エンジニアのSAO Progressive ~NPCが売ってないなら作ればいい~   作:Edward

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117 傭兵家業も楽ではない

酒場の扉を開けると、昼間だというのに店内はそれなりに賑わっていた。

 

もっとも、酒を飲んで騒いでいる者ばかりではない。

 

壁には依頼書や地図、商人たちの護衛募集など、様々な情報が張り出されている。

 

そして、その一角。

 

昨日まではなかった大きな掲示板が、酒場の中央近くに設置されていた。

 

「……なんだ、これ?」

 

俺が足を止める。

 

隣を歩いていたサタンも、首を傾げた。

 

「傭兵情報?」

 

掲示板の一番上には、大きくそう書かれている。

 

《MERCENARY INFORMATION》

 

その下には、現在進行中の戦争イベントに関する情報が表示されていた。

 

――ヴェストリア王国側所属傭兵。

 

《2》

 

――オリエンタ帝国側所属傭兵。

 

《2》

 

「……少なっ」

 

思わず声が漏れた。

 

だが、考えてみれば当然だ。

 

ヴェストリア王国側の二人は、おそらく俺とサタン。

 

そしてオリエンタ帝国側の二人は――。

 

「キリト君とギズメルだろうな」

 

「四人だけかよ」

 

「まあ、あんな物騒な警告を読んで参加しようなんて思う奴、普通はいないよ」

 

「お前もな」

 

「君もだよ!」

 

その下には、両陣営の戦況が表示されるらしい。

 

現在はまだ何もない。

 

さらに、その横には大きな空欄があった。

 

《傭兵功績順位》

 

現在――該当者なし。

 

「ランキングまであるのか……」

 

俺が眺めていると、カウンターの向こうにいた酒場の主人が声をかけてきた。

 

「そいつは傭兵たちの働きを知らせる掲示板だ」

 

「これから何が載るんです?」

 

主人はグラスを磨きながら答える。

 

「戦が始まれば、傭兵の働きに応じて順位が付く。どれだけ自分の陣営に貢献したか、ってことだな」

 

すると掲示板が淡く光り、説明文が追加された。

 

俺とサタンは並んで読む。

 

《傭兵功績査定》

 

最も高く評価されるのは――

 

《魔法宝具の確保》

 

その下に、

 

《敵陣営傭兵の捕縛》

 

《敵陣営所属兵士の捕縛》

 

《敵陣営傭兵の殺害》

 

《敵陣営所属兵士の殺害》

 

と続いていた。

 

俺はしばらく無言でそれを眺める。

 

「……なるほど」

 

「殺すより、捕まえる方が上なのか」

 

「うん」

 

そこが重要だった。

 

このイベントは戦争である。

 

敵を倒すことそのものは禁止されていない。

 

だが――システムは明確に、殺害よりも捕縛を高く評価している。

 

特に敵陣営の傭兵。

 

つまりプレイヤーを殺害するより、生きたまま制圧した方が功績として大きい。

 

「戦争だけど、殺せってイベントじゃないんだな」

 

俺が呟く。

 

主人が頷いた。

 

「ただし、殺しすぎると話は別だ」

 

「え?」

 

主人は磨いていたグラスを置いた。

 

その音が、妙に大きく響いた。

 

「戦場で名を上げるのは簡単だ。敵を斬り、拠点を落とし、宝具を奪う。だがな――名が広まりすぎれば、敵もお前を見逃さなくなる」

 

掲示板の表示が切り替わった。

 

《WAR HATE》

 

「ウォー・ヘイト?」

 

「敵兵を殺せば、当然あっちから恨まれる」

 

主人はそこで一度言葉を切り、俺たちを見た。

 

「最初はただの記録だ。だが、積み重なれば違う。敵陣営はお前を一人の傭兵じゃなく、戦場そのものを壊す危険人物として見るようになる」

 

敵陣営のNPC兵士を殺害した場合、その行動は敵側に記録される。

 

殺害数。

 

戦闘参加回数。

 

重要拠点への攻撃。

 

NPC指揮官の殺害。

 

その他、敵陣営に与えた損害。

 

それらによって《WAR HATE》が蓄積する。

 

一定値を超えると――。

 

《BOUNTY TARGET》

 

「賞金首……」

 

「面白くなってきたじゃねえか ✨️」

 

「喜ぶところじゃない」

 

「喜ぶな。狙われる側になった瞬間、味方の酒場でさえ安全とは限らなくなる」

 

