エンジニアのSAO Progressive ~NPCが売ってないなら作ればいい~   作:Edward

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129 《夜桜(Moonlit Blossom)》

第234話 夜桜(Yozakura)

 

第十二層《ダナ》。

 

黄金色の麦畑が広がる穀倉地帯。

 

いつもなら風車がゆっくりと回り、収穫を喜ぶ人々の声が聞こえる町だった。

 

しかし、今は違う。

 

広場には重苦しい沈黙が漂っていた。

 

ヴェストリア王国の傭兵部隊による侵攻。

 

そして、降伏したプレイヤー三名を、ジョニー・ブラックという男が殺害した事件。

 

戦争イベントの規則を逸脱したその行為は、システムによって賞金首として認定された。

 

しかし――。

 

そんな裁定が下ったところで、失われた命が戻ってくるわけではない。

 

ダナの防衛に参加した者たちは、誰もが疲弊していた。

 

特に、目の前でプレイヤーの命が消える瞬間を目撃したアスナ、リズベット、シリカの三人は、宿屋の一室から出られなくなっていた。

 

そんな話を聞きつけ、ダナへと駆けつけた二人のプレイヤーがいた。

 

「……ひどい話だな」

 

キリトは拳を握り締めた。

 

隣に立つこっこも、いつもの飄々とした表情を消していた。

 

「そうだね。降伏して、武器を捨てて、それでも殺された……。そんなことが許されるなら、誰も降伏なんてできなくなる」

 

「……ああ」

 

「キリト君。アスナさんのところへ行ってあげなよ」

 

「え?」

 

「彼女、きっと君の顔を見たら安心すると思うよ」

 

キリトは少しだけ目を伏せた。

 

かつて共に戦い、互いの背中を預けてきた相棒。

 

今は進む道を違えた二人だったが、それまでの時間が消えたわけではない。

 

「……わかった」

 

キリトは静かに頷いた。

 

「僕はリズさんとシリカちゃんのところに行ってくるよ」

 

こっこはそう言って、いつもの柔らかな笑みを浮かべた。

 

---

 

宿屋の一室。

 

アスナは窓辺の椅子に座り、ぼんやりと外を眺めていた。

 

ノックの音が響く。

 

「……どうぞ」

 

扉が開いた。

 

「アスナ」

 

「……キリト君?」

 

彼の姿を認めた瞬間、アスナの瞳がわずかに揺れた。

 

「聞いたよ。大変だったんだってな」

 

「……うん」

 

キリトは彼女の向かいに椅子を引き、腰を下ろした。

 

しばらく、二人の間に沈黙が流れた。

 

「私ね……」

 

先に口を開いたのはアスナだった。

 

「敵のプレイヤーたちが降伏してくれたとき、ほっとしたの」

 

「……ああ」

 

「誰も死なずに終われるって。戦争イベントでも、話し合いで解決できるんだって……」

 

アスナの声が震える。

 

「なのに……あんな……」

 

膝の上で握り締めた両手が、小刻みに震えていた。

 

「私、何もできなかった……」

 

キリトはすぐには答えなかった。

 

彼自身も、あの場にいなかったことを悔やんでいた。

 

しかし、それを口にしたところで、アスナの心が軽くなるわけではない。

 

「アスナ」

 

「……なに?」

 

「君たちは、三人を助けようとしたんだろ?」

 

「……うん」

 

「だったら、それは間違っていない」

 

アスナが顔を上げた。

 

「結果がどうなったとしても、君たちが命を守ろうとしたことまで間違いになるわけじゃない」

 

「でも……」

 

「俺だって、あの場にいたら止められたかどうかわからない」

 

キリトは静かに続けた。

 

「だから、自分だけを責めるなよ」

 

その言葉に、アスナの目から涙がこぼれた。

 

「……ありがとう、キリト君」

 

「……ああ」

 

キリトは少し照れくさそうに視線を逸らした。

 

二人の道は、今は違う。

 

それでも、互いを思いやる気持ちまで失ったわけではなかった。

 

---

 

一方、その頃。

 

宿屋の食堂では――。

 

「さあさあ! お待たせしました!」

 

こっこが大きな鍋を抱えて現れた。

 

