エンジニアのSAO Progressive ~NPCが売ってないなら作ればいい~   作:Edward

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104 目標は明確に

帰りの馬車は、実に穏やかだった。

 

世界樹との再接続は成功した。

 

長きにわたって失われていた魔法は、アインクラッドへと戻った。

 

森エルフと闇エルフ、そしてドワーフ。

 

長い年月を隔てていた三者の関係にも、新しい一歩が刻まれた。

 

そして何より――。

 

キリトとディアベルを蝕んでいた眷属化の呪いも、長老の魔法によって無事に解除された。

 

「いやあ……終わったねえ」

 

馬車の荷台で、こっこは満足そうに大きく伸びをした。

 

「長かったですねぇ……」

 

シリカもピナを抱きながら、ほっと息を吐く。

 

「きゅるるぅ」

 

「本当にね。これでようやく普通の攻略に戻れるわ」

 

リズのその言葉に、アスナも頷いた。

 

「ええ。色々ありすぎたもの。しばらくは普通に迷宮区を攻略したいわ」

 

「俺も賛成……」

 

ようやく棺桶生活から解放されたキリトが、疲れ切った顔で答える。

 

ディアベルも苦笑した。

 

「ははは……僕もしばらく棺桶は見たくないかな」

 

「いやいや、なかなか快適に作ったつもりなんだけど」

 

「「そういう問題じゃない!」」

 

そんなやり取りに、馬車の中で笑いが起こった。

 

第九層でやるべきことは、すべて終わった。

 

誰もが、そう思っていた。

 

――その時だった。

 

ピコン。

 

全員の視界に、システムメッセージが出現した。

 

《第九層フロアボスが討伐されました》

 

「…………え?」

 

馬車の中が静まり返る。

 

続けて表示される。

 

《ラストアタックボーナス獲得者――Agil》

 

「…………」

 

エギル。

 

ラストアタック。

 

第九層。

 

フロアボス。

 

そこまで読んで――。

 

こっこ、キリト、アスナ、ディアベル、リズ、シリカ。

 

全員が同時に顔を上げた。

 

「「「「「「え……?」」」」」」

 

ピナまで「きゅ?」と首を傾げる。

 

数秒の沈黙。

 

そして。

 

「攻略忘れてたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 」

 

馬車が揺れるほどの絶叫が響き渡った。

 

「そうだ! ここ第九層だった!」

 

こっこが頭を抱える。

 

「秘鍵! ドワーフ! 魔法復活! そっちばっかりやってたぁぁぁ!」

 

キリトも青ざめる。

 

「俺なんて途中から棺桶に入ってただけだぞ!?」

 

「私はその棺桶を運ばされてたのよ 」

 

「だから馬車を――」

 

「今その話じゃないでしょうが 」

 

アスナの怒声が飛ぶ。

 

ディアベルも愕然としていた。

 

「待ってくれ……僕、攻略組だよね?」

 

「ディアベルさんまで忘れてたんですか!?」

 

シリカが驚愕する。

 

「いや……その……眷属化してたから……」

 

「言い訳として強すぎるわね……」

 

リズも否定できなかった。

 

その時。

 

再びメッセージが届いた。

 

送信者――キバオウ。

 

《お前ら全然こんかったから、こっちで攻略しといたでー 》

 

「…………」

 

「……え、キバオウくんたちだけで?」

 

こっこが恐る恐る尋ねる。

 

さらに一通。

 

《迷宮区もボス部屋もワイらで見つけたわ 》

 

「迷宮区から!?」

 

キリトが思わず立ち上がる。

 

「いや、そこは普通に攻略組の仕事でしょう!?」

 

「お前が言うな!」

 

アスナとリズのツッコミが同時に飛んだ。

 

そして最後。

 

《エギルがLA取ったで。次の層、開いたからはよ来いや 》

 

馬車の中。

 

再び、沈黙。

 

こっこはそっと顔を伏せた。

 

「……キバオウくん」

 

「なによ」

 

「めちゃくちゃ真面目に攻略してる……」

 

「アンタたちがしてなかったのよ 」

 

リズのツッコミが炸裂した。

 

「しかもエギルさん、ラストアタックまで……」

 

シリカが感心すると、キリトが遠い目をする。

 

「俺たちが世界の命運をかけて走り回ってる間に、エギルはボスを殴ってたのか……」

 

「それが攻略だろう」

 

ディアベルがもっともらしく頷く。

 

「ディアベルさん、今さら正論を言っても遅いです!」

 

アスナが即座に切り返した。

 

その頃――第九層、ボス部屋。

 

巨大な戦斧を肩に担いだエギルが、消滅していくボスのポリゴン片を見上げていた。

 

その横でキバオウが怒鳴っている。

 

「ほんっま、なんやねんアイツら! エルフやらドワーフやら追っかけ回して、誰も迷宮区に来おらへんやないか 」

 

周囲の攻略組が、苦笑しながら頷いた。

 

「いや、キバオウさんがいなかったら、俺たちもボス部屋まで辿り着けませんでしたよ」

 

「せやろ!? もっと褒めてもええんやで!?」

 

