災害の女神になったので異世界巡ります。神話の時代から 作:Revak
神都の残骸が地上に落下する前にローフェは全て破壊し、空を飛んで街へと戻っていく。
内心ローフェは複雑だった。自分の様な余所者がこの世界に終わりを齎していいのだろうか、と。
だが誰かがやらねばならぬ事で、それが出来るのは自分だけだったのだ。
そう自分を正当化しながら街に戻る。
そこにはメイドが居た。
「終わったのですね」
そうメイドは微笑んだ。
「あぁ。これから忙しくなるぞ」
「はい。この命尽きるまで、あなた様に尽くします」
■
一週間後。問題が起こった。
この箱庭の世界を維持していた神が死んだことでこの世界が解放されたのだ。
結果、箱庭の外に居た者たち──亜人種や異形種がやって来たのだ。
亜人種や異形種の中には人を食べる者も居る。
トロールなどは人間の赤子が好物なほどだ。
と言っても、それらの種族が実際に人間を食べたことはない。人間種は全て箱庭の中に居たからだ。
故に外の亜人種と異形種たちは急に湧いて出て来た人間種相手に攻撃という手段を取った。
初見の者にとってみれば人間は毛皮を纏っていない白い肌をした奇妙な化け物である。殺すという選択肢はとっても食べるという奇特な者は少なかった。
そしてローフェはひっきりなしに動いていた。
暫定的に友好的でない亜人種と異形種をモンスターと呼称することに決めそれらに対し二十四時間動き続けた。
東にオークが出たとなれば殲滅し。西にワイバーンが出たとなれば焼き殺し。南にゴブリンが出たとなれば雷を落とす。
そして帰ったら内政。天候操作で不作にならないよう調整する。
更に人々に教導。魔法の使い方。戦士としての戦闘手法などを教える。
神だから出来るブラック労働であった。疲労無効の種族特性が無ければ決して出来ぬ二十四時間を労働していた。食事など最近は全くしていない。
そしてローフェはこのことに快楽を感じていた。
今、自分は人の、世界の為になっているという実感がローフェを動かし続けた。
ローフェの前世■■■■はフリーターだ。
その日暮らしで宵越しの銭は持たないというか持てない人間だった。
しかも精神疾患の障害持ちで障碍者雇用で働いていたカス野郎であった。控えめに言って死ぬべき人間だった。
その自分が大勢の人に頼りにされ、己の能力を百パーセント生かして世界の為に動けている。
その感覚がブラック労働を苦もせず出来る原動力だった。
そうしてローフェに依存した国は千年保ち──ローフェは玉座を追われる事となった。
■
「……もう一度言ってくれないか?」
ローフェは玉座に座りながら己の忠臣に問いかけた。
神都が崩壊し箱庭が崩れて千年経った。
この千年で人は発展した。
知能が高く人間と共存可能な亜人種や異形種を受け入れ、彼らに戸籍を与え人権を与えた。そして、仕事も。
異形種は寿命が無い者が多く、彼らは育てば強力な個人として長い間勤務してくれるので
そして、ローフェ任せだった仕事も徐々に人に任せられるようになっていった。
全体の平均レベルは十六程度。精鋭兵で二十。英雄と呼ばれる者で三十レベル程度で、四十レベルは百年に一人程度現れた。
最も多いのは人間だ。繁殖力が高い為すぐ生まれてすぐ死ぬので最も多く繁栄している種族になった。
この大陸の実に九割がローフェの支配下であり、国名はニヒツ。大陸の名と同じである。
「ですから、
そうローフェに言うのは三十代程の男だ。
騎士の格好をした男であり、実際騎士団長の地位にいる男である。
黒髪黒目というこの世界では珍しくもない容姿の男だ。顔つきも優れているという訳ではない。不細工というほどでもないが。
「……余の統治に不満でもあるのか?」
ローフェは玉座に座ったまま問いかけた。
「いいえ。あなた様の統治に不満などありません。ですから問題なのです」
「……どういう意味だ?」
ローフェの地頭はよくない。
二を聞いて一を知る程度の頭で、凡人より若干悪い程度の知能だ。
「あなた様に依存しているのです。この国は。それは健全ではない……故に、神王の座を退いてもらい、人による人のための国を実現させたいのです」
「……つまりは、異形種が王というのは気に入らないという事か?」
ローフェは鋭い目で騎士団長を見た。
「いいえ。違います。あなた様がこれから永遠に王の座であられる……それはとても素晴らしいことでしょう。ですが──肝心の貴女様のお気持ちが考えられていない」
