エンジニアのSAO Progressive ~NPCが売ってないなら作ればいい~   作:Edward

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53 その能力は上げてはいけません

第五層《カルルイン》――王家の墓を目指して

 

第五層《カルルイン》。

 

転移門から一歩外へ出ると、そこには、これまでの階層とは大きく異なる風景が広がっていた。

 

崩れかけた石造りの建物。

 

半ば地面に沈んだ神殿。

 

苔むした石柱。

 

そして街の各所には、地下へと続く階段や裂け目が口を開けている。

 

この階層の本当の姿は――

 

地上ではない。

 

地下にある。

 

しかも、単なる洞窟ではない。

 

古代都市。

 

神殿。

 

地下墓地。

 

王族の墳墓。

 

そして、誰にも開かれていない宝物庫。

 

そんな情報が、NPCたちの口から次々と語られていく。

 

当然――

 

エンジニアたちが黙っているはずはなかった。

 

---

 

「地下遺跡だ!」

 

「隠し扉があるぞ、絶対に!」

 

「罠解除ができる奴を集めろ!」

 

「鑑定持ちはいるか!?」

 

「採掘系も連れていけ!」

 

「マッピング班、先行!」

 

第五層に到着してから、わずか数時間。

 

エンジニアの上位プレイヤーたちは、すでに独自の探索隊を組織していた。

 

これまで、こっこが何度も見せてきた戦い方。

 

正面から敵を倒すだけではない。

 

隠されたものを探す。

 

罠を見抜く。

 

地形を利用する。

 

必要であれば、戦闘そのものを避ける。

 

いわば――

 

《こっこ式ローグスタイル》

 

それを模倣するプレイヤーが、いつの間にか組織内にも増えていたのである。

 

短剣。

 

軽装。

 

索敵。

 

罠解除。

 

採取。

 

鑑定。

 

マッピング。

 

それぞれに得意分野を持つ探索型プレイヤーたちが、ランタンを手に次々と地下へ消えていく。

 

その様子を見ながら、シンカーは腕を組んだ。

 

「……うちの組織って、こんな集団だったっけ?」

 

隣でユリエールが書類を確認する。

 

「代表があの方ですから。」

 

「……なるほど。」

 

二人の視線の先。

 

当の本人はというと――

 

---

 

「第五層店、開店しまーす!」

 

地下探索ではなく。

 

まずは店を作っていた。

 

「どうしてよ!」

 

リズのツッコミが飛ぶ。

 

こっこは当然のように答える。

 

「いや、探索に来た人は回復するでしょ?」

 

「するわね。」

 

「装備も傷むでしょ?」

 

「まあ。」

 

「罠解除道具も使うでしょ?」

 

「……使うわね。」

 

「なら、店が必要。」

 

「理屈だけは完璧なのが腹立つわね!」

 

シリカが苦笑する。

 

「でも、今回のお店……かなり便利ですよね。」

 

第五層拠点店。

 

入口には大きく、

 

《地下探索支援所》

 

と書かれている。

 

店頭には――

 

松明。

 

ランタン。

 

予備のロープ。

 

簡易フック。

 

チョーク。

 

地図用紙。

 

解毒薬。

 

回復薬。

 

保存食。

 

そして、リズ製の小型工具。

 

さらに壁には、

 

《遺跡で拾った未鑑定品、買い取ります》

 

という文字。

 

リズがそれを見つける。

 

「ちょっと待ちなさい。」

 

「なに?」

 

「あんた、探索より先に商売を始めてない?」

 

「……気のせい。」

 

「目を逸らすな。」

 

---

 

一方その頃。

 

キリトとアスナも、すでに地下遺跡へ向かっていた。

 

「階段が多いな……。」

 

キリトが壁へ光源を近づける。

 

アスナは周囲を警戒しながら進む。

 

「罠も多いわね。」

 

床。

 

壁。

 

天井。

 

第五層の地下遺跡には、いたるところに仕掛けが存在していた。

 

踏むと矢が飛び出す床。

 

突然落下する天井石。

 

毒針。

 

落とし穴。

 

さらに、一定の条件でしか開かない隠し通路。

 

キリトが小さく呟く。

 

「……こういう場所、あいつ向きだな。」

 

アスナはすぐに理解した。

 

「こっこ?」

 

「ああ。」

 

そして少し考えてから――

 

「いや。」

 

キリトは顔をしかめた。

 

「向きすぎてる。」

 

アスナも想像した。

 

遺跡。

 

