エンジニアのSAO Progressive ~NPCが売ってないなら作ればいい~   作:Edward

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115 危ないクエストは受ける前に確認しよう

「待て」

 

サタンの声に、こっこは足を止めた。

 

先ほどまで、武器屋だの素材屋だのと楽しげに並べていた言葉が、そこで途切れる。

 

サタンは街道の先を見ていた。

 

なだらかな丘。その向こう側から、金属の打ち合う音が聞こえている。

 

一度、二度。

 

風が止むと、人の声も届いた。

 

「……戦ってる?」

 

リズが小声で尋ねた。

 

「ああ。何人かいる」

 

サタンは腰を落とし、道の端へ移動した。

 

いつもの大きな身振りは消えていた。草地へ踏み込む足取りも、音を確かめるように慎重だった。

 

「こっこ。そのまま丘の上に立つなよ」

 

「分かった」

 

「リズとシリカは、少し後ろにいてくれ」

 

二人が頷く。

 

シリカは肩のピナに指を添えた。

 

「静かにしててね」

 

ピナは首を傾げると、彼女の髪の陰へ身を寄せた。

 

街道脇には、低い灌木が点々と続いている。サタンはその陰を選び、丘の斜面を斜めに進んだ。

 

こっこも後に続く。

 

足元には、蹄の跡があった。

 

いくつも重なり、土を深く抉っている。

 

草が踏み倒された場所には、木製の盾の欠片が落ちていた。

 

「……すぐ近くだね」

 

こっこが呟く。

 

サタンは頷いただけだった。

 

灌木の切れ目で身を伏せると、ゆっくりと顔を上げた。

 

こっこも、その隣から覗き込む。

 

丘の向こうに、兵士たちがいた。

 

     *

 

窪地を横切る細い道で、二つの集団が向かい合っていた。

 

一方は、青い布を肩に巻いた兵士たち。

 

もう一方は、赤い外套を身につけた兵士たちだった。

 

青が五人。赤が四人。

 

いや、赤い側には、もう一人いた。

 

馬上に。

 

「騎兵……」

 

こっこは目を細めた。

 

歩兵たちは盾を構え、剣や槍を前へ向けている。

 

馬上の兵だけは少し離れた場所に立ち、長い騎士剣を握っていた。

 

白っぽい刀身。

 

鍔から柄にかけて、細かな装飾が施されている。

 

陽の光を受けると、刃の側面に刻まれた線が淡く浮かんだ。

 

「どっちが西の兵なの?」

 

後ろから追いついたリズが尋ねる。

 

「まだ分からない」

 

こっこは答えた。

 

地図に国の名前はあっても、兵士の装備までは載っていなかった。

 

旗も見当たらない。

 

見た目だけで決めつけることはできない。

 

「アルゴに聞いておけばよかったな」

 

「今から覚えりゃいい」

 

サタンの視線は、馬上の兵から離れなかった。

 

窪地で、青い側の兵士が声を張った。

 

「オリエンタの兵が、この道に何の用だ!」

 

赤い外套の騎兵が、剣を少し持ち上げる。

 

「その問いは、そちらに返そう。ヴェストリアの巡回路だと、誰が決めた?」

 

リズがこっこの肩を軽く叩いた。

 

こっこは頷く。

 

青がヴェストリア。

 

赤がオリエンタ。

 

話の内容から、そこまでは分かった。

 

「我々は、王国の輸送隊を守るために来た。道を空けろ!」

 

「ならば、その先の荷を改めさせてもらおうか」

 

「断る!」

 

剣が上がった。

 

盾が前へ出る。

 

次の瞬間、両側の歩兵が動いた。

 

     *

 

剣と盾の衝突音が、思っていたよりも大きく響いた。

 

ヴェストリア側の槍兵が、盾を持つ仲間の脇から突く。

 

オリエンタ側の兵士は半歩下がり、槍の穂先を剣で払った。

 

その隙に、隣の兵が踏み込む。

 

「一人ずつ戦ってない……」

 

シリカが呟いた。

 

「組んでるな」

 

サタンが答える。

 

「前の奴が止めて、横の奴が打つ。あの槍も、突いたらすぐ引っ込めてる」

 

モンスターを囲んで戦う時とは、違った。

 