「本日の特製料理! 野菜たっぷり、鶏肉ゴロゴロ、心も身体も温まるクリームシチューでございます!」

 

「……こっこさん?」

 

リズベットが呆気に取られた顔をする。

 

「どうして料理を……?」

 

「そりゃあ、君たちが元気ないって聞いたからね」

 

こっこは湯気の立つシチューを器によそった。

 

「はい、シリカちゃん。パンもあるよ」

 

「……ありがとうございます」

 

シリカは両手で器を受け取った。

 

温かな湯気が頬を撫でる。

 

スプーンを口に運ぶと、柔らかく煮込まれた野菜と鶏肉の旨味が広がった。

 

「……おいしい」

 

小さな声だった。

 

しかし、それを聞いたこっこは嬉しそうに笑った。

 

「おっ、よかった!」

 

リズも一口食べる。

 

「……あったかい」

 

「うんうん。温かいものを食べると、少し落ち着くでしょ?」

 

こっこは二人の向かいに腰を下ろした。

 

「……こっこ」

 

リズがぽつりと呟く。

 

「私たち、怖かったのよ」

 

「うん」

 

「戦うのが怖いんじゃない。目の前で人が死んで……それが、あまりにも簡単で……」

 

こっこは黙って耳を傾けた。

 

「ゲームなのに……人が、本当に死んじゃうのよね」

 

「……そうだね」

 

こっこは静かに頷いた。

 

「だからこそ、僕たちは命を大事にしないといけないんだと思う」

 

「……うん」

 

「怖いと思うのは、悪いことじゃないよ。むしろ、怖いと思えなくなったときのほうが、僕は心配だな」

 

シリカが顔を上げた。

 

「こっこさんも……怖いんですか?」

 

「そりゃあ、怖いよ!」

 

即答だった。

 

「僕なんて、毎日怖いことだらけだよ。ボスは強いし、サタンは暴走するし、リズさんには怒られるし!」

 

「最後のは自業自得でしょ!」

 

思わずリズが突っ込んだ。

 

こっこは大袈裟に胸を押さえる。

 

「ひどい! 傷ついた僕の心を誰が癒やしてくれるんだ!」

 

「知らないわよ!」

 

「ふふっ……」

 

シリカが小さく笑った。

 

その笑顔を見て、こっこは満足そうに頷いた。

 

「うん。それでいいんだよ」

 

そして、少しだけ真面目な顔になる。

 

「無理に元気になる必要はない。でもね、悲しいことがあったからって、楽しいことまで全部捨てなくていいんだ」

 

リズとシリカは黙って聞いていた。

 

「美味しいものを食べて、笑って、また明日を迎える。それだって、立派に生きている証拠なんだから」

 

「……こっこさん」

 

シリカはもう一口、シチューを食べた。

 

今度は、先ほどよりも少しだけ大きな一口だった。

 

---

 

夕方。

 

「おーい! 腹減ったぞー!」

 

食堂へやってきたクラインが、鼻をひくつかせた。

 

「おっ、なんだこのいい匂い!」

 

「お帰りなさい、クラインさん!」

 

シリカが笑顔で迎えた。

 

「今日はこっこさんの特製シチューですよ!」

 

「おおっ! そいつはありがてえ!」

 

続いてディアベルも姿を見せる。

 

「ずいぶん賑やかだね」

 

「ディアベルさんも、どうぞ!」

 

リズが器を差し出した。

 

「……ありがとう」

 

ディアベルは少し驚いたように笑った。

 

彼もまた、今回の防衛戦で心を痛めていた一人だった。

 

降伏者を守れなかった責任。

 

自分が指揮を執っていながら、悲劇を防げなかったという後悔。

 

しかし、温かい料理を囲んで仲間たちと会話を交わしているうちに、張り詰めていた気持ちが少しずつ和らいでいった。

 

「……美味しいね」

 

「でしょ!」

 

こっこが胸を張る。

 

「料理は愛情! そしておかわり自由!」

 

「おっしゃ! じゃあ三杯目!」

 

「クライン君、食べ過ぎ!」

 

「お前が自由って言ったんだろうが!」

 

食堂に笑い声が響いた。

 

誰もが、あの事件を忘れたわけではない。

 

それでも、こうして再び笑える時間が戻ってきた。

 

