エンジニアのSAO Progressive ~NPCが売ってないなら作ればいい~   作:Edward

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46 KOR アインクラッドの通貨ではない

第四層――Engineer、魚を獲る

 

第四層《ロービア》。

 

巨大な湖と無数の水路が広がる、水の世界。

 

こっこは船着き場に立ち、行き交うゴンドラを眺めていた。

 

先日までは、その目に映るものといえば――

 

船。

 

造船所。

 

物流。

 

水上輸送。

 

そして、フィールドボスにぶつけるための衝角と弩弓とカタパルト。

 

だったのだが。

 

「…………」

 

こっこが突然、動きを止めた。

 

リズが振り返る。

 

「なによ?」

 

「船を作ることに集中するあまり、見落としていた。」

 

「だから、なによ?」

 

こっこはゆっくりと湖へ視線を向ける。

 

水面がきらきらと輝いている。

 

その下を――魚影が横切った。

 

「ここは……」

 

「?」

 

こっこの目が輝く。

 

「魚介の宝庫ではないか!!✨️」

 

「今さら!?」

 

リズの声が水上都市に響いた。

 

シリカは苦笑する。

 

「あはは……。こっこさん、第四層に来てから船しか見ていませんでしたもんね 」

 

「迂闊だった!」

 

こっこは拳を握った。

 

「水がある!」

 

「あるわね」

 

「湖がある!」

 

「見れば分かるわよ」

 

「魚がいる!」

 

「いるでしょうね」

 

「つまり――」

 

こっこはストレージからフライパンを取り出した。

 

「料理だ!!」

 

「攻略は!?」

 

「二人は攻略に参加して!」

 

「はぁ!?」

 

「僕は特訓だ!」

 

シリカが首を傾げる。

 

「特訓……?」

 

「第四層の魚介類を片っ端から調理する!」

 

「それを特訓って言うの!?」

 

「《料理》スキルは僕の原点だ!」

 

「急に初心を思い出さないでよ!! 」

 

ピナだけが楽しそうだった。

 

「きゅるる♪」

 

「おお、ピナも魚を食べたいか!」

 

「きゅるっ✨️」

 

「よーし!今日は塩焼きから――」

 

リズがこっこの襟首を掴んだ。

 

「最低限、攻略情報は共有しなさいよ 」

 

「もちろん!」

 

シリカが少し心配そうに尋ねる。

 

「迷宮区に入る前には合流してくださいね?」

 

「任せろ!」

 

「その返事が一番不安なのよ!」

 

こうして――。

 

第四層攻略の途中。

 

三人は一時的に別行動を取ることになった。

 

リズとシリカは攻略組とともにフィールドを進み、クエストをこなし、装備素材を集めながら迷宮区を目指す。

 

そして、こっこは――。

 

「引いた! 引いた引いた!!」

 

釣りをしていた。

 

「でかいぞぉぉぉ!!」

 

釣って。

 

「この貝、バターが欲しいな……。いや、SAO内で代用品を――」

 

焼いて。

 

「刺身判定……通った!!✨️」

 

捌いて。

 

「揚げ物もいける!」

 

揚げて。

 

さらにエンジニアたちまで巻き込み――。

 

「こっこさん! 漁船が戻りました!」

 

「今日の水揚げは!?」

 

「魚系素材十八種! 甲殻類四種! 貝類七種!」

 

「仕分け! 鮮度値の高いものは料理用! 低いものは加工して保存食!」

 

「了解!」

 

いつの間にか、漁業まで始めていた。

 

造船技術がある。

 

船員がいる。

 

水上輸送網がある。

 

そして料理人がいる。

 

結果――。

 

第四層のエンジニアたちは、本人たちすら予想しなかった方向へ進化していった。

 

---

 

そして数日後――迷宮区直前村

 

「遅い!!」

 

リズの第一声だった。

 

「ご、ごめん 」

 

迷宮区直前の村。

 

攻略組が続々と集まり始める中、ようやく合流したこっこの後ろには、数隻の輸送艇が停泊していた。

 

シリカが目を丸くする。

 

「……こっこさん」

 

