エンジニアのSAO Progressive ~NPCが売ってないなら作ればいい~   作:Edward

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44 騙した側が騙された時は素直になろう

第四層――秘鍵争奪戦・決着

 

地下水路の出口が見えた。

 

薄暗い水路を抜けると、眩しい陽光が三人を迎える。遠くには森エルフの居城《アルフェルト城》の尖塔がそびえていた。

 

「見えた! アルフェルト城!」

 

こっこが叫ぶ。

 

「あと少しよ!」

 

リズが走る速度を上げる。

 

「ピナ、もうちょっとです!」

 

「きゅるるっ♪」

 

シリカの肩でピナが羽ばたいた。

 

城までは目と鼻の先。

 

ここまで来れば、秘鍵をランスロットへ渡すことができる。

 

三人は最後の力を振り絞って走り続けた。

 

だが――。

 

「…………」

 

こっこの足が止まった。

 

リズとシリカも、その視線の先を見て硬直する。

 

道の向こう。

 

二人のプレイヤーが立っていた。

 

黒い剣士と、白と赤の細剣使い。

 

キリトとアスナ。

 

二人とも息を切らしている。

 

そして、その目は――。

 

「……血走ってる」

 

リズが呟いた。

 

「ここまでやって追いすがってくるなんて 」

 

こっこは思わず後ずさる。

 

キリトが一歩踏み出した。

 

「こっこ……」

 

「ひっ」

 

「秘鍵を返せ」

 

アスナも静かに細剣を抜く。

 

「今度こそ、逃がさないわよ♥」

 

「笑顔が怖いですぅ…… 」

 

シリカがピナを抱き寄せた。

 

そのとき、リズが前へ出た。

 

「私が行くわ!」

 

「えっ?」

 

こっこが目を丸くする。

 

シリカも驚いた。

 

「ツッコミ担当では?」

 

「 やるときゃ、やるわよ!」

 

リズはメイスを構え、二人の前に立つ。

 

「こっこ、シリカ。あんたたちは先に行きなさい!」

 

「リズ……!」

 

こっこは感極まったように頷いた。

 

「君の努力を無駄にしない!」

 

「切り替え、はやっ!」

 

「リズさん、すみません 」

 

シリカが頭を下げる。

 

リズは大きく息を吸った。

 

「さあ、かかってらっしゃ――」

 

「きゃーっ!! 」

 

一瞬だった。

 

アスナの鋭い踏み込み。

 

リズがメイスを振り上げるより早く、細剣がその動きを封じる。

 

続いてキリトが背後へ回り込み、逃走経路を塞いだ。

 

「ちょっ、待っ――!」

 

「確保!」

 

「きゃああああ!! 」

 

リズはあっという間に身動きを封じられた。

 

こっこはその光景を見つめ、静かに目を閉じた。

 

「君の屍は、僕がのりこえる」

 

「死んでないわよ!! 」

 

シリカが呆然とする。

 

「あのー、こっこさん。リズさん瞬殺です」

 

キリトはリズを確保したまま、こっこを睨んだ。

 

「あー、リズは確保した。次は貴様だ 」

 

「…………」

 

こっことシリカは顔を見合わせた。

 

そして――。

 

「逃げるぞ!!」

 

「はいっ!!」

 

二人は振り返りもせず、脱兎のごとく逃げ去った。

 

「こらああああ!! 」

 

リズの怒声が背後から響く。

 

だが、二人は止まらない。

 

――はずだった。

 

「きゅー♥」

 

「…………え?」

 

シリカの肩が軽くなった。

 

振り返る。

 

ピナがいない。

 

「ピナ?」

 

そのピナは――。

 

「はい、もう一個」

 

「きゅるる〜♥」

 

アスナの差し出した木ノ実を、嬉しそうに食べていた。

 

「…………」

 

シリカが固まる。

 

アスナは微笑みながら、もう一つ木ノ実を取り出した。

 

「これ、気に入ったみたいね」

 

「きゅー♥」

 

ピナはアスナの周りを楽しそうに飛び回っている。

 

「ピナぁぁぁぁ!! 」

 

シリカが悲鳴を上げた。

 

こっこは歯を食いしばる。

 

「悔しいけど、行くぞ!」

 

