エンジニアのSAO Progressive ~NPCが売ってないなら作ればいい~ 作:Edward
黄金色の穂が風に揺れ、緩やかな丘陵には風車が立ち並ぶ。
大きな河川から分かれた水路では水車が回り、広大な田園地帯を潤していた。
街道には荷馬車が行き交い、遠くには農作業に精を出す人々の姿が見える。
一見すれば、アインクラッドでも屈指の平和な階層。
しかし、その美しい風景とは裏腹に、住民たちの表情は暗かった。
第十一層から続く《NPC戦争イベント》。
西の《ヴェストリア王国》。
東の《オリエンタ帝国》。
両国の狭間に位置する穀倉都市《ダナ》は、双方から食料の供出を要求されていた。
当初は正規の取引だった。
しかし、戦争が長引くにつれて要求量は増大し、やがて徴発へと変わっていった。
さらに、相手国へ運ばれる食料を奪うため、双方の軍隊が輸送隊を襲撃する事態にまで発展していた。
農民たちは畑を耕す。
しかし、収穫した食料は奪われる。
次の作付けに必要な種籾すら不足し始めていた。
豊かな土地に暮らしながら、飢えに苦しむ人々。
そんな矛盾を抱えた町を前に、二組の傭兵が別々の道を選んでいた。
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西側城塞都市《マカラ》
「……もったいない」
城塞都市《マカラ》へ向かう街道で、こっこが呟いた。
「ん? 何がだ?」
隣を歩いていたサタンが首を傾げる。
「この土地だよ。見てみなよ、サタン」
こっこが指差した先には、広大な平野が広がっていた。
草原の向こうには大きな河川。
さらに、その支流が城塞都市へと流れ込んでいる。
しかし、農地として利用されているのはごく一部だった。
「土地がある。水もある。なのに、農地がほとんどない」
「まあ、そうだな」
「だったら、作ればいいじゃない!」
「……何を?」
「農地だよ!」
サタンはしばらく黙っていた。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「……俺たち、傭兵だよな?」
「うん!」
「戦争イベントに参加してるんだよな?」
「もちろん!」
「なのに、何で農業なんだよ!!」
こっこは胸を張った。
「食料が足りないから戦争してるんだろ? だったら食料を増やせばいい!」
「そんな簡単にいくかよ!」
「簡単じゃないから、エンジニアの出番なんだよ!」
こっこの目が輝き始めた。
サタンは思った。
ああ、これは駄目だ。
完全にスイッチが入っている。
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城塞都市《マカラ》に到着すると、こっこは早速行動を開始した。
まずは地形調査。
河川の水量、流速、標高差、土地の傾斜。
ゲーム内の地図と実際の地形を照らし合わせ、取水に適した場所を探していく。
「ここから水を引けば、自然流下で平野まで運べそうだね」
「自然流下?」
「高いところから低いところへ、水が流れる仕組みだよ。ポンプを使わなくてもいいから、維持費が安い」
「なるほどな」
「ただし、水を引くだけじゃ駄目。排水路も必要だし、増水時に備えて水門も設置したい」
こっこは地図に次々と線を引いていった。
「それと、上流の取水量を増やしすぎると下流の水が減る。そこも調整しないとね」
「……お前、本職みたいになってるぞ」
「エンジニアですから!」
「医療機器のだろうが!!」
もっともな指摘だった。
しかし、こっこは気にしない。
「専門外だからこそ、詳しい人を集めるんだよ!」
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翌日。
マカラの郊外には、生産職のプレイヤーたちが集まっていた。
建築系、鍛冶系、木工系。
そして、農業に興味を持つプレイヤーたち。