「はい」

 

「あの船は?」

 

「補給物資です」

 

「どうして三隻もあるんですか?」

 

「鮮魚便です」

 

「鮮魚便!?」

 

リズが頭を抱えた。

 

「この男、私たちが攻略している間に何をやっていたのよ……」

 

こっこは胸を張った。

 

「まあまあ。店を見てよ✨️」

 

「店?」

 

二人が振り返る。

 

そして――固まった。

 

「…………」

 

「…………」

 

そこには。

 

第一層。

 

第二層。

 

第三層。

 

これまで迷宮区攻略前に開いてきた《こっこの店》とは、明らかに規模の異なる光景が広がっていた。

 

木造の大きな屋台。

 

武器、防具、回復アイテム。

 

リズたちが集めた第四層素材を使用した装備。

 

エンジニアたちによる修繕受付。

 

攻略情報を取り扱う窓口。

 

休憩用のテーブル。

 

そして何より――。

 

猛烈にいい匂いが漂っている。

 

「いらっしゃーい!」

 

「第四層名物! 湖魚の塩焼き!」

 

「魚介串、焼きたてです!」

 

「貝のスープあります!」

 

「白身魚のフライ、揚がりましたー!」

 

「甲殻類の炙り焼き、残り十二食!」

 

攻略組のプレイヤーたちが群がっていた。

 

「うめぇ!!」

 

「SAOに入ってから魚を食べたのは初めてかも!」

 

「このスープ、すげえ!」

 

「ボス戦前に食べ過ぎるなよ!」

 

リズの口がぽかんと開く。

 

「……魚屋になってる」

 

「違う」

 

こっこは訂正した。

 

「総合攻略支援店だ✨️」

 

「魚屋よ!!」

 

シリカは楽しそうに店を見回す。

 

「あっ! ピナ用のお魚もあります!」

 

「もちろん!」

 

「きゅるるー!✨️」

 

ピナが飛んでいった。

 

さらに店の裏側には船着き場がある。

 

湖畔の拠点で集められた素材や食材を小型艇が運び込み、荷下ろしされた品物をエンジニアたちが分類する。

 

帰りの船には、修理品や別の街へ送る物資が積み込まれる。

 

第一層では――露店だった。

 

第二層では――攻略組向けの臨時店舗になった。

 

第三層では――職人たちが集まる補給拠点になった。

 

そして第四層。

 

水路によって各街が結ばれたことで――。

 

《店》そのものが物流網の一部になっていた。

 

リズも、その光景には少し感心した。

 

「……まあ、確かに前より便利になってるわね」

 

「でしょ?」

 

「船で素材を運べるから、在庫も多いです」

 

シリカも頷く。

 

「それに、攻略途中のプレイヤーさんがここで装備を直して食事を取り、そのまま迷宮区へ向かえますね」

 

「そういうこと✨️」

 

こっこは満足そうに腕を組んだ。

 

そこへ――。

 

「こっこさーん!」

 

エンジニアが走ってくる。

 

「本日の鮮魚便、到着しました!」

 

「よし! すぐに捌く!」

 

「はい!」

 

こっこはエプロンを装備し、包丁を取り出した。

 

リズが叫ぶ。

 

「結局、魚屋じゃない!! 」

 

「料理人です!」

 

「現場統括でしょうが!!」

 

シリカが笑う。

 

「あはははっ✨️」

 

ピナは魚をくわえて飛び回っている。

 

「きゅるるー♪」

 

そんな喧騒の向こうには――。

 

第四層迷宮区。

 

次なるボスが待ち構えている。

 

攻略組の戦いが始まろうとしている、その直前。

 

水上都市ロービアの迷宮区前には、今日も――。

 

剣を研ぐ音。

 

鎧を叩く音。

 

プレイヤーたちの笑い声。

 

そして。

 

ジュウウウウウ――。

 

魚の焼ける音が響いていた。

 

こっこは焼き魚をひっくり返す。

 

「さあ! 腹いっぱい食べていって!」

 

攻略組から歓声が上がる。

 

第四層《こっこの店》。

 

それはもう、単なる露店ではなかった。

 

職人。

 

料理人。

 

物流。

 

水上輸送。

 

そして攻略組。

 

さまざまなプレイヤーたちを結ぶ――。

 

小さな《港》になり始めていた.

