エンジニアのSAO Progressive ~NPCが売ってないなら作ればいい~   作:Edward

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15 馬鹿は大概アル

山岳地帯へ入って数時間。

 

サタンは、ようやく一つの事実に気づき始めていた。

 

サタン「…………」

 

NPC商人「…………」

 

サタン「険しいな、この山」

 

NPC商人「今さらアルカ!?」

 

険しい。

 

そんな一言で片づけられる場所ではなかった。

 

街道はない。

 

道標もない。

 

フィールドマップを開いても、周囲は未踏破を示す暗い表示ばかり。

 

しかも標高が上がるにつれて岩場は険しくなり、通常のフィールドでは見かけない高レベルのモンスターまで姿を現し始めていた。

 

NPC商人「だからみんな『何もない』って言ってたアルヨ!」

 

サタン「違う!」

 

NPC商人「何が違うアル!?」

 

サタン「これほどまでに侵入を拒むということは――」

 

サタンは険しい山頂を見上げた。

 

サタン「ますます何かある!!✨️」

 

NPC商人「その前向きさだけは売れないアルネ……」

 

二人はさらに進んだ。

 

しかし――。

 

最初の試練はモンスターではなかった。

 

ゴォォォォォォ――!!

 

猛烈な風が吹き荒れていた。

 

細い岩棚。

 

右側は岩壁。

 

左側は――遥か下まで続く崖。

 

NPC商人「…………」

 

サタン「…………」

 

NPC商人「帰るアル」

 

サタン「進むぞ」

 

NPC商人「即答しないでほしいアル!!」

 

一歩。

 

また一歩。

 

岩壁に手をつきながら進む。

 

突風が吹くたびに体が揺れる。

 

SAOでは足を滑らせただけで即座に死ぬわけではない。

 

だが――。

 

落下ダメージは存在する。

 

この高さから落ちれば、ただでは済まない。

 

NPC商人「サタン!」

 

サタン「む?」

 

NPC商人「これ買うアル!」

 

ぽんっ。

 

《登山用ロープ》

 

サタン「…………」

 

NPC商人「特別価格、120コル♪」

 

サタン「高い!!」

 

NPC商人「命と120コル、どっちが大事アルカ?」

 

サタン「ぬぬぬぬ……!」

 

チャリン♪

 

NPC商人「毎度ありアルヨ♪」

 

サタン「足元を見る商売をしおって!」

 

NPC商人「崖だから足元は見た方がいいアル♪」

 

サタン「うまいことを言うな!!」

 

NPC商人「褒めても返金しないアル」

 

ロープを岩へ固定し、二人は少しずつ進んだ。

 

そして――。

 

中間地点。

 

ガサッ。

 

NPC商人「……今、何か聞こえたアル」

 

サタン「うむ」

 

頭上だった。

 

岩壁に張りつくようにして、四足歩行のモンスターがこちらを見下ろしている。

 

《Mountain Goat》

 

NPC商人「ヤギアル」

 

サタン「ヤギだな」

 

NPC商人「……嫌な位置にいるアル」

 

サタン「うむ」

 

ヤギが頭を下げた。

 

NPC商人「……サタン」

 

サタン「うむ」

 

ダッ!!

 

NPC商人「来たアルゥゥゥ!!」

 

狭い岩棚を、ヤギが突進してくる。

 

逃げ場などない。

 

サタン「面白い!!」

 

NPC商人「面白くないアル!!」

 

サタンは腰を落とした。

 

真正面から角を掴めば――。

 

そのまま押し出される。

 

ならば。

 

サタン「来い!!」

 

激突寸前。

 

サタンは半身になる。

 

ヤギの角を片手で掴み――。

 

もう片方の腕を首へ回す。

 

踏ん張らない。

 

力に逆らわない。

 

自ら回る。

 

サタン「ぬおおおおお!!」

 

突進の勢いを横へ流す。

 

ヤギの体が岩壁へ――。

 

ドガッ!!

