エンジニアのSAO Progressive ~NPCが売ってないなら作ればいい~   作:Edward

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17 ブラフほどほどに

第2層――消えた剣

 

すべての《Windwasp》を倒し終えたあと。

 

こっこ「うひょー✨️《Golden Honey》!A級食材だって!!」

 

シリカ「こっこさん、すっごく嬉しそうですね 」

 

リズ「私たちは武器の強化素材を探してたんだけどね……。」

 

シリカは自分の小剣を取り出して、ドロップした素材を順番に確認する。

 

シリカ「うーん……私の小剣に使えそうなもの、ありません。」

 

リズもメイスを手に、アイテム情報と睨めっこする。

 

リズ「こっちもダメ。メイスの強化には使えないわね。」

 

こっこ「蜂蜜は使えるよ✨️」

 

リズ「武器に塗る気!?」

 

こっこ「料理に決まってるじゃないか!」

 

シリカ「目的が完全に変わってますよ 」

 

結局、今回手に入った素材の大半は、三人の装備には直接使えないものだった。

 

リズ「仕方ないわね。使わない素材は売っちゃいましょう。NPCショップでもいいけど……。」

 

その時だった。

 

リズ「あっ。」

 

広場の片隅。

小さな露店を構えているプレイヤーがいる。

 

その看板には――

 

《武器強化・買取》

 

と書かれていた。

 

リズ「プレイヤー鍛冶屋だ。」

 

こっこ「へえ、もう専門でやってる人がいるんだ。」

 

シリカ「売るんですか?」

 

リズ「NPCより高く買ってくれるかもしれないわ。鍛冶屋なら素材はいくらあっても困らないもの。」

 

三人が露店へ近づいていく。

 

店主の名は――《ネズハ》。

 

しかし、ちょうど先客がいた。

 

剣士「頼むぞ。これ、ずっと使ってきた剣なんだ。」

 

ネズハ「……はい。」

 

剣士から片手剣を受け取ったネズハは、強化ウインドウを操作する。

 

リズの表情が変わった。

 

リズ「武器強化……。」

 

まだ鍛冶職人として駆け出しとはいえ、リズにとっては他人の強化作業を見る絶好の機会だった。

 

シリカ「成功しますかね?」

 

リズ「素材と成功率次第ね。でも、見ておいて損はないわ。」

 

ネズハが強化素材をセットする。

 

剣士「成功率は?」

 

ネズハ「十分あります。では……始めます。」

 

強化エフェクトが発生した。

 

淡い光が剣を包み込む。

 

こっこ「おお……。」

 

次の瞬間。

 

――パァン!!

 

剣が砕け散った。

 

無数のポリゴン片となって、ネズハの手の中から消えていく。

 

剣士「…………。」

 

シリカ「え……?」

 

リズ「……は?」

 

剣士「おい。」

 

ネズハ「……申し訳ありません。」

 

剣士「おい!!」

 

剣士がネズハの胸ぐらを掴み上げる。

 

剣士「どういうことだよ!!俺の剣だぞ!!」

 

ネズハ「強化に失敗すると……低確率で武器そのものが消失する場合が……。」

 

剣士「そんな説明、最初にしてなかっただろ!!」

 

ネズハ「ですが……強化には失敗の可能性が――」

 

リズ「ないわよ。」

 

ネズハの言葉が止まった。

 

リズが一歩前へ出る。

 

リズ「少なくとも、私は見たことない。」

 

ネズハ「……。」

 

リズ「《エンジニア》の鍛冶部門で、私たちは何百回も強化を試してる。」

 

剣士「何百回……?」

 

リズ「成功率、素材の組み合わせ、強化値による変化、失敗時の挙動……。みんなでデータを取ってるの。」

 

リズはネズハをまっすぐ睨む。

 

リズ「強化失敗は何度もあった。でも――」

 

一拍。

 

リズ「武器そのものが破壊されたことなんて、一度もない。」

 

ネズハ「……っ。」

 

剣士「じゃあ、こいつ……!」

 

剣士がさらにネズハを締め上げようとする。

 

こっこ「待って。」

 

こっこが二人の間に入った。

 

剣士「どけ!こいつ俺の剣を――!」

 

こっこ「気持ちは分かる。でも、殴ったって剣は戻ってこない。」

 

剣士「……っ!」

 

こっこ「まず何が起きたのか確認しよう。」

 

剣士は荒い息を吐きながら、ネズハから手を離した。

 

こっこは散って消えたはずの剣があった場所を見る。

 

そしてネズハを見る。

 

こっこ「ネズハさん。」

 

ネズハ「……はい。」

 