罠。

 

隠し部屋。

 

宝箱。

 

そして――

 

こっこ。

 

「……。」

 

「……。」

 

二人は同時に言った。

 

「絶対にろくなことをしない。」

 

---

 

数時間後。

 

店の運営が軌道に乗ったところで。

 

こっこは満足そうに手を叩いた。

 

「よし。」

 

リズが嫌そうな顔をする。

 

「なに、その顔。」

 

「行こう。」

 

「どこへ。」

 

こっこは地下へ続く階段を指差した。

 

その顔は――

 

完全に子供だった。

 

「地下。」

 

シリカがピナを抱きながら首を傾げる。

 

「どこまで行くんですか?」

 

こっこは懐から一枚の紙を取り出した。

 

NPCから聞き込んだ情報。

 

そこには、古びた文字で記されている。

 

《地下最深部に眠る王家の墓》

 

その下には――

 

《王と共に、多くの財宝が眠るという》

 

こっこの目が輝く。

 

「王家の墓。」

 

リズ。

 

「……。」

 

シリカ。

 

「……。」

 

こっこ。

 

「お宝だっから♪」

 

鼻歌まで出ている。

 

リズは頭を抱えた。

 

「あんた、早死にするタイプだわ。」

 

「えー。」

 

「こういう遺跡で“お宝♪”とか言う奴は、だいたい最初に呪われるのよ。」

 

シリカも必死に頷く。

 

「そうですよ!」

 

ピナも。

 

「きゅる!」

 

「絶対に呪いとか受けますよ!」

 

シリカはこっこの袖を掴む。

 

「やめましょうよぉ 」

 

こっこは少し考えた。

 

「大丈夫。」

 

二人の表情が少し和らぐ。

 

「そうね。」

 

「分かってくれました?」

 

こっこは工具袋を確認する。

 

「呪われても解除する。」

 

「そこじゃない!」

 

---

 

それでも。

 

二人は帰らなかった。

 

リズは腰のメイスを確認する。

 

「……まったく。」

 

シリカも短剣の位置を確かめる。

 

「こっこさん一人で行かせる方が危険ですよね……。」

 

ピナ。

 

「きゅう。」

 

リズがため息をつく。

 

「ほんっと、それ。」

 

三人は並んで階段の前へ立つ。

 

地下からは冷たい風が吹き上がってくる。

 

石と土の匂い。

 

遠くで何かが動く音。

 

どこかで水滴が落ちる。

 

そして。

 

視界の奥。

 

暗闇の中に、古代文字の刻まれた巨大な石扉が見える。

 

こっこはランタンを掲げる。

 

「よし。」

 

リズ。

 

「罠があったら?」

 

「解除。」

 

シリカ。

 

「敵がいたら?」

 

「倒す。」

 

リズ。

 

「呪いがあったら?」

 

「……。」

 

こっこは数秒考え――

 

「リズに鑑定してもらう。」

 

「人に振るな!」

 

「じゃあ。」

 

こっこは笑う。

 

「行こうか。」

 

三人と一匹は。

 

ゆっくりと。

 

第五層の地下へ足を踏み入れた。

 

目指すは――

 

地下最奥。

 

誰もまだ辿り着いていないという。

 

《王家の墓》。

 

その先に何が眠っているのか。

 

宝か。

 

武器か。

 

罠か。

 

それとも――

 

この階層そのものに隠された秘密か。

 

こっこだけは。

 

ただひとつ確信していた。

 

「絶対、何かある✨️」

 

リズが即答する。

 

「その発言が一番怖いのよ!」

 

地下遺跡に。

 

三人の声が響いていった.

 

 

第五層――地下カタコーム

 

《ローグVSローグ――仁義なき略奪戦》

 

カルルイン地下。

 

王家の墓を目指し、三人は地下へ地下へと進んでいく。

 

石造りの通路は湿っており、壁には古びた燭台が並んでいた。

 

そして――。

 

「う゛ぅぅぅ……」

 

「ひゅぅぅぅ……」

 

半透明の人影が壁をすり抜ける。

 

《Wraith》。

 

さらに、崩れた棺桶の陰から、腐敗した人型モンスターがゆっくりと立ち上がった。

 

《Zombie》。

 

リズがメイスを構える。

 

「うっわ……出たわね、アンデッド!」

 

シリカもダガーを抜く。

 

「ピナ、気をつけて!」

 

「きゅるっ!」

 

ところが――。

 

ピナは敵を見た瞬間、ひどく嫌そうな顔をした。

 

「……きゅるるる」

 

シリカが首を傾げる。

 

「ピナ?」

 

ピナはゾンビへ近づき――。

 

「きゅるるるるっ!!」

 

ぶしゃあああああ!!

