エンジニアのSAO Progressive ~NPCが売ってないなら作ればいい~   作:Edward

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28 キリト「本当に君は攻略組か?」

第三層――《人間の戦い方》

 

森エルフの野営地。

 

一本の矢――いや、《ボルト》が風を切り裂いた。

 

――バシュッ!!

 

少し離れた場所に設置された木製の標的。その中心付近に、短い矢が突き刺さる。

 

エルフの射手は、しばらく無言で標的を見つめていた。

 

手にしているのは、こっこが森エルフの弓を参考に、木工技術とクラフト技術を組み合わせて製作した試作品。

 

《クロスボウ》。

 

エルフ「……弓ほどの速射性はない。しかし、弦を引いた状態で保持できる点は大きいな。」

 

こっこ「うん。照準を合わせることだけに集中できるからね。」

 

エルフ「だが……。」

 

エルフはクロスボウを下ろした。

 

エルフ「やはり装填に時間がかかる。森で次々と敵を射抜くのであれば、我らの弓の方が――」

 

こっこ「連射も可能だよ。」

 

エルフ「なんと!」

 

こっこは、にやりと笑った。

 

そしてエルフからクロスボウを受け取ると、もう一人のエルフに手招きした。

 

こっこ「射撃と装填を二人で分担すれば、連射できるよ。」

 

エルフ「……二人で?」

 

こっこ「そう。」

 

こっこはクロスボウを構えた。

 

――バシュッ!!

 

一射。

 

撃ち終えたクロスボウを、そのまま隣のエルフへ手渡す。

 

こっこ「はい!」

 

エルフ「むっ!」

 

受け取ったエルフが弦を引き、ボルトを装填する。

 

その間に――

 

こっこは、あらかじめ装填しておいた二丁目のクロスボウを受け取った。

 

――バシュッ!!

 

エルフ「!」

 

射撃。

 

交換。

 

装填。

 

射撃。

 

交換。

 

装填。

 

二人の動きが噛み合うにつれ、射撃の間隔が短くなっていく。

 

――バシュッ!

 

――バシュッ!!

 

――バシュッ!!

 

標的には、次々とボルトが突き刺さった。

 

周囲で見守っていた森エルフたちが、驚きの声を上げる。

 

エルフ「……なるほど。」

 

一人の射手が一本の弓を使う。

 

それが、これまでの常識だった。

 

しかし、これは射手個人の技量だけで解決する方法ではない。

 

人と人の役割を分担することで、道具の欠点を補う。

 

エルフ「確かに……このクロスボウには、まだ多くの可能性がある。」

 

こっこ「でしょ✨️」

 

リズ「……あんた、ずいぶん楽しそうねぇ。」

 

少し離れた場所では、リズが森エルフの鍛冶師から教わった加工法を試していた。

 

シリカもピナを肩に乗せながら、ランスロットとともにこちらを見ている。

 

シリカ「こっこさん、完全に遊んでません?」

 

こっこ「研究です!」

 

リズ「そう言ってる時のあんたは、大体遊んでるのよ。」

 

こっこ「失敬な!」

 

その様子を見ていた長老が、静かに笑った。

 

長老「……興味深い。」

 

こっこ「?」

 

長老は一本のクロスボウを手に取った。

 

長い年月を生きてきた者らしい、皺の刻まれた指が、その機構をなぞる。

 

長老「我らエルフは長く生きる。」

 

長老「ゆえに、一つの技を極めることを尊ぶ。弓であれば、百年、二百年と研鑽を重ねる。」

 

エルフたちは黙って長老の言葉に耳を傾けていた。

 

長老「だが、人間は違う。」

 

長老はこっこを見る。

 

長老「人間の寿命は短い。その分、発展が早いというのも頷けるな。」

 

こっこ「……。」

 

長老「一人で足りなければ二人で行う。一つでは遅ければ二つ用意する。技量で届かなければ、道具を作る。」

 

長老はクロスボウをこっこへ返した。

 

長老「お主らは、己の生の短さを知っているからこそ――《工夫》するのだろう。」

 

こっこは受け取ったクロスボウを見つめる。

 

そして、ほんの少し照れくさそうに頭を掻いた。

 

こっこ「いやぁ……僕の場合。」

 

長老「うむ?」

 

こっこ「楽ができる方法を考えるのが好きなだけです✨️」

 

長老「…………。」

 

リズ「台無し!!」

 

シリカ「せっかく長老さんが綺麗にまとめてくれたのに! 」

 

ランスロット「ふっ……はははは!」

 

ついにはランスロットまで吹き出した。

 

長老は深いため息をつく。

 

しかし――

 

