エンジニアのSAO Progressive ~NPCが売ってないなら作ればいい~   作:Edward

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102 スキルの詮索葉マナー違反です

始祖のエルフの姿が、光の粒子となって消えていく。

 

長い、長い時を越えて果たされた願い。

 

切り離されていた世界樹との繋がりは取り戻され、アインクラッド全土へと再びマナが流れ始めた。

 

けれど――。

 

それですべてが終わったわけではなかった。

 

むしろ、儀式の間に満ちていた神秘的な静寂が消えた途端、現実が一気に戻ってきたかのようだった。

 

森エルフ。

闇エルフ。

ドワーフ。

そしてプレイヤーたち。

 

誰もが興奮冷めやらぬまま言葉を交わし、広大な儀式の間には再び喧騒が満ちていた。

 

その中で、闇エルフの女王が静かに振り返る。

 

その視線の先にいたのは――宰相だった。

 

「……さて」

 

女王の声に、周囲の闇エルフたちが静まる。

 

「魔法は戻りました。そして、あなたが求めていたものも……結果としては、すべての者へ等しく与えられました」

 

「…………」

 

宰相は何も答えない。

 

「ですが、それとあなたが行ったことは別の話です」

 

女王の声音に怒気はなかった。

 

だからこそ、逃げ道もなかった。

 

「あなたには、あなた自身が犯した罪があります」

 

そして女王は、まっすぐ宰相を見つめた。

 

「その清算をしてもらいます」

 

宰相はしばらく沈黙したあと、ゆっくりと頭を垂れた。

 

その少し離れた場所では――。

 

森エルフの長老が、一人の男の前に立っていた。

 

サーベント。

 

長老はすでに、彼が何を企てていたのかを聞いている。

 

魔法の独占。

 

森エルフだけが世界樹との繋がりを取り戻し、その力を手中に収めようとしたことも。

 

長老は何も言わず、サーベントの肩へ手を置いた。

 

「……覚悟はできておるな」

 

サーベントは目を閉じた。

 

そして、小さく息を吐く。

 

「ここに来る前から……」

 

その言葉を聞いた瞬間。

 

「長老!」

 

ランスロットが一歩前へ出た。

 

「どうか……処断だけは!」

 

サーベントが振り返る。

 

「ランスロット……」

 

だが長老は、そんな二人を見比べると――ふっと笑った。

 

「心配するな」

 

ぽん、とランスロットの肩を叩く。

 

「あとは儂に任せろ」

 

「……長老」

 

それ以上、ランスロットは何も言わなかった。

 

ただ深く頭を下げた。

 

魔法は戻った。

 

だが、それまでに生まれた争いも、罪も、憎しみも、魔法のように一瞬で消えてなくなるわけではない。

 

これから先、それぞれが向き合っていかなければならないのだろう。

 

そして――。

 

「おい、人間」

 

低い声に呼ばれて、こっこは振り返った。

 

そこには腕を組んだドワーフ王が立っていた。

 

「はい?」

 

「魔法は人には使えん」

 

「……ですよねえ」

 

ちょっとだけ期待していたこっこの肩が落ちる。

 

ドワーフ王は鼻を鳴らした。

 

「じゃがな」

 

太い指が、こっこの胸を軽く突いた。

 

「エルフどもも、儂らドワーフも、お前さんの力になる」

 

こっこが目を瞬く。

 

「自分で魔法を使えんからといって、何も得られんわけではない」

 

ドワーフ王は笑った。

 

「これだけの連中との縁を繋いだんじゃ。いい財産と思え」

 

こっこは――しばらく黙っていた。

 

森エルフを見る。

 

ランスロットがいる。

 

長老がいる。

 

闇エルフを見る。

 

ギズメルがいる。

 

女王がいる。

 

そして目の前には、秘鍵を修復し、世界樹との再接続を可能にしてくれたドワーフたちがいる。

 

三つの種族。

 

長い年月、決して一つになることのなかった者たち。

 

それが今、同じ場所に立っていた。

 

こっこは笑った。

 

「……じゃあ」

 

右手を差し出す。

 

「改めて、お願いします」

 

「おう」

 

ドワーフ王の巨大な手が、その手を握る。

 

ぎゅっ、と。

 

「痛たたたた! 王様、力! 力強いって!」

 

「がっはっはっは!」

 

周囲から笑いが起こった。

 

そして次に、森エルフ。

 

長老がその手を握る。

 

ランスロットも続いた。

 

さらに闇エルフの女王。

 

ギズメル。

 

種族も立場も違う者たちと、一人ずつ握手を交わしていく。

 

