エンジニアのSAO Progressive ~NPCが売ってないなら作ればいい~   作:Edward

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45 修行パートって地味だけど好きだよね

第四層《ロービア》――再び、上層へ

 

アルフェルト城。

 

その大門の前で、ランスロットは深く頭を下げていた。

 

「申し訳ない、こっこ殿。私が不甲斐ないばかりに……秘鍵を奪われてしまうとは」

 

「いえいえ!」

 

こっこは慌てて両手を振った。

 

「無理をお願いしたのは僕のほうです。こちらこそ、申し訳ありませんでした」

 

そして、少し困ったように笑う。

 

「あの人間――キリトは、僕たちの中でも最上位に位置する剣士です。正面から戦って勝てるような相手ではありません。だからこそ、秘鍵を盗み、逃走し、煙玉まで使って……あそこまで運ぶことができたんですけど」

 

腰に手を当て、ため息をつく。

 

「最後の最後で奪い返されてしまいました。僕の力不足です」

 

「こっこ殿……」

 

ランスロットは首を横に振った。

 

「そのような手練れを相手に、ここまで奮闘してくださった。それだけで十分です。むしろ、我ら森エルフの戦いにここまで力を貸してくださったこと……改めて感謝いたします」

 

胸に手を当て、静かに一礼する。

 

その姿は、最初に森の中で出会った時と変わらない。

 

誇り高く。

 

礼節を重んじ。

 

そして――仲間を信じる騎士だった。

 

ランスロットは顔を上げた。

 

「それに、秘鍵は一つではありません」

 

その言葉に、三人の表情が引き締まる。

 

「すべてを揃えなければ意味を成さぬものです。ならば、いずれ――」

 

ランスロットは遥か上方を見上げる。

 

アインクラッド。

 

雲の彼方まで連なる、巨大な浮遊城。

 

そのどこかに、まだ見ぬ秘鍵が眠っている。

 

「――すべての秘鍵を巡る、避けられぬ激戦が訪れることでしょう」

 

「……でしょうね」

 

こっこも上を見る。

 

今回はこちらが奪い。

 

そして、奪い返された。

 

これで終わりではない。

 

むしろ――始まったばかりなのだ。

 

「いずれにしても、私はほかの秘鍵を求め、先へ進みます」

 

ランスロットは微笑んだ。

 

「こっこ殿。リズベット殿。シリカ殿」

 

三人を順番に見る。

 

「また上層でお会いしましょう」

 

リズが笑う。

 

「ええ!」

 

シリカも大きく頷いた。

 

「絶対ですよ!」

 

「もちろんです」

 

そしてランスロットは踵を返した。

 

待っていた森エルフの騎士たちと合流し、アルフェルト城から続く道を歩いていく。

 

その背中を――

 

こっこは、いつまでも見送っていた。

 

「ランスロットさーん!」

 

ぶんぶんと手を振る。

 

「さよーならー!」

 

遠くからランスロットも振り返り、手を上げた。

 

やがて森の向こうへ。

 

その姿が消えていく。

 

「…………」

 

しばしの静寂。

 

第四層の風が、三人の間を吹き抜けた。

 

リズが腰に手を当てる。

 

「よし!」

 

パンッ!

 

自分の頬を叩いた。

 

「さあ、攻略を頑張るわよ!」

 

「おお……」

 

シリカが目を丸くする。

 

「リズさん、最近ますますたくましくなりましたね」

 

「そう?」

 

リズは少し嬉しそうに胸を張る。

 

「最初の頃なんて鍛冶ばかりしていたのに、今ではボス戦にも参加するし、秘鍵を持って逃走するし、攻略組のトッププレイヤーに追い回されるし……」

 

「投石機にも狙われましたね」

 

「そうそう。投石機にも――」

 

リズの動きが止まった。

 

「…………」

 

「…………」

 

二人の視線が。

 

ゆっくり。

 

こっこへ向く。

 

本人はまだ遠くへ向かって手を振っていた。

 

「ランスロットさーん! またねー!」

 

リズの眉間に青筋が浮かぶ。

 

「……シリカ」

 

「はい」

 

「シリカも、ずいぶんしたたかになったわね」

 

「そうですか?」

 

「昔なら、キリトとアスナを相手に、ピナのブレスで吹き飛ばして逃げるなんて考えなかったでしょう」

 

「…………」

 

