エンジニアのSAO Progressive ~NPCが売ってないなら作ればいい~   作:Edward

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112 アフロってどういう人に似合うんだろう

「うおおおおおおおっ!! 」

 

最後の足場を蹴り、サタンが宙を舞った。

 

背後から迫る蛇型モンスターの攻撃が、ほんのわずかに足元をかすめる。

 

残り時間――数秒。

 

そのまま転がるようにして、サタンはゴール地点へ飛び込んだ。

 

直後。

 

――ピロリロリン♪

 

軽快なファンファーレが鳴り響いた。

 

『紅玉宮からこんにちは♥』の実況席から、凛子の声が響く。

 

「サタン選手――六度目の挑戦で、ついに完走しました!」

 

空中に巨大なシステムメッセージが展開された。

 

《Congratulations!》

 

《SATAN!!》

 

《Mission Clear!》

 

そして――。

 

《First Prize》

 

《Afro HAIR》

 

「…………なぬ?」

 

サタンが固まった。

 

キリトも固まった。

 

アスナも固まった。

 

エギルも、こっこも、攻略組全員が固まった。

 

――ボンッ!!

 

サタンの頭が白い靄に包まれる。

 

「ぬおっ!?」

 

靄が晴れた。

 

そこに立っていたのは――。

 

先ほどまでとは明らかに違う、見事なまでの巨大なアフロヘアーを頭に載せたサタンだった。

 

「…………」

 

静寂。

 

数秒後。

 

「あははははははははは!!」

 

堰を切ったように爆笑が巻き起こった。

 

キリトは口元を押さえ、必死に笑いを堪えている。

 

「くっ……! 商品が……アフロヘアー……!」

 

アスナは心底安堵したように胸を撫で下ろした。

 

「……よかった。参加しなくて」

 

「えげつねえー…… 」

 

エギルが引き気味に呟く。

 

その横で、こっこが首を傾げた。

 

「あれ? エギル、参加したかったんじゃない?」

 

「?」

 

エギルは一瞬、本気で意味が分からなかった。

 

だが――こっこの視線が自分の頭に向いていることに気づく。

 

「……!」

 

そして理解した。

 

「だから俺はハゲじゃねえええええっ!! 」

 

迷宮区に怒声が響き渡る。

 

「剃ってるんだ!! スキンヘッドだ!! 」

 

「同じようなもんじゃ――」

 

「違うわ!! 」

 

そんな騒ぎの中、実況席から凛子の声が聞こえてきた。

 

「おめでとうございます! サタンさん! 六度目の挑戦で見事――ぷっ!」

 

一瞬、声が途切れる。

 

「…………くくっ」

 

明らかに笑っていた。

 

「おい実況!! 」

 

「し、失礼しました……! ぷっ……! サタン選手には栄えあるファーストプライズ、《Afro HAIR》が贈呈されました……くくく……!」

 

「笑ってんじゃねえか!! 」

 

サタンは頭に手を伸ばす。

 

もふっ。

 

「…………」

 

もう一度触る。

 

もふもふっ。

 

「なんだこりゃあああああっ!! 」

 

再び爆笑が巻き起こった。

 

しかしサタンは、ふとシステムウインドウを操作すると、アイテム欄から手鏡を取り出した。

 

そして自分の姿を確認する。

 

巨大なアフロ。

 

険しい顔。

 

鍛え上げられた肉体。

 

本人はしばらく無言で鏡を眺めていた。

 

「…………」

 

全員が次の言葉を待つ。

 

やがてサタンは、アフロを軽く整えながら呟いた。

 

「……結構イケてるじゃないか」

 

「え?」

 

キリトの笑いが止まった。

 

サタンは角度を変えて鏡を見る。

 

「うん。悪くないな」

 

「…………」

 

「今度から、これでいこうかな」

 

全員が硬直した。

 

「「「えっ……!?」」」

 

アスナが目を見開く。

 

キリトは言葉を失う。

 

エギルですら何とも言えない表情でアフロを見つめていた。

 

こっこだけが腕を組んで頷く。

 

「うん、サタンなら似合うと思う」

 

「お前は止めろよ!!」

 

どこからともなくツッコミが飛んできた。

 

その直後――。

 

――ゴゴゴゴゴ……。

 

アスレチックを構成していた足場が光の粒子となって消えていく。

 

