エンジニアのSAO Progressive ~NPCが売ってないなら作ればいい~   作:Edward

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14 エンジニアをつくる

第2層主街区《ウルバス》。

 

転移門が青白い光を放つ。

 

攻略組の一人が転移門をアクティベートしたことで、第1層《はじまりの街》との直通経路が開通した。

 

これまで第1層に留まっていたプレイヤーたちも、危険なフィールドを歩くことなく第2層へ来ることができる。

 

そして――。

 

「こっこー!」

 

聞き覚えのある声に振り返る。

 

転移門から現れた一団の先頭に、赤毛の少女がいた。

 

こっこ「おお、リズ!」

 

リズ「やっと来られたわよ、第2層!」

 

その後ろから、もう一人の小柄な少女が顔を出す。

 

シリカ「こっこさん、お久しぶりです!」

 

こっこ「シリカも! 無事だったんだね!」

 

彼女たちは、あの日――。

 

茅場晶彦によってデスゲーム開始が宣告され、《はじまりの街》が恐慌に包まれたとき。

 

突然、広場で肉を焼き始めた変な男の呼びかけに応じてくれた者たちだった。

 

後に一部の仲間から――。

 

《焼肉の誓い》

 

などという、ものすごく格好悪い名前で呼ばれることになる集まりである。

 

リズ「しかし、今思い出しても衝撃だったわね……」

 

こっこ「何が?」

 

リズ「あの焼肉事件よ!」

 

こっこ「事件!?」

 

リズ「世界初なんじゃない? デスゲーム宣告直後に『みんな肉食べよう!』って叫んだ人。」

 

シリカ「私、最初はこの人、大丈夫かなって思いました 」

 

こっこ「 」

 

だが。

 

あの時、こっこの呼びかけに残った者たちは、ただ絶望していたわけではなかった。

 

戦うことができなくても。

 

ゲームが得意でなくても。

 

自分たちにできることを探そうとした。

 

その中心にいた一人がリズベット――愛称《リズ》。

 

彼女は《クラフト》から派生した《鍛冶》を専門として選択。

 

こっこがフィールドから持ち帰った素材や攻略情報を利用しながら経験を積み、今では簡単な武器や防具なら一から作成できる職人へ成長していた。

 

そして、もう一人がシリカ。

 

彼女もリズと行動を共にし、《クラフト》から《裁縫》へ進んだ。

 

今着ている服も彼女自身の作品らしい。

 

こっこ「ほほう……」

 

シリカ「な、なんですか?」

 

こっこはシリカの服をじっと観察する。

 

こっこ「縫製がずいぶん上手くなったね。装備耐久値は?」

 

シリカ「そこを見るんですか!?」

 

リズ「女の子の服を見て最初に耐久値を聞く男、初めて見たわ。」

 

こっこ「だって装備品だろ!?」

 

リズ「はいはい、エンジニアエンジニア。」

 

こっこ「 」

 

だが、冗談を言っている場合でもない。

 

こっこは二人のステータスを確認して、表情を引き締めた。

 

こっこ「二人とも……レベルは十分だ。」

 

リズ「でしょ?」

 

こっこ「第2層でも活動できる。ただし――」

 

シリカ「ただし?」

 

こっこ「実戦経験が足りない。」

 

二人が黙る。

 

生産職でも経験値を得る方法はある。

 

素材加工。

 

アイテム作成。

 

クエスト。

 

そして生産行為そのもの。

 

だからこそ、彼女たちは危険な戦闘を避けながらここまでレベルを上げることができた。

 

しかし、それと実際にモンスターと対峙する技術は別だ。

 

こっこ「これから先、もっと上位の素材を手に入れようと思ったら、安全圏だけじゃ限界が来る。」

 

リズ「そうなのよね。同じ物を何度作っても、最近は経験値がほとんど入らないし。」

 

こっこ「だから、少しずつ活動範囲を広げよう。ただし無理はしない。」

 

シリカ「はい!」

 

こっこ「二人以外にも、十分なレベルまで育っている人がいたら声をかけてほしい。フィールドへ出られる人を少しずつ増やす。」

 

リズ「なるほどね。」

 

リズは腕を組む。

 

リズ「で、あんたはどうするの?」

 

こっこ「僕?」

 

リズ「攻略組と一緒に行くんでしょ?」

 

こっこ「いや。」

 

リズ「え?」

 

