エンジニアのSAO Progressive ~NPCが売ってないなら作ればいい~ 作:Edward
第五層《カルルイン》――王家の墓を目指して
第五層《カルルイン》。
転移門から一歩外へ出ると、そこには、これまでの階層とは大きく異なる風景が広がっていた。
崩れかけた石造りの建物。
半ば地面に沈んだ神殿。
苔むした石柱。
そして街の各所には、地下へと続く階段や裂け目が口を開けている。
この階層の本当の姿は――
地上ではない。
地下にある。
しかも、単なる洞窟ではない。
古代都市。
神殿。
地下墓地。
王族の墳墓。
そして、誰にも開かれていない宝物庫。
そんな情報が、NPCたちの口から次々と語られていく。
当然――
エンジニアたちが黙っているはずはなかった。
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「地下遺跡だ!」
「隠し扉があるぞ、絶対に!」
「罠解除ができる奴を集めろ!」
「鑑定持ちはいるか!?」
「採掘系も連れていけ!」
「マッピング班、先行!」
第五層に到着してから、わずか数時間。
エンジニアの上位プレイヤーたちは、すでに独自の探索隊を組織していた。
これまで、こっこが何度も見せてきた戦い方。
正面から敵を倒すだけではない。
隠されたものを探す。
罠を見抜く。
地形を利用する。
必要であれば、戦闘そのものを避ける。
いわば――
《こっこ式ローグスタイル》
それを模倣するプレイヤーが、いつの間にか組織内にも増えていたのである。
短剣。
軽装。
索敵。
罠解除。
採取。
鑑定。
マッピング。
それぞれに得意分野を持つ探索型プレイヤーたちが、ランタンを手に次々と地下へ消えていく。
その様子を見ながら、シンカーは腕を組んだ。
「……うちの組織って、こんな集団だったっけ?」
隣でユリエールが書類を確認する。
「代表があの方ですから。」
「……なるほど。」
二人の視線の先。
当の本人はというと――
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「第五層店、開店しまーす!」
地下探索ではなく。
まずは店を作っていた。
「どうしてよ!」
リズのツッコミが飛ぶ。
こっこは当然のように答える。
「いや、探索に来た人は回復するでしょ?」
「するわね。」
「装備も傷むでしょ?」
「まあ。」
「罠解除道具も使うでしょ?」
「……使うわね。」
「なら、店が必要。」
「理屈だけは完璧なのが腹立つわね!」
シリカが苦笑する。
「でも、今回のお店……かなり便利ですよね。」
第五層拠点店。
入口には大きく、
《地下探索支援所》
と書かれている。
店頭には――
松明。
ランタン。
予備のロープ。
簡易フック。
チョーク。
地図用紙。
解毒薬。
回復薬。
保存食。
そして、リズ製の小型工具。
さらに壁には、
《遺跡で拾った未鑑定品、買い取ります》
という文字。
リズがそれを見つける。
「ちょっと待ちなさい。」
「なに?」
「あんた、探索より先に商売を始めてない?」
「……気のせい。」
「目を逸らすな。」
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一方その頃。
キリトとアスナも、すでに地下遺跡へ向かっていた。
「階段が多いな……。」
キリトが壁へ光源を近づける。
アスナは周囲を警戒しながら進む。
「罠も多いわね。」
床。
壁。
天井。
第五層の地下遺跡には、いたるところに仕掛けが存在していた。
踏むと矢が飛び出す床。
突然落下する天井石。
毒針。
落とし穴。
さらに、一定の条件でしか開かない隠し通路。
キリトが小さく呟く。
「……こういう場所、あいつ向きだな。」
アスナはすぐに理解した。
