エンジニアのSAO Progressive ~NPCが売ってないなら作ればいい~ 作:Edward
「ブモオオオオオオオオオオッ!!」
咆哮とともに、小型の牛人型モンスターたちが次々と出現する。
「来たぞ!!」
「取り巻きもいる!」
エギル「前衛、展開!! ボスだけ見るな! 取り巻きに囲まれるぞ!!」
攻略組が左右へ散った。
盾持ちが前へ。
その後ろに槍。
片手剣、曲刀、斧使いが遊撃へ回る。
キリト「情報通りだ。二体を同時に相手しながら取り巻きを処理する!」
アスナ「右から来る!」
三体の牛人兵が走る。
アスナが踏み込んだ。
一閃。
二閃。
三閃。
細剣が銀色の光を残しながら急所を穿つ。
しかし一体では終わらない。
アスナ「キリト君!」
キリト「スイッチ!」
アスナが身を翻す。
その背後からキリトが飛び出した。
《ホリゾンタル》。
横薙ぎの斬撃が、残った牛人兵をまとめて吹き飛ばす。
こっこ「うひょー……」
キリト「見物してる場合か!」
こっこ「いやいや、ちゃんと見てるよ。あの剣、昨日修繕したやつだから✨️」
アスナ「こっこさん!」
こっこ「はい?」
アスナ「前!」
こっこ「え?」
――ブオンッ!!
こっこ「うわあああっ!?」
巨大な武器が頭上を通過した。
慌てて身を沈める。
轟音。
背後の石床が砕け散った。
こっこ「危なっ!!」
キリト「ボス戦中に自分の仕事を眺めるな!」
こっこ「職人としては気になるんだよ!」
キリト「死んだら確認できなくなるぞ!」
それはもっともだった。
別方向から牛人兵が迫る。
棍棒を振り上げる。
こっこは右手のアニールブレードを構え――左手を腰へ伸ばした。
取り出したのは、小型の金属製ハンマー。
ガンッ!!
棍棒そのものを止めるのではない。
側面を叩き、ほんの少し軌道をずらす。
棍棒が肩の横を通過する。
こっこ「よし!」
そのまま踏み込む。
《スラント》。
斜めの斬撃が牛人兵の胸を走った。
だが。
こっこ「硬っ!」
HPが残る。
反撃が来る。
――その時。
サタン「こっこ!!」
こっこ「サタン!」
一層の戦いなら。
ここで「危ないから下がって!」と叫んでいただろう。
だが、今は違う。
こっこ「――スイッチ!!」
サタン「応ッ!!」
こっこが横へ抜ける。
入れ替わるように巨体が飛び込んだ。
牛人兵の斧が振り下ろされる。
サタンは逃げない。
両腕には、鈍い金属光沢を放つ《手甲》。
そして身体を包むのは、体術を阻害しない《武闘着》。
腰には相変わらず、燦然と輝く《チャンピオンベルト》。
斧が迫る。
サタン「ふんっ!!」
ガッ!!
手甲が触れた。
だが、力任せに受け止めたのではない。
半歩。
身体をずらす。
腕を添える。
斧の勢いを殺さず、そのまま外へ流す。
牛人兵「ブモッ!?」
体勢が崩れた。
キリト「……!」
アスナ「今の……」
第1層のサタンとは違う。
あの頃は、ゲームシステムに存在しないプロレス技を力任せに繰り出し、まともなダメージすら与えられなかった。
だが今は。
老師のもとで修行し。
正式に《体術》スキルを獲得した。
その拳に――。
鮮やかなスキルエフェクトが灯る。
「おい!」
「あいつの拳、光ってるぞ!?」
「体術だ!」
攻略組の何人かが戦いながら振り返った。
サタンは大きく拳を引く。
腰を落とす。
脚。
腰。
肩。
肘。
拳。
全身の力が一本につながった。
サタン「わああああああっはっはっは!!」
キリト「……なんか嫌な予感がする」
こっこ「奇遇だね」
サタン「見るがいい!! これぞチャンピオンの――」
離れた後方から声が飛んだ。
NPC商人「また勝手に技名つけるアルカー!?」
サタン「ストレェェェェェェト!!」
ドゴォン!!
