エンジニアのSAO Progressive ~NPCが売ってないなら作ればいい~   作:Edward

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41 始末書はしっかり書きましょう

第四層――《こっこ号》帰港

 

~本当のフィールドボス~

 

夕暮れの第四層《ロービア》。

 

港には、多くのプレイヤーが集まっていた。

 

その視線の先。

 

湖の向こうから、一隻の船がゆっくりと帰ってくる。

 

《こっこ号》。

 

出航時には真新しかった船体は――

 

傷だらけだった。

 

右舷には巨大な擦過痕。

 

船首の一部はひしゃげ。

 

帆には穴。

 

そして何より。

 

船首から突き出した――

 

衝角。

 

甲板中央には――

 

大型弩弓。

 

後部甲板には――

 

カタパルト。

 

港にいたプレイヤーたちがざわめく。

 

「……あれ輸送船じゃなかった?」

 

「なんで武装してんの?」

 

「戦艦じゃん。」

 

「何と戦ってきたんだよ……。」

 

甲板上。

 

こっこは腕を組んでいた。

 

「…………。」

 

リズも黙っている。

 

シリカも黙っている。

 

エンジニアたちも黙っている。

 

誰も。

 

港を見ようとしない。

 

「……船長。」

 

操舵担当のエンジニアが小声で言った。

 

「なんだ。」

 

「港に……人がいます。」

 

「港なんだから人はいるだろ。」

 

「いや……そういう意味じゃなくて。」

 

こっこが、そっと前を見る。

 

「…………。」

 

いた。

 

シンカー。

 

その隣には――

 

ユリエール。

 

さらに。

 

キリト。

 

アスナ。

 

エギル。

 

そして少し離れたところには、アルゴまでいた。

 

「…………。」

 

こっこは静かに操舵担当へ言った。

 

「面舵いっぱい。」

 

「はい?」

 

「もう一周してこよう。」

 

「燃料と食料がありません。」

 

「じゃあ漂流しよう。」

 

リズが肩を掴んだ。

 

「帰るわよ 」

 

「嫌だぁぁぁぁ!! 」

 

「自業自得です!! 」

 

――ゴン。

 

《こっこ号》が桟橋に接岸した。

 

タラップが渡される。

 

しかし。

 

誰も降りない。

 

シンカーが眼鏡を直した。

 

「こっこさん。」

 

「…………。」

 

「降りてきてください。」

 

「…………。」

 

「聞こえていますよね?」

 

「……船長は船と運命を共にするものなので。」

 

「沈んでません。」

 

「はい。」

 

こっこは降りた。

 

リズ。

 

シリカ。

 

エンジニアの乗組員たちも続く。

 

ずらり。

 

完全に――

 

被告人席。

 

シンカーは腕を組んでいた。

 

怒鳴ってはいない。

 

それが怖い。

 

「まず。」

 

シンカーが口を開いた。

 

「確認します。」

 

「はい。」

 

「本日の予定は?」

 

こっこが答える。

 

「新造輸送船《こっこ号》の試験航海です。」

 

「航行予定区域は?」

 

「ロービア周辺水路。」

 

「カルデラ湖は?」

 

「…………。」

 

「予定航路に含まれていますか?」

 

「…………。」

 

「こっこさん。」

 

「含まれてません。」

 

「なぜ行ったんですか?」

 

「…………。」

 

こっこは考える。

 

技術者として。

 

組織の現場責任者として。

 

ここは論理的かつ合理的な説明が必要だ。

 

「湖が。」

 

「はい。」

 

「俺を呼んでいた。」

 

「…………。」

 

ユリエールが目を閉じた。

 

リズが頭を抱えた。

 

シリカが泣きそうになった。

 

シンカーは無言で眼鏡を外した。

 

「もう一度聞きます。」

 

「はい。」

 

「なぜ行ったんですか?」

 

「……調子に乗りました。」

 

「最初からそう言ってください。」

 

「はい 」

 

シンカーが一枚の紙を開く。

 

「その結果、未確認だったフィールドボスと遭遇。」

 

「はい。」

 

「交戦。」

 

「はい。」

 

「撃破。」

 

「はい。」

 

「……そこだけ聞けば大戦果なんですが。」

 

キリトが小さく口を挟んだ。

 

「普通はそうなんだけどな……。」

 

アスナがため息をつく。

 

「問題は、そこへ至る過程よ。」

 

シンカーが船を見る。

 

「次。」

 

嫌な予感。

 

「この船について説明してください。」

 

「輸送船です。」

 

全員が《こっこ号》を見る。

 

衝角。

 

弩弓。

 

