エンジニアのSAO Progressive ~NPCが売ってないなら作ればいい~   作:Edward

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43 トッププレイヤーはもっと怒らせてはいけない

第四層――秘鍵争奪戦、再び

 

カルデラ湖での騒動を終え――。

 

中型船《こっこ号》は満身創痍の状態だった。

 

衝角はひしゃげ。

 

弩弓は破損。

 

カタパルトに至っては、キリトとアスナが用意した《エンジニア製陸上型投石機》との撃ち合いによって、見るも無残な姿になっていた。

 

そして何より――。

 

こっこ、リズ、シリカの三人は疲れ切っていた。

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

三人は揃って湖岸に座り込んでいた。

 

こっこがぽつりと言った。

 

「……キリト君、強くなったね」

 

リズが睨む。

 

「そういう感想になる?」

 

「いや、まさか投石機で反撃されるとは思わなくて」

 

「普通のSAOプレイヤーは投石機で撃ち合わないんですよ 」

 

シリカの指摘はもっともだった。

 

そこへ――。

 

「こっこ殿!!」

 

森の向こうから声が響いた。

 

「ん?」

 

三人が振り返る。

 

森エルフの騎士たちを率いて駆けてくる金髪の青年。

 

ランスロットだった。

 

「こっこ殿、ご無事でしたか!」

 

「ランスロットさん!」

 

ランスロットは三人の前まで来ると、心底安心したように息を吐いた。

 

「湖の向こうから凄まじい轟音が聞こえておりました。何事かと……!」

 

「あー……」

 

こっこは湖を見る。

 

遠くではエンジニアたちが、壊れた船を曳航している。

 

ランスロットもそちらを見る。

 

「……船が」

 

「なんとか、ね……」

 

こっこは頬を掻いた。

 

そして、少しだけ真面目な顔になる。

 

「あちらも、こちらの動きをよく読んでいるね」

 

「と、申しますと?」

 

「僕たちがドックで大がかりな船を建造したから、向こうも対策してきたんだよ」

 

「なんと……!」

 

ランスロットの表情が険しくなる。

 

こっこは腕を組んだ。

 

「だから、森エルフのみんなを乗せずに先行してよかったよ」

 

「…………!」

 

ランスロットの目が見開かれる。

 

「こっこ殿……!」

 

その声には、明らかな感動が込められていた。

 

「先陣を切っていったのは、そういうことでしたか……!」

 

「え」

 

リズの顔が引きつる。

 

シリカも固まる。

 

だが、ランスロットは気づかない。

 

「敵がどのような策を用意しているか分からぬ以上、まず己らだけで危険を引き受ける……」

 

「いや、その」

 

「そして我ら森エルフを危険に晒すことなく、敵の兵器と戦術を暴いてくださった!」

 

「…………」

 

「こっこ殿……我らのために、ここまで……✨️」

 

ランスロットは胸に手を当て、深々と頭を下げた。

 

リズが震えた。

 

「うっ……」

 

シリカも両手で顔を覆う。

 

「ランスロットさんに申し訳ないです 」

 

「しっ!」

 

こっこが二人に小声で言う。

 

「何が『しっ!』よ!」

 

「だって今さら『調子に乗って船で突撃しただけです』なんて言えないだろ!」

 

「それが事実でしょうが!」

 

「しかもフィールドボスまで船で狩りました 」

 

「シリカちゃん、それ以上はいけない」

 

ランスロットが首を傾げた。

 

「何か?」

 

三人は即座に笑顔になる。

 

「「「なんでもありません✨️」」」

 

「……?」

 

ランスロットは少し不思議そうな顔をしたが、すぐに表情を引き締めた。

 

「こっこ殿」

 

「はい」

 

「ここから先は――我らが戦場で戦う」

 

ランスロットが森の奥を見据える。

 

その先。

 

第四層における《エルフ戦争キャンペーン》最大の激戦地。

 

森エルフと闇エルフ。

 

両陣営の部隊が真正面からぶつかろうとしていた。

 

剣。

 

弓。

 

盾。

 

NPC同士とは思えないほど大規模な戦闘が、今まさに始まろうとしている。

 

「我らが敵軍を引きつける」

 

ランスロットは言った。

 

「その騒動を利用して――この層の《秘鍵》をお願いしたい」

 

こっこの表情が変わる。

 

