エンジニアのSAO Progressive ~NPCが売ってないなら作ればいい~ 作:Edward
第2層ボス部屋前――最終補給地点
第2層迷宮区、最深部。
攻略組が長い迷宮を抜けた先に待ち受けていたのは、天井まで届こうかという巨大な扉だった。
重厚な石壁。
揺らめく松明。
不気味な装飾が刻まれた黒い扉。
その向こうには、この第2層最大の敵――フロアボスが待っている。
本来ならば。
ここは攻略組が最後の作戦確認を行い、覚悟を固める場所である。
静寂と緊張に包まれ、誰かが武器を握り直す音さえ聞こえてきそうな――。
「いらっしゃいませぇぇぇ!! 第2層攻略組の皆様ぁぁぁ!!」
……はずだった。
キリトは立ち止まった。
アスナも足を止めた。
エギルも同様だった。
その後ろから来た攻略組も、次々と立ち止まる。
「…………なんだ、これは」
ボス部屋の前に――。
市場ができていた。
巨大な横断幕が掲げられている。
《第2層攻略組の皆様! 最終補給地点!》
《食事! 消耗品! 武器修繕!》
《武器強化! 承ります!》
《今ならボス攻略前点検無料!!》
その真下。
エプロン姿のこっこが、片手を高々と掲げていた。
「お待ちしておりましたぁ!!」
「待っていたのはボスだろ!!」
キリトのツッコミが迷宮区に響き渡った。
しかし、こっこの店は冗談で設けられたものではない。
迷宮区を突破できるだけの戦闘能力を持つ《エンジニア》のメンバーだけを選抜し、大量の物資をストレージへ詰め込み、攻略組より先にここまで到達したのだ。
その目的はただ一つ。
攻略組を万全の状態でボス部屋へ送り込むこと。
「はい! ポーション三本追加!」
「解毒薬はこちらです!」
「その盾、耐久値が減っています! 先に修繕してください!」
「剣の強化をご希望ですか!?」
「今からなら間に合うぞ! リズさんに回して!」
威勢のいい声が飛び交う。
壁際には色とりどりのポーションがずらりと並び、
鍛冶台では火花が散っていた。
カンッ!
カンッ!
カンッ!
職人たちが次々と攻略組の装備を整えている。
まるでボス部屋前とは思えない活気だった。
そして――。
ジュワァァァァ……。
「…………いい匂い」
アスナのお腹が小さく反応した。
鉄板では、分厚い第2層産の牛肉が焼かれている。
肉汁が弾けるたびに、香ばしい匂いが迷宮区へ広がっていく。
大鍋からはクリームシチューの湯気。
野菜のポトフ。
焼きたての肉。
蜂蜜を使った軽食まで用意されていた。
「ボス戦前に重たいものを食べさせるなよ……」
キリトが呆れたように言う。
こっこは真顔だった。
「大丈夫。食事バフを計算してる✨️」
「そこだけ妙に本格的なんだよ!」
だが。
この臨時店舗最大の問題は、料理でも鍛冶でもなかった。
「いらっしゃいませぇ♥」
攻略組の男たちが一斉に振り返った。
リズだった。
タランの店で着せられていた、あの接客衣装。
本人は、もう完全に吹っ切れたらしい。
焼きたてのステーキを片手に、営業スマイルで攻略組の間を歩いている。
「牛のワイルドステーキ、お待たせしましたぁ♥」
「リ、リズベットさん!!」
「うおおお!!」
「俺も頼む!!」
「俺も!!」
「ボス戦前だぞ、お前ら!!」
さらに。
「こちら、ポトフです♪ ちゃんと食べてくださいね♥」
シリカまでいた。
「シリカちゃん!!」
「こちらにもお願いします!!」
「はいっ♪ ……って、どうして私までぇぇぇ 」
笑顔のまま、目には涙が浮かんでいる。
「こっこさん! これは必要なんですか!?」
「士気向上✨️」
「絶対に違います!!」
「現に士気は上がっているじゃない」
「変な方向にです!!」
攻略組の士気だけは、確実に上昇していた。
一方、鍛冶コーナーでは――。
「次!」
「お願いします!」
「耐久値がかなり落ちているわね」
リズが接客衣装のまま槌を握る。
表情が変わった。
カンッ!
火花が散る。
カンッ!!
修繕。
カンッ!!