こっこ「強化で武器が破壊されるなんて、本当にあるの?」

 

ネズハ「……あります。」

 

こっこ「そう。」

 

いつもの柔らかい声だった。

 

だが。

 

シリカ「……こっこさん?」

 

シリカには分かった。

 

怒っている。

 

大声を出していない。

睨みつけてもいない。

 

それなのに、明らかにいつものこっこと違った。

 

こっこ「僕は鍛冶屋じゃない。だから、鍛冶そのものについてはリズさんほど詳しくない。」

 

リズ「……。」

 

こっこ「でもね。エンジニアとして、現象を調べることはできる。」

 

ネズハの肩が僅かに震えた。

 

こっこ「入力があって、処理があって、結果がある。」

 

こっこは地面に残った強化エフェクトの光を見つめる。

 

こっこ「普通の強化失敗と違う結果が出たなら、そこには必ず理由がある。」

 

ネズハ「……。」

 

こっこ「操作なのか、アイテムなのか、スキルなのか、それともこのゲームに隠された仕様なのか。」

 

リズが気づく。

 

こっこは「お前が盗んだ」とは一言も言っていない。

 

証拠がないからだ。

 

だから――逃げ道を一つずつ塞いでいる。

 

こっこ「今は、僕には分からない。」

 

ネズハが僅かに安堵した。

 

しかし。

 

こっこ「でも、いつか分かる。」

 

ネズハ「……!」

 

こっこ「君が今やったギミックを、僕はいつか必ず表に出す。」

 

静かな声。

 

こっこ「同じ条件を作って、何度でも試す。」

 

リズ「私もやるわ。」

 

こっこ「強化スキルを調べる。使用した素材を調べる。エフェクトの違いも見る。必要なら失敗だけを何百回でも繰り返す。」

 

リズ「エンジニアには、そういう地味な作業を延々やる連中がいるからね。」

 

シリカ「こ、怖いです 」

 

こっこ「だからネズハさん。」

 

真正面から彼を見る。

 

こっこ「僕が仕組みを突き止める前に、自分から話すことを勧める。」

 

ネズハ「…………。」

 

こっこ「もし本当に事故なら謝るよ。でも、そうじゃなかったら――」

 

初めて、こっこの声に明確な怒りが混じった。

 

こっこ「職人を信じて、大切な武器を預けた人を騙すのは許せない。」

 

沈黙。

 

ネズハは俯いた。

 

拳を握る。

 

何度も何度も口を開こうとして――閉じる。

 

やがて。

 

ネズハ「……分かりました。」

 

剣士「何?」

 

ネズハが震える手をメニューへ伸ばした。

 

アイテムストレージを開く。

 

そして、一つの武器を実体化させる。

 

剣士「――!!」

 

そこにあった。

 

つい先ほど。

 

目の前で砕け散ったはずの――

 

剣士の片手剣。

 

剣士「俺の……剣……。」

 

シリカ「えっ!?壊れてなかったんですか!?」

 

リズ「やっぱり……!」

 

ネズハ「……すみません。」

 

ネズハは両手で剣を差し出した。

 

剣士が奪うように受け取り、アイテム名を確認する。

 

間違いない。

 

自分の剣だ。

 

剣士「てめえ……。」

 

ネズハ「……盗みました。」

 

シリカ「どうやって……?」

 

ネズハ「強化の時に……あるスキルを使います。強化対象の武器と、こちらが用意した同じ種類の武器を――」

 

ネズハは苦しそうに続ける。

 

ネズハ「一瞬だけ、すり替えるんです。」

 

リズ「それで偽物だけを……。」

 

ネズハ「強化失敗に見せかけて破壊する。」

 

剣士「……!」

 

ネズハ「本物は……俺のストレージに入る。」

 

剣士が剣を握り締める。

 

怒りで震えていた。

 

ネズハ「本当に……すみませんでした。」

 

深く頭を下げる。

 

ネズハ「今まで奪った武器も……返します。」

 

こっこ「今まで?」

 

リズ「他にもやったの……?」

 

ネズハ「……はい。」

 

シリカ「そんな……。」

 

ネズハ「俺一人じゃありません。」

 

こっこ「仲間がいるんだね。」

 

ネズハは答えない。

 

だが、その沈黙が答えだった。

 

こっこ「全部話してもらうよ。被害に遭った人を探して、返せるものは全部返そう。」

 

ネズハ「……はい。」

 

その時だった。

 

こっこ「――!」

 

背後。

 

人混みの中から、数人のプレイヤーがこちらへ向かって走ってくる。

 

ただ走っているのではない。

 

武器を抜いている。

 