こっこが呼びかけたのは、攻略組とは異なる分野でアインクラッドの生活を支えている者たちだった。
「みんな、聞いてほしい!」
集まったプレイヤーたちを前に、こっこは地図を広げた。
「この平野を農業生産地に変えたいんだ!」
一人のプレイヤーが手を挙げた。
「それで、俺たちに何の得があるんだ?」
「いい質問だね!」
こっこはにやりと笑った。
「収穫した農作物の一部を、開発に参加したエンジニアたちへ分配する!」
「……ほう?」
「もちろん、土地を管理するヴェストリア王国との正式な契約が必要になる。勝手に畑を作っても、後から全部徴発されたら意味がないからね」
「確かにな」
「だから、王国と協定を結ぶ!」
こうして、こっこは王国の担当官との交渉に臨んだ。
当初、担当官は難色を示した。
「王国の土地を、外部の傭兵たちに開発させるというのか?」
「はい。ただし、土地の所有権を要求するつもりはありません」
「では、何を求める?」
「収穫物の一定割合を、開発に参加したプレイヤーへ提供すること。そして、残りを王国の食料供給に利用することです」
担当官は腕を組んだ。
「……つまり、双方が利益を得るということか」
「そうです。王国は農地を増やせる。エンジニアは継続的な報酬を得られる。農民も働く場所が増える」
「しかし、収穫までには時間がかかるぞ」
「承知しています」
こっこは頷いた。
「だからこそ、今から始めるんです」
しばらくの沈黙。
やがて担当官の前に、青いシステムウィンドウが現れた。
《農地開発協定》
農業生産地の開発および収穫物の分配に関する契約。
王国と参加プレイヤーの双方が承認することで、協定が成立する。
「……こんな契約まで用意されているのか」
こっこは驚いた。
戦争イベントは、単に敵を倒すだけのものではない。
プレイヤーの行動次第で、国家の経済活動にも干渉できるらしい。
契約内容を確認し、双方が承認する。
軽快な効果音とともに、協定が成立した。
「よっしゃあ!!」
こっこは両手を突き上げた。
「農業革命の始まりだ!!」
サタンも拳を握る。
「おう! それで、俺は何をすればいい?」
「水路の掘削!」
「……は?」
「力仕事は任せた!」
「結局それかよおおお!!」
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それから数日。
マカラの郊外では、少しずつ景色が変わり始めていた。
河川から引かれた水路。
整地された農地。
水門の建設。
農民たちも協力し、これまで利用されていなかった土地が耕され始めていた。
しかし、すべてが順調というわけではなかった。
「……こっこ」
サタンが汗を拭いながら声をかける。
「ん?」
「これ、いつ収穫できるんだ?」
こっこは作業を止めた。
「……そこなんだよね」
種をまいたからといって、翌日に収穫できるわけではない。
ゲーム内の農業システムが現実より成長を早めるとしても、ある程度の時間は必要だった。
しかも、収穫した作物をダナへ運ぶには、両国の軍隊が活動する街道を通らなければならない。
「今すぐ食料不足を解決できるわけじゃないんだよ」
「じゃあ、どうする?」
こっこは遠くの空を見つめた。
「……誰かが時間を稼いでくれればいいんだけどね」
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東側城塞都市《ダムル》
その頃。
キリトとギズメルは、オリエンタ帝国の城塞都市《ダムル》を訪れていた。
こちらはヴェストリア王国とは対照的な地形だった。
険しい山脈。
岩肌が露出した丘陵。
農業に適した平野は少なく、街の周囲にも大規模な農地は見当たらなかった。
「なるほど……」
キリトは腕を組んだ。
「これじゃあ、食料が不足するのも無理はないな」
「山岳地帯が多いからな」
ギズメルが答える。
「帝国の民も苦労しているようだ」
「だからダナから食料を奪う……か」
キリトはため息をついた。