「こっこ?」
「ああ。」
そして少し考えてから――
「いや。」
キリトは顔をしかめた。
「向きすぎてる。」
アスナも想像した。
遺跡。
罠。
隠し部屋。
宝箱。
そして――
こっこ。
「……。」
「……。」
二人は同時に言った。
「絶対にろくなことをしない。」
---
数時間後。
店の運営が軌道に乗ったところで。
こっこは満足そうに手を叩いた。
「よし。」
リズが嫌そうな顔をする。
「なに、その顔。」
「行こう。」
「どこへ。」
こっこは地下へ続く階段を指差した。
その顔は――
完全に子供だった。
「地下。」
シリカがピナを抱きながら首を傾げる。
「どこまで行くんですか?」
こっこは懐から一枚の紙を取り出した。
NPCから聞き込んだ情報。
そこには、古びた文字で記されている。
《地下最深部に眠る王家の墓》
その下には――
《王と共に、多くの財宝が眠るという》
こっこの目が輝く。
「王家の墓。」
リズ。
「……。」
シリカ。
「……。」
こっこ。
「お宝だっから♪」
鼻歌まで出ている。
リズは頭を抱えた。
「あんた、早死にするタイプだわ。」
「えー。」
「こういう遺跡で“お宝♪”とか言う奴は、だいたい最初に呪われるのよ。」
シリカも必死に頷く。
「そうですよ!」
ピナも。
「きゅる!」
「絶対に呪いとか受けますよ!」
シリカはこっこの袖を掴む。
「やめましょうよぉ 」
こっこは少し考えた。
「大丈夫。」
二人の表情が少し和らぐ。
「そうね。」
「分かってくれました?」
こっこは工具袋を確認する。
「呪われても解除する。」
「そこじゃない!」
---
それでも。
二人は帰らなかった。
リズは腰のメイスを確認する。
「……まったく。」
シリカも短剣の位置を確かめる。
「こっこさん一人で行かせる方が危険ですよね……。」
ピナ。
「きゅう。」
リズがため息をつく。
「ほんっと、それ。」
三人は並んで階段の前へ立つ。
地下からは冷たい風が吹き上がってくる。
石と土の匂い。
遠くで何かが動く音。
どこかで水滴が落ちる。
そして。
視界の奥。
暗闇の中に、古代文字の刻まれた巨大な石扉が見える。
こっこはランタンを掲げる。
「よし。」
リズ。
「罠があったら?」
「解除。」
シリカ。
「敵がいたら?」
「倒す。」
リズ。
「呪いがあったら?」
「……。」
こっこは数秒考え――
「リズに鑑定してもらう。」
「人に振るな!」
「じゃあ。」
こっこは笑う。
「行こうか。」
三人と一匹は。
ゆっくりと。
第五層の地下へ足を踏み入れた。
目指すは――
地下最奥。
誰もまだ辿り着いていないという。
《王家の墓》。
その先に何が眠っているのか。
宝か。
武器か。
罠か。
それとも――
この階層そのものに隠された秘密か。
こっこだけは。
ただひとつ確信していた。
「絶対、何かある✨️」
リズが即答する。
「その発言が一番怖いのよ!」
地下遺跡に。
三人の声が響いていった.
第五層――地下カタコーム
《ローグVSローグ――仁義なき略奪戦》
カルルイン地下。
王家の墓を目指し、三人は地下へ地下へと進んでいく。
石造りの通路は湿っており、壁には古びた燭台が並んでいた。
そして――。
「う゛ぅぅぅ……」
「ひゅぅぅぅ……」
半透明の人影が壁をすり抜ける。
《Wraith》。
さらに、崩れた棺桶の陰から、腐敗した人型モンスターがゆっくりと立ち上がった。
《Zombie》。
リズがメイスを構える。
「うっわ……出たわね、アンデッド!」
シリカもダガーを抜く。
「ピナ、気をつけて!」
「きゅるっ!」
ところが――。
ピナは敵を見た瞬間、ひどく嫌そうな顔をした。
「……きゅるるる」
シリカが首を傾げる。
「ピナ?」
ピナはゾンビへ近づき――。
「きゅるるるるっ!!」
ぶしゃあああああ!!