 

叩きつけられた。

 

だが倒せない。

 

ヤギが再び頭を下げる。

 

サタン「ほう!」

 

NPC商人「感心してる場合じゃないアル!」

 

二度目の突進。

 

サタンは避けた。

 

ヤギが横を通過する。

 

だが――。

 

その瞬間。

 

ガシッ!

 

後脚を掴んだ。

 

サタン「捕まえたぞ!!」

 

NPC商人「何する気アル!?」

 

サタン「落下ダメージだ!!」

 

NPC商人「待つアル! ここで投げたら――」

 

サタン「ぬおおおお!!」

 

ブンッ!!

 

ヤギを崖へ放り投げた。

 

「メェェェェェェェ――……」

 

落ちていく。

 

サタン「…………」

 

NPC商人「…………」

 

サタン「勝ったな」

 

その瞬間。

 

サタンの視界端に表示が出た。

 

《Experience gained》

 

サタン「わっはっはっはっ!!」

 

NPC商人「本当に経験値入ったアル……」

 

だが。

 

問題が一つあった。

 

NPC商人「サタン」

 

サタン「なんだ?」

 

NPC商人「今のヤギが落ちる時――」

 

ぷつん。

 

二人の命綱が切れた。

 

サタン「…………」

 

NPC商人「ロープ巻き込んでいったアル」

 

サタン「…………」

 

NPC商人「…………」

 

ぽんっ。

 

《登山用ロープ》

 

NPC商人「もう一本、150コル♪」

 

サタン「値上がりしているではないか!!」

 

NPC商人「在庫減ったからアル♪」

 

サタン「ぐぬぬぬぬぬ!!」

 

チャリン♪

 

NPC商人「毎度ありアルヨ♪」

 

――第二の試練。

 

岩棚を抜けると、今度は急斜面だった。

 

サタン「登るぞ!!」

 

NPC商人「これ、崖アルヨ」

 

ほとんど垂直だった。

 

ところどころに手を掛けられそうな岩が突き出している。

 

サタンは迷わず登り始めた。

 

ガシッ。

 

グッ。

 

ガシッ。

 

グッ。

 

NPC商人「待つアル! ワタシ商人アル! 登山家じゃないアル!」

 

サタン「ならば儂の背中に乗れ!!」

 

NPC商人「え?」

 

サタン「荷物ごと背負ってやる!!」

 

NPC商人「…………」

 

数分後。

 

サタン「ぬおおおおおおおお!!」

 

背中にはNPC商人。

 

さらに商人の巨大な荷物。

 

NPC商人「右上に掴める岩あるヨ」

 

サタン「おお!」

 

NPC商人「左は脆そうアル」

 

サタン「分かった!」

 

NPC商人「あとスタミナ回復用の水、30コルで販売中アル♪」

 

サタン「背負われながら商売するな!!」

 

NPC商人「出張販売アル♪」

 

サタン「水をよこせ!!」

 

NPC商人「毎度ありアルヨ♪」

 

奇妙だった。

 

だが――二人は少しずつ役割分担を始めていた。

 

サタンが突破する。

 

商人がルートを見る。

 

必要な道具を商人が出す。

 

サタンが買う。

 

サタン「……待て」

 

NPC商人「何アル?」

 

サタン「儂ばかり金を払っていないか?」

 

NPC商人「気のせいアル♪」

 

さらに登る。

 

そして山岳地帯へ入って、どれほど経った頃か。

 

サタンの足が止まった。

 

サタン「…………」

 

NPC商人「どうしたアル?」

 

目の前には――。

 

巨大な岩山。

 

左右は断崖。

 

迂回路らしき場所は見当たらない。

 

だが正面には、不自然なほど平らな岩壁が存在していた。

 

サタンは近づいた。

 

コン。

 

拳で叩く。

 

コン、コン。

 

サタン「…………」

 

もう一度。

 

コン。

 

NPC商人「?」

 

サタン「壁の向こうが空洞だ」

 

NPC商人「分かるアルカ?」

 

サタン「長年の経験だ」

 

NPC商人「世界チャンピオンじゃないアル?」

 

サタン「それもある!!」

 

サタンは岩壁を調べる。

 