しかし、すぐに山脈へと視線を向けた。
「……待てよ」
「どうした?」
「あの山、モンスターが多いんだろ?」
「ああ。獣型の魔物が多数生息していると聞く」
「だったら、それを利用できないかな?」
「利用?」
キリトはメニューを開いた。
山脈に生息するモンスターの情報を調べる。
毛皮。
牙。
爪。
獣肉。
その中には、防具や装飾品の素材として需要の高いものも含まれていた。
「……これだ!」
「何か分かったのか?」
「農業ができないなら、別のものを売って食料を買えばいいんだよ!」
ギズメルは目を瞬かせた。
「交易か?」
「そう!」
キリトは説明を始めた。
「山脈のモンスターを討伐して、素材を集める。それを商人に売って、代わりに食料を買うんだ」
「なるほど……」
「肉はそのまま食料になるし、毛皮や牙は加工素材として売れる。わざわざダナから奪わなくても、食料を確保できるかもしれない」
ギズメルは感心したように頷いた。
「お前は剣士だと思っていたが、商人の才もあるのだな」
「いや、俺は商人じゃないよ」
キリトは苦笑する。
「ただ……」
「ただ?」
「こっこさんなら、どうするかなって考えたんだ」
ギズメルの表情が微妙に変わった。
「……あの男か」
「うん」
「エルフたちの間では、魔法を解放した英雄と呼ばれているが……」
「英雄?」
キリトの眉がぴくりと動いた。
「そうだ。優れた知恵と行動力を持つ人物だと聞いている」
「……」
キリトはしばらく黙っていた。
そして、深々とため息をついた。
「ギズメル……」
「何だ?」
「あの人はね、ゴキブリなんだよ」
「……は?」
「小さな隙間から入り込んで、気がついたら家中を自分の縄張りにしているような人なんだ!」
「……それは褒めているのか?」
「半分くらいは!」
ギズメルは困惑した。
ますます分からない。
英雄なのか。
変人なのか。
それとも、ただの厄介者なのか。
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キリトの提案は、帝国の商人たちに受け入れられた。
山脈のモンスターを討伐する傭兵。
素材を買い取る商人。
加工を担当する職人。
そして、完成品を他の街へ運ぶ交易商。
それぞれが利益を得ることで、継続的な経済活動が成立する。
帝国の担当官も、当初は半信半疑だった。
しかし、素材の市場価値を確認すると態度を変えた。
「これほどの利益が見込めるのか……」
「はい。ただし、継続的に取引できる仕組みが必要です」
キリトは説明を続けた。
「討伐隊を編成し、素材の買い取り価格を決める。さらに、交易路の安全を確保すれば、食料を購入する資金を得られます」
「なるほど……検討する価値はあるな」
こうして、帝国でも新たな計画が動き始めた。
しかし――。
「問題は、時間だな」
キリトが呟いた。
討伐隊の編成。
素材の収集。
加工と販売。
交易路の確保。
どれも一朝一夕には実現しない。
「今すぐダナを救えるわけじゃない……」
ギズメルが静かに答えた。
「それでも、始めなければ何も変わらない」
「……そうだな」
キリトは頷いた。
「今は、できることをやろう」
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中立都市《ダナ》
一方、その頃。
ダナの酒場では、四人のプレイヤーが一人の情報屋を囲んでいた。
アスナ。
リズベット。
シリカ。
そして、ランスロット。
その中心にいるのは、鼠のような顔のメイクを施した情報屋《アルゴ》だった。
「……つまり、ダナの食料を守るクエストがあるのね?」
アスナが確認する。
「そういうことだナ」
アルゴは頷いた。
「ただし、普通の護衛クエストとは少し違うんだヨ」
アルゴがウィンドウを操作する。
四人の前に、クエスト情報が表示された。
《食料輸送防衛任務》
ダナの食料輸送隊を護衛し、指定された保管施設まで食料を運搬する。