こっこはその光景を見つめ、ようやく安堵の息をついた。

 

---

 

翌朝。

 

ダナの鍛冶工房。

 

こっことキリトは、工房の一角で向かい合っていた。

 

「……クラインの刀、完全に消失したんだって?」

 

キリトが尋ねる。

 

「ああ。ダイムラーを受け止めたときにね。耐久値が一気に削られて、砕け散ったらしい」

 

「《Forest Kagura》か……」

 

キリトは腕を組んだ。

 

第八層のボス戦でクラインが手に入れた、ラストアタックボーナスの刀。

 

突出した攻撃力こそなかったが、状態異常への耐性補正を持つ優秀な武器だった。

 

「惜しいことをしたな……」

 

「そうだね。でも、クライン君自身が無事だったのが何よりだよ」

 

「……ああ」

 

キリトはしばらく考え込んでいたが、やがてアイテムウインドウを開いた。

 

「こっこさん。ひとつ、提案があるんだ」

 

「ん?」

 

「これを使えないかな」

 

取り出されたのは、一振りの片手剣だった。

 

黒みを帯びた深紅の刀身。

 

まるで夜の闇に炎を閉じ込めたような、不思議な輝きを放っている。

 

《クリムゾンダークネス》。

 

かつてキリトが眷属として戦っていた頃、ラストアタックボーナスとして手に入れた片手剣だった。

 

「おおっ! 懐かしいね!」

 

「今は別の武器を使っているし、ずっとストレージに眠らせていたんだ」

 

キリトは剣を見つめた。

 

「これを素材に戻して、クラインの刀を作れないかな?」

 

「……いいの?」

 

「いいんだ」

 

即答だった。

 

「クラインには、いろいろ世話になったからな」

 

その言葉に、こっこは小さく笑った。

 

「ふーん?」

 

「……なんだよ」

 

「いやいや。キリト君も、ずいぶん素直になったなあって」

 

「茶化すなよ!」

 

「はいはい!」

 

こっこは笑いながら剣を受け取った。

 

「でも、いい案だね。せっかくだから、とびきりの刀にしよう!」

 

---

 

「……で?」

 

リズベットは二人を睨んだ。

 

「また私に無茶振りするわけ?」

 

「お願い! リズさん!」

 

こっこが両手を合わせる。

 

「クライン君の新しい刀を作りたいんだ!」

 

「刀ぁ?」

 

「素材はこれ」

 

キリトが《クリムゾンダークネス》を差し出した。

 

リズはその刀身を見て目を見開いた。

 

「ちょっと! これ、相当なレア武器じゃない!」

 

「うん。だからこそ使いたいんだ」

 

「……あんた、本気?」

 

「ああ」

 

キリトは頷いた。

 

「クラインに渡したい」

 

リズはしばらくキリトを見つめていた。

 

そして、ふっと笑った。

 

「……わかったわよ」

 

腕まくりをする。

 

「そこまで言われたら、鍛冶屋の腕の見せどころじゃない!」

 

「よし!」

 

こっこもアイテムウインドウを開いた。

 

「じゃあ、僕からも素材を追加しよう!」

 

取り出したのは、銀白色に輝く希少金属。

 

《ミスリル》。

 

そして、淡い緑色の光を宿す風属性の素材だった。

 

「ミスリルで刀身を強化して、風の素材で《鋭さ補正》を付けたいんだ」

 

リズが興味深そうに素材を確認する。

 

「なるほどね……。攻撃力を単純に上げるんじゃなくて、斬撃の鋭さを高めるわけね」

 

「そういうこと!」

 

「でも、属性素材と金属の相性は難しいわよ?」

 

「そこは僕の出番!」

 

こっこはにやりと笑った。

 

「《永続魔法付与》を使う!」

 

「……ああ、そういうことね」

 

リズは納得したように頷いた。

 

「素材の属性を安定させてから鍛えれば、普通の合成よりも強い補正が期待できるわ」

 

「よし! じゃあ始めよう!」

 

---

 

鍛冶工房に、金属音が響き始めた。

 

まず、キリトの《クリムゾンダークネス》を素材へと還元する。

 

深紅の刀身が光の粒子となり、特殊な金属素材へと姿を変えた。

 