こっこ「今回の攻略組は、まず第2層のイベントやクエストをできるだけこなすことになったんだ。NPCから情報を集めて、ボスについて可能な限り調査してから攻略する。」

 

第一層で起きたこと。

 

イルファング・ザ・コボルドロード。

 

βテストから変更されていた武器。

 

そして――ディアベルの死。

 

その経験は、攻略組全体に大きな教訓を残した。

 

《βテストの情報だけを信用しない》。

 

この世界は変化している。

 

ならば、現在のアインクラッドに存在する情報を自分たちで集めなければならない。

 

こっこ「僕もクエストを回って情報を集める。」

 

リズ「ソロで?」

 

こっこ「ソロです。」

 

シリカ「キリトさんたちは?」

 

こっこ「キリト君とアスナさんはパーティーを組むみたい。」

 

リズ「じゃあ、あの……サタンさん?」

 

こっこの顔が曇った。

 

こっこ「一人がいいって…… 」

 

リズ「なんで泣いてるのよ。」

 

こっこ「だってあの人、武器持ってくれないんだもん……。」

 

シリカ「あはは…… 」

 

こっこ「第一層のボス戦でも素手だったんだぞ!?」

 

リズ「…………。」

 

シリカ「…………。」

 

こっこ「しかも最後、ダイナマイトキックだぞ!?」

 

リズ「なんで生きてるのよ、その人。」

 

こっこ「僕が聞きたい 」

 

しばしの沈黙。

 

やがてシリカが、くすっと笑った。

 

シリカ「じゃあ、私たち三人で行きませんか?」

 

こっこ「え?」

 

シリカ「私たちは実戦を教えてもらえます。それに三人なら、クエストも分担できますよね?」

 

リズ「賛成。」

 

リズが腰に手を当てる。

 

リズ「こっちも、いつまでも素材を持ってきてもらうだけじゃ職人として頭打ちになるしね。」

 

こっこ「……ありがとう。助かるよ。」

 

こうして。

 

剣士兼料理人兼クラフト職人。

 

鍛冶職人。

 

裁縫職人。

 

なんとも攻略最前線らしくない三人組が誕生した。

 

こっこ「それと、もう一つ。」

 

リズ「まだあるの?」

 

こっこ「二人が『この人ならできる』と思う人がいたら、どんどん紹介してほしい。」

 

シリカ「何をするんです?」

 

こっこはウルバスの街を見る。

 

第1層とは違う街。

 

新しい素材。

 

新しいNPC。

 

新しいクエスト。

 

これから上層へ進むたびに、必要となる技術も人材も増えていくだろう。

 

戦う人間だけでは、この世界は攻略できない。

 

武器を作る者。

 

防具を作る者。

 

食料を作る者。

 

素材を集める者。

 

修理する者。

 

情報を整理する者。

 

そして、それらを結びつける者。

 

こっこ「これから《エンジニア》という組織を作る。」

 

リズ「……組織?」

 

こっこ「うん。」

 

シリカ「ギルドみたいなものですか?」

 

こっこ「まだギルドシステムがどうなるか分からないから、最初はただの集まりでいい。でも最終的には――」

 

こっこは指を一本立てる。

 

こっこ「攻略組を支える、生産職の組織を作る。」

 

リズ「……あんた。」

 

こっこ「?」

 

リズ「もうギルドの予備構想まで考えてたの?」

 

こっこ「必要になると思って。」

 

リズ「あんた、本当に抜け目ないわね……。」

 

シリカ「壮大です 」

 

こっこ「大丈夫。」

 

胸を張る。

 

こっこ「最初は三人しかいないから!」

 

リズ「小っさ!!」

 

シリカ「壮大じゃなくなった!?」

 

こっこ「いやいや、何事も最初は小さいんだよ!」

 

リズ「その三人のうち二人、今勧誘したばっかりじゃない!」

 

こっこ「つまり創設メンバーだ✨」

 

リズ「言い方!!」

 

三人の笑い声が、ウルバスの街に響く。

 

この時はまだ誰も知らない。

 

《エンジニア》。

 

今は名簿すら存在しない、たった三人の小さな集まり。

 

それがやがて――。

 

攻略組とは異なる方法でアインクラッド攻略を支える、一大生産組織へと成長していくことを。

 

そして。

 

その第一歩は、剣でもボス攻略でもない。

 

リズ「それで、最初はどこ行く?」

 

こっこ「まずNPCからクエストを片っ端から聞こう。」

 

