エンジニアのSAO Progressive ~NPCが売ってないなら作ればいい~   作:Edward

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29 クエストと攻略、割り切れる?

第三層――秘鍵争奪戦、その後

 

「走れ、走れ、走れぇぇぇっ!!」

 

深い森の中を、三人と一匹が全力で駆け抜けていた。

 

先頭を走るのは、秘鍵を抱えたこっこ。

 

その後ろをリズベットとシリカが続き、さらにシリカの肩の上では、小さなフェザーリドラ――ピナが羽をばたつかせている。

 

背後から聞こえてくるのは――

 

「待てぇぇぇぇぇぇっ!!」

 

キリトの怒声。

 

そして。

 

「こっこさぁぁぁぁん!!」

 

普段の凛とした声からは想像できないほど、怒気を含んだアスナの声。

 

リズが涙目になった。

 

「怖い、怖い、怖い、怖い!! アスナさん、本気で怒ってるって!!」

 

「こっこさん! どうして最後に煽ったんですかぁ!!」

 

シリカも半泣きだった。

 

「いや、逃走するときには捨て台詞が必要かなって!」

 

「必要ないわよ!!」

 

「必要ありません!!」

 

二人の声が綺麗に重なった。

 

その瞬間――背後の茂みが激しく揺れる。

 

速い。

 

さすが攻略組のトップクラス。

 

敏捷力では、完全に向こうが上だった。

 

「まずいな……追いつかれる」

 

こっこが振り返る。

 

木々の隙間から、黒衣の剣士が見えた。

 

その少し後ろ。

 

細剣を握った栗色の髪の少女。

 

――目が怖い。

 

「ピナ!」

 

シリカが叫んだ。

 

「きゅるっ!」

 

ピナがくるりと宙返りする。

 

小さな口が大きく開き――

 

《バブル・ブレス》!

 

大量の泡が森の中へ吹き出した。

 

「うわっ!?」

 

キリトの視界を無数の泡が覆う。

 

「きゃっ!」

 

アスナも急停止した。

 

ただの目くらまし。

 

ダメージなど、ほとんどない。

 

だが、木々と茂みで視界の悪い森林フィールドでは、それだけで十分だった。

 

「今です!」

 

「ピナちゃん、ナイス!!」

 

三人は脇道へ飛び込む。

 

「そっちじゃない! こっち!」

 

こっこが地形を確認しながら進路を変える。

 

盗賊系スキルで見つけた細い獣道。

 

普通に走っていれば見落とすようなルートを抜け――

 

さらに倒木を越え。

 

小川を渡り。

 

岩場を抜け。

 

ようやく――。

 

「……着いた」

 

森エルフの野営地。

 

「た……」

 

リズが膝から崩れ落ちる。

 

「助かったぁぁぁ……」

 

シリカもその場に座り込んだ。

 

「ピナぁ……ありがとうぅ……」

 

「きゅるる♪」

 

褒められたピナは、嬉しそうに胸を張った。

 

こっこも大きく息を吐く。

 

「いやぁ、ピナちゃんのバブル・ブレスがなかったら危なかったね」

 

「誰のせいよ!!」

 

リズの怒声が野営地に響いた。

 

「あなたが普通に逃げればよかったのよ! どうしてわざわざ――」

 

リズは両手を口元に添えた。

 

そして、こっこの口調を真似る。

 

「あーばよー♪ キリトちゃーん♥」

 

「やめて! 改めて聞くと、僕でも腹が立つ!」

 

「自覚があるんじゃないですか!!」

 

シリカまで怒った。

 

リズ「でもどうして?」

 

こっこ「何が?」

 

リズ「たしか、この手のイベントってインスタントで別のプレイヤーと干渉しないでしょ?なんでキリトとアスナのイベントと私たちのイベントが繋がってるの?」

 

シリカ「そういえば、変ですね。」

 

こっこ「たぶん、はじめのイベントで僕たちと逆で闇エルフの女性の方を救ったんだろう。だからイベントとして秘鍵のクエストが共通して、奪いあいになったんじゃないかな?」