リズ「こっこ!」

 

シリカ「武器を持ってます!!」

 

ネズハが振り返る。

 

そして顔色が変わった。

 

ネズハ「――逃げて!!」

 

こっこ「え?」

 

ネズハ「そいつらです!!」

 

男「余計なこと喋ってんじゃねえぞ、ネズハァ!!」

 

剣が振り上げられる。

 

狙いは――

 

ネズハ。

 

口封じだった。

 

 

 

「――口封じか!」

 

こっこは反射的に腰のアニールブレードを抜き放った。

 

鞘走りの音とともに、鈍い光を帯びた刀身が露わになる。

 

「ちょ、ちょっと!」

 

リズが驚いて声を上げた。

 

「ここは村の端だけど《圏内》よ! 剣なんて抜いたって怖くないんだから!!」

 

圏内では、プレイヤー同士の攻撃によってHPを減らすことはできない。

 

だからこそ、リズは強気に言い返したのだ。

 

しかし――。

 

「あれ……?」

 

シリカが小さく声を漏らした。

 

視線の先。

 

本来ならプレイヤーを守ってくれるはずの《圏内》を示す表示が――ない。

 

こっこもすぐに気づいた。

 

「……そうだ。」

 

自分の視界を確認し、表情を引き締める。

 

「ここは《圏外》だ」

 

「えっ!?」

 

リズの顔から血の気が引いた。

 

村の建物はすぐそこに見えている。

 

ほんの少し歩けば人通りのある場所へ戻れるほど近い。

 

だから、無意識に村の安全圏内だと思い込んでいた。

 

だが実際には――その境界線から、わずかに外れている。

 

「なるほど……」

 

こっこは周囲を見回した。

 

人気がなく、村からは死角になる。

 

それでいて、獲物を誘い込むには不自然ではない距離。

 

「強化詐欺だけじゃない。立地までちゃんと考えてたみたいだね…… 」

 

偶然ではない。

 

最初から、何かあった時のために選ばれた場所なのだ。

 

こっこはネズハの手から、先ほど奪われた剣を取り戻した。

 

その瞬間――ネズハも覚悟を決めたのか、自分の武器を構える。

 

「ネズハ……」

 

リズが息を呑む。

 

その様子を見た被害者の剣士も、ようやく状況を理解したらしい。

 

取り返した自分の武器を握りしめ、こっこたちのそばへ寄った。

 

「どうする?」

 

剣士が低い声で尋ねる。

 

「こいつを人質にして逃げるか?」

 

視線の先にはネズハ。

 

だが、こっこはすぐに首を横に振った。

 

「それは無駄だよ」

 

「なに?」

 

「たぶん――」

 

こっこは、自分たちを囲み始めた男たちを見る。

 

「やつらにとっては、ネズハも口封じの対象だ」

 

「……!」

 

ネズハの肩が震えた。

 

否定する声はなかった。

 

それが何よりの答えだった。

 

一人。

 

二人。

 

三人――。

 

気がつけば、五人のプレイヤーが武器を手にしてこっこたちを取り囲んでいた。

 

完全に退路を塞ぐような配置。

 

その中心から、一人の男が進み出る。

 

「武器とコルを全部置いていけ」

 

男は剣先を向け、吐き捨てるように言った。

 

「それと、ここのことは絶対に口外するな。そうすりゃ返してやる。さっさと出さねーか!」

 

こっこは呆れたように眉を下げた。

 

「詐欺まがいの次は、強盗か?」

 

「なんだと?」

 

「慣れないことはしないほうがいいよ」

 

静かな声だった。

 

だが、剣は下ろさない。

 

「君たちこそ、自分から《黒鉄宮》に行くなら――この場はそれで納めておく」

 

空気が変わった。

 

男たちの表情に怒気が浮かぶ。

 

「……脅しのつもりか?」

 

こっこは即答した。

 

「脅しだよ」

 

リズが横でぎょっとする。

 

シリカも「えっ」と声を漏らした。

 

だが、こっこは構わず続けた。

 

「ここの剣士さんとは、さっき会ったばかりだから知らないけど――」

 

一拍。

 

「私たちは攻略組だ」

 

「……は?」

 

男たちが固まった。

 

リズも固まった。

 

シリカも固まった。

 

こっこだけが、さも当然のことのような顔をしている。

 

「君たちは第一層のボス攻略戦にいなかった。だから、僕たちのことを知らない。見ればわかるよ」

 

「…………」

 

リズは横目でこっこの顔を見た。

 

(……!?)

 

そして理解する。

 

(ここでブラフ!?)