耐久値回復。
職人としての腕は本物だった。
「はい、終わり!」
「早っ!」
「ボス戦なんだから、壊すんじゃないわよ」
「ありがとうございます!」
「生きて戻ってきたら、また直してあげるわ♥」
「絶対に戻ります!!」
「リズさん、使いこなしてる……」
シリカは愕然としていた。
別の一角では、《エンジニア》たちが武器強化を行っている。
青白いシステムエフェクト。
赤い鍛冶の火花。
色とりどりのポーション。
料理から立ち昇る湯気。
武器を点検する攻略組。
料理を頬張る者。
作戦を確認する者。
装備を交換する者。
そのすべてが、巨大なボス部屋の扉の前で入り乱れていた。
アスナは、その光景をしばらく眺めていた。
「……でも、すごいわね」
「え?」
キリトが振り返る。
「みんな、ここへ来た時より顔が明るくなっているわ」
キリトも周囲を見渡す。
確かに、そうだった。
迷宮区を抜けてきた時には、誰もが疲労していた。
装備は消耗している。
ポーションも減っている。
この扉を開ければ、命を懸けた戦闘が始まる。
その恐怖を隠せない者もいた。
だが、今は違う。
腹を満たし。
装備を直し。
消耗品を補充し。
仲間と笑う。
「……なるほど」
キリトは小さく呟いた。
これは単なる店ではない。
ここまで辿り着いた攻略組を、
もう一度、戦える状態に戻す場所なのだ。
エギルもそれに気づいたらしい。
腕を組み、満足そうに笑った。
「武器を振るうだけが攻略じゃねえ、か」
「そういうこと✨️」
いつの間にか隣にいたこっこが答えた。
「迷宮区を突破できる職人を揃えるのは大変だったけどね」
「そこまでして店を開きたかったのか?」
「違う違う」
こっこは笑う。
そして、巨大なボス部屋の扉を見上げた。
「ここが一番、エンジニアを必要としている場所だからだよ。」
攻略の最前線。
武器が壊れれば命に関わる。
防具が壊れれば死に近づく。
ポーションが尽きれば退却するしかない。
ならば。
それを直す者。
作る者。
運ぶ者。
食事を提供する者がいればいい。
攻略組が前線なら――。
エンジニアは、その前線を動かす兵站だった。
「よーし!!」
こっこが声を張り上げる。
「ボス攻略参加者、最終確認!!」
攻略組が振り返る。
「武器!」
「よし!!」
「防具!」
「よし!!」
「ポーション!」
「よし!!」
「食事!」
「食った!!」
「リズさん!」
「はぁい♥」
「うおおおおお!!」
「シリカちゃん!」
「どうして点呼に入っているんですかぁぁぁ!! 」
大爆笑が起こった。
ボス部屋の前とは思えない。
けれど。
それでいい。
震えていた者から、震えが消えている。
強張っていた顔には笑顔が戻っている。
そして、その全員の装備が整っている。
こっこは満足そうに頷いた。
「よし」
エプロンの紐を解く。
ストレージへ収納。
腰の《アニールブレード》を確認する。
「店じまい!」
キリトが嫌な予感に顔を引きつらせた。
「……こっこ」
「ん?」
「まさかと思うけど」
「うん」
こっこは剣を抜いた。
「僕たちも行くよ✨️」
リズがメイスを担ぐ。
「当たり前でしょ!」
シリカも接客衣装のまま小剣を抜いた。
「着替える時間をくださいぃぃ!! 」
キリトは天井を仰いだ。
「結局、来るのかよ!!」
その背後。
巨大な扉の向こうから――。
ズズズズズ……。
低い振動が伝わってきた。
攻略組の笑い声が止まる。
こっこは扉を見る。
その表情から、商人の笑顔が消えた。
「――みんな」
剣を握る。
「補給は終わった」
キリト。
アスナ。
エギル。
リズ。
シリカ。
そして攻略組の全員が、それぞれの武器を手に取る。
「ここからは――」
巨大なボス部屋の扉へ。
「攻略組の仕事だ。」
第2層フロアボス攻略。
その戦いは――。
攻略組史上初の《ボス部屋前臨時店舗》閉店と同時に、幕を開けた。
つい先ほどまで、そこには迷宮区最深部とは到底思えない光景が広がっていた。
食事の販売。
ポーションをはじめとした消耗品の補充。
武器、防具の修繕。
さらには最後の武器強化まで。
第2層迷宮区まで到達できるエンジニアを選抜し、こっこが開いた攻略組専用の臨時店舗。
その役目も、ついに終わった。
「――臨時店舗、閉店!」
パンッ!