 

猛烈な《ウォーターブレス》を浴びせた。

 

「ぐぉぉぉぉ……!」

 

ゾンビの身体から黒い靄が吹き飛ぶ。

 

続けて――。

 

ぶくぶくぶくぶくっ!!

 

《バブルブレス》。

 

大量の泡に包まれたゾンビは、なぜか妙に磨き上げられていく。

 

そして――。

 

パァァァン!

 

光の粒となって消滅した。

 

三人は沈黙した。

 

「…………」

 

続いてレイス。

 

「ひゅぅぅぅ――」

 

「きゅっ 」

 

ぶしゃあああ!!

 

「ひゅわぁぁぁぁぁ……✨️」

 

レイスも消滅した。

 

こっこは腕を組んだ。

 

「なるほど。」

 

リズが振り返る。

 

「何が?」

 

「ピナは綺麗好きなんだ。」

 

「そこ!?」

 

シリカは嬉しそうにピナを抱き上げる。

 

「偉いね、ピナ♪」

 

「きゅるる♪」

 

こうして、本来なら厄介なアンデッドが徘徊する地下墓地を――

 

一匹のフェザーリドラが片っ端から洗浄し、成仏させる

 

という、誰も想定していなかった攻略法で、一行は進んでいった。

 

---

 

しかし。

 

本当の敵は別にいた。

 

「……あ。」

 

こっこの腰から、小さな工具が一本落ちた。

 

カラン。

 

愛用の小型レンチ。

 

「あ、落とし――」

 

シュバッ!!

 

何かが横切った。

 

「…………」

 

工具がない。

 

こっこは固まった。

 

リズも固まった。

 

シリカも固まった。

 

そして通路の角から。

 

「チュッ♪」

 

一匹の巨大なラットが顔を出した。

 

口には――。

 

こっこのレンチ。

 

「…………」

 

こっこの眉が動く。

 

「おい。」

 

「チュ?」

 

「それ、僕のだ。」

 

「チュ♪」

 

ラットは逃げた。

 

「待てコラァァァ!!」

 

三人と一匹が地下墓地を疾走する。

 

そして角を曲がった瞬間――。

 

こっこは足を止めた。

 

「…………マジか。」

 

そこには。

 

十匹。

 

二十匹。

 

いや。

 

数十匹のラット軍団。

 

そして、それぞれが何かを持っている。

 

剣。

 

ポーション。

 

短剣。

 

食料。

 

アクセサリー。

 

工具。

 

盾。

 

どうやら、地下墓地を訪れたプレイヤーから盗んだ品々らしい。

 

リズが呟いた。

 

「……盗賊団じゃない。」

 

シリカも青ざめる。

 

「こっこさんと同業者です……」

 

「誰が同業者だ。」

 

その瞬間。

 

ラットが飛びかかった。

 

「チュッ!」

 

こっこは身をかわす。

 

だが――。

 

「うおっ!?」

 

腰の工具袋からペンチが消えた。

 

別の一匹が走り抜ける。

 

「チュチュ♪」

 

「貴様ぁぁぁ!!」

 

さらにもう一匹。

 

「チュッ!」

 

「させるか!」

 

こっこの左手が伸びる。

 

《ローグ》系スキル。

 

《スティール》!

 

ラットの持っていたアイテムが、こっこの手へ移った。

 

レンチ。

 

「…………」

 

こっこ。

 

「ふふん✨️」

 

ラット。

 

「…………チュ?」

 

周囲のラット。

 

「…………」

 

「チュゥゥゥゥゥ 」

 

空気が変わった。

 

リズが一歩下がる。

 

「……怒った。」

 

シリカも一歩下がる。

 

「完全に怒ってますね。」

 

こっこはレンチを工具袋へ戻す。

 

そして、にやりと笑った。

 

「なるほど。」

 

相手が盗むなら。

 

こちらも盗めばいい。

 

「ねずみども!」

 

こっこは片手剣を右手に構え、左手を完全に空ける。

 

戦闘用ではない。

 

盗むための手。

 

「人間の力をなめるなよ!!」

 

「チュゥゥゥ!!」

 

戦争が始まった。

 

---

 

一匹目。

 

ラットが足元を駆け抜ける。

 