「駄目ですー  ピナを置いてくなんてできない!」

 

「くっ!」

 

シリカはピナへ向かって駆け出した。

 

「ピナ! 戻ってきてください!」

 

「きゅ?」

 

ピナは首を傾げる。

 

そしてシリカを見た。

 

アスナを見る。

 

木ノ実を見る。

 

「…………きゅ♥」

 

再びアスナの手元へ。

 

「ピナぁぁぁぁぁ!! 」

 

こっこはその光景を見て、決断した。

 

「シリカちゃん……すまない!」

 

「えっ?」

 

「君の犠牲は無駄にしない!!」

 

「こっこさーん!? 」

 

こっこは一人で逃げ出した。

 

「待てっ!! 」

 

キリトが追う。

 

こっこは振り返り、舌を出した。

 

「 」

 

「この野郎!!」

 

---

 

森の道を、二人が駆け抜ける。

 

こっこは必死だった。

 

正面から戦えば勝ち目はない。

 

足を止めれば捕まる。

 

ならば――。

 

「こっちだ!」

 

こっこは道を外れ、崖際へ向かった。

 

行き止まり。

 

背後からキリトが迫る。

 

「追い詰めたぞ!」

 

「ふっ……」

 

こっこはストレージからロープを取り出した。

 

先端のフックを崖上の木へ投げる。

 

――ガチッ!

 

「それじゃあ、またね♥」

 

ロープを掴み、崖をよじ登る。

 

「なっ!?」

 

キリトが一瞬足を止めた。

 

こっこは崖上へ到達すると、得意げに見下ろした。

 

「 」

 

「…………」

 

キリトは崖を見上げる。

 

そして、剣を背中へ収めた。

 

「たあっ!!」

 

「えっ?」

 

キリトが岩の出っ張りを足場にして駆け上がってきた。

 

一歩。

 

二歩。

 

三歩。

 

ソードスキルではない。

 

高い敏捷値と身体操作を活かした、強引な崖登り。

 

「うそ  あの子絶対に変だよ」

 

「誰が変だ!! 」

 

キリトが崖上へ飛び出した。

 

こっこは慌てて後退する。

 

「さあ、鍵を――」

 

――ドシーン!!

 

「うわっ!?」

 

キリトの姿が消えた。

 

「…………」

 

こっこは穴の縁から顔を出した。

 

底には、土埃を浴びたキリトがいた。

 

「…………こっこ」

 

「はい♥」

 

「これは何だ」

 

「落とし穴です✨」

 

もともと空いていた穴に、シートを使って隠しただけの簡単な罠。

 

だが、追跡に集中していたキリトは見事に引っかかった。

 

こっこは胸を張る。

 

「まだまだ!」

 

「 」

 

「キーリトくーん♥ 落とし穴ってね、古来より追跡者に対して非常に有効な――」

 

「待ってろ」

 

「はい?」

 

「今すぐ行く」

 

「…………」

 

こっこの笑顔が引きつった。

 

「怖っ!! 」

 

即座に逃走。

 

もはや秘鍵争奪戦ではない。

 

鬼ごっこである。

 

しかも鬼は、アインクラッド最前線でもトップクラスの俊足を誇る剣士だった。

 

---

 

一方、その頃。

 

「離しなさいよーっ!! 」

 

リズが暴れていた。

 

アスナはその腕を押さえながら、困ったように笑う。

 

「暴れないの。別にPKするわけじゃないんだから」

 

「だったら離してよ!」

 

「逃げるでしょ?」

 

「逃げるわよ!!」

 

「じゃあ駄目」

 

「くううううっ 」

 

その横では――。

 

「ピナぁぁぁぁ 」

 

シリカが泣いていた。

 

「きゅるる〜♥」

 

当のピナは、アスナの手から木ノ実を受け取って、もぐもぐと食べている。

 

「おいしい?」

 

「きゅー♥」

 

「もう一個?」

 

「きゅっ♥」

 

シリカは愕然とした。

 

「ピナ……私よりアスナさんを選ぶんですか…… 」

 

「きゅ?」

 

ピナが首を傾げる。

 

そしてシリカの肩へ戻ろうとする。

 

しかし――。

 

木ノ実を見る。

 