シリカは考える。

 

確かに。

 

泡を吐かせ。

 

水を吐かせ。

 

ついには風まで吐かせ。

 

煙玉とのコンビネーションまで覚えた。

 

しかも。

 

逃走中――

 

少し楽しかった。

 

「…………」

 

シリカの頬が引きつる。

 

「……すべて」

 

リズが低い声で言った。

 

「はい」

 

「あいつのせいね 」

 

二人の視線の先。

 

「ランスロットさーん! さよーならー!」

 

こっこは、まだ手を振っている。

 

シリカはにっこりと笑った。

 

「そうですね 」

 

「え?」

 

ようやくこっこが振り返った。

 

そこには。

 

笑顔のシリカ。

 

笑顔のリズ。

 

「…………」

 

こっこの危機察知能力が発動した。

 

《ローグ》として培われた嗅覚が告げる。

 

――まずい。

 

「で、では、僕たちも攻略に――」

 

ガシッ。

 

右肩をリズに掴まれる。

 

ガシッ。

 

左肩をシリカに掴まれる。

 

「こっこ?」

 

「こっこさん?」

 

「……はい」

 

リズが満面の笑みを浮かべる。

 

「私たち、最初に会った頃よりずいぶんたくましくなったと思わない?」

 

「お、思うよ?」

 

「誰のおかげかしら?」

 

「…………SAOという過酷な環境?」

 

「違う 」

 

シリカもにこにこと笑っている。

 

「私、最近わかったんです」

 

「な、何を?」

 

「悪いことをするときって――」

 

シリカは爽やかに言った。

 

「迷ったら負けなんですね✨️」

 

「シリカちゃん!? 」

 

リズが頭を抱えた。

 

「もう完全に染まっているじゃない!」

 

「リズさんだって、さっきリズさんを置いて逃げようとしたこっこさんを、普通に殴っていましたよね?」

 

「それは正当防衛よ!」

 

「何に対するものですか!? 」

 

「精神的被害よ 」

 

「そんなぁ!」

 

三人の声がアルフェルト城の前に響き渡る。

 

秘鍵は失った。

 

キリトとアスナには敗れた。

 

船は壊れた。

 

ユリエールには怒られた。

 

投石機では撃たれた。

 

リズは瞬殺された。

 

「最後のはいらない 」

 

「痛っ!?」

 

――それでも。

 

三人は笑っていた。

 

第一層では。

 

ただ生き残るために必死だった。

 

リズは鍛冶屋。

 

シリカは裁縫職人。

 

こっこは料理とクラフトに夢中になっていた、少し風変わりなプレイヤー。

 

それが今では。

 

武器を作り。

 

船を造り。

 

エルフと肩を並べ。

 

攻略組と競い。

 

三人で馬鹿みたいに走り回っている。

 

少しずつ。

 

確実に。

 

彼らもまた、この世界を生きるプレイヤーになっていた。

 

こっこは前を見る。

 

第四層《ロービア》。

 

まだ攻略は終わっていない。

 

「よし!」

 

今度はこっこが声を上げた。

 

「迷宮区を探しに行こう!」

 

リズがメイスを肩に担ぐ。

 

「今度こそ、真面目に攻略よ!」

 

シリカもピナを肩に乗せる。

 

「寄り道は禁止です!」

 

「了解!」

 

三人は歩き出す。

 

――その三分後。

 

「あっ! あそこに珍しい船が――」

 

「寄り道禁止って言ったでしょうが 」

 

「こっこさん!! 」

 

「見るだけ! 見るだけだからぁぁぁ! 」

 

「きゅるるる♪」

 

第四層。

 

まだまだ――

 

騒がしい冒険は続く。

 

――その頃。

 

かなり離れた森の中。

 

ランスロットは一度だけ立ち止まり。

 

遠くから響いてくる声に振り返った。

 

「…………」

 

側近の森エルフが尋ねる。

 

「どうされました?」

 

ランスロットは微笑んだ。

 

「いや」

 

再び前を向く。

 

「良き仲間を持ったと思ってな」

 

そして森エルフたちは――

 

次なる秘鍵を求めて。

 

上層へ向かった.

 

 

 

 

第二層――サタンの修行

 

《柔拳・半身の理》

 

老師の庵。

 

山肌を削って造られた小さな修練場には、今日も朝から怒号が響いていた。

 

「違う!」

 

ばしんっ!