リズも。

 

シリカも。

 

三人とも理解した。

 

第三層と同じだ。

 

大規模戦闘そのものが目的ではない。

 

本当の目的は――。

 

《秘鍵》。

 

ランスロットは静かに問いかけた。

 

「どうだろうか?」

 

こっこはリズを見る。

 

リズが頷く。

 

シリカもピナを抱きながら頷いた。

 

「やりましょう」

 

こっこは答えた。

 

「その依頼、エンジニアが引き受けます」

 

「感謝する!」

 

ランスロットは嬉しそうに笑った。

 

「では我らが道を切り開こう!」

 

森エルフたちが武器を掲げる。

 

「進軍開始!!」

 

雄叫びが森を揺らした。

 

森エルフ軍が一斉に駆け出していく。

 

その背中を見送って――。

 

こっこは腰の片手剣を確認する。

 

工具。

 

ワイヤー。

 

投擲用の小石。

 

必要な道具をストレージから取り出す。

 

リズもメイスを担ぐ。

 

シリカは短剣を確認し、ピナが肩の上で羽ばたいた。

 

「さて」

 

こっこが笑う。

 

「久しぶりに盗賊らしい仕事をしますか✨️」

 

リズが半眼になる。

 

「あなた、職業エンジニアじゃなかった?」

 

「兼業です」

 

「兼業するものじゃありませんよ、それ 」

 

――その頃。

 

戦場の反対側。

 

闇エルフ陣営でもまた、一人の騎士が二人のプレイヤーへ同じような依頼をしていた。

 

黒い装備の少年。

 

栗色の髪の細剣使い。

 

キリトとアスナだった。

 

「……なるほど」

 

キリトがマップを見る。

 

「森エルフ軍との戦闘中に、俺たちが秘鍵を確保する」

 

アスナが頷く。

 

「第三層と似ているわね」

 

「そうだな」

 

キリトは一瞬考え――。

 

嫌な予感がした。

 

「…………」

 

「キリト君?」

 

「いや……」

 

キリトはマップの向こう側を見る。

 

「これ、森エルフ側にも同じクエストが出てるよな?」

 

「たぶん」

 

「…………」

 

「…………」

 

二人の間に沈黙が落ちた。

 

第三層。

 

泡。

 

強奪。

 

逃走。

 

『あーばよー♪ キリトちゃーん♥』

 

キリトの眉間に青筋が浮かんだ。

 

「……いる」

 

「え?」

 

「あの人、絶対いる」

 

アスナも数秒考える。

 

そして――。

 

「いるわね」

 

細剣を抜いた。

 

「今度は逃がさない」

 

「俺も同感だ」

 

キリトも剣を抜く。

 

二人の周囲に、なんとなく黒いオーラが漂った。

 

一方。

 

森の反対側。

 

「へっくし!」

 

こっこがくしゃみをした。

 

シリカが心配そうに振り返る。

 

「大丈夫ですか?」

 

「うん。なんか急に寒気が」

 

リズは呆れたように言った。

 

「誰かに恨まれてるんじゃない?」

 

「まさかぁ✨️」

 

「心当たり山ほどあるでしょうが 」

 

三人は森を駆ける。

 

目標地点まであとわずか。

 

そして――。

 

ピコン。

 

こっこの視界にクエスト表示が浮かんだ。

 

《Secret Key Retrieval》

 

――第四層秘鍵を奪取せよ。

 

「来た!」

 

「秘鍵です!」

 

「急ぐわよ!」

 

三人が速度を上げる。

 

森を抜ける。

 

古い石造遺跡が見えた。

 

その中央。

 

台座の上に、小さな光が浮かんでいる。

 

《秘鍵》。

 

「見つけた!」

 

こっこが走る。

 

あと二十メートル。

 

十五。

 

十――。

 

ザッ!

 

「――!」

 

横から黒い影が飛び出した。

 

こっこが急停止する。

 

同時に剣が振り抜かれる。

 

ガキィン!!

 

こっこは片手剣で受け止めた。

 

火花が散る。

 

目の前。

 

黒髪の少年がいた。

 

「…………」

 

「…………」

 

キリト。

 

こっこ。

 

二人の視線がぶつかる。

 

「やっぱり来たな」

 

「奇遇だね、キリト君✨️」

 

「奇遇じゃない!」

 

そして反対側では――。

 

キィン!!