そこへ、こっこが用意したミスリルを加える。

 

「……綺麗ね」

 

リズが呟く。

 

溶け合う金属は、赤と銀の光を交互に放っていた。

 

続いて、風属性の素材を投入する。

 

「こっこ! 今よ!」

 

「了解!」

 

こっこが両手をかざした。

 

《永続魔法付与》。

 

淡い緑色の魔法陣が鍛冶台の上に展開される。

 

風の属性光が金属へと吸い込まれ、やがて銀白色の輝きの中へ溶け込んでいった。

 

「……よし、安定した!」

 

「上出来!」

 

リズが鍛冶ハンマーを振り上げた。

 

カァン!

 

甲高い金属音が工房に響く。

 

カァン! カァン!

 

何度も、何度も。

 

リズの額には汗が浮かんでいた。

 

鍛冶スキルの補正があるとはいえ、希少素材を組み合わせた高難度の製作だった。

 

失敗すれば、素材の大部分が失われる。

 

キリトもこっこも、余計な口を挟まなかった。

 

ただ、リズの仕事を見守っていた。

 

やがて――。

 

カァァン!

 

最後の一打が響いた。

 

眩い光が工房を満たす。

 

「……できた!」

 

リズが大きく息を吐いた。

 

鍛冶台の上には、一振りの刀が横たわっていた。

 

刀身は、夜の闇を思わせる深い黒。

 

しかし、光の角度によっては深紅の輝きが浮かび上がる。

 

刃先には、ミスリル特有の銀白色の光。

 

そして、刀身の表面には桜の花びらを思わせる淡い模様が刻まれていた。

 

「……すごい」

 

キリトが呟いた。

 

こっこも思わず身を乗り出す。

 

「おおおっ! これはいいね!」

 

リズは完成した刀を持ち上げた。

 

「名前は……どうする?」

 

三人は顔を見合わせた。

 

やがて、こっこが口を開いた。

 

「夜の闇に、桜が咲く……」

 

キリトが刀身を見つめる。

 

「……《夜桜》」

 

リズが微笑んだ。

 

「いい名前ね」

 

新たな刀。

 

《夜桜(Moonlit Blossom)》

 

深紅の片手剣から生まれ変わった、風の加護を宿す一振りだった。

 

---

 

その日の午後。

 

「おーい、クライン君!」

 

ダナの広場で、こっこが大きく手を振った。

 

「ん? なんだ?」

 

振り返ったクラインは、キリトとリズが一緒にいることに気づいた。

 

「……お前ら、どうしたんだ?」

 

「ちょっと渡したいものがあってね」

 

こっこはにやりと笑った。

 

「はい!」

 

差し出されたのは、一振りの刀。

 

黒い鞘に、深紅の組紐。

 

鍔には桜の花を模した装飾が施されていた。

 

「……なんだ、これ?」

 

「クライン君の新しい刀!」

 

「……は?」

 

クラインは目を丸くした。

 

「いや、ちょっと待て! 俺、こんなもん頼んでねえぞ!」

 

「まあまあ、抜いてみてよ」

 

促されるまま、クラインは刀を鞘から抜いた。

 

シャリン――。

 

澄んだ音が響く。

 

黒い刀身に、銀色の刃。

 

光の加減で浮かび上がる、深紅の桜模様。

 

「……おいおい」

 

クラインの声が震えた。

 

「なんだよ、これ……」

 

「《夜桜(Moonlit Blossom)》 って名前よ」

 

リズが胸を張った。

 

「私の自信作。ミスリルと風属性の素材を使って、こっこが永続魔法付与を施したの」

 

「……マジかよ」

 

「それから……」

 

キリトが一歩前に出た。

 

「元になった金属は、俺の《クリムゾンダークネス》なんだ」

 

「……え?」

 

クラインが顔を上げる。

 

「お前の……?」

 

「ああ。昔、ラストアタックで手に入れた剣だ」

 

「おいおい! そんな貴重なもん、俺なんかに使うなよ!」

 

「……いいんだ」

 

キリトは静かに笑った。

 

「クラインには、何度も助けてもらったから」

 

「……キリト」

 

「それに、あんたが武器を失ったままじゃ、俺も安心して戦えない」

 

クラインはしばらく黙っていた。

 

