エンジニアのSAO Progressive ~NPCが売ってないなら作ればいい~   作:Edward

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126 戦場では、何が起こるかわからない

第十二層 ダナ ――戦火の穀倉地帯――

 

黄金色の麦穂が、風に揺れていた。

 

遠くには緩やかな丘陵が続き、その斜面を利用した段々畑が広がっている。

 

風車が回り、水車が小川の流れに合わせて規則正しく音を立てる。

 

本来ならば、ここは穏やかな農村地帯であったはずだ。

 

しかし、今は違う。

 

ヴェストリア王国とオリエンタ帝国。

 

二つの国家に挟まれた穀倉地帯《ダナ》は、双方から食料の供出を要求され、疲弊していた。

 

農民たちが丹精込めて育てた作物は、収穫されるそばから兵士たちに運び去られる。

 

それだけではない。

 

互いの国へ輸送される食料を、相手国の軍勢が襲撃して奪い合う。

 

もはや農民にとって、どちらが勝とうと関係なかった。

 

ただ、自分たちの食べるものだけは残してほしい。

 

そんな切実な願いすら、戦争という巨大な歯車の前では踏みにじられていた。

 

そして今。

 

そのダナに、再び戦火が迫っていた。

 

◇ ◇ ◇

 

「……来たわ!」

 

町外れの見張り台から、アスナが声を上げた。

 

その視線の先。

 

黄金色の麦畑を横切る街道に、赤い軍旗が見えた。

 

オリエンタ帝国。

 

赤を基調とした軍装に身を包んだ兵士たちが、隊列を組んで進軍してくる。

 

数は決して多くない。

 

しかし、その隊列の中央には、明らかに異質な存在がいた。

 

「……あれね」

 

アスナが目を細める。

 

周囲の兵士より一回り大きな体格。

 

重厚な鎧を身にまとい、その背には巨大な両手剣が担がれていた。

 

通常の両手剣とは、明らかに異なる意匠。

 

刀身には複雑な紋様が刻まれ、陽光を浴びて鈍い輝きを放っている。

 

「間違いないわ。あれが宝具《ダイムラー》ね」

 

リズベットが興奮を隠せない様子で声を上げた。

 

「うわぁ……本当に大きいですね」

 

隣でシリカが息を呑む。

 

「でも、あんな大きな剣を振り回せるんでしょうか?」

 

「普通の武器だったら、相当な筋力値が必要でしょうね。でも、あれは宝具よ。見た目だけで性能を判断するのは危険だわ」

 

リズベットは鍛冶師としての視点から、慎重に分析していた。

 

その横で、ランスロットが静かに口を開く。

 

「問題は、剣の大きさではありません」

 

「え?」

 

「その武器を扱う者が、どれほどの技量を持っているかです」

 

ランスロットの視線は、宝具そのものではなく、それを背負う帝国兵へと向けられていた。

 

「……なるほどね」

 

アスナは頷いた。

 

確かに、宝具を奪うことができれば大きな成果になる。

 

しかし、そのために無謀な戦闘を仕掛けるつもりはなかった。

 

今回、彼女たちが受注したのは、ダナの食料防衛クエスト。

 

町と農地、そして住民たちを守ることが第一の目的である。

 

「よーし! いっちょ派手にやってやるか!」

 

背後から威勢のよい声が響いた。

 

振り返れば、深緑の刀《Forest Kagura》を腰に差したクラインが、肩を回しながら歩いてくる。

 

「クラインさん。今回は敵を倒すことだけが目的じゃありませんよ」

 

「分かってるって! 食料を守るんだろ?」

 

「それと、できる限り死者を出さないことです」

 

アスナの言葉に、クラインは一瞬だけ真顔になった。

 

「ああ。そうだったな」

 

この世界では、HPがゼロになれば本当に死ぬ。

 

敵がNPCであろうと、戦争に参加したプレイヤーであろうと、その事実は変わらない。

 

だからこそ、安易に剣を振るうわけにはいかなかった。

 

「それにしても……」

 

リズベットが遠くの軍勢を眺めながら呟いた。

 

「まさか、あたしたちが戦争に参加することになるなんてね」

 

「そうですね……」

 

シリカも複雑な表情を浮かべる。

 

「最初は、食料を守るだけのクエストだと思っていたんですけど……」

 