こっこが両手を叩く。
簡易テーブルも料理器具も、鍛冶道具も工具箱も。
次々とストレージへ収納されていった。
「はぁ~! 直した直した!」
リズが両腕を上げ、大きく背伸びをする。
「もう今日はハンマー振りたくない!」
「消耗品も全部渡しました。食事も皆さんに行き渡ってます!」
シリカも満足そうに頷いた。
エギルは修繕された斧を軽く振る。
ブンッ――。
重量のある風切り音。
「上出来だ。武器の耐久値はほぼ最大。ポーションにも余裕がある」
「ああ」
キリトも剣の状態を確認する。
「ここまで万全の状態でボス部屋に入れるのは、初めてかもしれない」
「食事の効果もまだ残ってるわ」
アスナが細剣の柄へ手を添えた。
体力は十分。
武器も防具も万全。
消耗品もある。
攻略組全体が、これまでで最高と言っていい状態に仕上がっている。
あとは――戦うだけだ。
そのとき。
ガチャ……。
妙に重々しい金属音が響いた。
「…………」
キリトが振り返る。
「…………」
アスナも見る。
エギルも。
そして周囲のプレイヤーたちも、次々と同じ方向へ顔を向けた。
そこに立っていたのは――サタンだった。
第1層では、
《スキルなし》
《防具は革の腰巻》
《素手こそ最強》
そんな狂気の構成でボス攻略戦に現れた男。
だが――。
今は違う。
第2層南部。
人里離れた山岳地帯に住む老師のもとで修行し、正式に取得した《体術》。
その熟練度は、すでに四〇〇。
さらに今のサタンは、体術の動きを妨げない《武闘着》をまとっている。
拳から前腕を守るのは、新たに作られた《手甲》。
重装甲ではない。
むしろ防御力だけを見れば、攻略組の前衛たちより遥かに薄い。
しかし、踏み込み。
回転。
蹴り。
受け流し。
そして拳打。
自らの肉体そのものを武器とするサタンにとっては、この軽さこそが最大の利点だった。
サタンがゆっくり拳を握る。
ギュッ。
手甲が低い金属音を響かせた。
「ふっ……」
ニヤリ。
「ようやく装備が儂に追いついたようだな」
「…………」
キリトは黙った。
「…………」
アスナも黙った。
その横で。
「格好いい✨️」
こっこだけが目を輝かせた。
「こっこ!?」
「いや、今回は普通に格好いいよ。ちゃんと装備も揃ってるし」
「《武闘着》も動きやすさ優先で調整してるからね」
リズも胸を張る。
「手甲も拳を保護するには十分。今までよりずっとマシよ」
「これなら安心ですね!」
シリカも嬉しそうに頷く。
「そうなんだよ……」
キリトは額を押さえた。
「ちゃんと強くなってるから、余計に怖いんだよ……!」
第1層。
スキルすら持たない状態で、フロアボスのラストアタックを奪った。
第2層。
《体術》を身につけた直後には、フィールドボス《Bullbous Bow》のラストアタックまでかすめ取った。
そして今。
《体術》熟練度四〇〇。
《武闘着》。
《手甲》。
以前とは比較にならないほど、戦闘スタイルが完成されている。
「サタン」
「なんだ?」
「今日は絶対に勝手に飛び出すなよ」
「無論だ!」
「本当だな?」
「儂を誰だと思っておる!」
「それが一番不安なんだよ!」
攻略組のあちこちから笑いが漏れた。
張り詰めていた空気が、ほんの少しだけ緩む。
「ほんま、緊張感あるんかないんかわからん連中やな……」
キバオウが呆れる。
エギルは小さく笑った。
「ガチガチになって入るよりはいいだろ」
「それもそうやけどな……」
やがて。
エギルの表情から笑みが消えた。
巨大な石扉を見上げる。
「――そろそろ行くぞ」
空気が変わった。
シャキン。
ガチャ。
ジャキッ。
攻略組が次々と武器を抜く。
こっこも腰の剣を抜いた。
《アニールブレード》。
《丈夫さ+5》。
《鋭さ+1》。
攻撃力だけを追求した剣ではない。
だが、頑丈で、壊れにくい。
手入れを重ねながら、第1層からずっと使い続けてきた愛剣だ。
そして左手には――。
「…………」
キリトが見た。
もう一度見た。
「こっこ」
「ん?」
