災害の女神になったので異世界巡ります。神話の時代から 作:Revak
月末。
ローフェは船の上に居た。
そして、船のデッキの端でローフェは海を見つめ──
「オロロロロロロロロ」
盛大にゲロを吐いていた。
ローフェは船酔い……いや乗り物酔いしやすい神だった。
何せ基本は自力での飛行や転移が移動の基本。となると自分の意思で動かせない乗り物に乗っていると操作できないせいか感覚が狂い酔ってしまうのである。
「大丈夫か?」
そこにカズトが声をかける。
「だいじょうぶにみえるか?」
ローフェはゲロが着いた口でそう言った。
「酔い止めはないのか?」
この時代にも酔い止めはある。
ある薬草から作れる粉薬があるのだ。
「のんでこれ」
「……そ、そうか……大変だな」
あまりの悲惨さにカズトも苦笑するしかなかった。
今乗っている船はガレオン船だ。五十メートルほどの船である。
五百人が乗っており、そのうちの百人は水夫……乗組員である。
残りは各国から来た農民やローフェたちワーカーなどである。
農民はこの世界では必須だ。
この世界ではあらゆるクラスが存在し、農民……ファーマーというクラスもある。
極まった農民は作物を疫病から守り収穫にかかる時間を短縮し収穫量を上昇させることが出来る。
勿論農民以外にもあらゆるクラスはある。
例えば画家。強化された絵は家を守るだけでなく見入った者に何かしらの状態異常を付与することも出来る。
例えばピアニスト。その音楽を聞いた者に状態異常やバフを与えることが出来る。
更に大工は家を作る速度が上がり、家の強度が上がり災害に強い家を早く作れるようになる。
そう言った職業に応じた異能が多数ある。そのためただの農民にもレベルがあり、高レベルの農民は国が求めるレベルだ。
と言っても高レベルの農民だから強い、なんてことはない。レベル差補正こそ働くだろうがステータスが低いので戦闘には使えない。まぁ農民レベル百とかなら強いかもしれないが。
だから農民を守る為の戦士が居る。それに正しい農法をするための学者も必要だ。
「モンスターが出たぞー!」
ローフェがゲロを止め、魔法を唱える。
「
唱えたのは飛行魔法だ。これにより時速二百キロで飛ぶ事が出来る。
今のローフェでもマッハぐらいは出せるのでこの魔法で飛ぶより神の権能で飛んだ方が速いが、神の力は使うと当然神とバレるので使えない。
船の船首の方にモンスターが居た。
全長二十メートルほどの巨大なモンスター。
白い体に無数の触手を持つその名はクラーケン。巨大なイカ型魔獣である。
獣でないのに魔獣なのか、という疑問はあるが基本知能の無いモンスターは魔獣呼びされる。実際の判定は知らないが。
クラーケンは船に触手を絡め、砕こうとしてくる。
魔獣がこういった行動をとるのは珍しくない。人に対する悪意でもあるのか、その日の気分などで攻撃してくる。
ローフェは船の上からクラーケンに向かって魔法を唱える。
「
火球が三つ飛び、クラーケンに命中した。
爆発にクラーケンが巻き込まれる。
「ギィィィィィ!」
クラーケンに痛覚があるのかは知らないが、痛みに悶えたように叫んだ。
「遠距離持ちはそのまま攻撃を! 近距離の奴らは船にある触手を攻撃してくれ!」
船長のロイズが叫んだ。
(レベルは二十程度……勝てるな)
ローフェが居なくとも勝てる相手だ。
ワーカーたちの平均レベルは十六。更に十六人も居る。
数とは力だ。多少のレベル差の不利は数でどうにかなる。最も十や二十あるとどうにもならないが。
クラーケンが攻撃されていく。
魔法に矢、中には飛ぶ斬撃なんてもので攻撃されていた。
ローフェも負けじと魔法を唱える。
「
唱えたのは空気を爆発させる魔法だ。
それによりクラーケンが揺らいだ。
「チャンスだ! 一気に攻めろ!」
ロイズがやってやれとばかりに叫んだ。
ローフェは気合を入れて人前で使っていい最大の魔法を
「
唱えたのは第五環魔法だ。
今の世界、人類が個人で到達できる最大の魔法は第六環魔法だ。
と言っても儀式魔法などで第七、馬鹿みたいに高い触媒を使えば第八環魔法まで使えるが、ともかく個人で出来るのは第六環魔法が限界とされている。
そのため第六環魔法なんてものを唱えた日には各国からラブコールが届きまくる事だろう。
なのでローフェは人前では第五環魔法までしか使わないことにしている。実際は第十環魔法まで使えるが。
風の刃がクラーケンを襲う。
胸──クラーケンに胸と言っていいのかわからないが──に命中し大きな傷を受け、体勢が崩れた。
そこに魔法と矢と斬撃の雨を浴びてしまい、クラーケンは絶命。海中へと沈んでいった。
死体は他の海系魔獣が食べるだろうから問題はない。
因みにクラーケンは触手はうまいが胴体はアンモニア臭がひどくて食えた物ではない。
「ワーカーたち! よくやってくれた! 酒を奢るぞ!」
その言葉にワーカーたちはひゃっほいと叫んだ。
酒はいつの時代でも人にとって最大の娯楽であった。
■
ガレオン船に乗って進むこと約半月。
遂にラモトラが見えて来た。
「あれが新大陸……」
ローフェは千歳を超える老人だというのにワクワクしていた。子供のように。
これまでニヒツは仕事でこれでもかというほど廻った。だが新大陸に行った事はない。
どんな場所なのだろうか。作物は何があるのだろうか。モンスターは? 異形種は?