これからどうなるのかは、まだ誰にも分からない。

 

それでも――。

 

少なくとも今日。

 

ここから、新しい関係が始まる。

 

こっこは、そう思った。

 

――その時だった。

 

――SYSTEM MESSAGE――

 

「……ん?」

 

こっこの視界中央に、半透明のウインドウが出現した。

 

最初は、先ほどの儀式に関係する追加メッセージだと思った。

 

だが。

 

そこに書かれていた文字を読んだ瞬間――。

 

こっこの表情が止まった。

 

《特殊条件の達成を確認しました》

 

《規定条件をすべて満たしました》

 

《ユニークスキルが解放されます》

 

《Unique Skill:Magic Enchant/魔法付与》

 

《プレイヤー:こっこ に付与します》

 

「…………」

 

こっこは固まった。

 

瞬きをする。

 

もう一度読む。

 

「…………」

 

もう一回読む。

 

やっぱり書いてある。

 

――ユニークスキル。

 

「……なにこれ?」

 

聞いたことがない。

 

少なくとも、こっこは知らない。

 

スキル一覧にも載っていなかった。

 

攻略情報にもない。

 

アルゴの情報網からだって、こんな話を聞いた覚えはない。

 

そもそも――。

 

ユニークスキルなんてものが存在すること自体、知らなかった。

 

恐る恐るウインドウへ指を伸ばす。

 

《Magic Enchant》。

 

詳細説明を開こうとして――。

 

止まった。

 

ちらり。

 

周囲を見る。

 

リズはドワーフの職人たちと何やら話している。

 

シリカはピナを抱き上げ、エルフたちと楽しそうに笑っている。

 

ランスロットは長老と話している。

 

ギズメルもこちらを見ていない。

 

誰も。

 

このウインドウに気づいていない。

 

「…………」

 

こっこは、そっとウインドウを閉じた。

 

そして何事もなかったかのように笑顔へ戻る。

 

(……うん)

 

もう一度、周囲を確認。

 

(しばらく黙っとこう)

 

こうして。

 

世界樹との繋がりが取り戻され、アインクラッドに魔法が復活したその日。

 

誰にも知られることなく――。

 

一人のエンジニアの手に、

 

《魔法付与》

 

という、新たな力が託されたのだった。

 

 

 

儀式の間を満たしていた喧騒も、少しずつ遠ざかっていった。

 

世界樹との接続は果たされた。

 

長い年月を経て、アインクラッド全土へ再びマナが流れ始めたのだ。

 

森エルフも、闇エルフも、そしてドワーフたちも、それぞれに思うところを抱えながら儀式の間を後にしていく。

 

その流れの中――。

 

「王様、ちょっと待って!」

 

「ん?」

 

帰ろうとしていたドワーフ王を、こっこが慌てて呼び止めた。

 

「どうした。まだ何かあるのか?」

 

「いや……さっき王様、人間には魔法は使えないって言ったよね?」

 

「ああ。言ったぞ」

 

ドワーフ王は当然のように頷く。

 

「世界樹からマナが戻ろうと、その理は変わらん。エルフはともかく、人の身では直接マナを操れん。それがどうした?」

 

「……これ」

 

こっこは自分のメニューを操作した。

 

そして、先ほど突然出現した新たなスキルを表示する。

 

《魔法付与――Magic Enchant》

 

「…………」

 

ドワーフ王の目が止まった。

 

「……おい」

 

「はい」

 

「なんじゃ、これは」

 

「僕が聞きたいんだけど」

 

「…………」

 

ドワーフ王は無言で表示を睨みつけた。

 

先ほどまで世界樹の秘鍵という古代の秘宝を前にしてさえ泰然としていた王が、明らかに驚いている。

 

「ちょっと待て。お前さん、これをどこで覚えた?」

 

「さっき」

 

「さっき?」

 

「儀式が終わった瞬間に、条件を達成しましたって」

 

「…………」

 

ドワーフ王は額に手を当てた。

 

「人には魔法は使えんと言ったばかりなんじゃがな……」

 

「だから聞きに来たんだよ!」

 

もっともな話だった。

 

こっこは表示された説明文を読みながら、自分で確認できた範囲の内容を伝えていく。

 

ドワーフ王はしばらく黙って聞いていたが、やがて何かに納得したように髭を撫でた。

 

「なるほどな」

 

「分かるの?」

 

「ああ。これは魔法そのものではない」

 

ドワーフ王はスキル表示を指差した。

 

「お前さん自身がマナを生み、魔法を放つわけではない。すでに魔力を宿している素材や金属から力を引き出し、それを別の物へ移す――いわば魔法を扱うための職人技じゃ」

 