「なんでフライパン持ってるんだ?」
「盾代わり」
「盾を持てよ!」
「料理にも使えるよ?」
「ボス部屋で料理しないだろ!」
「一層でも使ってたよな、それ」
エギルが余計なことを言った。
「実績があるのが余計に腹立つんだよ!」
「ふふっ」
アスナまで吹き出す。
こっこは気にせず、アニールブレードを握り直した。
それから後ろを見る。
リズ。
シリカ。
そして、ここまで一緒にやってきたエンジニアたち。
武器を作った。
防具を直した。
料理を作った。
素材を集めた。
攻略組を支えた。
自分たちは、剣を振るうだけの集団ではない。
この世界で生きていくための道を作る。
それが、こっこたちエンジニアの役目だった。
だが――今日だけは。
「みんな」
「ん?」
「店番は終わり」
こっこはニッと笑う。
そして剣を肩へ担いだ。
「ここからは――僕たちも攻略組だ」
「当たり前!」
リズが即答する。
「はい!」
シリカも続いた。
エギルが斧を担ぐ。
「頼りにしてるぜ」
「足引っ張んなや!」
「キバオウさんもね✨️」
「なんでワイにだけ言い返すんや!」
最後の笑い。
そして――。
キリトが巨大な扉を見つめる。
「……行こう」
アスナが隣に並んだ。
「ええ」
攻略組の数人が扉へ手をかける。
力を込めた。
ゴゴゴゴゴゴゴ――。
石と石が擦れ合う重い音。
巨大な扉が、ゆっくりと左右へ開いていく。
その向こうには。
何も見えない。
ただ、深い闇だけが広がっていた。
冷たい空気が流れてくる。
先ほどまで笑っていた攻略組の顔から、表情が消えた。
一人。
また一人。
闇の中へ踏み込んでいく。
こっこ。
リズ。
シリカ。
エギル。
キバオウ。
キリト。
アスナ。
そして――サタン。
全員が入った瞬間。
ズズン!!
背後の巨大な扉が閉じた。
「……っ!」
シリカが息を呑む。
直後。
ボッ!
壁際に炎が灯った。
ボッ!
ボッ!
ボボボボボボッ!!
連鎖するように松明が燃え上がり、暗闇を押し退けていく。
巨大な円形闘技場。
そして――。
その最奥。
「……二体?」
誰かが呟いた。
影が――二つ。
ズン……。
一頭が前へ出る。
ズン……。
もう一頭も続いた。
どちらも牛頭人身。
トーラス族。
しかし、これまでフィールドで戦ってきた個体とは、身体の大きさも装備も比較にならない。
一体は、見るからに重量級。
隆起した筋肉に覆われた巨体。
巨大な武器を握り、その一撃がまともに入れば盾役ですら吹き飛ばされると直感できる。
その頭上にカーソルが浮かぶ。
――《Baran the General Taurus》。
《バラン・ザ・ジェネラル・トーラス》。
そして。
その横から、もう一頭が姿を現す。
バランほどの重量感こそない。
だが――こちらの方が明らかに動きが軽い。
武器を構えながら上体を小さく揺らし、攻略組の配置を観察するように首を動かしている。
――《Nato the Colonel Taurus》。
《ナト・ザ・カーネル・トーラス》。
二本の巨大なHPゲージが。
同時に出現した。
「二体同時……!」
リズの声が引きつった。
「聞いてはいたけど……実際に見ると、とんでもないわね」
「一体ずつじゃないんですね……」
シリカが小剣を強く握る。
キリトの視線が鋭くなった。
二体。
ただ敵が二倍になったわけではない。
最も恐ろしいのは――。
「連携してくるぞ」
「え?」
「二体を別々のボスだと思わない方がいい」
キリトは視線を逸らさない。
「片方だけ見てたら、もう片方にやられる」
アスナもすぐに理解した。
「なら、完全に分断する?」
「できればな。でも――」
言葉を遮るように。
ナトが大きく息を吸った。
「――――ヴォオオオオオオオオッ!!」
咆哮。
空気が震えた。
「うっ!」
シリカの身体が一瞬強張る。
他のプレイヤーたちにも、わずかな硬直。
その瞬間。
バランが動いた。
「来るぞ!!」
エギルが叫ぶ。
巨大な武器が持ち上がる。
振り下ろされた。
ドォォォォン!!