シリカ「はい!」

 

こっこ「それから第2層の素材を確認して――」

 

リズ「うん。」

 

こっこ「美味しく食べられるモンスターを探す✨」

 

リズ「結局それか!!」

 

シリカ「あはははっ!」

 

《エンジニア》設立――。

 

その最初の活動目的。

 

食材調査。

 

後にリズベットは語る。

 

「あの組織、最初から何かがおかしかったのよ」と。

 

 

 

転移門が開通し、攻略組や生産職のプレイヤーたちが新たな街へ次々と流れ込んでいた頃。

 

一人の男が、早々に街を出ていた。

 

サタンである。

 

しかも、攻略組が向かった方角とは違う。

 

南。

 

ウルバスから南へ進んだ先には、険しい山岳地帯が広がっている。

 

サタンは街を出る前、何人ものNPCに南の情報を尋ねていた。

 

「南? あっちには何もないよ」

 

「山ばっかりだ。行っても何もないぞ」

 

「何もないから、やめておいた方がいい」

 

誰に聞いても同じだった。

 

――何もない。

 

――何もない。

 

――何もない。

 

普通のプレイヤーなら、そこで探索候補から外すだろう。

 

しかし。

 

サタン「…………怪しい」

 

彼は違った。

 

長い人生経験が、サタンの勘に訴えかけていた。

 

本当に何もない場所なら――。

 

サタン「わざわざ全員に『何もない』と言わせる必要などない!」

 

何もないという情報が、妙に多い。

 

ならば――。

 

サタン「何かある✨️」

 

そう結論づけた。

 

ゲーム攻略のセオリーでも、βテスターから得た情報でもない。

 

ただの勘である。

 

こうしてサタンは攻略ルートから外れ、道なき道へと足を踏み入れた。

 

その途中――。

 

「ブモォォォォッ!!」

 

岩陰から飛び出した巨大な牛型モンスターが、前脚で地面を蹴った。

 

頭上に浮かぶカーソルは赤。

 

完全な敵性モンスターだ。

 

牛が一気に加速する。

 

だがサタンは避けない。

 

むしろ――。

 

サタン「来い!!」

 

真正面から走った。

 

「ブモォォォォッ!!」

 

ドドドドドドッ!!

 

激突寸前。

 

サタンの両腕が伸びた。

 

ガシィッ!!

 

牛の二本角を掴む。

 

サタン「うぬぬぬぬぬぬぬ !!」

 

ズザザザザッ!!

 

牛の突進に押され、サタンの両足が岩肌を滑った。

 

真正面から力比べをしている――ように見える。

 

だが。

 

サタン「今だ!!」

 

突然、サタンが自ら後方へ倒れ込んだ。

 

突進の力に逆らわない。

 

そのまま背中から地面へ転がりながら、牛の腹へ両足を差し込む。

 

サタン「スイング――スロォォォォッ!!」

 

「ブモォッ!?」

 

牛の巨体が宙を舞った。

 

自らの突進力を利用され、サタンの頭上を越えて一回転。

 

ドゴォォン!!

 

頭から岩場へ叩きつけられる。

 

牛のHPゲージが――一気に削れた。

 

そして。

 

パァンッ!!

 

青いポリゴン片となって爆散した。

 

サタン「ふむ」

 

ゆっくりと起き上がる。

 

この戦い方は、サタンなりの試行錯誤の末に生まれたものだった。

 

武器を持たない。

 

攻撃スキルもない。

 

己の拳と脚だけで戦う。

 

そんなサタンの《ダイナマイトパンチ》や《ダイナマイトキック》は、本人の気合いとは裏腹に、システム上のダメージがそれほど高くない。

 

だからサタンは考えた。

 

――ならば、自分でダメージを与えなければいい。

 

敵の突進。

 

敵自身の重量。

 

そして地形。

 

それらを利用して叩きつければ、自分の攻撃力に頼る必要はない。

 

打撃系の攻撃よりも、転倒や落下によるダメージの方が大きい。

 

そう気づいて以来、サタンはダイナマイト系の必殺技を自ら封印していた。

 

少なくとも――強敵相手には。

 

サタン「ふっ……。また一つ強くなってしまった」

 

「いや」

 

背後から声がした。

 

「それ、《巴投げ》あるヨ」

 

サタン「む?」

 

振り返る。

 

そこには、中国風の衣装を着たNPC商人が立っていた。

 