 

 

 

 

 

第四層――《KOR》、私室整理の刑

 

大型遊覧船の建造計画が発覚した翌日。

 

こっこは、ユリエールに呼び出された。

 

「こっこさん。少し、お部屋を見せていただけますか?」

 

「え? 僕の私室?」

 

「はい。予算管理の一環です。」

 

「……なぜ私室が予算管理に関係するの?」

 

ユリエールは、にっこりと微笑んだ。

 

「行けば分かります。」

 

「怖い 」

 

Engineerの拠点にある、こっこの私室。

 

扉を開けたユリエールは、しばらく無言になった。

 

壁際には工具箱。

 

机の上には設計図。

 

棚には用途不明の金具や歯車。

 

床には木材の端材。

 

そして、ベッドの下からは、用途の分からない部品が大量に顔を覗かせている。

 

「…………」

 

「…………」

 

ユリエールが静かに尋ねた。

 

「こっこさん。」

 

「はい。」

 

「これは、倉庫ですか?」

 

「私室です。」

 

「倉庫ですよね?」

 

「私室です 」

 

ユリエールは深く息を吐いた。

 

「分かりました。では、整理しましょう。」

 

「え?」

 

彼女はストレージから、大きなゴミ箱を取り出した。

 

こっこの顔色が変わる。

 

「……何をするつもりですか?」

 

「一つずつ確認し、不要な物を処分します。」

 

「待って。」

 

「では、始めます。」

 

「待ってええええ 」

 

こうして、正式な《KOR》の運用が始まった。

 

《Kokko Oshioki Room》

 

――こっこ・お仕置き・部屋。

 

ユリエールは棚から、一つの歯車を取り上げた。

 

歯の一部が欠け、軸穴もわずかに歪んでいる。

 

「これは?」

 

こっこは慌てて身を乗り出した。

 

「やめて! それは、船を作っていた時に失敗したギア!」

 

「では、失敗作ですね。処分しましょう。」

 

「えっ。」

 

ぽいっ。

 

歯車がゴミ箱に落ちた瞬間――

 

パリンッ!

 

青いポリゴンとなって砕け散った。

 

「ぎゃああああああ 」

 

こっこはゴミ箱に駆け寄る。

 

「まだ! まだ改良の余地があったのにいいいい!」

 

ユリエールは冷静に答えた。

 

「改良するなら、新しく作ってください。」

 

「それはそうだけどおおお 」

 

次に、彼女は曲がった金具を手に取った。

 

「これは?」

 

「カタパルト試作の時に破損した金具!」

 

「破損したのですね。」

 

「うん。でも、曲げ直せば――」

 

「では、不要ですね。」

 

「いや、必要!」

 

ぽいっ!

 

パリンッ!

 

「やめてえええええ 」

 

こっこは両手を伸ばしたまま、床に崩れ落ちた。

 

「その金具……初号機の思い出が……。」

 

「思い出は残しておいてください。金具は処分します。」

 

「名言みたいに言わないでえええ 」

 

ユリエールは次の品を取り出した。

 

それは、欠けた木製のプロペラだった。

 

「これは?」

 

こっこの表情が一変する。

 

「あっ! それはね、最初に水流を利用した推進装置を考えた時の試作品で――」

 

「失敗したのですか?」

 

「うん。」

 

「処分します。」

 

「話を最後まで聞いてええええ 」

 

ぽいっ。

 

パリンッ!