取っ手はない。

 

スイッチもない。

 

紋章もない。

 

NPC商人「隠し扉かもしれないアル」

 

サタン「ならば開ければいい」

 

NPC商人「どうやって?」

 

サタンは三歩下がった。

 

拳を握る。

 

NPC商人「…………」

 

サタン「久しぶりに――」

 

NPC商人「待つアル」

 

サタン「封印を解く時が来たようだ」

 

NPC商人「絶対違うアル」

 

サタン「必殺!!」

 

NPC商人「やめるアル!!」

 

サタン「ダイナマイトォォォォ――」

 

ドゴォォォォン!!

 

サタン「パァァァンチ!!」

 

…………。

 

岩壁。

 

無傷。

 

サタン「…………」

 

NPC商人「…………」

 

サタン「…………痛い 」

 

NPC商人「だから道具使うアルヨ !!」

 

商人はストレージを開いた。

 

ぽんっ。

 

《採掘用ツルハシ》

 

サタン「…………」

 

NPC商人「250コル♪」

 

サタン「高い!!」

 

NPC商人「山頂価格アル♪」

 

サタン「さっきから価格設定が自由すぎるぞ!!」

 

NPC商人「買わないアル?」

 

サタンは岩壁を見る。

 

拳を見る。

 

もう一度岩壁を見る。

 

サタン「…………200」

 

NPC商人「245」

 

サタン「210!」

 

NPC商人「240」

 

サタン「なぜ儂が値上げされているのだ!?」

 

NPC商人「交渉手数料アル♪」

 

サタン「235!!」

 

NPC商人「毎度ありアルヨ♪」

 

カツン。

 

カツン。

 

カツン。

 

世界チャンピオンがツルハシを振るう。

 

NPC商人「腰入れるアル」

 

サタン「ぬおおおお!!」

 

カツン!!

 

NPC商人「力任せじゃないアル! 道具の重さ使うネ!」

 

サタン「む……?」

 

サタンの動きが変わる。

 

腕力だけではない。

 

振り下ろすツルハシ自身の重量を利用する。

 

カァン!!

 

先ほどより深く岩へ食い込んだ。

 

サタン「ほう……」

 

もう一度。

 

肩の力を抜く。

 

重力に任せる。

 

必要な瞬間だけ力を加える。

 

カァン!!

 

サタン「なるほど……!」

 

NPC商人「?」

 

サタンはツルハシを見つめた。

 

敵の力を利用する。

 

自分の重量を利用する。

 

道具の重量を利用する。

 

無駄な力を抜く。

 

必要な瞬間だけ力を加える。

 

それは――。

 

サタンがここまでモンスター相手に試してきた戦い方と、奇妙なほど似ていた。

 

サタン「力とは……力を入れることだけではないのか」

 

NPC商人「急にどうしたアル?」

 

サタン「いや」

 

再びツルハシを構える。

 

サタン「少し分かった気がしただけだ」

 

カァン!!

 

ピシッ。

 

岩壁に亀裂が走った。

 

サタン「!」

 

NPC商人「開くアル!」

 

ゴゴゴゴゴ……。

 

岩壁の一部が崩れ落ちる。

 

その向こうに――。

 

細い山道が続いていた。

 

人工的に整えられた、古い石段。

 

サタン「わっはっはっはっ!!」

 

NPC商人「本当に何かあったアル……」

 

サタンは胸を張った。

 

サタン「言っただろう!!」

 

そして二人は石段を登る。

 

一段。

 

また一段。

 

やがて――。

 

山々に囲まれた小さな盆地へ出た。

 

風が止んだ。

 

モンスターの声もない。

 

そこだけが、不自然なほど静かだった。

 

そして。

 

サタン「……む?」

 

遠くに――。

 

小さな庵があった。

 

煙突から、細い煙が昇っている。

 

NPC商人「家……?」

 

サタン「人がいる!」

 

サタンが歩き出す。

 

だが――。

 

その瞬間だった。

 

ヒュッ。

 

サタン「!」

 

何かが飛んできた。

 

サタンは反射的に上体を逸らす。

 

シュンッ!!