アスナを見る。

 

シリカを見る。

 

木ノ実を見る。

 

「…………きゅ♥」

 

アスナへ戻った。

 

「ピナぁぁぁぁぁ!! 」

 

リズが肩を落とした。

 

「シリカ……現実を受け入れなさい」

 

「嫌ですぅぅぅ!! 」

 

---

 

その頃。

 

「はぁっ……はぁっ……!」

 

こっこは崖上の森を走っていた。

 

後ろを見る。

 

誰もいない。

 

「…………」

 

足を止める。

 

「勝った?」

 

静寂。

 

こっこはニヤリと笑った。

 

「ふっ……キリト君」

 

髪をかき上げる。

 

「まだまだ青いね 」

 

その瞬間。

 

――ガサッ。

 

「ひっ!?」

 

草むらが揺れた。

 

こっこは片手剣を抜く。

 

しかし、何も出てこない。

 

「…………なんだ、鹿か何か――」

 

そのときだった。

 

背後から声がした。

 

「誰が青いって?」

 

「…………」

 

こっこの顔から血の気が引いた。

 

ゆっくり。

 

ゆっくり振り返る。

 

そこに――。

 

キリトがいた。

 

「ぎゃああああああ!! 」

 

逃げる。

 

だが、キリトは追わない。

 

「……?」

 

三歩。

 

五歩。

 

十歩。

 

こっこは違和感を覚えた。

 

「追ってこない?」

 

キリトは腕を組んで立っている。

 

そして――。

 

ニヤッ。

 

笑った。

 

「……え?」

 

次の瞬間。

 

――ズボッ!!

 

「うわあああああああっ!?」

 

こっこの足元が消えた。

 

落下。

 

ドサッ!!

 

「いたたた…… 」

 

浅い穴だった。

 

ダメージはほとんどない。

 

だが――。

 

こっこは穴の底から、呆然とキリトを見上げた。

 

「…………」

 

キリトが穴の縁へ歩いてくる。

 

「…………まさか」

 

「うん」

 

「落とし穴?」

 

「そう」

 

「誰が?」

 

「俺が」

 

「…………」

 

こっこは震える指でキリトを指した。

 

「人の技をパクった!! 」

 

「お前にだけは言われたくない!! 」

 

実は先ほど。

 

最初の落とし穴から脱出したキリトは、追跡しながら考えていた。

 

正面から追えば逃げる。

 

追いつけば煙玉。

 

足止めすればロープ。

 

さらに罠。

 

だったら――。

 

こっこと同じことをすればいい。

 

キリトは先回りし、地形を確認していた。

 

幸運にも小さな窪地を発見したのだ。

 

「さっきお前が使ったシート」

 

「…………」

 

こっこが自分の罠を回収し忘れていた。

 

キリトはそれを拾っていたのだ。

 

「僕のシートぉぉぉぉ!! 」

 

「そこ!?」

 

キリトが穴へ飛び降りる。

 

「さて」

 

「待って」

 

「秘鍵」

 

「話し合おう」

 

「鍵」

 

「暴力では何も解決しない」

 

「お前が言うな 」

 

じりじり。

 

こっこは後退する。

 

だが、穴の中。

 

逃げ道はない。

 

「…………キリト君」

 

「なんだ」

 

「僕たち、友達だよね?」

 

「今だけ違う」

 

「即答!? 」

 

ついに壁際。

 

キリトが手を伸ばす。

 

その瞬間。

 

こっこの目が光った。

 

「甘い!!」

 

《体術》――!

 

「とうっ!!」

 

キリトも構える。

 

だが、攻撃ではない。

 

こっこはキリトの肩へ足をかけ――。

 

踏み台にした。

 

「なっ!?」

 

「さらばだキリト君!!」

 

穴の外へ飛び出す!

 

「このっ!!」

 

キリトも跳ぶ。

 

二人同時に穴から脱出。

 

そして――。

 

アルフェルト城が見えた。

 

「城だ!!」

 

こっこが叫ぶ。

 

森エルフの衛兵たちもこちらに気づく。

 

「こっこ殿!」

 

「秘鍵を!!」

 

「持ってきたよおおおお!!」

 

あと百メートル。

 

七十。

 

五十。

 

後ろからキリト。

 

「待てえええええ!! 」

 

「嫌だあああああ!! 」

 

三十メートル。

 

二十。

 

十――!