 

アスナの細剣をリズのメイスが弾いた。

 

「リズ!」

 

「アスナ!」

 

さらにシリカの前にもアスナが踏み込もうとするが――。

 

「ピナ!」

 

「きゅるるるっ!」

 

ピナが大きく息を吸う。

 

アスナの顔色が変わった。

 

「まさか――!」

 

シリカが叫ぶ。

 

「《バブルブレス》!!」

 

ぶわあああああっ!!

 

大量の泡が辺りを包む。

 

「またそれかぁぁぁ!!」

 

キリトの悲鳴が響いた。

 

こっこは笑う。

 

「伝統芸能です✨️」

 

「二回目で伝統を名乗るな!!」

 

だが――。

 

泡の向こうから。

 

ヒュッ!

 

剣閃。

 

「うおっ!?」

 

こっこが飛び退く。

 

キリトが泡を突き破って現れた。

 

「対策済みだ!」

 

「やっぱり!?」

 

さらに。

 

「シリカちゃん、ごめん!」

 

「えっ!?」

 

アスナまで泡の中から飛び出してくる。

 

第三層とは違う。

 

二人とも完全に《バブルブレス》を読んでいる。

 

リズが叫ぶ。

 

「こっこ!」

 

「分かってる!」

 

こっこは秘鍵を見る。

 

距離、約八メートル。

 

キリトも見る。

 

「…………」

 

「…………」

 

剣を構えるキリト。

 

工具を握るこっこ。

 

「今度は盗ませない」

 

「盗むとは人聞きの悪い」

 

「前回俺から直接盗っただろ!」

 

「今回は落ちてるものを拾うだけ✨️」

 

「クエストアイテムだ!!」

 

そして。

 

二人が同時に地面を蹴った。

 

第四層――。

 

森エルフと闇エルフが激突する大戦場の片隅で。

 

歴史にも記録されず。

 

攻略組にも知られることなく。

 

キリト&アスナ。

 

対するは――

 

こっこ、リズ、シリカ&ピナ。

 

後に誰も語らない。

 

第四層《秘鍵争奪戦》。

 

――第二ラウンドが始まった。

 

 

第四層――秘鍵争奪戦・逃走劇

 

《あのクソ親父を捕まえろ!》

 

静寂。

 

第四層の遺跡、その薄暗い石造りの広間で――

 

こっことキリトは、真正面から睨み合っていた。

 

「…………」

 

「…………」

 

キリトの右手は、いつでも剣を抜ける位置。

 

対するこっこも、腰をわずかに落としている。

 

だが――剣には手をかけていない。

 

むしろキリトが警戒しているのは、その両手だった。

 

投石。

 

煙玉。

 

ワイヤー。

 

工具。

 

その他、何が出てくるのか本人以外にはまったく分からない。

 

これまで何度も煮え湯を飲まされてきたキリトは、もう知っている。

 

この男――

 

まともに剣を抜いた時より、何も持っていない時の方が危険だ。

 

「……今度は逃がさないぞ」

 

「何のことかな?」

 

「その顔はやめろ 」

 

こっこの頬から、一筋の汗が流れた。

 

その少し後ろでは――

 

アスナが細剣を構え、リズとシリカを警戒している。

 

「リズさん、シリカちゃん」

 

「な、何よ……」

 

「動かないでね?」

 

にっこり。

 

笑顔だった。

 

だが、目は笑っていない。

 

「ひっ……」

 

シリカが小さく後ずさった。

 

リズが小声で囁く。

 

「……こっこ」

 

「何?」

 

「アスナ、ものすごく怒ってるんだけど」

 

「知ってる」

 

「何とかしなさいよ 」

 

「今はキリトくんの相手で手いっぱいなんだよ 」

 

完全な硬直状態。

 

誰か一人でも動けば、一瞬で戦闘が始まる。

 

キリトはこっこ。

 

アスナはリズとシリカ。

 

互いに相手の指先、足運び、視線――そのすべてを警戒していた。

 

だからこそ。

 

二人は忘れていた。

 

いや。

 

正確には――

 

一匹、足りないことに気づいていなかった。

 

シリカの使い魔。

 

フェザーリドラの――

 

ピナがいないことを・・・

 

その頃。

 

広間の端では。

 

「きゅ……」

 

小さな水色の竜が、床すれすれを這うように進んでいた。

 

その目の前にあるのは――

 

《秘鍵》。

 

「きゅる……!」

 

鼻先を押しつける。

 

ぐっ。

 

秘鍵がわずかに動いた。

 

だが。

 

「…………」

 

キリトはこっこしか見ていない。

 

「…………」

 

アスナもリズとシリカしか見ていない。

 

ピナはもう一度押す。

 

ぐぐぐ……。

 

あと少し。

 

もう少し――

 

ごとっ!!