「自分で言うんだ……」

 

誰かの小声に、別の攻略組が吹き出す。

 

エギルは苦笑する。

 

「まあ……こっちはこっちで攻略できたんだから、いいじゃないか」

 

「よくないわ  ワイらが本業忘れてへんかったから第九層突破できたんやぞ!」

 

「エギルさん、完全に功労者ですね」

 

「せや! ワイの指揮とエギルの一撃、これが第九層攻略の決定打や!」

 

「指揮って、ずっと『はよ来いや』って怒鳴ってただけじゃ……」

 

「誰や今の!?」

 

ボス部屋に笑いが起こった。

 

エギルは戦斧を下ろし、静かに肩をすくめる。

 

「いや、普通に殴っただけなんだが……」

 

「その普通の一撃でLA取ったんやろがい!」

 

キバオウのツッコミが、ボス部屋の壁にまで響き渡った。

 

第九層。

 

後にこの階層は、魔法がアインクラッドへ復活した歴史的な階層として語られることになる。

 

森エルフと闇エルフ。

 

ドワーフ。

 

そしてプレイヤー。

 

三者の歴史が大きく動いた階層。

 

――だが。

 

攻略組の一部にとっては、それ以上に忘れられない出来事があった。

 

世界を変える大イベントに夢中になりすぎて、誰もフロア攻略をしていなかったのである。

 

その穴を埋めたのは、最後まで本業を忘れなかったキバオウと、黙々とボスを殴り続けたエギルだった。

 

「つまり、今回のMVPはワイらやな!」

 

「キバオウさん、そこまで言うと反感買いますよ……」

 

「いや、でも実際そうだろう」

 

エギルが頷く。

 

「エギルまで認めるんかい!」

 

キバオウは一瞬だけ胸を張り――すぐに満面の笑みになった。

 

そして第九層ラストアタック獲得者。

 

《エギル》。

 

本人曰く――。

 

「いや、普通に攻略してただけなんだが……」

 

「それを誰もやってへんかったんや!」

 

キバオウの叫びが、次の層へ続く道にまで響き渡った。

 

 

第九層ボス攻略――岩石魔神《Stone Fiend》

 

――その頃。

 

こっこ達が第九層南端で、エルフとドワーフを巻き込んだ一大イベントに奔走していた頃。

 

第九層の攻略組は――。

 

いつもの主力を、かなり欠いていた。

 

こっこはいない。

 

キリトもいない。

 

そして、普段なら攻略組全体のバランサーとして指揮を執るディアベルもいない。

 

キリトとディアベルは現在、とある事情によって日の光を浴びることすらできず――こっこ達によって棺桶に詰められ、治療のために運ばれている真っ最中だった。

 

だが。

 

だからといって、第九層の攻略そのものを止める理由にはならない。

 

「しゃあない!」

 

迷宮区最奥。

 

巨大な扉の前で、キバオウが武器を担いだ。

 

「おらん奴らのこと気にしてても始まらへん! ワイらだけで行くで!」

 

エギルも巨大な斧を肩へ乗せる。

 

「ああ。こっちはこっちの仕事をしよう」

 

さらに今回は、シンカーが攻略支援として応援を送り込んでいた。

 

こっこ直属ともいえる――エンジニア部隊である。

 

「シンカーさんから話は聞いとる」

 

キバオウが彼らを見る。

 

「使えるもんは全部使うで!」

 

「了解!」

 

扉が開く。

 

その先で攻略組を待ち受けていたのは――。

 

《Stone Fiend》。

 

――岩石魔神。

 

高さ、およそ五メートル。

 

無数の岩石が寄り集まり、人型を形成した巨大なボスだった。

 

そして戦闘開始直後。

 

攻略組は、その異様な性質を思い知らされる。

 

《Stone Fiend》の右腕が――崩壊した。

 

否。

 

自ら分離したのだ。

 

十数個の岩塊となった右腕が、猛烈な速度で攻略組へ飛来する。

 

「散れぇぇ!!」

 

ドドドドドドッ!!

 

岩石が弾丸のように床へ突き刺さる。

 

「なんちゅう攻撃やねん!! 」

 

しかも飛び散った岩は、そのままではない。

 

ゴゴゴゴ……。

 

床へ落ちた岩石が再び浮かび上がり、本体へ吸い寄せられていく。

 

そして――再結合。

 

失われたはずの腕が元通りになる。

 

「外側の岩を殴っとるだけやと埒あかんぞ!」

 

エギルが敵の内部を見る。

 

《Stone Fiend》には、五段のHPバー。

 

そして巨体の内部には――。

 

五つの《核石》が存在していた。

 

それぞれ一つの核が、一段のHPバーを受け持っている。

 

外側の岩石を崩し――。

 

内部の核が露出した瞬間に叩く。

 

それを繰り返すしかない。

 

一つ。

 

二つ。

 

三つ。

 

攻略組は確実に核を破壊していった。

 

四つ目の核が砕ける。

 

残るHPバーは――最後の一本。

 

その瞬間。

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!