「その認識で間違っていないよ」

 

穏やかな声が割って入った。

 

ディアベルだった。

 

「俺たちは戦争に勝つためにここへ来たんじゃない。ダナの人たちを守るために来たんだ」

 

そう言って、彼は街道へと視線を戻す。

 

「ただし、相手が武力で食料を奪おうとするなら、戦わなければならない」

 

その表情には、攻略組を率いてきた指揮官としての覚悟があった。

 

◇ ◇ ◇

 

一方、その頃。

 

第十二層の迷宮区では、攻略組が着々と進軍を続けていた。

 

先頭に立つのは、ヒースクリフ。

 

その安定した剣と盾の戦闘技術は、攻略組の誰もが認めるところとなっていた。

 

「前衛、敵を引き付けろ。後衛は無理に前へ出る必要はない」

 

ヒースクリフの冷静な指示が飛ぶ。

 

「おらおら! こっちも負けてられへんで!」

 

キバオウが率いる部隊が、側面から敵を押し込んでいく。

 

その後方では、エギルが大斧を構え、味方の防御が崩れないよう支えていた。

 

《KBO》

 

《TPO》

 

そして《エンジニア》をはじめとする攻略ギルド。

 

それぞれが役割を分担し、迷宮区の探索を進めている。

 

もっとも、《エンジニア》の全員がここにいるわけではなかった。

 

一部のメンバーは、こっこに引き連れられ、ヴェストリア王国の農地開拓へと向かっていたのである。

 

迷宮区の攻略。

 

農地の開拓。

 

そして、ダナの食料防衛。

 

第十二層に到達したプレイヤーたちは、それぞれ異なる目的を持って行動していた。

 

誰もが、自分たちの選択こそが、この世界を前へ進めると信じていた。

 

だが、その選択が、やがて互いに大きな影響を及ぼすことになるとは……。

 

まだ、誰も知らなかった。

 

◇ ◇ ◇

 

ダナの防衛線。

 

「帝国軍、停止しました!」

 

見張りのNPCから報告が飛ぶ。

 

アスナは街道へ目を向けた。

 

帝国軍は町の手前で隊列を整え、槍兵を前面に展開していた。

 

後方には弓兵。

 

そして中央には、宝具《ダイムラー》を背負った重装兵。

 

明らかに、戦闘を想定した陣形である。

 

「交渉する気は……なさそうね」

 

アスナが呟く。

 

「まだ分からないよ」

 

ディアベルが答えた。

 

「まずは要求を聞こう。相手が引き返してくれるなら、それに越したことはない」

 

「そうですね」

 

アスナも頷いた。

 

やがて、帝国軍の隊列から一人の騎兵が進み出る。

 

「ダナの者たちに告ぐ!」

 

張り上げられた声が、麦畑に響き渡った。

 

「我々はオリエンタ帝国軍である! 帝国への供出予定である食料を引き渡せ!」

 

町の防衛に参加していたNPC兵士が声を張り上げる。

 

「その食料は、既に町の住民へ分配することが決まっている! これ以上、渡すものなどない!」

 

「ならば、力ずくで徴発するまでだ!」

 

帝国軍の指揮官が腕を振り上げた。

 

槍兵たちが、一斉に武器を構える。

 

その瞬間。

 

アスナの視界に、半透明のシステムウインドウが浮かび上がった。

 

《防衛クエスト:ダナの穀倉を守れ》

 

《敵対勢力の侵攻を確認》

 

《防衛戦闘フェーズへ移行します》

 

「……始まる!」

 

アスナは細剣を抜き放った。

 

その隣で、クラインが刀を構える。

 

リズベットは戦槌を肩に担ぎ、シリカはピナを呼び寄せた。

 

ディアベルは盾を前に出し、ランスロットは静かに剣を抜く。

 

「みんな、聞いて!」

 

アスナの声が響く。

 

「私たちの目的は、町と食料を守ること! 敵兵を無理に追撃する必要はないわ!」

 

一同が頷く。

 

「降伏した相手には攻撃しないこと! そして、プレイヤーが敵軍に紛れている可能性もあるから、絶対に油断しないで!」

 

この戦争イベントでは、正式な防衛クエスト中の指定戦闘に限り、敵国のNPC兵や傭兵を攻撃しても犯罪者にはならない。

 