そう騎士団長は言った。
「ここ数年、あなたの仕事を減らしている事には気づきましたか?」
「……当然、気づいているとも。その仕事がミヒャエルに回っている事にもな」
「そうです。我々はもう、神の統治など不要なのです。実際にここ数十年、ローフェ様がお力を振るう事はなかったでしょう?」
事実だ。
ローフェはここ約六十年内政だけをして、天候操作もモンスター退治もしていない。
「ですからどうか、もうお休みくださいませ。我らが偉大なる女王よ」
そう騎士団長は懇願するように言った。
その瞳を見て、ローフェはため息を吐いた。
確かに、今のこの世界は歪だ。
神話の時代から何も変わっていない。神が統治し、神に依存したままだ。
かつてのセラの言葉をローフェは思い出した。『人は、自分の足で立って歩ける種族のはず』という言葉を。
もう、神の手は必要ないだろう。
「わかった。神王の座を退き、後継にミヒャエルを指名しよう」
そうローフェは微笑んだ。
その言葉に騎士団長は頬をほころばせた。
■
ローフェは王の座を退いた。
となれば隠居生活になる。
ローフェは騎士団長と共に神王直轄領の端にある森に来ていた。
「ここが、新しい住まいになります」
「良い作りじゃないか」
ローフェの新しい家は前の住まいである城と比べると当然大きく見劣りする。
だが、一人暮らしの女性の家と考えると結構いい家であった。
二階建てに庭突き。部屋も書庫やキッチンなどある。
神なので排泄はしないのでトイレなどは無い。
ローフェは新生活にワクワクしていた。
この大陸では小説や漫画などの娯楽文化も発達している。
と言ってもモンスターなどの脅威は全て取り除かれていないので、多少の発展になっているが。
だが、これまでは娯楽に興じる事は出来なかった。神王としての仕事があったからだ。
暇な時間は勉学に当て、自己の強化に当てていたのだ。それが無くなり、趣味に興じることが出来る事に対する興奮だ。
ローフェの前世は普通にオタク系の人間だった。と言っても消費型で何かを作る事はなかった。昔小説を書いたが酷い出来て読めるものじゃなかったなかったので諦めたのだ。
これからは好き勝手暮らせる。家庭菜園なんてどうだろうか。それもまた楽しいだろう。
「それと、これが貴女様の資金です」
「多くないか?」
そう言って渡されたのは五億円であった。
この大陸の通貨はローフェが作ったので普通に円である。紙幣制度でもある。
騎士団長はアタッシュケースに一万円紙幣がぎっしり入ったのを五個置いた。
一つ一億円入っている。
「いいえ。これでも足りない程でしょう。貴女様の家の金庫には換金できる黄金や宝石を用意しておきました……必要なら貴女様自身の手で創造することも出来るでしょうが、出来る限りこちらから消費して行ってください」
「わかった。これだけの金、腐らせるのももったいないからな。好きに使わせてもらうぞ」
「ぜひとも、そうしてくださいませ」
「それと……これから休暇だというのに、この姿だと問題があるな」
ローフェの姿は国民全員に知られている。
己を象った像や肖像画、それどころか写真すらあるのだ。写真は魔法生だ。
故にこの姿のままだと街に行くたびに大騒ぎになる。
長命種も街には多いので百年やそこら引きこもった程度ではローフェの姿は知られているだろう。
故に、ローフェは封印の力を己に強く作用させた。
体がぽん、と小さくなった。
身長は百二十センチ程度。顔つきも幼くなり、腹はイカ腹だ。
装備品はそのまま。
左目には変わらず封の文字が書いてある眼帯を付けている。
「これでいいだろう」
これでローフェは更に力が四割程封印され、並みの百レベル程度にまで力が落ちた。
と言っても神の権能は変わらずあるが、それでも隕石を落として街を壊滅させる、なんてことは出来ない。城を砕くぐらいはできるだろうが。
「可愛らしいお姿ですね」
騎士団長はローフェを見てそう微笑んだ。
「まぁな、私は可愛らしいだろう?」
ローフェもまたそう微笑んだ。
「……一人称が……」
騎士団長は驚いたように言った。
「この姿で余とか言っても痛い幼女なだけだ。これからは私で行く」
ふふん、とローフェは胸を張った。
幼女化したことで固定されていた口調が自由になったのだ。
「そうですか……では、お元気で。これからの貴女様の人生に、幸多からんことを」