カタパルト。

 

再び、こっこを見る。

 

「輸送船です。」

 

ユリエールが尋ねた。

 

「こっこさん。」

 

「はい。」

 

「船首についている物は?」

 

「…………補強材です。」

 

リズが即座に言った。

 

「衝角です。」

 

「リズぅぅぅ!!」

 

「事実でしょ 」

 

ユリエールがメモする。

 

「では甲板中央の大型設備は?」

 

「荷物を遠くへ届けるための――」

 

シリカが言った。

 

「弩弓です。」

 

「シリカちゃぁぁぁん!! 」

 

「嘘つけませんよ!! 」

 

「後部の設備は?」

 

「…………。」

 

こっこが俯く。

 

「カタパルトです。」

 

「用途は?」

 

「…………投石。」

 

「なぜ輸送船に?」

 

「護身用です。」

 

ユリエールが初めて顔を上げた。

 

「護身用?」

 

「はい。」

 

「カタパルトが?」

 

「はい。」

 

「大型弩弓も?」

 

「はい。」

 

「衝角も?」

 

「……はい。」

 

ユリエールはにっこり笑った。

 

「では。」

 

一枚の書類を取り出した。

 

「予算についてお話ししましょうか。」

 

こっこの顔から血の気が引いた。

 

「…………。」

 

リズが小声で言う。

 

「終わったわね。」

 

シリカも頷く。

 

「終わりましたね。」

 

ユリエールが読み上げる。

 

「木材費。」

 

「はい。」

 

「金属加工費。」

 

「はい。」

 

「大型弩弓用の弦。」

 

「はい。」

 

「投射装置用金属部品。」

 

「はい。」

 

「船首補強用鉄材。」

 

「はい。」

 

「これらすべて。」

 

紙を――

 

トン。

 

と指で叩いた。

 

「《物流拠点整備費》から支出されています。」

 

「…………。」

 

「こっこさん。」

 

「はい。」

 

「物流とは何ですか?」

 

「物資を……必要な場所へ運ぶことです。」

 

「フィールドボスへ岩を運ぶことも物流ですか?」

 

「…………。」

 

エギルが吹き出した。

 

「ぶっ!」

 

アスナが口元を押さえる。

 

キリトは完全に顔を逸らした。

 

「笑わないでください!! 」

 

ユリエールは続ける。

 

「大型弩弓の矢を敵へ配送することも物流ですか?」

 

「……ある意味では。」

 

「こっこ 」

 

リズの拳骨が落ちた。

 

ゴン!!

 

「痛い!!」

 

「屁理屈言うな!!」

 

シリカも怒った。

 

「私たち、武装してるなんて聞いてませんでしたよ!!」

 

「驚かせようと思って……。」

 

「驚きましたよ!! 違う意味で!! 」

 

ここで。

 

キリトが一歩前へ出た。

 

「俺からもいい?」

 

「…………はい。」

 

こっこが縮こまる。

 

「フィールドボスを見つけたら、普通どうする?」

 

「情報を持ち帰って……。」

 

「うん。」

 

「攻略会議を開いて……。」

 

「うん。」

 

「攻撃パターンを調べて……。」

 

「うん。」

 

「攻略組で戦います。」

 

「今回は?」

 

「…………。」

 

「こっこ。」

 

「船で轢きました。」

 

キリトが頭を抱えた。

 

「なんでだよ!!」

 

「だって衝角があったから!!」

 

「なんで衝角があるんだよ!!」

 

「付けたかったから!!」

 

「そこからかよ!!」

 

アスナまで額を押さえる。

 

「しかもフィールドボスでしょう? 下手をしたら船ごと沈められて全滅していたのよ。」

 

「はい……。」

 

「勝ったから笑い話になってるだけ。」

 

「はい……。」

 

「もし船体が破壊されて、全員が水中に投げ出されていたら?」

 

「…………。」

 

ここだけは。

 

こっこも答えなかった。

 

エンジニアの乗組員たちも静かになる。

 

アスナの声は怒鳴ってはいなかった。

 

だからこそ重かった。

 

「乗組員の命を預かっていたのよ。」

 

「…………はい。」

 

こっこは頭を下げた。

 

「そこは、本当に俺の判断ミスだった。」

 

沈黙。

 

それまで笑っていたエギルも、真面目な顔になる。

 

「俺が行きたいって言った。」

 

こっこは続けた。

 

「武装を積んだのも俺。カルデラ湖まで行くって決めたのも俺。ボスと戦う判断をしたのも俺。」

 

エンジニアたちを見る。

 

「だから乗組員に責任はない。」

 

一人のエンジニアが言った。

 

「いや、船長。俺たちもノリノリで弩弓撃って――」

 

「黙ってろ。」

 

「はい。」

 

「今いいところだから。」

 

「台無しよ 」

 

リズの拳骨。

 

ゴン!!