しかし、それは何をしても許されるという意味ではなかった。

 

降伏した者や、命乞いをする者を殺害すれば、賞金首として扱われる。

 

戦闘中であっても、守らなければならない一線が存在していた。

 

「それから……」

 

アスナは中央の重装兵を見据えた。

 

「あの宝具を持った兵士。できれば生け捕りにしたいわ」

 

「へへっ! そいつは腕が鳴るぜ!」

 

クラインが笑う。

 

「でも、無茶はしないでくださいね!」

 

シリカが釘を刺す。

 

「分かってるって!」

 

「クラインさんの『分かってる』って、あまり信用できないんですけど……」

 

「ひでえな、おい!」

 

緊張した空気の中に、わずかな笑いが生まれた。

 

その様子を見て、ディアベルは小さく微笑んだ。

 

「よし。前衛は俺とランスロット、クラインが中心になる。アスナは遊撃と全体の指揮を頼む」

 

「了解!」

 

「リズベットとシリカは、町側の防衛を優先してくれ。敵が突破してきた場合は、無理に追わずに食い止めるんだ」

 

「任せなさい!」

 

「はい!」

 

ランスロットが静かに前へ進み出た。

 

その視線は、帝国軍の中央に向けられている。

 

「……あの重装兵は、私が引き受けましょう」

 

「一人で大丈夫なの?」

 

アスナが尋ねる。

 

「まずは相手の技量を確かめます。宝具の能力が分からない以上、全員で飛び込むのは危険です」

 

ディアベルも頷いた。

 

「そうだね。まずは様子を見よう」

 

その時だった。

 

帝国軍の中央で、重装兵がゆっくりと背中の大剣を抜いた。

 

巨大な刀身が陽光を反射する。

 

そして、地面へ向けて構えられた。

 

「……!」

 

ランスロットの表情が変わった。

 

「全員、警戒を!」

 

次の瞬間。

 

帝国軍の指揮官が剣を振り下ろした。

 

「進めぇぇぇっ!!」

 

鬨の声が上がる。

 

赤い軍旗が翻り、槍兵たちが一斉に前進を開始した。

 

それに呼応するように、ダナの防衛兵たちも武器を構える。

 

黄金色の麦畑を挟んで、二つの軍勢が激突しようとしていた。

 

アスナは細剣を握り直した。

 

(……絶対に守ってみせる)

 

町の人々の生活。

 

収穫された食料。

 

そして、共に戦う仲間たち。

 

そのすべてを守るために。

 

「防衛隊、戦闘開始!!」

 

アスナの号令が響いた。

 

こうして――。

 

第十二層《ダナ》における、最初の本格的な防衛戦が幕を開けた。

 

そして、この戦いは攻略組とは別の場所で、中立傭兵たちが戦争の当事者となる、大きな転換点でもあった。

 

彼女たちが狙うのは、帝国軍の制圧。

 

そして、両手剣の宝具《ダイムラー》。

 

だが、その剣に秘められた能力を、まだ誰も知らなかったのである。

 

 

 

 

黄金色の麦畑を吹き抜ける風が、戦場に舞う土煙を押し流していく。

 

 ダナの穀倉地帯。

 

 オリエンタ帝国軍の侵攻を食い止めるべく、アスナたち中立傭兵は必死の防衛戦を繰り広げていた。

 

 その戦場の一角で、ひときわ激しい金属音が響き渡る。

 

「おらあああっ!!」

 

 クラインが気合とともに踏み込んだ。

 

 対峙するのは、オリエンタ帝国の重装兵。

 

 その手には、通常の両手剣とは明らかに異なる威圧感を放つ巨大な剣が握られていた。

 

 魔法宝具《ダイムラー》。

 

 すでに帝国軍が発見し、実戦投入していた十の魔法宝具の一つである。

 

「へっ! 図体ばっかりでけえ剣を振り回しやがって!」

 

 クラインは軽口を叩きながらも、その目は真剣だった。

 

 両手剣は一撃の威力に優れる反面、振り抜いた後に大きな隙が生じる。

 

 対するクラインの得物は片刃の刀。

 

 間合いを見極め、相手の攻撃を誘い、踏み込んだところを斬る。

 

 これまでの攻略で培ってきた経験が、彼の動きを支えていた。

 