蛇型モンスターたちも姿を消し、池も、動く床も、理不尽な仕掛けの数々も消滅していった。

 

やがてそこに現れたのは――。

 

何の変哲もない、一本の通路。

 

その先には巨大な扉がそびえていた。

 

千蛇城、迷宮区最深部。

 

ボス部屋。

 

六回も池に落とされ。

 

何度もスタート地点へ流され。

 

最後にはサタンの頭にアフロまで残して――。

 

長かったアスレチック攻略は、ようやく終わった。

 

キリトが剣の柄に手を置く。

 

アスナも表情を引き締めた。

 

エギルが斧を担ぎ直す。

 

ディスペルたち攻略組も、それぞれ武器を確認する。

 

笑っていられる時間は、ここまでだ。

 

巨大な扉の向こうから、低い地響きのような音が聞こえてくる。

 

ボス部屋は――もう目の前。

 

サタンも拳を握りしめた。

 

頭には、巨大なアフロ。

 

「よし……行くぞ!」

 

「…………」

 

誰も返事をしなかった。

 

「なんだよ!! 」

 

――こうして攻略組は。

 

どうにも締まらない新戦力を一名加えたまま、千蛇城のボス戦へと進むのだった。

 

 

 

第十層主街区《オーサカ》。

 

迷宮区の攻略が進み、ボス部屋への到達が目前に迫った頃。

 

街の一角では、攻略組とはまったく別の意味で戦争が始まっていた。

 

「資材、そっち!」

「テーブルは先に組んで!」

「調理設備の動作確認! 火力が安定しないぞ!」

「鍛冶設備はこっちだ! ボス戦前は修繕依頼が集中する!」

 

いつものエンジニア隊である。

 

攻略組がボス部屋を目指している間に、彼らは大量の資材を運び込み、急ピッチで臨時店舗の設営を進めていた。

 

もはや恒例行事。

 

ボス攻略前になると、武器の修繕、消耗品の補充、食事、情報交換――攻略組を支えるための臨時拠点が出来上がる。

 

そして、その頃。

 

一日の休暇を終え、第一層の教会から戻ってきたディアベルが、店先で足を止めた。

 

「…………」

 

目の前にはサタンがいた。

 

いや。

 

正確には――。

 

「……サタン君?」

 

「おう! ディアベル! 戻ったか!」

 

「…………」

 

ディアベルは二度見した。

 

そして三度見した。

 

「髪……どうしたんだい?」

 

そこには、以前とは比較にならないほど存在感を増した――見事なアフロヘアーがあった。

 

「似合うだろ!」

 

サタンが胸を張る。

 

「……僕が一日いない間に、いったい何があったんだ?」

 

ディアベルは頭を抱えた。

 

第一層では子供たちやサーシャとの穏やかな時間を過ごしていたというのに、戻ってきたら仲間の頭部が爆発している。

 

SAOとは恐ろしい世界である。

 

「まあ、いろいろあったんですよ」

 

こっこが笑う。

 

「その“いろいろ”がまったく想像できないんだけど……」

 

ディアベルは追及を諦めた。

 

そんな中、続々と攻略組が集まり始める。

 

キバオウたち《Jagged Breaker》。

 

エギル。

 

キリト。

 

アスナ。

 

そして今回も参戦する、クライン率いる《風林火山》。

 

だが――。

 

その中に、これまでとは違う一人の男がいた。

 

赤を基調とした装備。

 

大きな盾。

 

そして、まるで周囲の喧騒から切り離されているかのような落ち着いた佇まい。

 

《ヒースクリフ》。

 

クラインが小さく首を傾げた。

 

「俺より後から出発したって話だけどよ……」

 

視線を男へ向ける。

 

「中層にいた頃にも、あんな奴は見た覚えがねえんだよな」

 

攻略組への参加は最近。

 

だが、その立ち姿だけで分かる。

 

ただの新参者ではない。

 

キリトも無言でヒースクリフを見ていた。

 

盾の構え方。

 

重心。

 

周囲への視線。

 

無駄がない。

 

(……何者だ?)