 

鼻先数センチを――。

 

一本の木の棒が通過した。

 

カァン!!

 

背後の岩へ突き刺さる。

 

NPC商人「…………」

 

サタン「…………」

 

二人がゆっくり前を見る。

 

庵の前。

 

いつからそこにいたのか。

 

小柄な老人が立っていた。

 

白い髭。

 

曲がった腰。

 

粗末な衣。

 

老人はサタンを見る。

 

そして。

 

老師「…………帰れ」

 

サタン「なに?」

 

老師「ここは武器も持たず山へ迷い込んだ阿呆の来る場所ではない」

 

NPC商人「老師、よく分かってるアル」

 

サタン「儂は迷ってなどおらん!!」

 

老師「では、何をしに来た」

 

サタンは胸を張る。

 

サタン「何もないと言われたから来た!!」

 

老師「…………」

 

NPC商人「…………」

 

風が吹いた。

 

老師「やはり阿呆か」

 

サタン「なんだとぉぉぉ!!」

 

NPC商人「否定できないアル!!」

 

老師は踵を返した。

 

老師「帰れ」

 

サタン「待て!!」

 

老師「山を越えただけで、自分を強者と思うな」

 

サタン「!」

 

老人が僅かに振り返る。

 

老師「お前の戦い方は――」

 

サタンの目が細くなる。

 

老師「力を捨てるには、まだ力みすぎておる。」

 

サタン「…………!」

 

初めてだった。

 

SAOへ来てから。

 

武器を持て。

 

スキルを取れ。

 

防具を着ろ。

 

馬鹿なことをするな。

 

そう言われ続けてきた。

 

だが――。

 

この老人だけは違った。

 

サタンが何をしようとしているのか。

 

まるで最初から知っているような言葉だった。

 

サタンの口元が――。

 

ゆっくり吊り上がる。

 

サタン「面白い」

 

NPC商人「あっ」

 

サタン「気に入ったぞ、爺さん!!」

 

老師「気に入らんでいい」

 

サタン「儂を弟子にしろ!!」

 

老師「断る」

 

サタン「ならば認めさせる!!」

 

老師「帰れ」

 

サタン「わっはっはっはっ!!」

 

NPC商人「人の話を聞くアルゥゥゥ!!」

 

こうして――。

 

第2層攻略の裏側で。

 

誰にも知られることなく。

 

後に《体術》を極めることになる男と――。

 

その男をさらに常識外れへ導く老師。

 

二人の、最悪の出会いが始まった。

 

 

「なるほど。武器を持たず、己の肉体のみを頼りとして、ここまで来たか」

 

「無論!」

 

サタンは拳を握る。

 

「武器など不要! 鍛え上げた己の肉体こそ、最も信頼できる武器よ!」

 

「だからSAOでは、その理屈が通用しないと言ってるアル……」

 

商人の呟きを無視し、老師は静かに目を閉じた。

 

「その心意気は見事」

 

「おお!」

 

「――じゃが、それだけではいかん」

 

サタンの表情が変わった。

 

老師は一歩前へ出る。

 

「この世界には、この世界の理がある。どれほど己の肉体を鍛えようとも、ただ拳を振るい、ただ蹴りを放つだけでは、いずれ限界が来る」

 

「……」

 

珍しく、サタンが黙って聞いていた。

 

「剣士には《剣》がある。斧使いには《斧》がある。槍使いには《槍》がある。そして、それぞれに己の武器を活かす《スキル》がある」

 

老師は自らの拳を握った。

 

「ならば――己の肉体そのものを武器とする者にも、それにふさわしい術がなければならぬ」

 

サタンの目が見開かれる。

 

老師は拳を胸の前へ構えた。

 

「《体術》」

 

その一言に――。

 

サタンの表情が変わった。

 

「……体術」

 

「そうじゃ」

 

老師は頷く。

 

「拳、蹴り、肘、膝。そして、その先にあるさまざまな技。それらをシステム上の攻撃として正しく成立させるための術」

 

老師の目が鋭くなる。

 