 

リズ「じゃあ、この大型イベントこれからも・・・。」

 

こっこ「キリアスを相手に秘鍵の奪いあいに・・・ 。」

 

リズ「いやー!!あんたって人は!いっつも、いっつも・・・。」

 

こっこ「まて!今回は君達にも非があるよ!!金髪のエルフ様〜♥とか言って助けるから。」

 

シリカ「あっ、そういえば・・・ 」

 

リズ「確かに・・・、ごめん。」

 

こっこ「まあ、ここまでいけば毒喰らわば皿まで、やってやろうじゃないか!トッププレイヤーさまに、一泡吹かせよう!」

 

シリカ「本当に、ピナが一泡吹かせましたしね✨️」

 

3人は笑い合う・・・。

 

その騒ぎを聞きつけたランスロットが歩いてくる。

 

「無事だったか」

 

「あ、ランスロット!」

 

こっこはストレージから目的のアイテムを取り出した。

 

淡い光を放つ――《秘鍵》。

 

ランスロットの目が見開かれる。

 

「おお……!」

 

周囲の森エルフたちもざわめいた。

 

「まさしく秘鍵……!」

 

「闇エルフから奪還したのか!」

 

「人間たちよ、よくぞやってくれた!」

 

歓声が上がる。

 

リズとシリカも顔を見合わせた。

 

散々な目には遭った。

 

だが――クエストとしては完全勝利である。

 

森エルフ側は秘鍵を確保した。

 

これにより彼らは、予定していた別の経路を使い、上層へ向けて旅立つことができる。

 

ランスロットがこっこたちへ頭を下げた。

 

「我らはここより先、人間とは異なる道を進む。またいつの日か、上の世界で会うこともあろう」

 

「うん。そのときは、またよろしく」

 

こっこが手を差し出す。

 

ランスロットは一瞬その手を見つめ――固く握った。

 

「奇妙な人間よ」

 

「よく言われる」

 

「褒めてはいない」

 

「それもよく言われる」

 

リズがため息をついた。

 

「長老と同じことを言われてる……」

 

こうして。

 

第三層における森エルフとの物語は、ひとまず幕を閉じた。

 

森エルフたちは野営地を撤収し、それぞれの役割を担って上層へ旅立っていく。

 

こっこたちもまた、本来の目的へ戻る。

 

――アインクラッド攻略。

 

そのはずだった。

 

ところが。

 

森エルフたちを見送った三人は、その場から動かなかった。

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

妙に重い沈黙。

 

ピナだけが楽しそうにシリカの周りを飛んでいる。

 

やがてリズが口を開いた。

 

「ねえ」

 

「うん」

 

「これから……攻略組に戻るのよね?」

 

「そうだね」

 

「当然、キリトとアスナもいるわよね?」

 

「いるね」

 

再び沈黙。

 

シリカが恐る恐る言った。

 

「……私たち、どういう顔をして会えばいいんでしょう」

 

三人は遠い目をした。

 

つい先ほど。

 

キリトから秘鍵を盗み。

 

ピナのブレスで視界を奪い。

 

全力で逃げ。

 

最後には――

 

「あーばよー♪ キリトちゃーん♥」

 

である。

 

リズが頭を抱えた。

 

「無理よ!!」

 

「何が?」

 

「何がじゃないわよ! 次の攻略会議とか、どうするのよ!!」

 

「普通に参加するけど?」

 

リズとシリカが固まった。

 

「……え?」

 

こっこは不思議そうに首を傾げた。

 

「だって、クエストはクエスト、攻略は攻略でしょ?」

 

「割り切りすぎよ!!」

 

「向こうは絶対に割り切れていませんよ!!」

 

「でも僕たちは森エルフ側だったし、向こうは闇エルフ側だった。敵対クエストなんだから、仕方ないじゃない」

 

「盗った本人が言わないで!!」

 

「しかも、煽りましたよね!?」

 

こっこは腕を組んだ。

 

「じゃあ……」

 

少し考える。

 

「会ったら、『やあ、キリト君。さっきぶり』って」

 