そう考えるとドキドキが止まらない。
昼過ぎに船は港に着いた。
結構しっかりした作りの港だ。ガレオン船が来ても問題なく着ける港だ。
船から続々と人が降りて行き、その中にローフェも交じる。
ローフェは駆け足で進み、人込みから外れた。
「オエエエエエエ」
そして吐いた。陸酔いであった。
幼女が吐いている……という事で心配そうな目線を向けられる。
「おい、大丈夫か?」
そう声をかけたのは試験の時の女傑だ。
名をマリア。金髪碧眼の腹筋が割れている露出の多い服を着ている女だ。
「だいじょうぶです」
ローフェはゲロを魔法で消去しながら言った。
使ったのは第一環魔法の
因みに拡大解釈して血も汚れと認識し相手の血を消し去って殺すという事も出来るがそれをすると馬鹿みたいに魔力を消費し、下手したら命に係わる量を消費するのでお勧めはしない。
「そうか……ならこっちにこい」
「はい」
ローフェはマリアに着いて行く。
そこにはワーカーたちが集まっていた。
「よし、全員いるな。今から寮に案内する。男女で別れているが基本四人部屋だ。暫くはそこで暮らしてもらう。と言っても一年は暮らせるから問題ない。ただ金銭に余裕が出来た者は宿や家を買って住んでもらうよう勧めるから気を付けるように」
最初の内はサポートするが徐々にサポートは薄くなっていく。
何もかも手助けすればそれは開拓につながらないのだ。
「ではついてくるように」
そう言われ全員着いて行く。
街中を歩く。
街はまだ開発中と言った雰囲気だ。あちこちに建築中の家が見える。
人はローフェの予想より多かった。
一度に大人数輸送するならば船が最強だが、この世界には転移魔法がある。
専用の
転移魔法は転移する距離が増えるにつれ消費魔力が増えていく。だがそう言ったコストも
暫く歩くと寮に着く。
寮は三階建ての建物だった。それが四棟ある。
寮母らしき老婆が出てくる。
「それじゃあ、それぞれの部屋の鍵を渡します」
そう寮母は言い、一人一人に鍵を渡していく。
ローフェも鍵を貰った。鍵は3-101。一階の部屋だ。
「それじゃあ、これからは各自ワーカーとして好きに動いてくれ。仕事は組合に行って貰ってくれ。私は基本組合に居るので重大な問題が発生した場合は呼んでくれ。では解散!」
そうしてワーカーたちは与えられた己の部屋に向かった。
ローフェも部屋に向かう。
すぐに部屋に着いた。鍵を差して回し開く。
「おぉ……」
与えられた家はそこそこの広さを持っていた。
寝室は四つ。リビングとキッチンが繋がっている。庭は無い。
そこに一人の女が入ってくる。
「お、同室の人だ。私はエルフィ。よろしく!」
そう笑顔で言うのは茶髪に黒目の若い少女ともいえる年齢の者だった。
「ん、私はロー。よろしく、エルフィ」
「よろしくね! その歳でワーカーなの? 大変じゃない?」
「私はこう見えても成人してるよ。ハーフフットだからね」
ハーフフットとは人間種の一つだ。
ドワーフのように小さい背丈しか持たない種族でシーフ向けの種族だ。
成人しても容姿が子供のまま変わらないという種族特性を持ち、死ぬ瞬間まで外見は老いない。
と言っても不老という訳ではなく、肉体は歳によって劣化していくし、寿命も百年程度だ。
当然ローフェは神なのでこれは嘘である。
「あ、そうなんだ。てことは年上?」
「私は二十三だよ」
ローフェは三年前からワーカーとして活動していたので二十三歳という事にしている。
「と、年上だ……」
エルフィの歳は見た目通り十五歳であった。
「私は気にしないから、気楽にいこ」
「そう? ならいいけど……よろしく」
そう二人は微笑んだ。