「クライン! 無理に打ち合うな!」

 

 少し離れた場所からディアベルの声が飛ぶ。

 

「わかってらあ!」

 

 重装兵が《ダイムラー》を振りかぶった。

 

 クラインはすかさず横へ跳ぶ。

 

 直後、巨大な刀身が地面を叩き、土煙を巻き上げた。

 

「そこだっ!」

 

 クラインの刀が重装兵の脇腹を捉える。

 

 鮮やかな斬撃エフェクト。

 

 帝国兵のHPがわずかに減少した。

 

 しかし、相手は怯まない。

 

 重い鎧に守られた巨体が、そのまま反撃に転じた。

 

「ちっ! 硬えな!」

 

 クラインは距離を取り直す。

 

 相手の攻撃を避け、隙を突く。

 

 それを繰り返していけば、いずれ勝機は訪れる。

 

 そう判断していた。

 

 だが――。

 

 重装兵が突如、これまでとは異なる軌道で大剣を振るった。

 

「なっ!?」

 

 横薙ぎから、強引に切り返す一撃。

 

 完全には回避できない。

 

 クラインは咄嗟に愛刀を構えた。

 

 受け流す。

 

 まともに受け止めるのではなく、刀身を斜めにして威力を逃がす。

 

 幾度となく繰り返してきた防御動作だった。

 

 しかし。

 

 ――ガキィィィィン!!

 

 耳をつんざくような異音が響いた。

 

「……は?」

 

 クラインの視界に、見慣れないシステムメッセージが浮かび上がる。

 

《Weapon Destruction》

 

《装備武器の耐久値が消失しました》

 

《修復不可能》

 

「……おい」

 

 クラインの声が震えた。

 

 手にしていた刀身に、赤い亀裂が走る。

 

「おいおい……待てよ……!」

 

 深緑の鞘。

 

 エルフの意匠が施された、美しい片刃刀。

 

 第八層のボス戦で、ラストアタックボーナスとして手に入れた愛刀。

 

 《Forest Kagura》。

 

 その刀身が、音を立てて砕け始めた。

 

「嘘だろ……!?」

 

 クラインは必死に柄を握り締める。

 

 だが、無情にも亀裂は広がり続けた。

 

 パキンッ!

 

 最後の破砕音とともに、愛刀は無数のポリゴン片となって霧散した。

 

「……マジかよ」

 

 手の中に残った感触すら消えていく。

 

 クラインは呆然と立ち尽くした。

 

 単なる耐久値の減少ではない。

 

 修理も、鍛え直しもできない。

 

 完全な消滅。

 

 それこそが魔法宝具《ダイムラー》に秘められた特殊能力だった。

 

 ――武器破壊。

 

 刃を交えた相手の武器を、修復不可能な状態にまで破壊する。

 

 その能力を知らなかったクラインは、いつも通りの防御を選択してしまったのである。

 

「クライン!!」

 

 ディアベルの叫びが響いた。

 

 重装兵は武器を失ったクラインに向けて、再び大剣を振り上げようとしていた。

 

 だが、その動作は一瞬遅れた。

 

 《ダイムラー》による武器破壊。

 

 圧倒的な効果の代償なのか、重装兵の動きがわずかに硬直していたのだ。

 

 そして。

 

 その隙を見逃すディアベルではなかった。

 

「そこだあああっ!!」

 

 青い閃光が走る。

 

 ディアベルが一気に間合いを詰めた。

 

 重装兵の側面へ回り込み、剣を振り抜く。

 

 ――ザシュッ!!

 

 鮮烈な斬撃が重装兵の胴を捉えた。

 

 さらに一歩。

 

 反撃を許さず、連続攻撃を叩き込む。

 

「はあああっ!!」

 

 最後の一撃が重装兵の肩口に炸裂した。

 

 帝国兵のHPバーが黄色から赤へと変化する。

 

 レッドゾーン。

 

 あと一撃で命を落としかねない危険域だった。

 

「武器を捨てろ! これ以上の抵抗は無意味だ!」

 

 ディアベルが剣先を突きつける。

 

 重装兵は苦しげに呻きながらも、《ダイムラー》を握り締めていた。

 

 だが、ディアベルは退かない。

 

「降伏しろ! 命までは取らない!」

 

 周囲では帝国兵と防衛側の傭兵が激しくぶつかり合っている。

 

 その中心で、両者の視線が交錯した。

 

 やがて。

 

 ガランッ!

