狂犬に転生した男のゼロレクイエム 作:コードギアスの小説もっと増えろ
追憶 ナナリーを避ける理由
これは、マリオ・ディゼルがルルーシュ・ランペルージとブリタニアを壊す契約を結んだばかりの頃。
アッシュフォード学園の生徒会へ半ば強制的に加入させられたマリオは、ルルーシュの妹であるナナリー・ランペルージと初めての会話を交わした。だが、その日を境にマリオは露骨なまでにナナリーを避けるようになった。
廊下ですれ違いそうになれば露骨に道を逸らし、生徒会室に彼女がいれば適当な理由をつけて立ち去る。決して不格好な態度を取るわけではないが、明確に引かれている距離感に、ナナリーの心は傷ついていた。
小さく肩を落としたナナリーは、自室で兄であるルルーシュに不安そうに打ち明けた。
「お兄様……マリオさんは、私のことがお嫌いなのでしょうか……?」
愛する妹の哀しみが滲む瞳と声に、ルルーシュの心の中に激しい憤りと、マリオに対する強い疑念が渦巻いた。
放課後、誰もいなく静まり返る生徒会室。ルルーシュはマリオを呼び出し、逃げ場を塞ぐようにドアの前に立ちはだかった。その紫の瞳には鋭い険しさが宿っている。
「マリオ。なぜそこまでナナリーを避ける? ナナリーを悲しませるような真似をするなら、いくら協力関係にあるとはいえ容赦はしないぞ」
氷のように冷たいルルーシュの詰問に対し、マリオは視線を落とし、自らの拳を強く握りしめた。やがて絞り出すように重い声を漏らす。
「……俺は復讐のことしか頭にない男だ。家族を奪われ、憎しみだけで生きている……そんな復讐に囚われた異常者が、あんなに優しいナナリーのそばにいていいはずがないんだ」
ナナリー本人に自らの血塗られた復讐のことなど話していない。ただ、己の胸に渦巻く黒い怒りと汚れた手を恥じ、無垢な彼女に近づく資格すら自分にはないと決めつけていたのだ。
マリオの痛々しいほどの自責と葛藤を聞いたルルーシュは、怒りを収め、深く呆れたように吐息を漏らした。
「……他者を、ナナリーのことをそこまで思いやれている時点で、お前は異常者などではない。……お前は優しいやつだ、マリオ」
「ルルーシュ……?」
思いもよらない返答に思わず顔を上げたマリオに対し、ルルーシュはどこか柔らかい、兄としての眼差しを向けていた。
「協力者として、そしてナナリーの兄として頼みたいことがある。これまで避けていたことをナナリーにきちんと謝れ。そして――ナナリーに折り紙を教えてやってくれ」
「折り紙を……?」
「ナナリーが興味を持っているんだ。俺が教えてもいいが、他の人と触れ合うのもナナリーの経験にもなる。引き受けてくれるな?」
「……わかった。俺でいいなら、やってみるよ」
マリオが意を決して頷くと、ルルーシュは不意に表情を凶悪なシスコンのそれへと一変させ、マリオの鼻先に指を突きつけた。
「言っておくが、くれぐれもナナリーに変な真似はするなよ? 余計な毒を吹き込んだり、泣かせたりしたら……ただじゃ済まさないからな」
「……善処する」
後日、マリオは意を決してナナリーの元を訪れた。車椅子の前で視線を合わせるように膝をつき、真摯に言葉を紡ぐ。
「ナナリー……今まで避けるような真似をして悪かった。全部こっちの勝手な都合で避けてただけで、君のことを嫌っていたわけじゃないんだ。本当にごめん」
「マリオさん……! そうだったのですね。私、嫌われてしまったのかと思って……本当に、よかったです」
ナナリーの表情が一瞬でパッと華やぎ、心からの安堵の笑みがこぼれた。マリオは彼女の隣に腰掛け、ルルーシュから言い渡された「頼み」の通り、テーブルの上に折り紙を広げた。
自分の手は復讐で汚れていると思い込んでいたマリオだったが、ナナリーの手を優しく包むようにして折る指先は、どこまでも丁寧で温かかった。二人で笑い合いながら折り上げた紫色の折り鶴は、ナナリーにとってかけがえのない大切な宝物となった。
……ちなみに、この一件をきっかけにマリオとナナリーが急速に仲良くなりすぎてしまい、危機感を募らせたルルーシュと一悶着あったのは、また別の話である。