 

「僕の技術史があああああ!」

 

「技術史は設計図に記録してください。」

 

「正論が痛い 」

 

その頃、私室の外。

 

リズとシリカは、扉の前で震えていた。

 

「……中で何をしているのよ。」

 

「こっこさんの悲鳴が、ずっと聞こえます……。」

 

ピナもシリカの肩で小さく丸くなっている。

 

「きゅるる…… 」

 

室内から、また叫び声が響いた。

 

「それは捨てちゃダメええええ!」

 

「使用予定は?」

 

「いつか使う!」

 

「いつですか?」

 

「いつか!」

 

「処分します。」

 

「うわあああああ 」

 

リズが青ざめる。

 

「……どんな恐ろしい拷問をしているのよ。」

 

シリカは両手で耳を押さえた。

 

「聞きたくないです 」

 

ピナが震えながら鳴く。

 

「きゅう……。」

 

扉の向こうでは、ユリエールの淡々とした声が続いていた。

 

「これは?」

 

「それは、船の衝角を試作した時の端材!」

 

「失敗作ですね。」

 

「違う! 失敗から学ぶための貴重な資料!」

 

「設計図はありますか?」

 

「ある。」

 

「では、処分します。」

 

「なんでええええ 」

 

パリンッ!

 

「これは?」

 

「それは、クロスボウの装填機構を改良した時の――」

 

「壊れていますね。」

 

「まだ使える!」

 

「何に?」

 

「……何かに!」

 

「処分します。」

 

「やめてええええ 」

 

パリンッ!

 

外の三人は、ついに扉から一歩後ずさった。

 

リズ「……あたし、絶対にユリエールさんを怒らせない。」

 

シリカ「私もです……。」

 

ピナ「きゅる……。」

 

やがて、室内から最後の悲鳴が響いた。

 

「それだけはああああああ 」

 

リズとシリカは同時に飛び上がった。

 

「な、何!?」

 

「こっこさん!?」

 

扉が開く。

 

ユリエールが、すっきりした表情で出てきた。

 

「終わりました。」

 

二人は恐る恐る室内を覗く。

 

そこには――

 

綺麗に片付いた私室。

 

整理された工具箱。

 

分類された設計図。

 

そして、ベッドの上で膝を抱えるこっこがいた。

 

「……僕の、ガラクタ……。」

 

リズが呆然とする。

 

「……片付け?」

 

シリカも首を傾げた。

 

「お部屋の整理、だったんですか?」

 

ユリエールは頷いた。

 

「はい。不要品を処分しただけです。」

 

こっこが顔を上げる。

 

「それだけじゃないよおおお 」

 

リズは部屋を見回した。

 

「いや、でも……すごく綺麗になったわね。」

 

シリカも頷く。

 

「歩く場所ができました✨️」

 

「前から歩けたよ!」

 

「横向きで、ですよね?」

 

「 」

 

ユリエールは満足そうに書類へ記入した。

 

《KOR実施記録》

 

対象者:こっこ

 

処分品:失敗作・破損部品・用途未定の端材など

 

効果:極めて高い

 

再発防止:未確認

 

シンカーが報告書を受け取り、静かに呟いた。

 

「……再発防止が未確認なのが怖いですね。」

 

ユリエールはこめかみを押さえた。

 

「ダメージはこれ? 頭が痛い。」

 

シンカーも胃を押さえる。

 

「僕は、胃が痛い。」

 

その頃、紅玉宮。

 

茅場はモニターを見つめていた。

 

こっこが、ゴミ箱の前で涙を流している。

 

「まだ……直せたのに…… 」

 

茅場は深く頷いた。

 

「同志よ✨️」

 

凛子が冷たい目を向ける。

 

「あなたも部屋を片付けましょうか?」

 

「……必要ない。」

 

「壊れたマウス、まだ置いてあるわよね?」

 

「必要な部品だ。」

 

「捨てるわよ。」

 

「待ちたまえ。」

 

凛子は微笑んだ。

 

「KOR、作ろうかしら。」

 

茅場は、初めて本気で戦慄した。

 

――なお、翌朝。

 

こっこの私室には、すでに新しい棚が設置されていた。

 

リズ「……何これ。」

 

こっこ「昨日捨てられた部品の代わりに、また試作品を作った✨️」

 

シリカ「反省してない 」

 

ユリエール「こっこさん。」

 

「はい。」

 

「KOR。」

 

「ごめんなさいいいいい 」

 

第四層の平和は、今日もユリエールの予算管理によって守られていた。

 

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