 

「痛い!! 」

 

シンカーが大きく息を吐いた。

 

「分かりました。」

 

そして書類を閉じる。

 

「今回の件について。」

 

こっこが姿勢を正す。

 

「第一に、フィールドボス撃破の戦闘データは攻略組と共有。」

 

「はい。」

 

「第二に、《こっこ号》の運航規定を作成します。今後、試験航海を含む遠距離航行には航行計画を提出。」

 

「はい。」

 

「第三に。」

 

シンカーが船を見る。

 

「武装追加は事前承認制。」

 

「えっ。」

 

全員がこっこを見る。

 

「……えっ?」

 

シンカーの眉が動く。

 

「何か問題でも?」

 

「いや……。」

 

こっこは恐る恐る手を上げた。

 

「現場判断で多少の改修は――」

 

「事前承認制。」

 

「弩弓の改良くらいなら――」

 

「事前承認制。」

 

「カタパルトの射程延長――」

 

「事前承認制。」

 

「衝角をもう少し太く――」

 

「撤去します。」

 

「それだけはぁぁぁぁ!! 」

 

こっこが船首へ走ろうとする。

 

リズとシリカが左右から腕を掴んだ。

 

「離せぇぇぇ!! あれは男のロマンなんだぁぁぁ!!」

 

「知らないわよ!! 」

 

「輸送船ですよ!! 」

 

ユリエールが書類をもう一枚出した。

 

「そして最後に。」

 

「まだあるの!?」

 

「今回、無断で使用した資材について。」

 

「…………。」

 

「始末書を提出してください。」

 

「…………。」

 

「明日の朝までに。」

 

「…………。」

 

こっこが崩れ落ちた。

 

「フィールドボスより強い……。」

 

「何か?」

 

「なんでもありません 」

 

その横でアルゴが猛烈な勢いでメモを取っていた。

 

こっこが気づく。

 

「アルゴ。」

 

「なんダ?」

 

「何書いてる?」

 

「明日の情報誌の見出し。」

 

嫌な予感。

 

「見せて。」

 

アルゴがニヤリと笑う。

 

そこには――

 

《第四層に戦艦出現!?

エンジニア集団、輸送船でフィールドボス撃破!》

 

「やめろぉぉぉぉぉ!!」

 

「もう予約販売始めてるヨ。」

 

「アルゴぉぉぉぉ!! 」

 

港に笑い声が広がった。

 

その日の夜。

 

エンジニア本部。

 

机に向かう三人の姿があった。

 

こっこは始末書。

 

リズは損傷した船体の修繕見積書。

 

シリカは消耗品と使用アイテムの一覧表。

 

「…………。」

 

カリカリカリ。

 

「…………。」

 

カリカリカリ。

 

こっこが小さく呟く。

 

「でも……勝ったよね。」

 

リズのペンが止まる。

 

シリカのペンも止まる。

 

「…………。」

 

「…………。」

 

「船でフィールドボス倒したんだよ?」

 

「…………。」

 

リズが少しだけ笑った。

 

「まあ……。」

 

シリカも苦笑する。

 

「すごかったですけど……。」

 

こっこの顔が輝く。

 

「だよね!?✨️」

 

「調子に乗るな 」

 

「始末書書いてください 」

 

「はい 」

 

再び静かになる。

 

カリカリカリ。

 

しばらくして。

 

こっこがまた口を開いた。

 

「ところで第五層用に――」

 

「ダメ。」

 

「まだ何も言ってない!!」

 

「どうせ変な物作るんでしょ!!」

 

「違うよ! 今度は安全性を考えて――」

 

こっこは設計図を広げた。

 

そこには。

 

《こっこ号・改二》

 

と書かれていた。

 

大型化した船体。

 

強化された弩弓。

 

二基に増えたカタパルト。

 

そして船首には――

 

さらに巨大化した衝角。

 

「…………。」

 

「…………。」

 

リズとシリカが立ち上がった。

 

こっこが後ずさる。

 

「いや、待って。」

 

「こっこさん。」

 

「これは構想段階だから。」

 

「こっこ。」

 

「技術検討だけで――」

 

「「反省しろぉぉぉぉぉぉ!! 」」

 

第四層《ロービア》。

 

フィールドボスを倒した英雄の悲鳴が――

 

夜の水路に響き渡った。

 

 

 

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