「職人技……」

 

その言葉に、こっこは妙に納得した。

 

剣から炎を放つわけでもない。

 

空を飛ぶわけでもない。

 

魔法陣を展開して敵を焼き払うわけでもない。

 

素材を集め、加工し、道具へ力を与える。

 

それなら確かに――。

 

自分らしい。

 

「大きく分ければ、使い方は二つじゃ」

 

ドワーフ王は指を一本立てた。

 

「まず《一時付与》」

 

魔力を宿した素材――いわゆる《魔法素材》を消耗することで、その素材が持つ性質を一時的に対象へ付与する。

 

炎の性質を持つ素材なら火属性。

 

冷気を宿す素材なら氷属性。

 

あるいは筋力、敏捷、耐久といった身体能力を一時的に引き上げるものも存在するという。

 

「ただし、素材は使えば失われる」

 

「消耗品なんだ」

 

「そうじゃ。それに、お前さんの《魔法付与》の熟練度が低いうちは大したことはできん。扱える素材も少ないし、効果も弱い。持続時間も短いじゃろう」

 

だが、スキルを鍛えれば――。

 

扱える素材が増える。

 

付与できる効果が増える。

 

効果そのものも強くなり、持続時間も伸びていく。

 

「なるほど……」

 

こっこの目が輝き始めた。

 

その顔を見たドワーフ王は、わずかに嫌な予感を覚えたようだった。

 

「……お前さん、変なこと考えとらんか?」

 

「まだ何も」

 

「“まだ”と言ったな?」

 

こっこは聞こえなかったことにした。

 

ドワーフ王はため息をつき、今度は二本目の指を立てる。

 

「そして、もう一つが《永続付与》じゃ」

 

こっこの表情が変わった。

 

「永続?」

 

「ああ。一時的に力を借りるのではない。武器、防具、あるいは特定の道具そのものへ、魔法の性質を定着させる」

 

「……それ、ものすごくない?」

 

「ものすごいから簡単にはできん」

 

即答だった。

 

永続付与には、通常の素材では足りない。

 

必要となるのは――魔法金属《ミスリル》。

 

そして、魔力そのものを封入した特殊な《魔法インゴット》。

 

その二つを触媒として用いることで、初めて魔法の性質を武具や道具へ永続的に定着させることができる。

 

だが。

 

「ミスリルも魔法インゴットも、そこらに転がっとる物ではないぞ」

 

「やっぱり?」

 

「当たり前じゃ。どちらも希少品じゃ。特に魔法が失われていた今までなら、まともな魔法インゴットなど古代の遺物に近い」

 

つまり――。

 

スキルを手に入れたからといって、すぐに強力な魔法武器を量産できるわけではない。

 

素材。

 

技術。

 

熟練度。

 

そして、設備。

 

そのすべてが必要になる。

 

ドワーフ王は、改めてこっこを見た。

 

先ほどまでの親しみやすい表情から、ほんの少しだけ王としての顔になる。

 

「こっこ」

 

「はい」

 

「これは、お前さんだけが持つスキルなんじゃろう?」

 

こっこは頷いた。

 

少なくとも、表示にはそう記されていた。

 

ドワーフ王は腕を組み、低い声で続ける。

 

「ならば覚えておけ」

 

その視線は真剣だった。

 

「力そのものより、“お前さんだけが使える”という事実の方が厄介じゃ」

 

「……」

 

「欲しがる者もおる。利用しようとする者もおる。独占しようとする者も出てくるかもしれん」

 

世界樹の秘鍵を巡って、森エルフと闇エルフが何をしてきたか。

 

こっこは嫌というほど見てきた。

 

だからこそ、その言葉の意味はよく分かった。

 

ドワーフ王は、こっこの肩をぽん、と叩いた。

 

「お前さんだけのスキルだ。人に口外する時は気をつけてな」

 

「……うん」

 

こっこはもう一度、自分のメニューに表示された文字を見る。

 

《魔法付与――Magic Enchant》

 

魔法を使えないはずの人間に与えられた、魔法を扱うための技術。

 

それは剣士のための力でも、魔術師のための力でもなかった。

 

素材を探し。

 

性質を調べ。

 

加工し。

 

組み合わせ。

 

そして、新しい道具を生み出す。

 

――職人のための魔法だった。

 

こっこはゆっくりと笑った。

 

「……これ、面白そうだな」

 

その呟きを聞いたドワーフ王は、一瞬だけ眉をひそめる。

 

なぜだろう。

 

世界樹の秘鍵を修復した時よりも――。

 

ずっと嫌な予感がした。

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