拳が牛人兵の腹へ突き刺さった。
黄色い衝撃エフェクトが炸裂。
牛人兵が吹き飛び、後続の一体を巻き込んで石床を転がった。
こっこ「おおおおおおっ!!✨️」
アスナ「すごい……!」
キリト「本当にダメージが通ってる……!」
サタン「当然だ!! 儂は世界チャンピオンだからな!!」
NPC商人「《体術》覚えたからアル!!」
サタン「儂の実力だ!!」
NPC商人「一層ではほとんどダメージ入らなかったアルヨ!!」
サタン「過去の話をするな!!」
キリト「……ボス戦なのに、なんで漫才が始まるんだ」
こっこ「余裕がある証拠だよ✨️」
アスナ「ないです!」
その瞬間。
――ズンッ!!
空気が震えた。
二体いるボスの一角が、巨大な武器を高々と振り上げている。
キリト「まずい!」
エギル「全員散開!!」
武器が床へ叩きつけられた。
ズガァァァァァン!!
円形の衝撃波が走る。
「ぐあっ!」
「下がれ!」
「HP黄色!」
数人が吹き飛ばされた。
こっこの表情が変わる。
さっきまでの軽さが消えた。
こっこ「被弾した人は無理しない! 交代して回復! 盾役、耐久値を見て! 警告が出た武器は使い続けないで!」
自分たちが整備した装備だからこそ分かる。
このボスは、一撃が重い。
単純なHPだけではない。
武器。
盾。
防具。
長期戦になれば、それらの耐久値まで削られていく。
壊れた武器では戦えない。
防具が砕ければ、次の一撃が致命傷になる。
だから。
敵のHPを減らすことだけが攻略ではない。
武器を壊さない。
仲間を消耗させない。
そして何より。
誰も死なせない。
エギル「聞いたな!! ローテーションを早める! 欲張って二撃目を入れようとするな!」
「了解!!」
取り巻きが再び押し寄せる。
キリト「左、三体!」
アスナ「こっちは任せて!」
こっこ「サタン!」
サタン「応!!」
一体目。
こっこが攻撃を受け流す。
《スラント》。
斬撃。
すぐに離れる。
こっこ「スイッチ!」
サタン「任せろ!!」
拳が炸裂する。
二体目。
サタンが攻撃を流す。
サタン「こっこ! スイッチ!!」
こっこ「了解!」
今度はアニールブレードが走る。
キリトは、一瞬だけその光景を見た。
第1層。
攻略会議で。
キリト『君達、スイッチの意味わかる?』
こっこ『ゲーム?』
サタン『スイッチバックか?』
キリト『……』
あの二人が。
今では。
サタン「スイッチ!!」
こっこ「はいよ!!」
当たり前のように互いを入れ替えながら戦っている。
キリト「……成長したなあ」
アスナ「何をしみじみしてるの?」
キリト「いや……ちょっと感慨深くて」
アスナも二人を見る。
サタン「ぬおおおおお!!」
こっこ「サタン! 深追い禁止!」
サタン「まだ行ける!!」
こっこ「戻れ!!」
サタン「はい!!」
アスナ「……成長したのかしら?」
キリト「たぶん」
再び咆哮。
二体の巨牛が同時に動いた。
さらに新たな取り巻きが出現する。
エギル「来るぞ!! ここからが本番だ!!」
攻略組が武器を構え直した。
一層を越えた者たち。
新たに加わった者たち。
剣士。
斧使い。
槍使い。
職人。
料理人。
そして――。
サタン「わああああああっはっはっは!! 何匹でも来い!!」
NPC商人「サタン様! 絶対死ぬなアルヨ!!」
サタン「心配無用!!」
NPC商人「装備代まだ全部回収してないアル!!」
サタン「心配しているのはそこか!?」
こっこ「商売人として正しい✨️」
キリト「感心してる場合か!!」
剣戟と咆哮が入り乱れる。
第1層では、ただ生き残るだけで精一杯だった。
だが今は違う。
プレイヤーたちは少しずつ、この世界で戦う術を身につけ始めている。
そして――。
攻略組自身の力で――。
この二体の巨牛を押し返す。
こっこ「よーし! 第二陣来るよ!!」
キリト「行くぞ!」
アスナ「ええ!」
エギル「前衛、構えろ!!」
サタン「儂に続けえええええ!!」
こっこ「いや、隊列は守って!!」
サタン「はい!!」
第2層ボス略戦は、完全に行き詰まりつつあった。
「散れぇぇぇっ!!」
キリトの叫びと同時に、巨大な牛頭の怪物が大きく口を開く。
その喉奥に青白い光が生まれた。
バチッ――。
バヂヂヂヂヂッ!!