主人の低い声に、サタンの笑みがわずかに引きつった。

 

賞金首に指定された傭兵は、敵側だけではなく、中立の町にある酒場にも名前が張り出される。

 

名前。

 

所属陣営。

 

賞金額。

 

主な戦歴。

 

危険度。

 

そして最後に――。

 

《DEAD / ALIVE》

 

「うわあ……西部劇みたいになってきたぞ」

 

「しかもな」

 

主人は掲示板の赤い文字を指で叩いた。

 

「賞金首の情報を見た奴は、誰でも追える。戦争に参加していない中立の傭兵だろうが、な」

 

しかも賞金首になったプレイヤーに対しては、戦争に参加していない中立プレイヤーも討伐に参加できる。

 

賞金首を倒しても、その戦闘に限ってはオレンジプレイヤーにはならない。

 

ただし――。

 

「ここ、大事だな」

 

俺は注意書きを読む。

 

賞金首はあくまで《討伐対象》であり、《略奪対象》ではない。

 

倒したとしても、そのプレイヤーの装備品やコルを奪うことはできない。

 

戦争イベントで所持していた魔法宝具についても、第三者が奪うことはできず、その場で霧散。

 

一定時間後、規定された初期地点へ再出現する。

 

つまり賞金首制度を利用して、第三者が宝具を横取りすることはできない。

 

「よく出来てるな……」

 

「だが、賞金首になった時点で、戦場の外にも敵が増える。寝ている間に宿を囲まれることだってあるかもしれねえ」

 

主人の言葉に、俺は掲示板から目を離せなかった。

 

さらに賞金首を生きたまま捕縛し、《黒鉄宮》へ引き渡すこともできる。

 

その場合――。

 

《ALIVE BONUS》

 

討伐より高額な賞金が支払われる。

 

「おお」

 

俺は思わず感心した。

 

「ここでも生け捕り優遇か」

 

「カーディナル、あざといな 」

 

「いやいや、そこは偉いでしょ!」

 

「偉いかどうかは、捕まる側になってから考えな。黒鉄宮に送られた賞金首は、危険度に応じて行動を制限される。仲間が助けに来ても、救出に失敗すれば全員まとめて捕まる可能性がある」

 

だが、さらに下。

 

危険度が一定以上に達した賞金首には、赤い文字が表示されるらしい。

 

《DEAD OR ALIVE》

 

この指定を受けた賞金首については――生死を問わない。

 

討伐でも捕縛でも、基本賞金額は同じ。

 

ただし黒鉄宮への生け捕りに成功した場合のみ、追加報酬や特殊アイテムが得られる可能性がある。

 

「……それでも捕まえる意味は残してあるのか」

 

俺は腕を組んだ。

 

徹底している。

 

殺す方が簡単。

 

だが難しい方法を選び、相手を生かした者には、その分だけ報いる。

 

そんな設計になっていた。

 

「簡単に殺せる相手なら、誰も捕まえようとはしねえ。だからこそ、生け捕りの価値を上げている」

 

主人は淡々と説明した。

 

「だが、賞金首に指定された時点で、相手はもう普通の敵じゃねえ。追う側も、追われる側も、命懸けになる」

 

そして捕縛された賞金首は、その危険度に応じた期間、黒鉄宮へ収監される。

 

軽度なら数時間。

 

重くなれば一日、数日――。

 

常習的な殺害行為や悪質な行為を繰り返せば、さらに拘束期間は伸びる。

 

ただし戦争イベントが終了すれば、《WAR HATE》による賞金首指定は原則として解除される。

 

あくまで、この戦争イベント中の行動に対する評価だからだ。

 

もっとも――。

 

《WARNING》

 

《戦争行為を利用した意図的なプレイヤー虐殺、降伏者への攻撃、捕虜への加害、その他システムが悪質と判断した行為はWAR HATEとは別に記録されます》

 

俺の目が止まった。

 

「……別枠があるのか」

 

主人は静かに答えた。

 

「戦争だからって、何をしてもいいわけじゃねえってことさ」

 

主人は声を落とした。

 

「そこを踏み越えた奴は、敵味方の区別なく記録される。賞金首ならまだ追う理由がある。だが、黒鉄宮の記録に残った奴は――戦争が終わっても、簡単には消えねえ」

 

なるほど。

 

敵陣営傭兵との戦闘は、このイベントでは合法。

 

だが、それを隠れ蓑にしてプレイヤー殺しそのものを楽しむ者まで保護するつもりはないらしい。

 