 

「!」

 

キリトの耳が反応した。

 

アスナも振り返る。

 

二人の視線の先には――

 

秘鍵に頭を押しつけているピナ。

 

「きゅ?」

 

一瞬。

 

時間が止まった。

 

「「しまった!!」」

 

キリトとアスナが同時に叫ぶ。

 

シリカが手を突き出した。

 

「ピナ!! ブレス!!」

 

「きゅるるるるっ♪」

 

ピナが大きく息を吸い込む。

 

キリトが叫んだ。

 

「アスナ、避け――!」

 

ブオオオオオオオオッ!!

 

「うわっ!?」

 

「きゃあっ!!」

 

今までの泡ではない。

 

猛烈な突風。

 

ピナの新技――

 

《ウインド・ブレス》!!

 

マントが激しくはためき、キリトとアスナは腕で顔を覆う。

 

「くっ……!」

 

「前に……進めない……!」

 

二人ほどのトッププレイヤーでも、真正面から受ければ、その場で踏ん張るだけで精一杯だった。

 

そして。

 

「今だ!!」

 

こっこが何かを床へ叩きつけた。

 

ぱきんっ!!

 

もくもくもくもく――!!

 

「煙玉!?」

 

キリトが目を見開く。

 

しかも。

 

こっこは――

 

風上で割った。

 

「…………あ」

 

アスナが気づいた。

 

煙はピナの強風に乗って――

 

猛烈な勢いで二人へ向かってくる。

 

「ちょっ――!」

 

「げほっ! こっこぉぉぉ!!」

 

視界が一瞬で真っ白になる。

 

その向こうから。

 

「キリトくーん!」

 

声。

 

「アスナちゃーん♥」

 

嫌な予感。

 

ものすごく嫌な予感。

 

そして――

 

「バーイビー♪」

 

「「こっこぉぉぉぉぉぉ!!  」」

 

煙の向こうで、三人の足音が遠ざかっていった。

 

          ◇

 

「走れ、走れ、走れ、走れ!!」

 

こっこが秘鍵を抱えて全力疾走する。

 

「言われなくても走ってるわよ!!」

 

リズも全力で走る。

 

シリカはその横を走りながら、嬉しそうにピナを見る。

 

「やりましたね、ピナ!✨️」

 

「きゅるる♪」

 

「ピナの新技、《風のブレス》です!」

 

「シリカ!」

 

リズが叫んだ。

 

「はい!?」

 

「新技の紹介は後!! いいから早く逃げるわよ!!」

 

「は、はいっ!!」

 

こっこが後ろを振り返る。

 

「まあまあ。あれだけ煙を浴びせたんだから、しばらくは――」

 

ダダダダダダダダダダダ!!

 

「…………」

 

三人の顔から笑みが消えた。

 

煙の向こう。

 

二つの人影が飛び出してくる。

 

黒。

 

そして白と赤。

 

「…………」

 

キリト。

 

「…………」

 

アスナ。

 

二人とも――

 

無言。

 

全力疾走。

 

「わわっ!! もう来た!!」

 

こっこの声が裏返った。

 

「速っ!?」

 

シリカが悲鳴を上げる。

 

リズが振り返った。

 

そして。

 

二人の顔を見た。

 

「…………」

 

キリトの目。

 

完全に獲物を狙う目だった。

 

アスナも笑っていない。

 

いや。

 

笑っていた。

 

にっこりと。

 

ものすごく怖い笑顔で。

 

「待ちなさーい……♥」

 

「ひぃっ!!」

 

シリカの顔が青ざめる。

 

キリトが剣を抜いた。

 

「こっこぉぉぉぉ!!」

 

「殺気! 殺気が出てるから!! 」

 

「待てぇぇぇぇぇぇ!!」

 