その顔には、笑みが浮かんでいた。

 

長老「……やはり、人間というものは興味深い。」

 

こっこ「でしょう?✨️」

 

リズ「そこで胸を張るんじゃない!」

 

森エルフの野営地に、笑い声が広がる。

 

そして、その傍らでは――

 

一本の弓から生まれた、人間流の新たな武器。

 

《クロスボウ》が静かに横たわっていた。

 

まだ試作品に過ぎない。

 

威力も、装填速度も、射程も。

 

エルフの長弓には及ばない点が、いくつもある。

 

けれど。

 

それを見つめる森エルフたちの目は、もはや最初とは違っていた。

 

彼らはすでに考え始めている。

 

――もし三人なら?

 

――射手を交代させれば?

 

――防壁の後ろから一斉射撃すれば?

 

こっこが作ったのは、完成された武器ではなかった。

 

ただ一つ。

 

新しい《考え方》を、森へ持ち込んだのだった。

 

 

 

森が、ざわめいていた。

 

ただ風に揺れているのではない。

 

枝葉の擦れる音。遠くで飛び立つ鳥の群れ。普段は静かな森エルフの野営地に、緊張した声が飛び交っている。

 

「長老!」

 

一人の森エルフが駆け込んできた。

 

「闇エルフたちが動きました! 《秘鍵》の所在を突き止めたものと思われます!」

 

「……やはりか」

 

長老の表情が険しくなる。

 

こっこはクロスボウの部品を扱っていた手を止めた。

 

「秘鍵?」

 

リズが首を傾げる。

 

「この前話していた、エルフ戦争イベントの重要アイテム?」

 

「おそらくね」

 

こっこが立ち上がる。

 

ランスロットはすでに剣を腰に差し、森の奥を睨んでいた。

 

「秘鍵は、我ら森エルフと闇エルフの双方が探し求めていたものだ。あれが敵の手に渡れば、今後の戦況は大きく傾く」

 

シリカが不安そうにピナを抱き寄せる。

 

「それほど重要な物なのですか?」

 

「ああ」

 

ランスロットは頷いた。

 

「そして、もう一つ厄介な報告がある」

 

「厄介?」

 

「闇エルフ側も――人間の冒険者と手を結んだらしい」

 

こっこ。

 

リズ。

 

シリカ。

 

三人の表情が同時に固まる。

 

「……人間?」

 

「かなりの手練れだそうだ。黒髪の剣士と、細剣を使う栗色の髪の女剣士」

 

沈黙。

 

こっこは目を逸らした。

 

リズも目を逸らした。

 

シリカまで目を逸らした。

 

ランスロットが怪訝そうに三人を見る。

 

「どうした?」

 

こっこは乾いた笑いを浮かべた。

 

「いやぁ……」

 

リズが頬を引きつらせる。

 

「まさかね」

 

シリカが小声で呟いた。

 

「……絶対、あの二人ですよね」

 

「言うな、シリカちゃん」

 

こっこは頭を抱えた。

 

「口にすると、現実になってしまう」

 

「もう現実だと思うけど」

 

「リズさんまで 」

 

だが、時間はない。

 

ランスロットを先頭に、一行は森を駆けた。

 

木々の隙間を縫い、倒木を飛び越え、岩場を抜ける。

 

やがて――。

 

「遅かったか!」

 

ランスロットが立ち止まる。

 

古びた石造りの祭壇。

 

その中央に立つ闇エルフ。

 

そして。

 

その横にいる二人の人間。

 

黒髪の少年。

 

栗色の髪の少女。

 

キリトがこちらを見た。

 

「……あ」

 

アスナも目を丸くする。

 

「……こっこさん?」

 

こっこたちも足を止めた。

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

ランスロットだけが状況を理解していない。

 

「知り合いか?」

 

こっこはゆっくりと顔を覆った。

 

「知り合いどころか……攻略組のトッププレイヤーです 」

 

リズが叫ぶ。

 

「よりによって、この二人!?」

 

シリカも青ざめる。

 

「勝てませんよ! 正面からなんて、絶対に無理です!」

 

キリトが困った顔で剣を下げる。

 

「いや、俺たちだって戦いたいわけじゃ――」

 

闇エルフの騎士が一歩前に出た。

 

その手には、小さな黒銀色の鍵。

 

秘鍵。

 

ランスロットの目が鋭くなる。

 

「秘鍵……!」

 

しかし、その瞬間。

 

闇エルフは鍵をキリトへ渡した。

 

「頼んだぞ、人間」

 

「えっ、俺が持つの?」

 

キリトが受け取る。

 

こっこの視線が鍵に固定された。

 