悪質と判断された行動は通常の戦争評価から切り離される。

 

それが積み重なれば――。

 

《BLACK LIST》

 

その先に何があるのかは、まだ表示されていなかった。

 

「……嫌な文字だな」

 

「お前、そのうち載るんじゃねえか? 」

 

「なんでだよ!」

 

「冗談で済むうちに、手を引くことだな」

 

主人の言葉に、俺は笑いかけて――やめた。

 

掲示板の《BLACK LIST》という文字は、冗談で済ませるには不気味すぎた。

 

さらに掲示板の下部には《傭兵給与》という項目もあった。

 

傭兵契約を維持しているプレイヤーには、一週間ごとに所属陣営から報酬が支給される。

 

最低保証――五千コル。

 

一週間何もしていなくても支給される。

 

偵察。

 

護衛。

 

敵兵撃退。

 

捕虜獲得。

 

拠点防衛。

 

敵拠点攻略。

 

宝具確保。

 

それぞれの活動内容によって査定され、基本給に成果報酬が加算される。

 

ただし同じ相手と意図的に捕縛と解放を繰り返すなど、不自然な功績稼ぎは査定対象外。

 

同一人物から短期間に繰り返し得た功績は急激に減衰する。

 

「談合対策まである……」

 

俺は苦笑した。

 

「カーディナル、頭いいな 」

 

「うん。君よりはだいぶ賢い」

 

「なんだと 」

 

そして最後。

 

俺は掲示板の最下部に書かれた一文を読む。

 

《傭兵の評価は、敵を何人殺したかでは決まりません》

 

《何を成し遂げ、何を守り、何を持ち帰ったかによって決定されます》

 

しばらく、俺は黙っていた。

 

戦争イベント。

 

二つの陣営。

 

宝具争奪。

 

プレイヤー同士の戦闘。

 

ここまで聞けば、どう考えても殺伐としたイベントになる。

 

だけど――。

 

「……面白いな」

 

「何が?」

 

「このイベント、ちゃんと逃げ道があるんだよ」

 

殺さなくてもいい。

 

敵プレイヤーを倒しても、とどめを刺さずに捕らえればいい。

 

NPCだって同じ。

 

宝具を手に入れるだけなら、そもそも戦闘を避けても構わない。

 

そして危険なプレイヤーが現れれば、敵味方とは別に賞金首として追われる。

 

つまりこれは――。

 

ただの戦争ゲームじゃない。

 

どう戦うか。

 

何を選ぶか。

 

プレイヤー自身の行動が、そのまま世界からの評価になって返ってくる。

 

俺はニヤリと笑った。

 

「よし、サタン」

 

「おう 」

 

「目指すぞ」

 

「ランキング一位だな ✨️」

 

「賞金首捕獲ランキング一位!」

 

「そっちかよ! ⁉️」

 

俺は掲示板を指差した。

 

「殺すより捕まえた方が儲かるんだぞ! しかも悪党を捕まえて金まで貰える! こんな素晴らしい副業があるか!」

 

「コッコ、アザトイ 」

 

「そこだけカタコトに戻すな!」

 

酒場の主人が呆れた顔で俺たちを見る。

 

だが、その表情から笑みは消えていた。

 

「……一つだけ忠告しておく」

 

「はい?」

 

「賞金首を追うなら、相手の強さだけを見るな。追い詰められた奴は、最後に何をするか分からねえ」

 

主人は掲示板の《DEAD / ALIVE》を見上げた。

 

「捕まるくらいなら、仲間ごと道連れにする奴もいる。降伏したふりをして、隙を突く奴もいる。賞金に目がくらんだ味方が、背中から刺してくることだってある」

 

店内のざわめきが、いつの間にか遠くなっていた。

 

「だから、捕まえると決めたなら――最後まで油断するな。生かして連れていくってのは、殺すよりずっと難しい」

 

俺は掲示板を見つめた。

 

《ALIVE BONUS》

 

その文字の奥に、まだ見えない危険が潜んでいる気がした。

 

そして掲示板には現在の人数が静かに表示され続けていた。

 

《ヴェストリア王国側所属傭兵――2名》

 

《オリエンタ帝国側所属傭兵――2名》

 

この時はまだ。

 

その小さな数字が、やがて二つの陣営を巻き込み――。

 

数多くの傭兵、賞金首、そして《黒鉄宮送り》の名を刻む巨大なランキングへ変わっていくことを。

 

俺たちは、まだ知らなかった。

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