 

 重い金属音が響いた。

 

 重装兵が《ダイムラー》を地面へ落としたのだ。

 

 頭上に降伏を示すアイコンが出現する。

 

 ディアベルは慎重に距離を詰め、地面に落ちた大剣を回収した。

 

 直後。

 

《Magic Relic Acquired》

 

《ダイムラー》

 

 新たな魔法宝具の所有者が決定した。

 

「……確保した!」

 

 ディアベルが叫ぶ。

 

 その声が、戦場に響き渡った。

 

「ディアベルさん! やりましたね!」

 

 シリカの歓声が上がる。

 

「よっしゃあ! 形勢逆転よ!」

 

 リズも拳を握り締めた。

 

 アスナは周囲の帝国兵の動きを見据え、即座に指示を飛ばす。

 

「敵の主力が動揺しているわ! 深追いはしないで! 防衛線を維持して!」

 

 その判断は的確だった。

 

 魔法宝具を失ったことで、オリエンタ帝国軍の勢いは明らかに衰えていた。

 

 やがて、後方から撤退を告げる角笛が鳴り響く。

 

 ――ブオオオオオッ!!

 

「撤退! 撤退せよ!」

 

「負傷者を回収しろ!」

 

「隊列を崩すな!」

 

 帝国兵たちが次々と後退を開始する。

 

 アスナたちは追撃を控え、食料倉庫と輸送路の防衛を優先した。

 

 こうして、ダナを襲ったオリエンタ帝国軍の侵攻は退けられたのである。

 

 だが。

 

 勝利の歓声が上がる中、一人だけ俯いたままの男がいた。

 

「……あーあ」

 

 クラインだった。

 

 腰に手を伸ばす。

 

 そこにあるはずの愛刀は、もう存在しない。

 

「せっかく……いい刀だったのによ」

 

 その声には、いつもの威勢がなかった。

 

 ディアベルが歩み寄る。

 

「クライン……」

 

「いや、わかってる。戦場だもんな。武器が壊れることだってあるさ」

 

 クラインは無理に笑ってみせた。

 

「けどよ……あいつとは、結構長い付き合いだったんだぜ?」

 

 深緑の刀身を思い浮かべる。

 

 幾度もの戦闘をともに切り抜けてきた。

 

 自分の戦い方を支えてくれた相棒だった。

 

「……最後くらい、ちゃんと見送ってやりたかったな」

 

 ディアベルは何も言えなかった。

 

 彼もまた、戦士にとって愛用の武器がどれほど大切な存在なのかを知っていたからだ。

 

 やがてクラインは顔を上げる。

 

「ま、いいさ!」

 

 自分の頬を軽く叩き、いつもの調子を取り戻そうとする。

 

「俺の刀一本で、あんな物騒な宝具を奪えたんだ! 安いもんだろ!」

 

「……クライン」

 

「それによ、ディアベル。おめえが敵を倒してくれなかったら、俺まで死んでたかもしれねえ」

 

 クラインは右手を差し出した。

 

「ありがとな。助かったぜ!」

 

 ディアベルはその手を握り返した。

 

「こちらこそ。君があの兵士を引き付けてくれたからこそ、奪取できたんだ」

 

 二人は力強く握手を交わした。

 

 しかし、ディアベルの視線は、手にした巨大な両手剣へと向けられていた。

 

 《ダイムラー》。

 

 刃を交えただけで、相手の武器を修復不可能な状態に破壊する魔法宝具。

 

 もし、この能力を持つ武器がプレイヤー同士の戦闘に持ち込まれたら……。

 

 武器の性能だけでなく、積み重ねてきた時間さえ一瞬で奪い去る。

 

 ディアベルは静かに息を吐いた。

 

「……とんでもないものを手に入れてしまったな」

 

 その呟きは、勝利に沸く仲間たちの歓声にかき消された。

 

 ダナの防衛戦は勝利に終わった。

 

 しかし、この戦いで明らかになった《ダイムラー》の恐るべき能力は、やがて戦争イベントに参加するすべてのプレイヤーに、新たな恐怖をもたらすことになるのだった。

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