そして。

 

「…………」

 

考える。

 

キリトと正面から戦う。

 

無理。

 

アスナと正面から戦う。

 

もっと無理。

 

二人を同時に相手にする。

 

論外。

 

こっこは静かにストレージを開いた。

 

「リズ」

 

「なによ」

 

「正面突破は?」

 

「死ぬ」

 

「シリカちゃん」

 

「はい」

 

「隙を作れる?」

 

「無茶を言わないでください!」

 

「ですよねー」

 

こっこは頷いた。

 

そして。

 

にやり。

 

笑った。

 

キリトの背筋に悪寒が走る。

 

「……なんだ、その顔」

 

「いや?」

 

こっこは工具袋を腰に戻す。

 

「エンジニアとして思うんだ」

 

「何を?」

 

「正面から攻略できない障害物があった場合――」

 

一歩。

 

木陰へ。

 

「迂回する」

 

「は?」

 

次の瞬間。

 

こっこの姿が消えた。

 

正確には、消えたように見えただけだった。

 

《ハイディング》。

 

木々の影。

 

草むら。

 

岩。

 

森エルフから教わった森林での移動技術。

 

そして、もともとの《索敵》《忍び足》《敏捷》寄りの補助技能。

 

さらに。

 

アルゴから散々見せられていた――。

 

盗賊まがいの動き。

 

キリトが目を細める。

 

「どこだ……?」

 

アスナがレイピアを構える。

 

「右!」

 

シュッ。

 

枝が揺れる。

 

キリトが振り向く。

 

いない。

 

左。

 

葉が舞う。

 

アスナが振り向く。

 

いない。

 

「こっこさん!?」

 

ランスロットも目を見張る。

 

「なんという身のこなし……!」

 

リズがぼそっと呟く。

 

「いや、あれはただの泥棒よ」

 

シリカ。

 

「盗賊です」

 

その瞬間。

 

キリトの背後。

 

「こんにちは♥」

 

「!?」

 

こっこ。

 

キリトが剣を振るより早く――。

 

カチッ。

 

腰のポーチを固定していた留め具が外れる。

 

「なっ!?」

 

こっこの指が秘鍵を掴む。

 

《アイテム奪取》。

 

もちろん、正式な盗賊専用スキルなどではない。

 

ただの――。

 

手先の器用さ。

 

位置取り。

 

そして。

 

悪知恵。

 

キリトが振り返る。

 

「こっこぉぉぉぉ!?」

 

だが。

 

もう遅い。

 

こっこは木の枝へ飛び乗っていた。

 

秘鍵を指でくるくる回す。

 

「ふふん✨️」

 

アスナが呆然とする。

 

「ちょっと! それを返して!」

 

「嫌でーす!」

 

「待てえええええ!」

 

キリトが走り出す。

 

こっこも逃げる。

 

「ランスロット!」

 

「お、おう!」

 

「撤退!!」

 

森エルフたちが一斉に走り出す。

 

リズも逃げる。

 

シリカもピナを抱えて走る。

 

「こっこ! あんた、絶対にあとで怒られるわよ!」

 

「勝てば官軍!」

 

「盗んだだけでしょう!」

 

「戦略的確保です✨️」

 

背後からキリトの怒声。

 

「それを盗難って言うんだよ!!」

 

こっこは振り返った。

 

そして。

 

満面の笑顔で手を振る。

 

「あーばよー♪」

 

キリト。

 

「……」

 

こっこはさらに追撃する。

 

「キリトちゃーん♥」

 

「   」

 

アスナが吹き出した。

 

「ぷっ……」

 

「アスナ!」

 

「ご、ごめんなさい……!」

 

キリトは全力疾走。

 

「絶対に捕まえる!!」

 

こっこも全力疾走。

 

「捕まえてごらんなさーい♥」

 

リズ。

 

「煽るなぁぁぁ!!」

 

シリカ。

 

「なんで敵対イベントなのに楽しそうなんですかぁぁぁ!!」

 

森の中。

 

森エルフ。

 

闇エルフ。

 

攻略組。

 

そして。

 

秘鍵を巡る争いは――。

 

なぜか。

 

SAO最速クラスの剣士と。

 

自称エンジニアの盗賊による。

 

壮絶な鬼ごっことなった。

 

その日。

 

ランスロットは知った。

 

人間という種族には。

 

剣技でも。

 

魔法でもない。

 

恐るべき能力がある。

 

――煽り。

 

そして。

 

キリトは心に誓った。

 

次にこっこへ装備を預ける時は。

 

絶対に。

 

ポケットの中身をすべて確認してからにしよう、と・・・。

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