相手もこちらの動きを見ている。

 

一人が下がれば仲間が穴を埋め、盾を叩かれた兵士の前へ、別の盾が出る。

 

こっこは視線を動かした。

 

兵士たちの上には、HPバーが浮かんでいた。

 

剣が腕を掠める。

 

一人のバーが減った。

 

光の傷が残り、兵士は顔を歪める。

 

それでも踏みとどまり、盾を上げ直した。

 

シリカが唇を結んだ。

 

ギズメルたちと過ごしてきたからだろうか。

 

目の前で傷ついている相手を、ただの敵キャラクターとして見ることが難しかった。

 

「……あの人、大丈夫でしょうか」

 

「まだ見よう」

 

こっこは低い声で言った。

 

「今、僕たちが出ても、誰の味方か分からない」

 

リズは頷いたが、盾を握る兵士から目を逸らさなかった。

 

その時、馬が動いた。

 

赤い外套の騎兵が、歩兵の側面へ回り込む。

 

サタンが僅かに身を起こした。

 

「来るぞ」

 

馬が加速した。

 

蹄が土を蹴り、騎兵が剣を肩の高さへ引く。

 

青い兵士たちが気づいた時には、もう近かった。

 

「横だ! 槍を向けろ!」

 

ヴェストリアの槍兵が振り返る。

 

騎兵は、その穂先へ真っすぐ突っ込んだ。

 

「危ない!」

 

シリカが思わず声を漏らす。

 

だが、衝突は起きなかった。

 

馬が、槍の間際で進路を変えた。

 

大きな馬体が斜めに傾き、槍兵の横を抜ける。

 

同時に、白い騎士剣が振り下ろされた。

 

槍兵の肩に、光の傷が走った。

 

HPバーが大きく減る。

 

騎兵はそのまま駆け抜けた。

 

「……今の、曲がれるの?」

 

リズが呟いた。

 

サタンは眉を寄せていた。

 

「曲がっただけじゃねえ。馬が動く前から、剣を振る態勢だった」

 

普通なら、あの急な方向転換で姿勢が崩れる。

 

少なくとも、剣を振り下ろす余裕があるようには見えなかった。

 

それなのに騎兵は、馬の背でほとんど揺れなかった。

 

こっこは刀身を見つめた。

 

馬が旋回する直前。

 

あの剣の刻印が、一瞬だけ白く光っていた。

 

     *

 

「馬を止めろ! 囲め!」

 

ヴェストリアの兵士が二人、騎兵の進路へ出た。

 

盾を並べ、間を塞ぐ。

 

馬は速度を落とさなかった。

 

こっこの指が、無意識に草を掴む。

 

ぶつかる。

 

そう思った瞬間、騎兵が手綱を引いた。

 

馬が前脚を上げる。

 

盾の前で馬体が持ち上がり、兵士たちは身を縮めた。

 

騎兵は、その動きに合わせて剣を横へ振った。

 

一人の兜を掠める。

 

馬が着地する頃には、すでに手綱が次の方向へ引かれていた。

 

後脚を軸にして、馬体が向きを変える。

 

騎兵は二人の間へ踏み込まず、外側から再び回り込んだ。

 

「うわ……」

 

こっこが、ほんの少し顔を上げた。

 

サタンの手が肩を押さえる。

 

「頭を下げろ」

 

「いや、あの剣――」

 

「見えてる。向こうからも見えるぞ」

 

こっこは慌てて身を伏せた。

 

リズが横から睨む。

 

「欲しくなったでしょ」

 

「調べたくなった」

 

「だいたい同じよ」

 

サタンは窪地を見たまま、小さく息を吐いた。

 

「あの馬、周りの兵士を避けてる。自分の味方にも当ててねえ」

 

馬の進路は、狭い隙間を何度も通っていた。

 

騎兵が剣を振る場所に合わせ、馬が身体を運んでいるようにも見えた。

 

こっこは記録結晶を取り出した。

 

エギルの髪型を撮ろうとした時とは違い、手つきが慎重だった。

 

灌木の陰から、戦場へ向ける。

 

「記録しておく。帰ってから、もう一度見たい」

 

「光らせるなよ」

 

「分かってる」

 

シリカもメニューを開き、時刻を確認した。

 