 

「勝った!!」

 

こっこが秘鍵を掲げた。

 

ランスロットが城門から駆け出してくる。

 

「こっこ殿!!」

 

そのとき。

 

――ガシッ。

 

「え?」

 

腰。

 

何かに引っ張られた。

 

見る。

 

ロープ。

 

「…………」

 

その先。

 

キリト。

 

「捕まえた」

 

「それ僕のロープぇぇぇぇぇ!! 」

 

キリトが全力で引く。

 

「うわあああああ!!」

 

ズザザザザザッ!!

 

城門まで、あと数メートル。

 

こっこは地面を掴む。

 

「嫌だああああ!! ランスロットさぁぁぁん!! 」

 

「こっこ殿ぉぉぉ!!」

 

「秘鍵を受け取ってぇぇぇ!!」

 

こっこは最後の力で――。

 

秘鍵を投げた。

 

宙を舞う。

 

ランスロットが手を伸ばす。

 

キリトも跳ぶ。

 

「届けえええええ!!」

 

あと少し。

 

あと――。

 

――パシッ。

 

「…………」

 

こっこが固まった。

 

ランスロットも固まった。

 

キリトが着地する。

 

その右手には。

 

秘鍵。

 

「…………」

 

沈黙。

 

こっこの口が開いた。

 

「…………うそ」

 

キリトが振り返る。

 

満面の笑み。

 

それは、今までこっこが何度も見せてきた――。

 

最高に腹の立つ笑顔だった。

 

「こっこ」

 

「……はい」

 

キリトは秘鍵をひらひら振った。

 

「まだまだだね 」

 

「…………」

 

こっこの膝が崩れた。

 

「僕の煽りまでパクったぁぁぁぁぁ!! 」

 

---

 

数分後。

 

リズとシリカも合流した。

 

「こっこ……」

 

「リズ……」

 

「負けたの?」

 

「…………」

 

「こっこさん……」

 

「シリカちゃん……」

 

「秘鍵は?」

 

「…………」

 

三人が見る。

 

少し離れた場所。

 

キリトがアスナへ秘鍵を渡していた。

 

アスナが満足そうに微笑む。

 

「やっと取り返したわね♥」

 

「ああ……長かった」

 

二人とも疲れ果てていた。

 

その足元では。

 

「きゅー♥」

 

ピナがまだ木ノ実を食べている。

 

「ピナぁ…… 」

 

シリカが崩れ落ちた。

 

リズも地面へ座り込む。

 

「完敗ね……」

 

「…………」

 

こっこは何も言わない。

 

リズが横目で見る。

 

「こっこ?」

 

「…………」

 

「何考えてるの?」

 

こっこは静かに立ち上がった。

 

そして――。

 

キリトを見る。

 

「キリト君」

 

「なんだ?」

 

こっこは親指を立てた。

 

「いい落とし穴だった ✨」

 

「そこ評価するのかよ!!」

 

「シートの張り方は65点」

 

「採点すんな!! 」

 

「ロープの使い方は90点」

 

「嬉しくない!!」

 

「でも――」

 

こっこはニヤッと笑う。

 

「僕の技術を学んだ以上、君も今日から立派なローグだね♥」

 

キリトの顔が固まった。

 

「…………」

 

アスナがキリトを見る。

 

リズも見る。

 

シリカも見る。

 

ランスロットまで見る。

 

キリトは慌てた。

 

「違う!! 俺は違う!!」

 

こっこは肩を叩く。

 

「ようこそ、こちら側へ 」

 

「勝ったの俺だよな!? 」

 

「勝負に勝って、何か大切なものを失ったね」

 

「お前のせいだあああああ!! 」

 

第四層。

 

二度にわたる秘鍵争奪戦。

 

最終勝者――キリト&アスナ。

 

しかし。

 

後日、攻略組の間では奇妙な噂が流れた。

 

――黒の剣士キリトは最近、落とし穴とロープを使うらしい。

 

その噂を聞くたびに。

 

キリトは叫ぶのであった。

 

「使わないからな!! 」

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