「軽い!!」

 

「アスナさんには?」

 

シリカが聞く。

 

「『いやぁ、ピナちゃん強いねぇ』」

 

「殺されるわよ!!」

 

リズが叫んだ。

 

こっこは少し考え直す。

 

「なら、菓子折りを持っていこう」

 

「SAOに菓子折り文化を持ち込まないでください!」

 

「Golden honeyがまだあるから、シリカちゃんにケーキを作ってもらって――」

 

「私を共犯者にしないでください!!」

 

「もう共犯者だよ?」

 

「そうでしたぁぁぁ!!」

 

シリカが頭を抱えた。

 

しかもピナは何も知らず、

 

「きゅるっ♪」

 

と、誇らしげな様子である。

 

リズはそんな一人と一匹を見て、深いため息をついた。

 

「……でもさ」

 

「ん?」

 

「次に同じことをやっても、絶対に通用しないわよね」

 

その言葉には、こっこも真顔になった。

 

「うん」

 

今回成功した最大の理由。

 

それは――奇襲。

 

キリトは、まさか仲間として共に第一層から戦ってきたこっこが、本当に自分のアイテムを盗みに来るとは思っていなかった。

 

さらに、シリカとピナの《バブル・ブレス》。

 

未知の攻撃だったからこそ、目くらましとして完璧に機能した。

 

だが。

 

次はない。

 

「あの二人は学習するからね」

 

こっこが呟く。

 

「次に僕が近づいた瞬間、キリト君はストレージを警戒するだろうし、アスナさんはシリカちゃんとピナを真っ先に見ると思う」

 

「ですよね……」

 

「それどころか」

 

リズが青ざめる。

 

「こっこがニコニコしながら近づくだけで、警戒されるんじゃない?」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

こっこは胸に手を当てた。

 

「悲しい。人と人との信頼とは、かくも脆いものなのか」

 

「お前が壊したんだよ!!」

 

森にリズの絶叫が響いた。

 

そして翌日。

 

第三層攻略組の集合地点。

 

大勢のプレイヤーが集まっている。

 

その中に――。

 

黒衣の剣士。

 

栗色の髪の細剣使い。

 

「…………」

 

キリト。

 

「…………」

 

アスナ。

 

二人がいた。

 

少し離れた木の陰。

 

そこから三つの顔が覗いている。

 

「……いるね」

 

「いるわね」

 

「いますね……」

 

キリトがふと振り向いた。

 

三人。

 

サッ!!

 

隠れる。

 

「…………」

 

キリトの眉が動いた。

 

再び三人。

 

そーっ……。

 

「…………」

 

キリトと目が合った。

 

こっこは覚悟を決めた。

 

「……よし」

 

「え?」

 

「こっこさん?」

 

木陰から堂々と出る。

 

リズとシリカも慌てて続いた。

 

キリトとアスナがこちらを見る。

 

その場の空気が――凍った。

 

こっこは右手を上げた。

 

いつも通り。

 

まるで昨日のことなど何もなかったかのように。

 

「やあ、キリト君。アスナさん」

 

「…………」

 

「…………」

 

「今日も攻略、頑張ろう✨」

 

キリトの右手が、無言で剣の柄へ伸びた。

 

アスナも笑顔のまま、細剣へ手を添える。

 

「こっこさん」

 

「はい」

 

アスナはにっこりと微笑んだ。

 

とても綺麗な笑顔だった。

 

「昨日は楽しかったですね?」

 

「…………」

 

背後でリズが囁く。

 

「逃げる?」

 

シリカも囁く。

 

「逃げましょう」

 

こっこは二人から目を逸らさずに答えた。

 

「……無理だね」

 

キリトが一歩前に出た。

 

「今度はバブル・ブレスも警戒しているからな」

 

「きゅる?」

 

ピナが首を傾げた。

 

こっこ、リズ、シリカ。

 

三人は悟った。

 

秘鍵争奪戦には――勝った。

 

しかし。

 

その後の人間関係については、何ひとつ考えていなかった。

 

第三層攻略は、まだ始まったばかりである.

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