最初は小さな火花だったものが、瞬く間に巨大な雷球へと膨れ上がっていく。
「また来るぞ!! 盾持ち、前へ!!」
エギルの号令で、盾を装備したプレイヤーたちが前へ出る。
直後――。
轟音。
放たれた雷の奔流がボス部屋を横薙ぎにした。
「ぐああああっ!!」
「耐えろぉ!!」
大盾に雷撃が激突する。
盾役たちのHPが一斉に減少した。
直撃ではない。
防御している。
それでも、黄色の危険域近くまで削られる者さえいる。
しかも――。
「麻痺した!」
「くそっ、動けない!」
雷撃を受けたプレイヤーの身体に黄色い電流がまとわりつく。
状態異常《麻痺》。
ただ威力が高いだけではない。
一度受ければ動きを封じられ、そのまま巨大な戦槌の餌食になる。
「麻痺解除を優先! 動ける奴がカバーに入れ!」
エギルが必死に戦線を維持する。
アスナは荒い息を整えながら、巨大なボスを見上げた。
「これ……どうやって倒すの?」
「弱点らしい場所は見つけた」
キリトが睨んでいたのは、バランの額だった。
二本の巨大な角。
その中央。
攻撃の直後などに、ごく短時間だけ赤い光が瞬いている。
「たぶん、あそこだ」
「……額?」
「ああ」
アスナも見上げ――すぐに問題に気づいた。
「届かないじゃない」
「そうなんだよ……」
巨大な体躯を持つバランの頭部は、あまりにも高い。
通常攻撃はもちろん、跳躍補正を持つソードスキルを使っても、せいぜい胸元。
額まで剣を届かせるには高さが足りない。
ならば足を攻撃して転倒させればいいのか。
それも試した。
だが、有効なダウン判定は発生しない。
しかも正面から頭部を狙おうとすれば――雷のブレスが飛んでくる。
「無理ゲーじゃねえか!」
誰かが吐き捨てた。
誰も否定できなかった。
その時。
再びバランが大きく息を吸い込んだ。
口内に青白い雷光が集まり始める。
「ブレス来るぞ!!」
攻略組が一斉に散開した。
ただ一人を除いて。
「ぬおおおおおおおおっ!!」
「……え?」
アスナが目を丸くした。
一人だけ。
逃げるどころか、バランへ向かって真正面から走っていく男がいる。
武闘着。
両腕を覆う手甲。
そして腰に巻かれた、場違いなほど燦然と輝くチャンピオンベルト。
「サタン!?」
こっこの声が裏返った。
「何やってるんだ、あの人!?」
キリトも叫ぶ。
「知らないよ!」
「仲間だろ!?」
「僕にも分からないよ!!」
サタンは走りながら周囲を見回していた。
バランの戦槌によって砕かれた石床。
そこに、人間の頭ほどもある瓦礫が転がっている。
「むっ!」
それを拾った。
両手で抱える。
「……まさか」
キリトの顔が引きつった。
バランの雷撃チャージはすでに最終段階。
発射まで、あとわずか。
それでもサタンは止まらない。
「そんなに大口を開けておるから――」
雷撃が放たれる、その寸前。
「こうされるのだぁぁぁぁ!!」
サタンは岩を――。
バランの口へ突っ込んだ。
――ドゴッ!!
「…………」
キリトが固まった。
「…………え?」
アスナも固まった。
「おいおい……」
エギルさえ呆然としている。
こっこだけが。
「うひょおおおおっ!! それ面白い!!」
目を輝かせていた。
「モゴッ!?」
バランの巨大な頬が膨らんだ。
発射されるはずだった雷撃が、行き場を失う。
バヂッ。
バヂヂヂヂッ!!