輸送中、ヴェストリア王国およびオリエンタ帝国の部隊による襲撃が発生する可能性がある。
「ちょっと待ってよ!」
リズが声を上げた。
「両国から襲われるってこと!?」
「そういうことだナ」
「私たち、中立でしょうが!」
「中立だからこそ、どちらの国からも狙われるんだヨ」
アルゴは肩をすくめた。
「ダナの食料は、両国にとって喉から手が出るほど欲しいものだからナ」
シリカは不安そうに尋ねた。
「でも……NPCの兵士と戦って、大丈夫なんでしょうか?」
「そこが今回の特殊ルールなんだヨ」
アルゴが新しいウィンドウを開いた。
《中立防衛任務・特別交戦規定》
防衛任務を正式に受注したプレイヤーは、指定された戦闘区域内において、敵対するNPC兵士および敵対傭兵との交戦が許可される。
当該戦闘によるオレンジカーソル化は発生しない。
ただし、降伏状態にある対象への殺害行為は、重大な戦争犯罪として扱われる。
違反者は賞金首に認定される。
「……え?」
リズが目を丸くした。
「つまり、戦ってもオレンジにならないの?」
「そういうことだナ」
「NPCの兵士を倒しても?」
「交戦中なら問題ないヨ。ただし、相手が降伏した場合は別だ」
アルゴは指を一本立てた。
「HPが減少したNPC兵士が、武器を捨てて命乞いをすることがある。その状態で殺害すると、賞金首になる」
アスナは真剣な表情で頷いた。
「……なるほど」
「しかも、このルールはプレイヤーにも適用される」
「プレイヤーにも?」
「そうだヨ。戦闘中の敵対傭兵を倒しても犯罪判定は発生しない。でも、降伏した相手を殺害すれば賞金首になる」
シリカは胸を撫で下ろした。
「よかった……。ちゃんと降伏することができるんですね」
「ただし、降伏したふりをして攻撃を再開した場合は、降伏状態が解除されるからナ」
「それなら公平ね」
アスナが答えた。
ランスロットも頷く。
「戦場にも守るべき規律があるということだ」
アルゴはさらに説明を続けた。
「それと、もうひとつ。今回のクエストには面白い特典がある」
「特典?」
リズが身を乗り出した。
「宝具だヨ」
その言葉に、四人の表情が変わった。
「宝具!?」
「中立傭兵でも、正式に戦争関連クエストを受注している間は、宝具を獲得できるんだ」
アルゴが説明する。
「もちろん、使用もできる。ただし、従来のルールと同じで、イベント対象階層から遠方へ離脱すれば破損する」
「なるほど……」
アスナは考え込んだ。
「それと、中立傭兵にはもうひとつ選択肢がある」
「何?」
「手に入れた宝具を、好きな国家へ譲渡できるんだヨ」
「……譲渡?」
「そう。ヴェストリア王国でも、オリエンタ帝国でも構わない。ただし、正式な交渉が必要になる」
リズの目が輝いた。
「……つまり、高く売れるってこと!?」
「まあ、金銭での取引も可能だナ」
「やったじゃない!」
「リズ!」
アスナが呆れた声を上げた。
「冗談よ、冗談!」
しかし、アルゴは首を横に振った。
「冗談とも限らないんだヨ」
「え?」
「交渉条件は金銭だけじゃない。物資の供給、捕虜の解放、軍事行動の停止……いろいろな条件を提示できるらしい」
アスナの表情が変わった。
「……食料の徴発停止も?」
「交渉次第だナ」
アスナは黙り込んだ。
もし宝具を手に入れることができれば。
それを交渉材料にして、ダナの食料問題を解決できるかもしれない。
ただし、一方の国との約束が、もう一方の国を止める保証にはならない。
それでも、何もしないよりはいい。
「……面白いわね」
アスナが小さく呟いた。
リズが驚く。
「アスナ?」
「宝具を手に入れれば、戦争を止めるための交渉ができるかもしれない」
「……あんた、まさか」
「うん」
アスナは頷いた。
「このクエスト、受けましょう」
---
しかし、アルゴはそこで表情を引き締めた。
「……その前に、ひとつだけ注意してほしい情報がある」
「何?」