「《体術》を正しく身につけること。それこそが――体一つでこの世界へ挑む者に残された、唯一の道じゃ」

 

風が吹いた。

 

サタンの腰に巻かれたチャンピオンベルトが揺れる。

 

サタンは老師を見つめた。

 

そして――。

 

「では」

 

一歩前へ出る。

 

「ここで修行をすれば……儂もその《体術》とやらを身につけられるのだな?」

 

老師はニヤリと笑った。

 

「可能じゃ!」

 

「おおっ!!」

 

「しかし――」

 

老師の声が低くなる。

 

「厳しいぞ」

 

サタンの笑みが深くなる。

 

「望むところ」

 

「途中で泣いて帰ることは許さん」

 

「儂が泣くものか!」

 

少し離れた場所で、NPC商人が首を傾げた。

 

「この前、牛に蹴られて涙目だったアル」

 

「黙れ!! 」

 

老師はさらに続ける。

 

「そして、この修行には失敗もある」

 

「ほう」

 

「課された試練を達成できなければ――処罰が待っておる」

 

「処罰……!」

 

NPC商人が嫌そうな顔をした。

 

「なんか物騒な言葉が出てきたアル……」

 

しかし。

 

サタンは怯むどころか――。

 

笑った。

 

「面白い!」

 

拳と拳を打ち合わせる。

 

パンッ――!

 

乾いた音が山間に響いた。

 

「体術なくして、この先を素手で進むことができぬというのならば!」

 

サタンは胸を張る。

 

「漢の進む道は――ただ一つ!!」

 

老師の口元が吊り上がった。

 

「ほう……!」

 

「乗り越えるのみよ!!」

 

「よく言った!」

 

老師が吠える。

 

「さすがチャンピオン! 漢であるな!!」

 

「応!!」

 

「ならば、わしがお主を鍛え上げてくれよう!」

 

「応!!」

 

「どれほど苦しくとも!」

 

「応!!」

 

「どれほど痛くとも!」

 

「応!!」

 

「己の肉体一つで乗り越えてみせよ!!」

 

「応ぉぉぉぉぉっ!!」

 

二人の雄叫びが山々を震わせる。

 

老師とサタンは、いつの間にか固く拳を握り合っていた。

 

「…………」

 

その横で。

 

長い山越えにつき合わされ、荷物まで背負わされていたNPC商人だけが、死んだ魚のような目で二人を見ていた。

 

「暑苦しいアル……」

 

老師が庵の裏を指差した。

 

「では、チャンピオンよ!」

 

「応!」

 

「さっそく第一の修行を始めるぞ!」

 

「来い!!」

 

老師が指差した先には――。

 

人の背丈を遥かに超える巨大な岩が鎮座していた。

 

サタンはニヤリと笑う。

 

「なるほど」

 

拳を握る。

 

「まずは、あれを砕けばよいのだな!」

 

「違う」

 

「む?」

 

老師は巨大な岩を指差したまま、平然と言った。

 

「押せ」

 

「…………」

 

NPC商人が岩を見上げる。

 

そして山頂を見る。

 

さらにもう一度、岩を見る。

 

老師は満面の笑みを浮かべた。

 

「あれを――山頂まで押し上げるのじゃ!」

 

サタンの顔に――。

 

満面の笑みが浮かんだ。

 

「面白い!!」

 

「そう来なくてはな!!」

 

「わーっはっはっはっ!!」

 

「はーっはっはっはっ!!」

 

「…………」

 

山奥に響き渡る二人の高笑いを聞きながら。

 

NPC商人は荷物を地面へ下ろした。

 

「ワタシ……」

 

深いため息をつく。

 

「来る相手を、完全に間違えたアル……」

 

こうして――。

 

第2層攻略組の誰も知らない場所で。

 

武器を持つことを頑なに拒み続けた男――サタンの、

 

《体術》習得を目指す修行の日々が始まった。

 

後に攻略組を震撼させることになる、規格外の体術使い。

 

その第一歩は――。

 

巨大な岩を山頂まで押すという、どう考えてもおかしな修行から始まったのである.

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