床が震えた。
直撃を避けた攻略組へ、衝撃が襲いかかる。
「うわっ!」
「ぐっ!」
何人もの前衛がよろめいた。
だが、それで終わらない。
「右だ!!」
キリトが叫んだ。
ナト。
すでに走っている。
バランの攻撃を避けるため横へ逃れたプレイヤーたち。
その進路へ――ナトが突っ込んできた。
「散れ!!」
攻略組が慌てて左右へ飛ぶ。
ナトの巨体が、その隙間を猛烈な勢いで駆け抜けた。
「……なるほどな」
エギルが歯を食いしばる。
「最初から連携攻撃ってわけか」
バランが崩す。
ナトが狩る。
あるいは。
ナトが動きを止め。
バランが叩き潰す。
「厄介ね……!」
アスナが細剣を構え直す。
「二体を同じ場所で戦わせちゃ駄目よ!」
「ああ!」
キリトも頷く。
「分断する! 片方に火力を集中させるんじゃない! まず二体を引き離せ!」
「タンク隊! バランを引きつけるぞ!」
エギルが斧を掲げる。
「ナトは機動力のある連中で持っていけ!」
「わかった!」
アスナが駆ける。
キリトも続く。
攻略組が二つに割れ始めた。
その中で。
こっこは二体の動きを見ていた。
「なるほど……」
「こっこ?」
リズが横を見る。
「二体とも強い。でも本当に厄介なのは、強さじゃない」
こっこはアニールブレードを構える。
左手にはフライパン。
「二体が、お互いの攻撃の隙を埋めてる」
バランが大技を使えば、その硬直をナトが守る。
ナトが突進すれば、その回避先へバランが圧力をかける。
「だったら――」
こっこの目が細くなった。
エンジニアが機械を見るときの目。
どれだけ複雑な装置でも。
どれだけ強力なシステムでも。
必ず構造がある。
入力がある。
出力がある。
そして――弱点がある。
「連携を壊せばいい」
リズがニッと笑った。
「そういうの、あんた好きよね」
「故障解析みたいで楽しくなってきた✨️」
「ボス戦で言う台詞じゃないわよ!」
その横で。
サタンだけが――。
二頭のボスを交互に眺めていた。
「…………」
キリトが嫌な予感を覚えた。
「サタン」
返事がない。
「サタン?」
「…………」
バランを見る。
ナトを見る。
もう一度バランを見る。
そして。
ニヤァ……。
「なんということだ……」
キリトの顔が引きつった。
「何がだよ」
サタンが拳を握る。
《手甲》が淡いシステム光を帯びた。
「チャンピオンが――」
キリト「?」
サタン「二人おる!!」
「いない!!」
キリトの絶叫がボス部屋に響いた。
「二体ともボスだ!!」
「ならば問題ない!」
ガンッ!!
サタンが両の手甲を打ち合わせる。
「まとめて儂がチャンピオンであることを教えてやろう!!」
「待て! 今、分断するって話をしてただろ!!」
「安心せい!」
「何を!?」
サタンは腰を落とす。
《体術》スキルが起動する。
足。
腰。
肩。
拳。
全身を淡いエフェクトが走った。
「儂が――」
ドンッ!!
床を蹴った。
「両方引き受ければよい!!」
「最悪のまとめ方したあああああ!!」
キリトの絶叫。
「サタンさん!?」
シリカの悲鳴。
「ちょっと待ちなさいよ、馬鹿あああ!!」
リズの怒声。
こっこだけが。
「おおっ✨️」
目を輝かせる。
アスナが即座に振り返った。
「こっこさんも止めて!!」
「はい!!」
二頭のトーラス。
剣を構える攻略組。
そしてその真正面へ、拳一つで駆けていくチャンピオン。
轟音。
怒号。
剣戟。
無数のソードスキルと体術スキルの光が、巨大なボス部屋を染め上げていく。
剣を鍛えた。
防具を作った。
料理を作った。
仲間を増やした。
そして、それぞれが自分なりの戦い方を手に入れた。
第1層とは、もう違う。
だからこそ――。
第2層は、それを試すかのように二頭の怪物を用意して待ち構えていた。
《Baran the General Taurus》。
《Nato the Colonel Taurus》。
二頭のフロアボスを相手に。
アインクラッド第2層――
攻略戦、開幕。