「待ったら何をされるか分からないから嫌だぁぁぁ!!」

 

トッププレイヤー二人による本気の追跡。

 

速い。

 

めちゃくちゃ速い。

 

距離がみるみる縮まってくる。

 

「やばい、やばい、やばい、やばい!!」

 

リズが叫ぶ。

 

「こっこ!! 何とかしなさい!!」

 

「考えてる!!」

 

「早く!!」

 

「そこ、左!! シリカ!!」

 

「はいっ!!」

 

三人が角を曲がる。

 

こっこが床を指差した。

 

「今!!」

 

シリカは即座に理解した。

 

「ピナ!!」

 

「きゅる!」

 

「せっけんのブレス!!」

 

「きゅるるるるるっ!!」

 

ぶしゅううううううっ!!

 

ピナの口から吐き出されたのは、いつものバブルブレスよりもはるかに濃密な泡。

 

細かな泡が石床を覆っていく。

 

ぬるぬる。

 

つるつる。

 

てらてら。

 

一瞬で床が――

 

氷上のような超低摩擦地帯へと変貌した。

 

そして。

 

角から――

 

キリトとアスナが飛び出した。

 

「いた!!」

 

「もう逃がさな――」

 

ずるっ。

 

「「え?」」

 

つるるるるるるるるるるるる!!

 

「うわあああああああ!?」

 

「きゃあああああああ!?」

 

二人の足が完全に持っていかれた。

 

止まらない。

 

「キリトくんっ!!」

 

「アスナ!! 壁! 壁ぇぇぇ!!」

 

つるつるつるつるつる――

 

ドガァァァン!!

 

「ぐはっ!!」

 

「きゃっ!!」

 

二人は仲良く壁へ激突した。

 

そのまま床へ座り込んだ。

 

しばしの静寂。

 

「…………」

 

「…………」

 

アスナがゆっくり顔を上げる。

 

「……キリトくん」

 

「……何だ」

 

「私……」

 

「うん」

 

「絶対に捕まえる」

 

「奇遇だな。俺もだ」

 

その時だった。

 

ひら……

 

ひらひら……

 

どこからともなく一枚の紙が舞ってきた。

 

「?」

 

キリトの顔に。

 

ぺたっ。

 

「…………」

 

キリトは無言で紙を剥がした。

 

そこには――

 

妙に丸っこい字で。

 

**『きーりとくーん♥

 あーばよー♥

 

      By こっこ』**

 

「…………」

 

キリトの手が震えた。

 

ぐしゃっ!!

 

紙が握り潰される。

 

アスナが静かに立ち上がった。

 

「……追う?」

 

キリトも立ち上がる。

 

「追う」

 

「秘鍵は?」

 

「それも取り返す」

 

「じゃあ――」

 

二人は顔を見合わせた。

 

「「まず、こっこを捕まえる」」

 

そして。

 

遺跡全体に――

 

怒号が響き渡った。

 

「あのクソ親父ぃぃぃぃぃぃぃ!!   」

 

          ◇

 

遥か前方。

 

「…………」

 

全力疾走していたこっこの背筋に悪寒が走った。

 

「……何か聞こえた?」

 

リズが真顔で答える。

 

「聞こえた」

 

シリカも青ざめて頷く。

 

「ものすごく聞こえました……」

 

「…………」

 

三人は顔を見合わせた。

 

ピナだけが楽しそうに、

 

「きゅるっ♪」

 

と鳴いた。

 

こっこは秘鍵を抱え直した。

 

「よし」

 

「何よ」

 

「作戦変更」

 

「どうするの?」

 

こっこは真顔で言った。

 

「ランスロットさんのところまで全力で逃げる。」

 

「最初からそうしなさいよ!! 」

 

「急ぎましょう!! 絶対に追いつかれます!! 」

 

「きゅるるー♪」

 

第四層の森を――

 

三人と一匹が爆走していく。

 

その遥か後方から。

 

「待てぇぇぇぇぇぇ!!」

 

「こっこさぁぁぁぁん♥」

 

「ひぃぃぃぃ!! アスナちゃんの『さん』が怖い!! 」

 

秘鍵争奪戦。

 

勝敗はいまだ決していない。

 

ただ一つ確かなことがあるとすれば――

 

こっこ一行は今、第四層でもっとも怒らせてはいけない二人を、完全に怒らせてしまった。

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