず──体を貫かれ絶命した。
「……最後の神よ。さらば。あとは余に任せるが良い」
最期にイブリースが微笑んだ──そんな気がした。