エンジニアのSAO Progressive ~NPCが売ってないなら作ればいい~   作:Edward

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26 人の話は最後まで丁寧に聞きましょう

第三層――《エルフ戦争キャンペーン》

 

第三層・主街区《ズムフト》。

 

第二層までとは、まるで異なる世界が広がっていた。

 

巨大な樹木。

 

その幹をくり抜いたような家々。

 

枝と枝をつなぐ吊り橋。

 

木漏れ日が差し込む街路には苔が生え、少し街を離れれば、そこはもう深い森林だった。

 

転移門が開通すると同時に、攻略組は一斉に散開した。

 

新たなクエスト。

 

新たな装備。

 

新たなモンスター。

 

そして――新たな情報。

 

その中で、攻略組とは異なる動きを始めた集団があった。

 

こっこ率いる《エンジニア》たちである。

 

「レベル基準を満たしている人だけ第三層へ! 戦闘系クエストは後回しでいいから、まずは職業系クエストを探して! 鍛冶、裁縫、料理、木工、採取系は全部確認!」

 

「了解!」

 

「新素材を見つけても、勝手に加工しないでねー! 一つは検証用に残してー!」

 

第二層で攻略組への後方支援を経験したことで、エンジニアたちの動きはかなり組織化されていた。

 

リズは鍛冶。

 

シリカは裁縫やアクセサリー。

 

そして、こっこは――。

 

「面白そうなもの全部✨️」

 

「それは職業じゃないでしょ」

 

リズの冷静な突っ込みが入った。

 

そんな三人がズムフトの一角で情報を整理していると、こっこが思い出したように手を叩いた。

 

「そうだ! キリアスチームに聞いたんだけど、ここには《エルフ戦争》っていうイベントがあるみたいだ✨️」

 

「なにそれ?」

 

「クエストですか?」

 

シリカが身を乗り出す。

 

「なんと! 第三層だけで終わらない!」

 

こっこは人差し指を立てた。

 

「何層にもわたって続く、大型連続クエストらしい!」

 

「へえ!」

 

「すごいですね!」

 

二人の目が輝く。

 

「途中で報酬アイテムが手に入るし、普段は入れないエルフの拠点にも行ける。そこでは専用の武器や防具、素材まで購入できるらしい!」

 

「素材!?」

 

鍛冶屋のリズが食いついた。

 

「布やアクセサリー素材もありますか!?」

 

シリカも食いついた。

 

「たぶんある✨️」

 

「やるわよ!」

 

「やりましょう!」

 

即決だった。

 

「ただし――」

 

こっこが続ける。

 

「最初に《闇エルフ》側につくか、《森エルフ》側につくか、選択する必要があるらしい」

 

「ふーん」

 

「どちらがいいんでしょう?」

 

「知らない」

 

「知らないの!?」

 

「キリト君も詳しくは教えてくれなかったんだよ。『自分で選んだ方がいい』って」

 

実際には、キリト自身にもさまざまな思惑があったのだろう。

 

しかし、三人にそんな事情が分かるはずもない。

 

「まあ――」

 

こっこは立ち上がった。

 

「とりあえずやってみよう✨️」

 

「賛成!」

 

「はい!」

 

三人はキリトから教えてもらった場所へ向かった。

 

そして――。

 

森の奥。

 

剣戟の音を聞いた。

 

キィン!!

 

金属音が森林に響く。

 

「戦ってる!」

 

三人が茂みを抜ける。

 

そこでは――二人のエルフが死闘を繰り広げていた。

 

一人は、黒を基調とした装備を身につけた闇エルフの女性。

 

もう一人は――。

 

金髪。

 

長身。

 

端正な顔立ち。

 

緑を基調とした装備をまとった、森エルフの男性。

 

リズの動きが止まった。

 

「…………♥」

 

シリカも立ち止まった。

 

「…………♥」

 

こっこは二人を見る。

 

「……嫌な予感がする」

 

リズが森エルフを指差した。

 

「森エルフ!!♥」

 

シリカも拳を握った。

 

「森エルフです!!♥」

 

「決めるの早っ!!」

 

「助けるわよ!」

 

「助けましょう!」

 

「いやいやいや!」

 

こっこは二人のNPCを見る。

 

戦闘中のカーソル。

 

その色を確認して――顔を引きつらせた。

 

「どちらでもいいけど……あの闇エルフのお姉さん、カーソルがほぼ黒だよ 」

 

明らかに格上。

 

まともに斬り合えば、自分たち三人では勝負にならない。

 

「じゃあ――」

 

リズが、こっこの腰を見る。

 

そこには、武器とは到底呼べないものが大量にぶら下がっていた。

 

工具。

 

ロープ。

 

ワイヤー。

 

小物入れ。

 

その他、本人以外には用途不明な品々。

 

「あんたの道具で切り抜けなさい」

 

「ええー 」

 

「森エルフさんが死んじゃう!」

 

シリカまで加勢する。

 

「そんな理由で命を張りたくないよ!」

 

――キィン!!

 

森エルフの剣が弾かれた。

 

「「ああっ!!」」

 

リズとシリカが悲鳴を上げる。

 

「分かったよ!!」

 

こっこはストレージを開いた。

 

「殺さないからね! 動きを止めるだけだからね!」

 

まず取り出したのは――。

 

小さな金属片。

 

「それ何?」

 

「マキビシ!」

 

「なんでそんな物を持ってるの!?」

 

「作れたから✨️」

 

バラバラバラッ!!