猛烈な《ウォーターブレス》を浴びせた。
「ぐぉぉぉぉ……!」
ゾンビの身体から黒い靄が吹き飛ぶ。
続けて――。
ぶくぶくぶくぶくっ!!
《バブルブレス》。
大量の泡に包まれたゾンビは、なぜか妙に磨き上げられていく。
そして――。
パァァァン!
光の粒となって消滅した。
三人は沈黙した。
「…………」
続いてレイス。
「ひゅぅぅぅ――」
「きゅっ 」
ぶしゃあああ!!
「ひゅわぁぁぁぁぁ……✨️」
レイスも消滅した。
こっこは腕を組んだ。
「なるほど。」
リズが振り返る。
「何が?」
「ピナは綺麗好きなんだ。」
「そこ!?」
シリカは嬉しそうにピナを抱き上げる。
「偉いね、ピナ♪」
「きゅるる♪」
こうして、本来なら厄介なアンデッドが徘徊する地下墓地を――
一匹のフェザーリドラが片っ端から洗浄し、成仏させる
という、誰も想定していなかった攻略法で、一行は進んでいった。
---
しかし。
本当の敵は別にいた。
「……あ。」
こっこの腰から、小さな工具が一本落ちた。
カラン。
愛用の小型レンチ。
「あ、落とし――」
シュバッ!!
何かが横切った。
「…………」
工具がない。
こっこは固まった。
リズも固まった。
シリカも固まった。
そして通路の角から。
「チュッ♪」
一匹の巨大なラットが顔を出した。
口には――。
こっこのレンチ。
「…………」
こっこの眉が動く。
「おい。」
「チュ?」
「それ、僕のだ。」
「チュ♪」
ラットは逃げた。
「待てコラァァァ!!」
三人と一匹が地下墓地を疾走する。
そして角を曲がった瞬間――。
こっこは足を止めた。
「…………マジか。」
そこには。
十匹。
二十匹。
いや。
数十匹のラット軍団。
そして、それぞれが何かを持っている。
剣。
ポーション。
短剣。
食料。
アクセサリー。
工具。
盾。
どうやら、地下墓地を訪れたプレイヤーから盗んだ品々らしい。
リズが呟いた。
「……盗賊団じゃない。」
シリカも青ざめる。
「こっこさんと同業者です……」
「誰が同業者だ。」
その瞬間。
ラットが飛びかかった。
「チュッ!」
こっこは身をかわす。
だが――。
「うおっ!?」
腰の工具袋からペンチが消えた。
別の一匹が走り抜ける。
「チュチュ♪」
「貴様ぁぁぁ!!」
さらにもう一匹。
「チュッ!」
「させるか!」
こっこの左手が伸びる。
《ローグ》系スキル。
《スティール》!