「モゴオオオオオッ!?」
次の瞬間――。
轟音とともに、雷光が炸裂した。
サタンが巨大な岩塊をボスの口へ叩き込んだ直後だった。
放たれるはずだった雷のブレスは行き場を失い――その口腔内で炸裂した。
「――――ッ!!」
声にならない咆哮。
巨体が大きく仰け反り、二本の角から青白い稲妻が迸る。
「やった……!」
アスナが声を上げた。
だが、キリトは別のものに気づいていた。
「違う! 見ろ――額だ!」
爆発によって、頭部を覆っていた装甲の一部が砕けている。
その奥。
これまで誰の攻撃も届かなかった額に、赤く輝く弱点マーカーが露出していた。
「弱点が露出した!」
「総攻撃!!」
攻略組が一斉に動いた。
キリトの斬撃が右脚を薙ぐ。
アスナの細剣が左膝を穿つ。
エギルの大斧が脛へ食い込み、キバオウたちが盾を並べて巨体を押し込む。
一撃。
二撃。
三撃。
HPバーが削られていく。
残り一割。
五分。
そして――。
ほんの数ドット。
「いける!!」
誰かが叫んだ。
しかし。
「グォォォォォォォッ!!」
ボスが立ち上がった。
攻略組が押さえ込んでいた巨体を強引に起こし、全身から雷撃を放出する。
「離れろ!!」
キリトが叫ぶ。
プレイヤーたちが散開する。
その結果、額は再び遥か頭上へ遠ざかってしまった。
「くそっ!」
キリトが見上げる。
あと一撃。
弱点へ一発入れば、おそらく終わる。
だが、届かない。
跳躍しても届く距離ではない。
次の雷ブレスが来れば、こちらの回復が追いつかない。
その時だった。
「サタン!」
こっこが叫んだ。
「なんだ!」
「さっきの岩、もう一個持てる!?」
「当然だ!!」
「よし!」
こっこはストレージを開いた。
取り出したのは――ロープ。
キリトが目を見開く。
「……何をするつもりだ?」
「届かないなら」
こっこは近くの崩れた柱へロープを回した。
「届くようにすればいい!」
「え?」
もう一端をサタンへ投げる。
「サタン、引っ張って!」
「ぬおおおおおおっ!!」
凄まじい力でロープが引かれる。
柱と柱の間で、一本のロープが弓弦のように張り詰めた。
こっこは、その中央へ足を掛ける。
「……まさか」
キリトの顔が引きつった。
「お前、それで――」
「飛ぶ!」
「やっぱりかぁぁぁ!!」
「こっこさん!?」
アスナまで悲鳴を上げる。
「他に方法ないでしょ!」
「あるかもしれないから、五秒くらい考えようよ!!」
「時間がない!」
それだけは正しかった。
ボスの口元へ、再び雷光が集まり始めている。
「サタン!」
「おう!」
「離せ!!」
「飛んでこぉぉぉぉい!!」
バンッ!!
ロープが跳ね上がった。
「うわあああああああああっ!!」
こっこの身体が宙を舞った。
「自分で考えた作戦なのに怖がってる!!」
キリトの声が下から聞こえる。
「高いのは怖いんだよぉぉぉ!!」
だが。
高度は十分だった。
ボスの肩を越える。
巨大な角が眼前を通過する。
そして――。
額。
赤い弱点マーカー。
届いた。
こっこは右手を伸ばす。
アニールブレード。
それを抜けばいい。
ソードスキルを発動させれば。
終わる。
だが。
「……違うな」
こっこの目が細くなる。
見ていたのは弱点マーカーではなかった。
その脇。
雷ブレスの自爆によって生じた、装甲の亀裂。
亀裂の中心に、小さな欠損。
そしてその奥に走る――別の亀裂。
装甲全体へ力を伝える構造上の一点。
仕事で機械を扱ってきた者なら、嫌というほど知っている。
壊れた機械には。
必ず――壊れた理由がある。
「そこか」
剣を抜こうとしていた手が止まった。
代わりに。
腰の道具袋へ手を入れる。
取り出したものを見て。
キリトが絶句した。
「……金槌?」
小さな鉄槌。
武器ではない。
こっこが素材加工や修繕に使ってきた、ただの工具。
「こっこ!! 何をしている!」
「キリト君!」
落下が始まる。
「弱点って――赤く光っている場所とは限らないんだよ!」
鉄槌を振り上げる。
狙うのは。
マーカーから僅かに外れた。
一本の亀裂。
「機械だって、建物だって――」
落下速度が加わる。
「壊れる時は!」
鉄槌を振り下ろす。
「一番弱いところから壊れる!!」
――コン。
あまりにも。
小さな音だった。
「…………え?」
アスナが呟いた。
ボスは動いている。
HPも――残っている。
こっこ自身も。
「……あれ?」
そのまま落下していく。
「こっこぉぉぉ!!」
「受け止めろ!!」
サタンとエギルが走る。
だが、その直後。
ピシッ。
ボスの額に。
一本の亀裂が走った。
ピシ。
ピシピシ。
それは鉄槌を打ち込まれた一点から、蜘蛛の巣のように広がっていく。
額から角へ。
角から頭部へ。
そして――。
赤い弱点マーカーそのものへ。
パキン。
砕けた。
HPバーから。
最後の一ドットが消える。
「…………」
巨体が停止した。
次の瞬間。
バァァァァァァァン!!
