狂犬に転生した男のゼロレクイエム 作:コードギアスの小説もっと増えろ
番外編には過去やIFを出そうと思っています。
世界を震え上がらせた「悪逆皇帝」ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアは、民衆の目の前で正義の騎士「ゼロ」の剣に倒れた。
彼が集め、その身一つに背負い込んだ世界のあらゆる憎しみは、皇帝の流した赤血とともに大地へと吸い上げられていく。歓喜に沸き立つ群衆の声援が空を突き抜け、長きにわたる暴政と混乱の時代は、唐突で圧倒的な幕引きを迎えた。世界は今、確固たる平和への道を歩み始めようとしていた。
だが、世界が光に向かって歩み始めたその陰で、誰も知らない真実が静かに息づいていた。
――喧騒から遥か離れた、隠れ家の一室。
静まり返った部屋のベッドの上で、ひとりの男が重い瞼を開けた。ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアである。
視界に飛び込んできたのは、見覚えのない天井と、壁のモニターから流れるニュースの音声だった。画面の中では、自分が着ていたはずの皇帝の衣装を纏い、血に染まって横たわる自分の姿――いや、マリオ・ディゼルの最期が幾度も報じられていた。
「なぜだ……なぜなんだ、マリオ……っ!」
ルルーシュは跳ね起きると、激しい目眩に苛まれながらも胸の苦しみに喘ぎ、激しく拳を壁に叩きつけた。
本来、あの場所で憎悪を一身に受け止め、世界の打倒されるべき悪として散るはずだったのは自分だ。ゼロレクイエムという過酷な贖罪の計画を完遂し、死をもって世界に明日を繋ぐはずだったのは、自分自身だったはずなのだ。
それなのに、マリオはルルーシュの顔を騙り、すべての罪と憎しみ、そして「死」そのものを奪い去っていった。
「俺が……俺が死ぬべきだったんだ! なぜあいつが俺の代わりに……!」
自責と悔恨に打ち震えるルルーシュの背後から、静かな足音が近づく。壁に寄りかかっていたC.C.が、淡々とした、しかしどこか悼むような声音で告げた。
「あいつはお前を選んだのだ、ルルーシュ。『君にはまだナナリーがいる』と……自分には守るべきものも帰る場所もないが、お前には生きる理由があると言ってな」
「だからと言って……! 俺の犯した罪まで奪って死ぬ必要がどこにあるというんだ!」
血を吐くようなルルーシュの叫びが部屋に虚しく響く。その時、固く閉ざされていたドアが静かに開いた。
入室してきたのは、車椅子に乗ったナナリーの姿だった。
「お兄様……」
「ナナリー……」
ルルーシュは息を呑み、動くことができなかった。妹にとって優しい世界になるように今の世界を壊し、再構築しようとした。その結果、自分以外の誰かの命が身代わりとして散った。その罪悪感に苛まれ、妹の顔を直視することすら恐ろしかった。
ナナリーは静かに車椅子を走らせ、ルルーシュの側へと歩み寄る。彼女の膝の上には、少し歪な形をした、小さな紫色の折り鶴が愛おしそうに置かれていた。
C.C.は二人の邪魔にならぬよう、足音を殺してそっと部屋を後にした。残された二人だけの空間で、ナナリーは膝の上の折り鶴を細く温かな指先で優しく撫でながら、静かに語り始める。
「お兄様……覚えていますか? かつてアッシュフォード学園で……マリオさんが私と一緒に、折り紙を折ってくださったときのこと」
ルルーシュの胸が締め付けられる。黒の騎士団を結成するより前、生徒会でナナリーを避けていたマリオに、自分が「任務」として命じたあの日の出来事だ。
「ああ、覚えているさ……」
「マリオさんはあの日、ご自分の手を『汚れている』と言っていました。……でも、私に折り紙を教えてくれたその手は、誰の手よりも優しくて、温かかったのです」