 

アスナも同じだった。

 

ディアベルも、自然とヒースクリフへ視線を向ける。

 

何か具体的な根拠があるわけではない。

 

それでも三人とも、ほとんど同時に感じ取っていた。

 

――この男、ただ者ではない。

 

そんな視線を向けられていることなど気にも留めず、ヒースクリフは静かに攻略組へ挨拶した。

 

「ヒースクリフだ。今回の攻略に参加させてもらう」

 

低く、落ち着いた声。

 

それだけで妙な説得力があった。

 

彼は近いうちにギルドを立ち上げるつもりらしい。

 

攻略を目的とした、強固な集団。

 

そのための人材も探しているという。

 

エギル。

 

キリト。

 

そして――アスナ。

 

ヒースクリフは、まだ特定の攻略ギルドに所属していない実力者たちへ声をかけていた。

 

「無理にとは言わない。だが私は、この世界の攻略を少しでも前へ進めたいと思っている」

 

アスナが彼を見る。

 

ヒースクリフは静かに続けた。

 

「一日も早く攻略を進める。それが、我々の現実の時間を取り戻すことにつながる」

 

その言葉に――。

 

アスナの表情がわずかに変わった。

 

先ほどまでいた第一層の教会。

 

そこでディアベルが守っている子供たち。

 

彼もまた、一日でも早くこの世界を攻略し、あの子たちを現実へ帰そうとしている。

 

そして、自分も――。

 

(現実の時間を、取り戻す……)

 

胸の奥に、その言葉が残った。

 

キリトと共に歩いてきた時間。

 

それを否定するつもりはない。

 

楽しかった時間だって、確かにあった。

 

けれど。

 

この世界で自分が何をするべきなのか。

 

最近、少しずつ考えるようになっていた。

 

ヒースクリフの言葉は、その迷いに小さな楔を打ち込んだ。

 

「……考えておきます」

 

アスナは、それだけ答えた。

 

ヒースクリフは頷いた。

 

「それでいい」

 

少し離れたところで、キリトはそのやり取りを黙って見ていた。

 

何も言わなかった。

 

ただ――。

 

なぜか。

 

アスナが、自分とは違う道を見始めている。

 

そんな気がした。

 

やがて。

 

攻略組の装備点検が終わっていく。

 

リズの鍛冶場から、次々と修繕された武器が返される。

 

刃こぼれはない。

 

耐久値も十分。

 

防具も整備済み。

 

回復ポーション、解毒薬、各種消耗品。

 

食料。

 

すべての準備が整った。

 

笑い声も、次第に少なくなっていく。

 

ここは第十層。

 

これまでの階層とは、数字の重みが違う。

 

十という節目。

 

そして攻略組の間では、一つの噂が広まっていた。

 

――十層ごとのボスは強い。

 

根拠がどこまであるのかは分からない。

 

だが、ここまで生き延びてきた者ほど、楽観などしなかった。

 

剣を確認する者。

 

盾の固定具を締め直す者。

 

アイテム欄を何度も確認する者。

 

家族のことを思い出す者。

 

誰もが知っている。

 

この扉の先では――。

 

たった一度の判断ミスが、死につながる。

 

ディアベルが攻略組を見渡した。

 

クラインが刀の柄を握る。

 

エギルが斧を担ぐ。

 

キリトが剣の感触を確かめる。

 

アスナが細剣を抜き、静かに息を吐く。

 

サタンが拳を打ち合わせる。

 

そしてヒースクリフは――。

 

ただ静かに盾を構えていた。

 

これから始まる死闘を知っているかのように。

 

攻略組はまだ知らない。

 

この第十層から加わった一人の男が、やがて攻略組そのものを大きく変えていくことを。

 

そしてアスナもまだ知らない。

 

先ほど聞いた、

 

――《現実の時間を取り戻す》。

 

その言葉が。

 

彼女を新たな道へ進ませる、最初の一歩になることを。

 

第十層。

 

ボス攻略開始まで――あとわずか。

 

 

 

 

ボス部屋の巨大な扉が、重々しい音を立てて開いていく。

 

その奥に広がっていたのは、薄暗い巨大な広間だった。

 

床には幾重もの刀傷が刻まれ、左右には朽ちかけた武者飾りが並んでいる。

 

そして――中央。

 

一人の巨大な武者が、静かに座していた。

 

プレイヤーたちが足を踏み入れた瞬間、その頭上に赤いカーソルが灯る。

 

《Kagachi the Samurai Lord》

 

――《カガチ・ザ・サムライロード》。

 

人型の大型モンスター。

 