無数の青いポリゴン片が、迷宮区いっぱいに舞い上がった。
《CONGRATULATIONS》
「…………」
攻略組は。
しばらく何も言えなかった。
その中央では。
「ぐえっ!」
サタンとエギルに受け止められたこっこが転がっていた。
「いたたた……」
「こっこ!」
キリトが駆け寄る。
「大丈夫か!?」
「うん……なんとか」
「いや、それより!」
アスナが上を指差した。
「倒したわよ!」
「え?」
こっこが振り返る。
ボスがいない。
代わりに。
自分の目の前へウインドウが出現していた。
《LAST ATTACK BONUS》
「…………」
こっこは固まった。
「……僕?」
「お前だよ」
キリトが答える。
「金槌で?」
「金槌で」
「ボスを?」
「ボスを」
「…………」
サタンが豪快に笑った。
「わーっはっはっはっ!! 見事である!!」
「いやいやいやいや!」
こっこは慌てて立ち上がった。
「違うでしょ! サタンがブレスを止めたからだよ! キリト君たちがHPを削って、エギルさんたちが押さえて――」
「だからだろ」
エギルが笑う。
「最後にお前が届いた」
「でも……」
「いいんじゃない?」
アスナが微笑んだ。
「誰か一人で倒したボスじゃないもの」
キリトも頷く。
「サタンさんが突破口を作った。みんなで削った。そして最後に、俺たちが気づけなかった場所をお前が見つけた」
キリトは、こっこの手にある小さな鉄槌を見る。
「剣士にはできないラストアタックだったよ」
「……」
こっこは。
手の中の工具を見る。
アインクラッドは剣の世界だ。
自分も片手剣を使う。
攻略組として戦う。
だけど。
剣を振るうことだけが、攻略ではない。
料理を作る。
武器を直す。
道具を作る。
仲間を支える。
そして。
誰かが届かない場所へ。
届く方法を考える。
「……そっか」
こっこは少し笑った。
「エンジニアでも、ボスを倒せるんだね」
「今さら!?」
キリトのツッコミに。
攻略組から笑い声が上がった。
そして。
こっこはLA報酬を開く。
光の中から現れたのは――。
一振りの武器。
ではなかった。
《Thunderhead Breaker》
分類。
《工具/片手鈍器》
特殊効果。
《構造解析補助》
武器、防具、構造物などに存在する耐久値の低下した箇所を、一定確率で視覚的に補助表示する。
《Break Point》
発見した破損箇所への打撃時、耐久値に追加補正。
さらに――。
《Craft Assist》
クラフト系スキル使用時、修繕・分解・加工判定に小補正。
「…………」
こっこの手が震えた。
キリトが身構える。
「どうした?」
「キリト君……」
「うん」
「これ……」
「うん」
こっこは黄金色の工具を抱き締めた。
「超いい工具だよぉぉぉぉ!!✨️」
「そっちかよ!!」
「リズに見せる! これ絶対いろんな加工に使える!! 分解補正まで付いてる!!」
「LA装備だぞ!? もっと戦闘に使おうよ!」
「工具を戦闘に使っちゃ駄目だよ!」
「今それでボスを倒しただろ!!」
攻略組に。
再び笑い声が広がった。
その日。
第二層ボス攻略記録には。
一つの奇妙なログが残った。
《LAST ATTACK PLAYER:KOKKO》
《ATTACK CATEGORY:TOOL》
剣士でも。
拳闘家でもない。
アインクラッドで生まれ始めた、新しい生き方。
職人。
エンジニア。
その存在が初めて。
攻略の最前線に。
確かな一撃を刻んだ瞬間だった。
――第二層、攻略完了!