 

「ぐおっ!?」

 

サタンの肩に、老師の杖が飛ぶ。

 

「またじゃ!」

 

ばしんっ!

 

「痛ぇって!! 」

 

老師は深いため息をついた。

 

「お主は、上半身と下半身の連動がまるでなっておらん。」

 

「…………?」

 

サタンは首を傾げる。

 

老師は眉をひそめた。

 

「適切な半身を取らなければ、疲労も増すうえ、動きにも無駄が生じる。腕だけで受け、脚だけで踏ん張り、腰がまるで連動しておらんのじゃ。」

 

「…………?」

 

「だから――」

 

「…………?」

 

「…………?」

 

老師のこめかみに青筋が浮かぶ。

 

横で見ていた商人が、ぽりぽりと頬を掻いた。

 

「老師。」

 

「なんじゃ。」

 

「ミスター・サタンにも理解できるように説明するアル。」

 

「十分に分かりやすく説明しておるじゃろう。」

 

「全く理解していないアルヨ。」

 

サタンは胸を張った。

 

「おう! 一つも分からん!」

 

「威張るな!!」

 

ごんっ!!

 

「いてぇ!! 」

 

老師は額を押さえた。

 

「やれやれじゃ……。ならば、手本を見せるとするか。」

 

そう言って、老師はゆっくりと修練場の中央へ歩いていった。

 

そこには、不自然なほど何も置かれていない円形の空間がある。

 

老師はその中央――地面に描かれた小さな印の上に立った。

 

サタンが首を傾げた。

 

「なんだ、そこは?」

 

商人も訝しげに周囲を見回す。

 

「何か仕掛けがあるアルカ?」

 

老師は答えない。

 

ただ静かに腰を落とす。

 

左足をわずかに前へ。

 

肩の力を抜き、両腕を自然に構える。

 

それまでの小柄な老人とは思えないほど、その立ち姿には一分の隙もなかった。

 

そして――

 

「よく見ておれ。」

 

老師の右手が閃いた。

 

シュッ!

 

足元に張られていた一本のロープを――

 

手刀で切る。

 

ぷつん。

 

その瞬間。

 

ガコン!!

 

「ん?」

 

サタンが振り向く。

 

次の瞬間――

 

ブォン!!

 

巨大な丸太が横から飛んできた。

 

「うおおっ!?」

 

一本ではない。

 

前。

 

後ろ。

 

左右。

 

さらに斜め上からも。

 

周囲の木々に吊られていた無数の丸太が、振り子のように老師めがけて一斉に襲い掛かった。

 

「老師ぃぃぃ!?」

 

サタンが叫ぶ。

 

しかし。

 

老師は動かない。

 

いや――

 

動いている。

 

ほんのわずかに。

 

迫る一本目。

 

老師は半歩だけ腰を引く。

 

ブォッ!

 

丸太が鼻先を通過する。

 

すぐさま背後から二本目。

 

老師の肩が沈む。

 

右脚を軸に腰が回転し――

 

掌が丸太の側面に触れる。

 

ドン!

 

受け止めない。

 

押し返さない。

 

ほんのわずかに軌道をずらしただけ。

 

丸太は老師の身体を外れて流れていく。

 

そこへ三本目。

 

老師は左腕を添える。

 

腰。

 

肩。

 

肘。

 

手首。

 

全てが一つの流れとなり――

 

スルッ。

 

まるで水を掻き分けるように、丸太を逸らした。

 

サタンの目が見開かれる。

 

「……すげえ。」

 

次々と丸太が襲い掛かる。

 

だが老師は、ほとんどその場を動かない。

 

しゃがむ。

 

身体を捻る。

 

半身になる。

 

脚を引く。

 

掌で流す。

 

肘で方向を変える。

 

時には足裏で丸太を蹴るのではなく、横からそっと押す。

 

ドン!

 

ガン!

 

ブォン!