同じ技を続けて使えるのか。

 

どれくらいの間隔があるのか。

 

分からないことは多かった。

 

それでも、見たことを残しておくことはできる。

 

四人は声を落とし、それぞれの視線で戦いを追った。

 

     *

 

ヴェストリアの兵士たちが、徐々に押され始めた。

 

騎兵を警戒すれば、歩兵に踏み込まれる。

 

歩兵へ向き直れば、馬が側面を走り抜ける。

 

盾を上げていた兵士のHPが、黄色になった。

 

槍兵のバーは、さらに短い。

 

それでも、青い布を巻いた隊長らしい男は退かなかった。

 

「散るな! まとまれ!」

 

兵士たちが肩を寄せる。

 

騎兵がその周りを回る。

 

剣の届く距離を測り、踏み込む隙を探していた。

 

だが、次の突進で変化が起きた。

 

槍兵が突かなかった。

 

槍を低く構え、騎兵が近づくのを待つ。

 

隣の盾兵が、わざと半歩だけ前へ出た。

 

騎兵が剣を振り上げる。

 

その瞬間、盾兵が後ろへ引いた。

 

空いた場所へ、槍の柄が横から伸びた。

 

「おっ」

 

サタンの目が細まる。

 

騎兵の剣が、槍の柄にぶつかった。

 

刃は木を削ったが、振り抜けなかった。

 

馬が進む。

 

腕が後ろへ引かれる。

 

騎兵の身体が、そこで初めて大きく揺れた。

 

青い隊長が踏み込んだ。

 

剣の発光。

 

横薙ぎのソードスキルが、騎兵の脇腹を捉えた。

 

HPバーが減る。

 

騎兵は歯を食いしばり、剣を引き戻した。

 

馬が向きを変え、距離を取る。

 

「無敵じゃないんだね」

 

こっこが呟いた。

 

「ああ。馬は動かせても、剣を止められりゃ崩れる」

 

サタンは、今の攻防を頭の中で繰り返しているようだった。

 

「同じ入り方を何度もしてた。あっちも待ってたんだろ」

 

宝具を持っている。

 

それだけで、全ての攻撃が通るわけではない。

 

こっこは、そのことも記録に残した。

 

     *

 

しかし、ヴェストリア側の反撃は続かなかった。

 

槍を使って騎兵を止めた兵士へ、赤い外套の歩兵が迫る。

 

盾が間に合わない。

 

剣が胴を打った。

 

HPバーが赤くなった。

 

「待て!」

 

兵士が叫んだ。

 

槍が、地面へ落ちる。

 

両手が上がった。

 

「降参だ! もう戦えない!」

 

赤い兵士の剣が止まった。

 

本当に、止まった。

 

振り上げられた刃は、それ以上下りてこなかった。

 

シリカが息を呑む。

 

「……止めた」

 

「うん」

 

こっこは目を離さなかった。

 

オリエンタの兵士が、剣先で足元を示す。

 

「腰の袋を置け。予備の武器もだ」

 

降伏した兵士は、震える手で袋を外した。

 

短い剣も抜き、地面へ置く。

 

「それで全部か?」

 

「ああ。だから、頼む……」

 

「後ろへ下がれ。武器を拾うな」

 

青い兵士は頷き、ゆっくりと後退した。

 

赤い兵士は追わなかった。

 

袋を拾い、落とされた槍を仲間へ蹴り渡す。

 

その間にも、別の場所で戦闘は続いていた。

 

「殺さない……」

 

リズが小さく言った。

 

「降参したら、持ち物を渡すのか」

 

こっこは答えた。

 

ただし、見えたのは一例だった。

 

全ての兵士が、同じように応じるかまでは分からない。

 

まして、プレイヤーに対しても同じなのか。

 

こっこはそこまで考え、口を閉じた。

 

今は、目の前で起きていることを見届ける。

 

     *

 

騎兵が、もう一度突進した。

 

その進路へ、青い隊長が出る。

 

盾を構える。

 

剣を振る。

 

馬上の一撃を盾で受けた男は、後ろへ押し込まれた。

 

HPが黄色へ変わる。

 

だが、足は止まらなかった。

 

馬が横を抜ける瞬間、男が剣を突き出した。

 

騎兵の脚を掠めた。

 