ラットの持っていたアイテムが、こっこの手へ移った。
レンチ。
「…………」
こっこ。
「ふふん✨️」
ラット。
「…………チュ?」
周囲のラット。
「…………」
「チュゥゥゥゥゥ 」
空気が変わった。
リズが一歩下がる。
「……怒った。」
シリカも一歩下がる。
「完全に怒ってますね。」
こっこはレンチを工具袋へ戻す。
そして、にやりと笑った。
「なるほど。」
相手が盗むなら。
こちらも盗めばいい。
「ねずみども!」
こっこは片手剣を右手に構え、左手を完全に空ける。
戦闘用ではない。
盗むための手。
「人間の力をなめるなよ!!」
「チュゥゥゥ!!」
戦争が始まった。
---
一匹目。
ラットが足元を駆け抜ける。
こっこのポーションを盗む。
「甘い!」
《スティール》。
ポーション奪還。
ついでに、ラットが持っていた別のポーションまで強奪する。
「チュッ!?」
「戦利品いただき♪」
二匹目。
背後から工具袋を狙う。
こっこは振り返らない。
左手だけを伸ばす。
指先に触れた瞬間――。
《スティール》。
「チュ!?」
短剣入手。
三匹目。
「チュチュッ!」
「遅い!」
アクセサリー強奪。
四匹目。
素材袋。
五匹目。
回復結晶。
六匹目。
何かの鍵。
七匹目。
パン。
「これはいらない。」
投げ返す。
「チュッ!?」
リズが呆然としていた。
「……なんなのよ、これ。」
シリカもピナを抱えたまま見守る。
「戦闘……なんでしょうか?」
「たぶん違う。」
もはや戦いではない。
窃盗技能の競技会だった。
盗る。
盗られる。
盗り返す。
さらに盗る。
フェイント。
死角。
手癖。
読み合い。
ローグスキル同士の意地と意地。
しかし――。
次第に形勢が傾いていく。
「チュ……」
ラット一匹。
所持品ゼロ。
「チュゥ……」
二匹目。
所持品ゼロ。
三匹目。
ゼロ。
四匹目。
ゼロ。
とうとうラットたちは――。
何も持っていなかった。
リズが口元を引きつらせる。
「うわぁ……。」
シリカも若干引いている。
「ねずみさんたちから、ほとんど略奪しちゃいました……。」
こっこは大量の戦利品を前にして、前髪を払う。
「男には負けられない戦いがあるのさ♪」
そして腰に片手を当てる。
「ルパンザ・サード♪」
リズが即答した。
「泥棒じゃない。」
「ローグです。」
「同じよ!」
そのときだった。
シリカが戦利品の山から一本の武器を持ち上げる。
細身の刀身。
鋭く整った切っ先。
見覚えのある――レイピア。
「……あれ?」
「どうした?」
シリカは武器をじっと見る。
そして。
「これ……。」
二人に見せた。
「アスナさんの細剣じゃないですか?」
「…………」
こっことリズが固まった。
こっこは受け取って確認する。
間違いない。
アスナが使っていたものだ。
つまり。
「……あいつら。」
こっこはラットたちを見る。
「キリトくんとアスナちゃんからも盗ったのか。」
「チュ……」
ラット軍団が目を逸らした。
こっこはにやりと笑った。
「ほほぉ。」
嫌な笑顔だった。
リズが察する。
「……何考えてるの?」
「別に?」
「その顔で言っても説得力ないわよ。」
こっこはアスナの細剣を自分のストレージへ収納する。
「届けてあげようと思って。」
シリカは安心する。
「よかった♪」
しかし。
リズだけは知っていた。
この男が、ただ届けるだけで終わるはずがない。
「……絶対、何かするでしょ。」
「しないって♪」
その頃――。
地下墓地の別ルート。
アスナが青筋を浮かべていた。
「キリト君。」
「……はい。」
「私のレイピア、知らない?」
「…………。」
「さっきまで腰にあったんだけど?」
「……ラットかな。」
「………… 」
そしてキリトも自分の装備欄を見る。
「…………あれ?」
「どうしたの?」
「俺のポーションもない。」
二人。
「…………。」
遠くから――。
「チュゥゥゥゥゥ!!」
ラットたちの悲鳴が響いた。
アスナが振り返る。
「……何?」
キリトは嫌な予感がした。
ものすごく嫌な予感だった。
そして、さらに遠くから。
「ふーじこちゃーん♥」
という、意味不明な男の声が響いてきた。
キリトは額を押さえた。
「…………こっこさんだ。」
アスナの目が細くなる。
「どうして分かるの?」
「分からない方がおかしいだろ……。」
地下墓地の奥深く。
こうして――。
人間ローグVSラット盗賊団。
後に誰にも語られることのない、
あまりにもくだらなく、
そして妙に高度な、
《第五層地下大略奪戦》は――
人間側の完全勝利で幕を閉じた。