 

轟音だけが修練場に響く。

 

老師だけが、その中心で静かだった。

 

まるで激流の中に立つ岩――

 

いや。

 

岩ですらない。

 

流れそのもの。

 

最後の一本が正面から迫る。

 

老師はわずかに右半身になる。

 

「ふっ。」

 

前脚が地面を捉える。

 

腰が回る。

 

肩が追随する。

 

最後に掌が添えられ――

 

トン。

 

丸太は老師の身体を掠めるように横へ流れていった。

 

ブォォン……

 

やがて。

 

全ての丸太が止まった。

 

静寂。

 

老師は、最初に立っていた印の上からほとんど動いていない。

 

サタンは口を開けたまま固まっていた。

 

商人も同じだった。

 

「…………。」

 

老師は衣服の袖を整える。

 

「柔拳。」

 

そして自分の胸を指す。

 

「上半身。」

 

次に腰と脚。

 

「下半身。」

 

最後に地面を踏む。

 

「そして足運び。」

 

老師はサタンを見る。

 

「これらが別々に動くのではない。」

 

腰をわずかに捻る。

 

その動きに合わせ、肩、腕、脚が自然についてくる。

 

「全てが一つの動きとして噛み合った時――」

 

老師は、揺れている丸太の一本へ軽く触れた。

 

すっ。

 

大きな丸太が、まるで誘導されたように老師の横を抜けていく。

 

「このような技術となるのじゃ。」

 

サタンの顔が輝いた。

 

「すげえええええ!!✨」

 

商人も目を輝かせていた。

 

「老師!」

 

「なんじゃ。」

 

「いつも偉そうに威張ってるだけだと思ってたアルけど!」

 

「…………。」

 

「実例を見たら、本当にすごいアル!!✨」

 

「お主まで何を言っておる!! 」

 

サタンは拳を握り締める。

 

「よし!」

 

老師が嫌な予感を覚える。

 

「なんじゃ。」

 

「俺もやる!!」

 

「待て。」

 

「今ならできる気がする!!」

 

「待たんか。」

 

サタンは中央の印の上へ立つ。

 

「柔拳!」

 

構える。

 

「上半身!」

 

胸を張る。

 

「下半身!」

 

腰を落とす。

 

「全部一緒に使えばいいんだろ!?」

 

老師は顔を覆った。

 

「理解が雑すぎる……。」

 

商人はロープの横へ移動した。

 

「準備はいいアルカ?」

 

「おう!!」

 

「本当に切るアルヨ?」

 

「来いやあああ!! 」

 

老師が手を伸ばす。

 

「いや、まずは一本ずつ――」

 

シュッ!

 

商人がロープを切った。

 

老師。

 

「…………。」

 

サタン。

 

「…………。」

 

商人。

 

「…………。」

 

ガコン!!

 

サタンの顔が引きつった。

 

「え?」

 

ブォン!!

 

ドゴォ!!

 

「ぐふっ!!」

 

一本目が腹へ直撃。

 

サタンが吹き飛ぶ。

 

しかし、背後から二本目。

 

ゴン!!

 

「ぐあっ!!」

 

さらに横から。

 

ドガッ!!

 

「ぬおおお!?」

 

前から。

 

バゴォン!!

 

「待て待て待て!! 」

 

丸太は待ってくれない。

 

「半身じゃ!」

 

老師が叫ぶ。

 

「半身ってどっちだあああ!!」

 

「腰を使え!」

 

「腰を使ったら丸太が来たああ!!」

 

「流すアル!」

 

商人が応援する。

 

「流れねええええ!! 」

 

ドゴン!!

 

「ぐはっ!」

 

バキン!!

 

「ぎゃああ!」

 

ドン!!

 

「ぬおおおお!!」

 

数分後。

 

修練場中央。

 

サタンは地面に大の字になっていた。

 

頭の周囲には、漫画のように星が飛んでいる。

 

「…………。」

 

老師が覗き込む。

 

「分かったか?」

 

サタンは震える手を上げた。

 

「……分かった。」

 

「何がじゃ。」

 

「老師……。」

 

「うむ。」

 

「すげえ……。」

 

老師は深くため息をついた。

 

「そこからか……。」

 

横では商人が荷物を広げていた。

 

「ミスター・サタン。」

 

「……なんだ。」

 

「丸太修行用の痛み止めポーション、売るアル。」

 

サタンの目が見開かれる。

 

「お前……。」

 

「今なら特別価格アル✨」

 

「てめぇぇぇぇ!! 」

 

立ち上がろうとした瞬間。

 

まだ揺れていた最後の丸太が戻ってきた。

 

ゴォン!!

 

「ぐわあああああ!! 」

 

老師は静かに目を閉じた。

 

「……まずは、周囲を確認する修行からじゃな。」

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