そのHPバーも、黄色になった。

 

「もう一発だ!」

 

青い兵士が叫ぶ。

 

赤い歩兵が割って入った。

 

盾と盾がぶつかる。

 

騎兵は距離を取ろうとしたが、道の端には倒れた荷車の残骸があった。

 

馬がそれを避ける。

 

白い剣の刻印が光る。

 

滑らかに向きを変えた、その先に槍兵が待っていた。

 

降伏した兵とは、別の一人だった。

 

穂先が伸びる。

 

騎兵は身体を捻った。

 

直撃は避けたが、脇腹に光の傷が走る。

 

HPバーが赤くなった。

 

騎兵の剣が下がった。

 

「退け! 退け!」

 

赤い歩兵が叫ぶ。

 

だが、青い隊長はすでに近づいていた。

 

「剣を捨てろ!」

 

騎兵が男を見る。

 

少しの間、誰も動かなかった。

 

その後ろでは、赤い歩兵たちも武器を構えたまま立っている。

 

助けに入れば、まだ戦いは続くだろう。

 

だが、騎兵のHPは僅かしか残っていなかった。

 

「……承知した」

 

騎兵が言った。

 

馬から降りる。

 

白い騎士剣を、地面へ置いた。

 

こっこの目が、その剣へ吸い寄せられる。

 

青い隊長が剣を拾った。

 

「《ヴァイスソード》、確かに受け取った」

 

名前が、はっきりと聞こえた。

 

こっこはシリカを見た。

 

彼女は頷き、メモへ書き込んでいる。

 

「我らは退く。これ以上、追うな」

 

赤い外套の騎兵が言った。

 

青い隊長は、剣を握ったまま道を示す。

 

「東へ戻れ。次にこの道を塞いだ時は、また相手をする」

 

赤い兵士たちが、負傷した騎兵の周りへ集まった。

 

馬の手綱を引く。

 

一人が肩を貸す。

 

誰も、その背中へ剣を振らなかった。

 

     *

 

四人は、動かずに見送った。

 

赤い外套が遠ざかり、丘の向こうへ消える。

 

ヴェストリアの兵士たちも、その場に座り込んだ。

 

青い隊長が仲間のHPを確かめ、何かを配っている。

 

先ほど降伏して袋を渡した兵士も、そこへ戻ってきた。

 

隊長は短く何かを尋ねた後、彼の肩を叩いた。

 

シリカが、ようやく息を吐いた。

 

「……戻れたんですね」

 

「ああ」

 

サタンが答える。

 

こっこは記録を止めた。

 

掌の中の結晶を、しばらく見つめる。

 

宝具を使えば、普通ならできないことができる。

 

それでも、負ける。

 

負ければ、奪われる。

 

そして、奪うために殺す必要はないらしい。

 

「宝具を取り合う戦争って、こういうことか」

 

こっこが言った。

 

リズは頷いた。

 

「最初、赤い側が勝つと思ったわ」

 

「僕も」

 

「でも、青い人たちも相当減ってた。楽に奪えたわけじゃないわよ」

 

「うん。それも、見えた」

 

サタンが後ろへ下がるよう、手で示した。

 

四人は灌木の陰を離れ、丘を下った。

 

街道へ戻るまで、誰も大きな声を出さなかった。

 

     *

 

「さて」

 

安全な距離まで戻ってから、こっこは振り返った。

 

「分かったことを確認しよう」

 

リズが腕を組む。

 

「急に真面目ね」

 

「いつも真面目です」

 

「今は続きを聞くわ」

 

こっこは指を一本立てた。

 

「青い布がヴェストリア。赤い外套がオリエンタ。ただ、別の部隊も同じかは確認が必要」

 

二本目。

 

「《ヴァイスソード》は、馬の動きに関係してる可能性が高い。正確な能力は、まだ分からない」

 

三本目。

 

「HPが赤くなった兵は降伏した。持ち物や宝具を渡して、命は助かった」

 

シリカがメモを確認する。

 

「降伏した後は、攻撃されていませんでした」

 

「そうだね。でも、僕たちが同じことをして通じるかは、分からない」

 

サタンが頷いた。

 

「試すつもりで食らうなよ」

 

「それはしない」

 

こっこは、今度はすぐに答えた。

 