全身を重厚な甲冑で包み、その手には身の丈ほどもある巨大な刀。

 

カガチはゆっくりと立ち上がると、鞘から刀を抜いた。

 

シャァァン――。

 

金属音が広間いっぱいに響き渡る。

 

「全員、構えろ!」

 

ディアベルの号令が飛ぶ。

 

だが――。

 

敵は、カガチだけではなかった。

 

その左右に次々とポリゴン片が集まり、人影を形作っていく。

 

《Orochi Elite Guard》

 

《Kuchina Elite Assassin》

 

「取り巻きだ!」

 

重装備の《オロチ・エリートガード》。

 

そして身軽な装備に小刀を構えた《クチナ・エリートアサシン》。

 

それ自体は、珍しいものではない。

 

ボスが取り巻きを召喚する。

 

これまでにも経験してきたギミックだ。

 

「まず取り巻きを潰す! ボス班はカガチを固定! 他は増援を――」

 

ディアベルが指示を出す。

 

攻略組も即座に対応した。

 

オロチをタンク隊が受け止め、クチナをアタッカー隊が囲む。

 

最初の数体は問題なく処理できた。

 

――ところが。

 

「また来たぞ!」

 

再びポリゴンが舞う。

 

「早い!」

 

さっき倒したばかりだ。

 

それなのに、もう次が現れた。

 

さらに数十秒もしないうちに――。

 

「後ろだ!」

 

「三体追加!」

 

「いや、こっちにも来てる!」

 

次々と出現するオロチとクチナ。

 

しかも一定数ではない。

 

二体。

 

三体。

 

時には――五体以上。

 

まるで波のように、一気に押し寄せてくる。

 

「なんやこれ! 湧きすぎやろ!」

 

キバオウの怒鳴り声が響く。

 

一体一体なら、攻略組にとって致命的な敵ではない。

 

だが、倒しても倒しても補充される。

 

前衛が押される。

 

後衛までクチナが侵入する。

 

「くそっ!」

 

キリトが一体を斬り伏せる。

 

すぐ横をアスナが駆け抜け、別のクチナの胸を細剣で貫いた。

 

「キリト君、次!」

 

「分かってる!」

 

しかし――終わらない。

 

攻略組の戦線が、目に見えて崩れ始めていた。

 

そして、その間にも。

 

本来なら最も危険な存在であるはずの《カガチ・ザ・サムライロード》は――。

 

ただ一人のプレイヤーによって、完全に足止めされていた。

 

「――っ!」

 

巨大な刀が振り下ろされる。

 

その真正面に立つ男。

 

赤い鎧。

 

片手剣。

 

そして盾。

 

ヒースクリフ。

 

ガァァン!!

 

凄まじい衝撃音。

 

盾がカガチの刀を受け止める。

 

だが、ヒースクリフは吹き飛ばされない。

 

ほんの半歩。

 

それだけ後ろへ重心を逃がす。

 

次の瞬間には盾を傾け、刀を滑らせていた。

 

空いた胴へ剣を一閃。

 

カガチが反撃する。

 

ヒースクリフは盾を前に出す。

 

受ける。

 

流す。

 

かわす。

 

斬る。

 

また受ける。

 

その動きには、派手さがなかった。

 

サタンのような異常な身体能力もない。

 

キリトのような高速剣技でもない。

 

アスナのような目にも止まらぬ連撃でもない。

 

ただ――。

 

「……なんだ、あれ」

 

キリトが思わず呟いた。

 

無駄がない。

 

あまりにも、無駄がない。

 

剣と盾。

 

攻撃と防御。

 

その二つが完全に一つの流れになっている。

 

ボスの攻撃を受けながら、必ず次の攻撃へ繋げる。

 

攻撃した瞬間には、すでに次の防御態勢が完成している。

 

何より――。

 

焦らない。

 

取り巻きによって攻略組の戦線が崩れようと。

 

仲間の悲鳴が聞こえようと。

 

目の前で巨大な刀が振り下ろされようと。

 

ヒースクリフの動きには、一片の乱れもなかった。

 

「……すごい」

 

アスナも、思わず見入っていた。

 

「一人で……ボスを止めてる」

 

しかも。

 

キリトは気づいていた。

 

特殊な何かを使っている様子はない。

 

見たことのないソードスキルでもない。

 