ナナリーの瞳から、一筋の透明な涙が頬を伝って零れ落ちた。
「だから……パレードのとき、私の横に崩れ落ちてこられた方の手に触れた瞬間、すぐに分かりました。そこにいたのが、お兄様ではなく、マリオさんなのだと」
ルルーシュは目を見開いた。
「ナナリー……お前、気づいていたのか……?」
「はい。そして……人質の解放に沸き立つ大歓声の中、誰にも聞こえないような小さな声で、マリオさんは私に囁いてくださったのです。『ルルーシュは生きている。二人で幸せになってくれ』……と」
ナナリーは涙を溢れさせながらも、強く、凛とした微笑みをルルーシュに向けた。
「マリオさんは、ご自身の命と引き換えに、お兄様と私の『明日』を守ってくれました。だから……お兄様。どうかご自身を責めないでください」
ルルーシュは力なく膝をつき、ナナリーの膝の上にある折り鶴にそっと触れた。指先から伝わる紙の感触に、あの不器用で、誰よりも優しかった男の面影が重なる。
「生きるよ、ナナリー……。マリオがその命を賭して俺たちにくれたこの明日を、お前と共に生き抜いてみせる……!」
ルルーシュは妹を力強く抱きしめ、溢れ出る涙を止めることができなかった。
世界からは「討たれた悪逆皇帝」として完全に死んだ扱いとなったルルーシュは、二度と表舞台に立つことはできない。他者との接触を極限まで断ち、彼はナナリー専属のお世話役として生きていくことを決意した。
何の因果か、名前は「L.L.」。
変装は、瞳の色を変えるカラーコンタクトと、目元の鋭さを隠す伊達メガネのみ。公の場や外部の者が近づく際には深く帽子をかぶり、ただの静かな従者として影に潜む。そして、ナナリーと二人きりになれるプライベートな空間でだけ、彼はメガネとコンタクトを外し、偽りのない「お兄様」へと戻るのだ。
マリオが遺してくれた温かな明日の中で、ルルーシュは静かに、しかし力強く贖罪と守護の道を歩み始めた。
同じ刻。政庁の一室に広がる静寂の中で、枢木スザクはテーブルの上に置かれた「ゼロの仮面」を凝視していた。
誰もいない室内。スザクはゆっくりと手を伸ばし、その重厚な仮面を持ち上げる。
指先に伝わるのは、冷たい特殊合金の感触。しかし、彼の脳裏に焼きついて離れないのは、あの日、パレードの最中に剣で貫いた胸の確かな手応えと、スザクの背中に回された血濡れた手の温もりだった。
『ルルーシュを……頼むぞ、ゼロ……。君と……そしてこの世界に、温かな明日を……』
耳元で囁かれたマリオの最期の言葉が、今も胸の奥で激しく響き続けている。
世界を救った英雄「ゼロ」として生き続けることは、スザクにとって永遠の罰であり、同時に死に花を奪われた己に課せられた義務でもあった。スザクは仮面を強く握りしめ、その暗い内側を見つめながら、静かに瞳に強い光を宿した。
友の命を奪ってまで世界を救おうとした男たちの意思を背負い、自分はこの平和を守り抜く。涙を拭い、スザクは再びゼロとしての顔を被り直した。
隠れ家の外、夜空を見上げるC.C.の姿があった。風が彼女の美しい碧髪を揺らす。
彼女はマリオと交わした最期の約束を思い出していた。ルルーシュが生きて掴み取る明日を、その傍らで見届けること。
「やれやれ……お前は最後まで、勝手な買い物をさせてくれたものだ、マリオ」
C.C.は小さく微笑むと、月を見上げたまま静かに呟いた。
「だが……悪くない。お前の創ったこの世界を、私はもう少し見届けるとしよう」
共犯者として、そして見届け人として。C.C.はルルーシュたちの待つ部屋へと足を進めた。
「これが、悪逆皇帝の細胞……ククク……」
まさか、中身が入れ替わってて別人の細胞なんて思わんよな
ちなみにマリオがルルーシュの代わりに死んだことを知っているのは、ルルーシュ、ナナリー、スザク、C.C.、佐世子、ジェレミアだけです。