かつて第一層で出会った二人。

 

デスゲームが始まったあの日、キリトはクラインと別れることを選んだ。

 

その後も、互いに異なる道を歩み、時には考え方がぶつかることもあった。

 

しかし――。

 

こうして、また一緒に戦おうとしている。

 

クラインは刀を握り締めた。

 

「……ったく」

 

俯いたまま、鼻をすすった。

 

「お前って奴は……」

 

「クライン?」

 

「なんでもねえよ!」

 

乱暴に目元を拭う。

 

「ありがとな、キリト」

 

「……ああ」

 

クラインは刀を構えた。

 

軽い。

 

驚くほど軽い。

 

しかし、手応えはしっかりとしている。

 

「……ちょっと試していいか?」

 

「もちろん!」

 

こっこが笑った。

 

クラインは広場の訓練用の標的へ向き直った。

 

一歩踏み込む。

 

そして――。

 

「はあっ!」

 

一閃。

 

銀白色の軌跡が空間を走った。

 

風が鳴った。

 

次の瞬間、標的に深い斬撃痕が刻まれていた。

 

「……おおっ!」

 

クラインが目を見開く。

 

「なんだ、この切れ味!」

 

「《鋭さ補正》が効いているんだね!」

 

こっこが嬉しそうに頷く。

 

「風属性の魔法付与が、刃の斬撃性能を底上げしているのよ」

 

リズが説明した。

 

「ただし、どんな攻撃でも斬れるわけじゃないからね。ダイムラーみたいな宝具を正面から受け止めるのは厳禁!」

 

「お、おう!」

 

クラインは苦笑した。

 

「もう二度と、あんな無茶はしねえよ」

 

そして、改めて刀身を見つめた。

 

「……《夜桜》か」

 

黒い刀身に、淡い桜の模様が浮かんでいる。

 

「いい名前じゃねえか」

 

ゆっくりと鞘に納める。

 

「大事に使わせてもらうぜ」

 

キリトは頷いた。

 

「頼むよ」

 

こっこは二人を見比べて、満足そうに笑った。

 

「いやあ、青春だねえ!」

 

「……おっさん」

 

クラインが呆れた声を上げる。

 

「お前、そういうところで茶化すなよ!」

 

「えー! いいじゃない! 男同士の友情!」

 

「うるせえ!」

 

リズが吹き出した。

 

「もう! せっかくいい雰囲気だったのに!」

 

キリトも苦笑する。

 

しかし、その表情はどこか晴れやかだった。

 

---

 

夕暮れ。

 

ダナの風車が、ゆっくりと回っていた。

 

麦畑を渡る風が、町へと吹き込んでくる。

 

こっこは広場の片隅で、キリトと並んで空を見上げていた。

 

「……よかったね」

 

「ああ」

 

「アスナさんたちも、少し元気になったみたいだし」

 

「……そうだな」

 

キリトは静かに頷いた。

 

「でも、こっこさん」

 

「ん?」

 

「今回の事件、これで終わりじゃないと思う」

 

こっこは表情を引き締めた。

 

「……僕もそう思う」

 

ジョニー・ブラック。

 

そして、その背後にいる《ラフィン・コフィン》。

 

戦争イベントの仕組みを悪用し、プレイヤー同士を争わせようとする者たち。

 

「これからは、敵国の傭兵だからって単純に戦うわけにはいかないな」

 

キリトが呟く。

 

「うん。誰が本当の敵なのか、見極めないとね」

 

こっこは遠くの城塞を見つめた。

 

「だからこそ、今のうちにできることをやっておこう」

 

「……ああ」

 

新たな刀《夜桜》。

 

それは単なる武器ではなかった。

 

仲間を思いやる気持ちが形になった、一振りの刀。

 

そして、迫り来る新たな戦いに備える、小さな希望でもあった。

 

夕陽が沈み、ダナの町に夜の帳が下りていく。

 

その夜空の下で、クラインは新たな刀を腰に差し、静かに誓っていた。

 

――今度こそ、守ってみせる。

 

仲間を。

 

そして、二度と失いたくない命を。

 

《夜桜(Moonlit Blossom)》

 

その刀が本当の輝きを見せる日は、そう遠くないのかもしれなかった.

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