異常な速度でもない。

 

ただ純粋に――。

 

剣と盾の扱いが、恐ろしく上手い。

 

「こんなプレイヤー……どこにいたんだよ」

 

中層にもいなかった。

 

攻略組にもいなかった。

 

それが突然、第十層になって現れた。

 

疑問は尽きない。

 

だが今は、それどころではない。

 

「取り巻きのラッシュが止まった!」

 

誰かが叫んだ。

 

攻略組が一気に反撃へ転じる。

 

オロチが倒れる。

 

クチナが消える。

 

戦線が戻る。

 

「今だ!」

 

ディアベルが剣を掲げた。

 

「ボスへ集中攻撃!」

 

「うおおおおおっ!!」

 

攻略組が一斉にカガチへなだれ込む。

 

ようやく数の優位を取り戻した。

 

これなら――。

 

そう思った直後だった。

 

カガチの刀が横薙ぎに振るわれる。

 

「ぐあっ!」

 

「うわぁっ!」

 

前衛数名がまとめて吹き飛ばされた。

 

「下がれ!」

 

「攻撃、重すぎるぞ!」

 

ヒースクリフ一人なら安定して受けていた攻撃。

 

それを複数の攻略組が相手になった途端、戦線が再び揺らぐ。

 

「嘘だろ……」

 

キリトは思わずヒースクリフを見る。

 

――あの人。

 

さっきまで、これを一人で受けていたのか?

 

カガチが刀を大上段に構える。

 

次の一撃。

 

まともに食らえば危険だ。

 

ヒースクリフが再び前へ出ようとする。

 

だが――。

 

その横を。

 

一つの巨体が駆け抜けた。

 

「ぬぅぅぅぅぅぅぅん!!」

 

「サタン!?」

 

全身から、目に見えるほどの圧力が噴き出していた。

 

老師との修行。

 

鬼との死闘。

 

そして、ようやく掴み始めた新たな力。

 

――《闘気》。

 

サタンが床を踏み抜く。

 

ドンッ!!

 

カガチの刀が振り下ろされた。

 

サタンは避けない。

 

《鉄王の手甲》を構え――真正面から受ける。

 

ガァァァァァン!!

 

「うおおおおおおおお!!」

 

凄まじい衝撃。

 

足元の床を靴が削る。

 

それでも。

 

止まった。

 

カガチの巨大な刀が。

 

サタンの両腕によって。

 

「……マジかよ」

 

キリトの口から、今日二度目の呟きが漏れた。

 

ヒースクリフが盾を構え、サタンの隣へ並ぶ。

 

片や――。

 

一切の無駄を削ぎ落とした、剣と盾による完成された正統派の戦闘。

 

片や――。

 

鍛え抜いた肉体と体術、そして荒々しい闘気によって真正面から敵をねじ伏せる戦闘。

 

あまりにも違う。

 

それなのに。

 

二人が並んだ瞬間。

 

カガチの進撃が、完全に止まった。

 

ヒースクリフが盾で刀を逸らす。

 

「今だ」

 

「おう!」

 

サタンが懐へ飛び込む。

 

拳が甲冑へ叩き込まれた。

 

ドゴォン!!

 

巨体が揺れる。

 

カガチがサタンへ刀を返そうとすれば、ヒースクリフの剣が割って入る。

 

ヒースクリフを狙えば、今度はサタンが側面から襲いかかる。

 

「……なんなんだよ、あの二人」

 

キリトは呆然とする。

 

アスナも珍しく言葉が出ない。

 

一人は、第十層になって突然攻略組へ姿を現した謎の男。

 

もう一人は、老師のもとで体術を極め、鬼と殴り合い、とうとう得体の知れない闘気まで身につけて帰ってきた男。

 

ヒースクリフが静かに盾を構える。

 

サタンが拳を握り、闘気を噴き上げる。

 

――静と動。

 

――技と力。

 

二人の戦士が、《カガチ・ザ・サムライロード》の真正面に並び立っていた。

 

ディアベルは、その光景を見逃さなかった。

 

剣を高く掲げる。

 

「二人がボスを抑えている! 取り巻き班、増援を絶対に通すな!」

 

そして――。

 

「全員! ここから押し切るぞ!!」

 

「おおおおおおおおお!!」

 

攻略組の雄叫びが、ボス部屋を震わせた。

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