リズの表情が少し緩む。

 

「じゃあ、次は?」

 

「門で説明を聞く。宝具を持ってる兵を見つけたからって、すぐ戦いに行かない」

 

「よし」

 

サタンが立ち上がった。

 

「今の騎兵、相手の逃げ道を塞ぐように回ってた。転移結晶を持ってても、使う暇があるとは限らねえ」

 

こっこはポーチへ触れた。

 

持っていることと、使えることは違う。

 

「……取り出す手順も、決めておこうか」

 

「ああ。リズとシリカがいる時は、先に二人を逃がす」

 

「二人を置いて無茶する相談まで、勝手にまとめないでよ」

 

リズが釘を刺す。

 

「わたしたちも、自分で使えるようにしておきます」

 

シリカは結晶の位置を直した。

 

サタンは頷き、街道の先を見る。

 

遠くの城壁には、青い旗が揺れていた。

 

     *

 

西へ歩きながら、こっこはキリトへ短いメッセージを送った。

 

両国の小部隊の交戦を目撃したこと。

 

騎兵が《ヴァイスソード》を所持していたこと。

 

降伏後、宝具と持ち物の引き渡しで戦闘が終わったこと。

 

最後に、プレイヤーにも同じ扱いが適用されるかは未確認、と付け加えた。

 

送信を終えると、リズが顔を覗き込む。

 

「欲しいって書かなかったの?」

 

「情報提供だからね」

 

「思ってはいるのね」

 

「……あの馬の動き、もう一度見たい」

 

「ほら」

 

サタンが笑った。

 

シリカも小さく笑う。

 

張りつめていた空気が、ようやく少しほどけた。

 

しかし、こっこは先ほどのように走り出さなかった。

 

城壁は、近づくほど大きく見えた。

 

門の上には兵士が立っている。

 

槍を持つ二人が、外から来る者を見下ろしていた。

 

こっこは足を止め、サタンを見た。

 

「説明を聞いてから、もう一度決めよう」

 

「ああ」

 

サタンが頷く。

 

「見た上で決めりゃいい」

 

四人は並んで、門へ向かった。

 

頭上の兵士が気づき、声を張る。

 

「止まれ! この都市へ何の用だ!」

 

こっこは両手を見える位置へ上げた。

 

「傭兵の募集について、話を聞きに来ました!」

 

門の上で、兵士が隣の者と顔を見合わせる。

 

少し待ってから、脇の小さな扉が開いた。

 

現れた兵士が、四人を順に見る。

 

「志願者か。ならば、先に聞いておけ」

 

その声に、愛想はなかった。

 

「ここを通る資格を得るということは、我が国の戦いを引き受けるということだ」

 

こっこは頷いた。

 

今度は、武器屋のことを尋ねなかった。

 

「その戦いは、誰と、何を懸けて行われるんですか?」

 

門番の目が、初めてこっこの顔を正面から捉えた。

 

「知りたいか」

 

「はい。知らずに選ぶつもりはありません」

 

門番はしばらく黙っていた。

 

やがて、重い門の向こうへ視線を向ける。

 

「ならば、入れ。ここから先で聞く話は、街の噂ではない。剣を抜いた者が、最後まで背負うべき現実だ」

 

小さな扉が、さらに大きく開いた。

 

その奥には、青い旗の下で行き交う兵士たちと、見慣れない武具を並べた露店、そして城壁の内側へ続く長い通りが見えていた。

 

こっこは一歩を踏み出す前に、仲間たちを振り返った。

 

リズが頷く。

 

シリカが結晶を確かめる。

 

サタンが、いつものように口元を上げた。

 

「行くぞ。ここからが本番だ」

 

門番は道を空けながら、最後に低く告げた。

 

「覚えておけ。ヴェストリアで名を上げる者は、まず最初に、敵の名を知る」

 

その言葉が、開かれた門の奥へ響いていく。

 

こっこは青い旗を見上げた。

 

その向こうには、まだ見たことのない宝具と、二つの国が争う理由が待っている。

 

四人は顔を見合わせ、門の内側へ踏み込んだ。

 

背後で、重い門がゆっくりと動き始める。

 

閉じ込めるためではない。

 

もう、後戻りできない場所へ進む者たちを、送り出すように。

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