 

闇エルフの進行方向へ投げる。

 

当然、単純なマキビシ程度で高レベルNPCにダメージなど入らない。

 

だが――。

 

「――!」

 

踏まない。

 

闇エルフがわずかにステップを変えた。

 

「やっぱり!」

 

こっこの目が光る。

 

ダメージが通るかどうかではない。

 

障害物として認識している。

 

「リズ! 右から!」

 

「はいはい!」

 

「シリカちゃん、左!」

 

「はい!」

 

二人が左右へ散る。

 

闇エルフの退路が限定された。

 

「次!」

 

こっこが取り出したのは、小さな鉄球。

 

「そりゃ!」

 

ゴロゴロゴロ――!

 

足元へ転がす。

 

「地味!!」

 

「いいんだよ、地味で!」

 

闇エルフがさらに踏み込みを変える。

 

その瞬間だった。

 

「そこ!」

 

こっこの右手から――ワイヤーが飛ぶ。

 

先端には簡素な金具。

 

木の幹へ巻きついた。

 

こっこが反対側へ走る。

 

ピンッ!!

 

ワイヤーが張った。

 

「――ッ!」

 

闇エルフが跳ぶ。

 

予想どおり。

 

「シリカちゃん!」

 

「はいっ!」

 

反対側からロープ。

 

「リズ!」

 

「分かってる!」

 

三人が走る。

 

木。

 

岩。

 

倒木。

 

そこへ次々とロープとワイヤーを回していく。

 

「ちょっと、こっこ! これ、どうなってるの!?」

 

「僕にも分からん!」

 

「ええっ!?」

 

「とにかく引っ張って!!」

 

「もう!!」

 

三人が一斉にロープを引いた。

 

闇エルフの身体へワイヤーが絡む。

 

腕。

 

腰。

 

脚。

 

さらに木々を支点にしたことで、動けば動くほど別方向から張力が掛かった。

 

「――!!」

 

闇エルフが剣を振るう。

 

一本切断。

 

「うわ!」

 

だが、二本目。

 

さらに三本目。

 

こっこは戦っていなかった。

 

拘束設備を現地施工していた。

 

「こっこさん! まだ動きます!」

 

「そりゃ!」

 

追加の鉄球。

 

ゴン!

 

ダメージではない。

 

ワイヤーの重りとして木の枝を回り込み――。

 

ギュン!!

 

「――ッ!」

 

闇エルフの身体が完全に固定された。

 

「今よ!!」

 

リズが叫ぶ。

 

森エルフが踏み込む。

 

剣閃。

 

闇エルフのHPが削れる。

 

「ちょっ!」

 

こっこが慌てた。

 

「倒すの!?」

 

「今さら!?」

 

さらに一撃。

 

もう一撃。

 

拘束から抜け出そうとする闇エルフ。

 

だが、そのたびにワイヤーが別方向へ身体を引く。

 

そして――。

 

最後の一閃。

 

闇エルフのHPバーが――。

 

ゼロ。

 

ポリゴン片となって爆散した。

 

…………。

 

森に静寂が戻った。

 

リズが息を吐く。

 

「やった……」

 

シリカも笑顔になる。

 

「勝ちました!」

 

「…………」

 

こっこだけが固まっていた。

 

「こっこ?」

 

「どうしました?」

 

「…………マジ?」

 

「え?」

 

こっこは消滅した闇エルフの場所を見る。

 

「勝っちゃったよ 」

 

リズとシリカが顔を見合わせる。

 

「え? 違うの?」

 

「駄目なんですか?」

 

「いや……」

 

こっこは頭を掻いた。

 

「たしかキリト君から聞いた話だと……」

 

嫌な汗が流れる。

 

「プレイヤーが加わっても、どちらも強すぎて勝ち目がなくて……最後は相打ちになるイベントだったような……」

 

沈黙。

 

リズの眉が吊り上がった。

 

シリカの笑顔が消えた。

 

「「…………」」

 

「だから本来は、その後にどちら側につくか決めるような――」

 

「それを」

 

リズが拳を握る。

 

「先に」

 

シリカも笑顔のまま拳を握る。

 

「言いなさい!!」

 

「ごめんなさーい!! 」

 

その時だった。

 

――ピロン♪

 

三人の前にシステムメッセージが表示された。

 

こっこたちはそれを見る。

 

《QUEST UPDATE》

 

そして。

 

三人とも固まった。

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

こっこが呟く。

 

「これ……キリト君が言ってた展開と違うんだけど」

 

リズが答える。

 

「でしょうね」

 

シリカも頷く。

 

「片方を倒しちゃいましたからね……」

 

三人は恐る恐る――助けた森エルフを見る。

 

森エルフの青年は剣を納めると、三人へ向き直った。

 

そして優雅に胸へ手を当て――深く頭を下げた。

 

「異邦の剣士たちよ。危ういところを救ってくれたこと、我ら森エルフを代表して感謝する」

 

「♥」

 

リズの怒りが消えた。

 

「♥」

 

シリカの怒りも消えた。

 

こっこは二人を見る。

 

「…………」

 

そして森エルフを見る。

 

「……僕だけ命を張った割に、何も得してない気がする 」

 

だが。

 

三人はまだ知らなかった。

 

本来ならば、二人のエルフの相打ちによって始まるはずだった《エルフ戦争キャンペーン》。

 

その最初の分岐を――。

 

工具とマキビシとワイヤーで、思いきり踏み外したことを。

 

そして、この小さな狂いが。

 

第三層から始まる長いエルフ戦争に――。

 

思いもよらない変化をもたらすことを。

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