 

迷宮区全体が震えた。

 

フィールドへ散乱していた岩。

 

破壊された外殻。

 

すべてが最後の核へ吸い寄せられていく。

 

《Stone Fiend》が――さらに巨大化した。

 

「まだデカなるんかい!! 」

 

最後の核は、その巨体の中心。

 

しかも、地上から見上げる胸の奥深くに埋まっている。

 

通常の近接攻撃では到底届かない。

 

そこで――。

 

エンジニア部隊が動いた。

 

「移動式投石機、前へ!」

 

ガラガラガラガラ――。

 

車輪付きの投石機が押し出される。

 

こっこ達がこれまでの攻略で開発し、改良を重ねてきた攻略支援兵器だった。

 

「射角調整!」

 

「完了!」

 

「弾体装填!」

 

「完了!」

 

「撃て!」

 

ドン!!

 

投石機から放たれた岩石が、最後の核が埋まる胸部へ向かって放物線を描く。

 

ドガァァン!!

 

《Stone Fiend》の胸部へ直撃。

 

外殻が大きく吹き飛んだ。

 

キバオウ「…………」

 

エンジニア「次弾装填!」

 

エンジニア「完了!」

 

キバオウ「…………」

 

なんとスムーズなのだろう。

 

指示したら、その通りに動く。

 

途中で妙なアイデアを思いつかない。

 

船に衝角を付け始めたりしない。

 

石鹸を撒いたりしない。

 

突然ワイヤーで飛ぼうともしない。

 

キバオウの目頭が熱くなった。

 

「……お前ら」

 

「はい?」

 

「こっこ達より、よっぽど素直で役に立つやんけ…… 」

 

エンジニアたちは返答に困った。

 

「本人には絶対言うたるからな!! 」

 

再び投石。

 

ドン!!

 

ドガァン!!

 

岩対岩。

 

攻略組が《Stone Fiend》の岩弾を防ぎ、その隙に、後方の投石機が胸部へ岩石を撃ち込む。

 

投石機の岩石が外殻を砕き、攻略組が飛来する岩塊を食い止める。

 

その連携によって、最後の核を覆う岩壁が少しずつ削られていく。

 

そして――。

 

ついに最後の核が露出した。

 

「出たぞ!!」

 

投石機から見て、核は《Stone Fiend》の胸の中央。

 

だが、まだ遠い。

 

しかも高い。

 

そして岩石はすでに再結合を始めている。

 

次弾を装填して撃ち直しても、核が閉じるほうが早い。

 

「くそっ!」

 

その時。

 

エギルが投石機を見た。

 

「…………」

 

投石機を見る。

 

自分を見る。

 

もう一度、投石機を見る。

 

キバオウ「……おい」

 

エギル「なあ」

 

「やめろ」

 

「岩が届くなら――」

 

「やめろ言うとるやろ」

 

エギルがニヤリと笑った。

 

「俺も届くよな?」

 

キバオウ「お前までこっこみたいなこと言うなぁぁぁ!! 」

 

だが――。

 

エンジニア部隊は真剣に考え始めた。

 

投石機を核へ向ける。

 

核までの距離を測る。

 

射角を調整する。

 

そして、エギルの重量を計算する。

 

数秒後。

 

一人が答えた。

 

「…………いけます」

 

キバオウ「お前ら結局こっこ側やないかぁぁぁ!! 」

 

エギルはすでに投石機へ乗っていた。

 

狙う先は、正面上方。

 

《Stone Fiend》の胸部中央に露出した、最後の核。

 

巨大な斧を構える。

 

「飛ばせ!!」

 

「発射!!」

 

ドンッ!!!

 

投石機の腕が跳ね上がり、エギルを核へ向けて射出した。

 

エギルが――飛んだ。

 

「うおおおおおおお!!」

 

巨大な身体が、投石機から《Stone Fiend》の胸部へ向かって放物線を描く。

 

その下では、岩石が再び核の周囲へ集まり始めていた。

 

核が閉じる。

 

あと少し。

 

エギルが空中で斧を振りかぶった。

 

「届けぇぇぇぇ!!」

 

ズガァァァァァン!!

 

斧が――最後の核を直撃した。

 

HPバーがゼロになる。

 

《Stone Fiend》の動きが止まった。

 

そして――。

 

パァァァァン!!

 

巨大な岩石魔神が、無数のポリゴン片となって砕け散った。

 

第九層フロアボス《Stone Fiend》。

 

攻略完了。

 

ラストアタック――。

 

エギル。

 

決まり手――。

 

移動式投石機によるエギル本人の射出。

 

キバオウ「…………」

 

勝った。

 

確かに勝った。

 

こっこはいなかった。

 

キリトもいなかった。

 

ディアベルもいなかった。

 

それでも、自分たちだけで第九層を突破した。

 

キバオウは胸を張る。

 

そして――。

 

投石機を見る。

 

エギルを見る。

 

エンジニアたちを見る。

 

「…………」

 

何かがおかしい。

 

こっこはいなかったはずなのに。

 

なぜ最後だけ、こんな攻略になったのだろう。

 

「……まあええ」

 

考えるのをやめた。

 

少なくとも――。

 

第九層は突破したのだから。

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