「オリエンタ帝国の部隊に、とんでもない奴が混じっているらしい」
「とんでもない奴?」
リズが首を傾げた。
アルゴはウィンドウを操作する。
そこには、巨大な両手剣を携えたNPC兵士の情報が表示されていた。
「こいつは帝国の精鋭兵らしいんだが……装備している武器が普通じゃない」
「普通じゃない?」
アスナが尋ねる。
「特殊な両手剣だヨ」
アルゴは一呼吸置いた。
そして、その名前を告げた。
《ダイムラー》。
「……え?」
アスナが息を呑んだ。
「それって……」
「そう。十の魔法宝具のひとつだヨ」
リズが思わず立ち上がった。
「ちょっと待って! 宝具って、あの宝具!?」
「そうだナ」
アルゴは頷いた。
「既にNPCが発見していると噂されていた両手剣。それが、オリエンタ帝国の兵士に渡っているらしい」
シリカは不安そうに尋ねた。
「その兵士も、ダナを襲うんですか?」
「情報が正しければナ」
酒場に沈黙が落ちた。
ただの護衛任務ではない。
宝具を持つ精鋭兵との戦闘。
しかも、相手を降伏させれば宝具を奪える可能性がある。
しかし、降伏した相手を殺害すれば賞金首になる。
そして、その宝具を巡って他の傭兵たちが参戦してくる可能性もあった。
ランスロットが静かに口を開いた。
「……なるほど。厄介な任務だな」
「ええ」
アスナは頷いた。
「でも、やるしかないわ」
「本気?」
リズが尋ねる。
アスナは仲間たちを見渡した。
「こっこさんたちも、きっと何かを考えて動いているはずよ」
「まあ、あのおっさんならね……」
リズが苦笑する。
「でも、あの人たちが何をしていても、今この瞬間にダナの食料が奪われていることは変わらない」
アスナは細剣の柄に手を添えた。
「だったら、私たちが守りましょう」
シリカが小さく拳を握った。
「私も頑張ります!」
ランスロットも頷く。
「私も同行しよう」
リズはため息をついた。
「はあ……しょうがないわね。こうなったら、とことん付き合うわよ!」
アルゴはにやりと笑った。
「決まりだナ」
アスナはクエスト受注ウィンドウに指を伸ばした。
《食料輸送防衛任務》
受注しますか?
YES / NO
迷うことなく、YESを選択する。
軽快な効果音。
四人の視界に、新たなクエストアイコンが表示された。
そして――。
《中立防衛任務・参加資格確認》
《特別交戦規定:適用》
《魔法宝具獲得資格:有効》
アスナは静かに息を吐いた。
「……行きましょう」
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同じ頃。
オリエンタ帝国の城塞都市《ダムル》。
その兵舎では、一人の兵士が巨大な両手剣を手にしていた。
刀身には、通常の武器とは異なる紋様が刻まれている。
《ダイムラー》。
魔法宝具のひとつ。
兵士は剣を鞘に収めると、上官の前で膝をついた。
「ダナへの出撃命令、確かに承りました」
「うむ。食料輸送隊を確保せよ」
「はっ!」
兵士は立ち上がった。
その顔に、迷いはなかった。
彼にとって、この戦争は国家と民を守るための戦いだった。
食料がなければ、帝国の民が飢える。
だからこそ、剣を取る。
それが、たとえ他国の民を苦しめる結果になろうとも。
兵士は巨大な両手剣を背負い、兵舎を後にした。
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西では、こっこが大地を耕そうとしていた。
東では、キリトが交易によって食料を確保しようとしていた。
そして中央では、アスナたちが食料を守るために剣を抜こうとしていた。
生産。
交易。
防衛。
三つの異なる方法が、ひとつの問題を解決するために動き始めていた。
しかし、その裏では――。
十の魔法宝具を巡る争奪戦が、静かに激しさを増していた。
第十二層《ダナ》。
黄金色の穀倉地帯に、再び戦火が迫る。
そして、その戦場には。
まだ誰も予想していなかった傭兵たちが、集まり始めていた。