 

確かに、こっこ自身は第一層ボス攻略戦に参加している。

 

しかもG班として、キリトやアスナ、サタンと共に戦った。

 

その意味では攻略組と言っても嘘ではない。

 

だが――。

 

(私とシリカは違うでしょ!!)

 

シリカも同じことに気づいたらしい。

 

小剣を握ったまま、今にも泣きそうな顔でこっこを見る。

 

(こっこさん……なんて大嘘を…… )

 

だが。

 

効果はあった。

 

五人のうち一人が明らかに動揺したのだ。

 

「ボ、ボス……」

 

男が一歩後ずさる。

 

「まずいですよ。俺たち、攻略組なんか相手にしたら……」

 

「……くっ!」

 

リーダー格の男――オルランドが顔を歪める。

 

こっこはそこを逃さなかった。

 

一歩、前へ出る。

 

「信じられないなら――」

 

アニールブレードの切っ先を向ける。

 

「《デュエル》から試そうか」

 

「「!?」」

 

今度こそリズとシリカの顔が引きつった。

 

(こっこ!?)

 

(こっこさん!?)

 

ブラフだけで押し切るのではなかったのか。

 

それなのに、よりによって自分からデュエルを持ちかけてしまった。

 

しかし――。

 

「……いいぜ」

 

「え?」

 

こっこが思わず聞き返した。

 

オルランドが剣を構える。

 

「よし! やってやろうじゃねえか!!」

 

「…………」

 

こっこは固まった。

 

リズも固まった。

 

シリカも固まった。

 

数秒前まで漂っていた緊迫した空気とは、まったく別の意味で沈黙が流れる。

 

こっこは心の中で呟いた。

 

(……受けるの!?)

 

完全に予想外だった。

 

(普通ここは『攻略組だと!? くそっ、覚えてろ!』とか言って逃げるところじゃないの!? )

 

しかし、自分から言い出した以上、引っ込みがつかない。

 

ここで「やっぱりやめます」などと言えば、ブラフだったと自白するようなものだ。

 

リズが小声で囁く。

 

「……こっこ」

 

「なに 」

 

「あんた、デュエルしたことあるの?」

 

「……ない」

 

「ないの!? 」

 

「しーっ!! 聞こえる!!」

 

シリカが涙目になる。

 

「どうするんですかぁ……」

 

「……やるしかないね」

 

「なんでちょっと格好つけるんですか!?」

 

こっこは震えそうになる指でウインドウを操作した。

 

幸い、デュエルには決着条件を設定できる。

 

命まで賭ける必要はない。

 

選択したのは――

 

《Half-Loss Mode》

 

どちらかのHPが半分まで減少した時点で決着となる形式。

 

こっこからオルランドへ、デュエル申請が送信される。

 

《Orlando has accepted your Duel Request.》

 

「…………」

 

本当に受けられてしまった。

 

こっこは小さく息を吐き、アニールブレードを握り直す。

 

丈夫さ――《+5》。

 

鋭さ――《+1》。

 

これまで何度も自分を助けてきた、異様なまでに壊れにくい愛剣。

 

だが。

 

これはモンスターとの戦闘ではない。

 

相手は、自分と同じプレイヤー。

 

しかも――対人戦は初めてだった。

 

オルランドが口元を歪める。

 

「攻略組なんだろ?」

 

「……まあね」

 

「だったら、その実力――見せてもらおうじゃねえか!」

 

「…………」

 

背後からリズの囁き声。

 

「こっこ」

 

「なに?」

 

「勝ちなさいよ」

 

「簡単に言わないで 」

 

「負けた瞬間、全部バレるわよ」

 

「わかってるよ!! 」

 

シリカが胸の前で両手を握る。

 

「が、頑張ってください……!」

 

こっこはオルランドを見据えた。

 

怖い。

 

だが――相手も片手剣。

 

ならば。

 

こっこは静かに相手の足を見る。

 

剣の位置。

 

重心。

 

肩。

 

視線。

 

呼吸。

 

エンジニアとして機械を見る時と同じように。

 

まず観察する。

 

何が起きるのか。

 

どう動くのか。

 

そして――どこに隙が生まれるのか。

 

二人の間に半透明のカウント表示が出現した。

 

《DUEL》

 

《3》

 

オルランドが腰を落とす。

 

こっこも剣を構える。

 

《2》

 

リズとシリカが息を呑む。

 

ネズハも。

 

剣士も。

 

そして周囲を囲む四人の男たちも、二人を見つめていた。

 

《1》

 

こっこの額を汗が伝う。

 

(……さて)

 

アニールブレードを握る手に力を込める。

 

(どうしよう )

 

そして――。

 

《DUEL START!!》

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