いつの間にか、ずっと後ろをついてきている男である。

 

NPC商人「スイングスローじゃないアル。《巴投げ》あるヨ」

 

サタン「違う!」

 

NPC商人「何が違うアルカ?」

 

サタン「技の名前は、儂が決める!!」

 

NPC商人「そんな理屈あるわけないアルヨ!!」

 

サタン「儂がスイングスローと言えばスイングスローなのだ!」

 

NPC商人「ゲームシステム完全無視アル!!」

 

サタンはNPC商人から視線を外すと、何事もなかったように山岳地帯へ歩き始めた。

 

数歩進んで――ふと振り返る。

 

サタン「ところで」

 

NPC商人「何アル?」

 

サタン「なぜついてくる?」

 

NPC商人「今さらアルカ!?」

 

NPC商人は呆れたように肩を落とした。

 

NPC商人「なんか、あんたについていくと面白そうだからアルヨ」

 

サタン「ほう」

 

NPC商人「それに――」

 

商人はサタンの全身を上から下まで眺めた。

 

NPC商人「山に入るのに、道具も食料も水も何も持ってきてないネ」

 

サタン「…………」

 

NPC商人「…………」

 

サタン「己の肉体があれば十分だ!」

 

NPC商人「水は肉体から湧いてこないアルヨ」

 

正論だった。

 

サタン「…………」

 

NPC商人はニヤリと笑った。

 

目の前にウインドウを開き、ストレージから二つのアイテムを実体化させる。

 

《水》

 

そして――。

 

《狼肉の燻製》

 

サタン「!」

 

肉を見た瞬間だった。

 

ぐぅぅぅぅぅぅぅぅ……。

 

山岳地帯に、凄まじい音が響いた。

 

サタン「…………」

 

NPC商人「…………」

 

サタン「今のは牛の鳴き声だ」

 

NPC商人「さっき倒したアルヨ」

 

ぐぅぅぅぅぅぅ……。

 

NPC商人「腹減ってるアルネ?」

 

サタン「…………いくらだ?」

 

NPC商人の顔が、ぱあっと明るくなる。

 

NPC商人「水15コル、燻製肉30コル♪」

 

サタン「高くないか?」

 

NPC商人「山岳地帯価格アル♪」

 

サタン「ぬぬぬ……」

 

NPC商人「いらないなら、しまうアルヨ」

 

サタン「待て!!」

 

チャリン♪

 

取引成立。

 

NPC商人「毎度ありアルヨ♪」

 

サタンは狼肉の燻製へ豪快にかぶりついた。

 

サタン「うむ! うまい!!」

 

NPC商人「ちなみにウルバスなら20コルで売ってるアル」

 

サタン「なにぃ!?」

 

NPC商人「運搬費アルヨ♪」

 

サタン「お主……なかなかの商売人だな」

 

NPC商人「褒めても値引きしないアル♪」

 

サタン「わっはっはっはっ!! 気に入った!!」

 

NPC商人「ワタシはいい客見つけたアル♪」

 

利害は一致した。

 

食料も道具も持たず、己の肉体一つで未知の山岳地帯へ突っ込んでいく男。

 

その後ろから、必要になるであろう物資をちゃっかり割増価格で売りつけるNPC商人。

 

こうして――。

 

後に誰もが頭を抱えることになる奇妙な二人組が、ひっそりと爆誕した。

 

こっこたちがウルバスで生産職をまとめ、攻略を支える組織作りへ動き始めていた――まさにその頃。

 

第2層南部。

 

攻略組どころか、βテスターすらほとんど寄りつかない山岳地帯を――。

 

サタンとNPC商人は、さらに南へ進んでいく。

 

目的地など知らない。

 

地図にも何も書かれていない。

 

根拠もない。

 

ただ一つ。

 

サタン「『何もない』と言われれば言われるほど、怪しい!!」

 

NPC商人「普通は逆アルヨ!!」

 

サタン「行くぞ!! この先に何かある!!」

 

NPC商人「本当に何もなかったら帰りの食料も買ってもらうアル♪」

 

サタン「わっはっはっはっ!!」

 

NPC商人「毎度ありアルヨ♪」

 

――この時、サタンはまだ知らない。

 

その「何もない」と言われた山岳地帯のさらに奥。

 

そこに――。

 

武器を持たず戦い続けてきたサタンのSAO人生を大きく変える、一人の老師が待っていることを。

 

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