こっこのポーションを盗む。

 

「甘い!」

 

《スティール》。

 

ポーション奪還。

 

ついでに、ラットが持っていた別のポーションまで強奪する。

 

「チュッ!?」

 

「戦利品いただき♪」

 

二匹目。

 

背後から工具袋を狙う。

 

こっこは振り返らない。

 

左手だけを伸ばす。

 

指先に触れた瞬間――。

 

《スティール》。

 

「チュ!?」

 

短剣入手。

 

三匹目。

 

「チュチュッ!」

 

「遅い!」

 

アクセサリー強奪。

 

四匹目。

 

素材袋。

 

五匹目。

 

回復結晶。

 

六匹目。

 

何かの鍵。

 

七匹目。

 

パン。

 

「これはいらない。」

 

投げ返す。

 

「チュッ!?」

 

リズが呆然としていた。

 

「……なんなのよ、これ。」

 

シリカもピナを抱えたまま見守る。

 

「戦闘……なんでしょうか?」

 

「たぶん違う。」

 

もはや戦いではない。

 

窃盗技能の競技会だった。

 

盗る。

 

盗られる。

 

盗り返す。

 

さらに盗る。

 

フェイント。

 

死角。

 

手癖。

 

読み合い。

 

ローグスキル同士の意地と意地。

 

しかし――。

 

次第に形勢が傾いていく。

 

「チュ……」

 

ラット一匹。

 

所持品ゼロ。

 

「チュゥ……」

 

二匹目。

 

所持品ゼロ。

 

三匹目。

 

ゼロ。

 

四匹目。

 

ゼロ。

 

とうとうラットたちは――。

 

何も持っていなかった。

 

リズが口元を引きつらせる。

 

「うわぁ……。」

 

シリカも若干引いている。

 

「ねずみさんたちから、ほとんど略奪しちゃいました……。」

 

こっこは大量の戦利品を前にして、前髪を払う。

 

「男には負けられない戦いがあるのさ♪」

 

そして腰に片手を当てる。

 

「ルパンザ・サード♪」

 

リズが即答した。

 

「泥棒じゃない。」

 

「ローグです。」

 

「同じよ!」

 

そのときだった。

 

シリカが戦利品の山から一本の武器を持ち上げる。

 

細身の刀身。

 

鋭く整った切っ先。

 

見覚えのある――レイピア。

 

「……あれ?」

 

「どうした?」

 

シリカは武器をじっと見る。

 

そして。

 

「これ……。」

 

二人に見せた。

 

「アスナさんの細剣じゃないですか?」

 

「…………」

 

こっことリズが固まった。

 

こっこは受け取って確認する。

 

間違いない。

 

アスナが使っていたものだ。

 

つまり。

 

「……あいつら。」

 

こっこはラットたちを見る。

 

「キリトくんとアスナちゃんからも盗ったのか。」

 

「チュ……」

 

ラット軍団が目を逸らした。

 

こっこはにやりと笑った。

 

「ほほぉ。」

 

嫌な笑顔だった。

 

リズが察する。

 

「……何考えてるの?」

 

「別に?」

 

「その顔で言っても説得力ないわよ。」

 

こっこはアスナの細剣を自分のストレージへ収納する。

 

「届けてあげようと思って。」

 

シリカは安心する。

 

「よかった♪」

 

しかし。

 

リズだけは知っていた。

 

この男が、ただ届けるだけで終わるはずがない。

 

「……絶対、何かするでしょ。」

 

「しないって♪」

 

その頃――。

 

地下墓地の別ルート。

 

アスナが青筋を浮かべていた。

 

「キリト君。」

 

「……はい。」

 

「私のレイピア、知らない?」

 

「…………。」

 

「さっきまで腰にあったんだけど?」

 

「……ラットかな。」

 

「………… 」

 

そしてキリトも自分の装備欄を見る。

 

「…………あれ?」

 

「どうしたの?」

 

「俺のポーションもない。」

 

二人。

 

「…………。」

 

遠くから――。

 

「チュゥゥゥゥゥ!!」

 

ラットたちの悲鳴が響いた。

 

アスナが振り返る。

 

「……何?」

 

キリトは嫌な予感がした。

 

ものすごく嫌な予感だった。

 

そして、さらに遠くから。

 

「ふーじこちゃーん♥」

 

という、意味不明な男の声が響いてきた。

 

キリトは額を押さえた。

 

「…………こっこさんだ。」

 

アスナの目が細くなる。

 

「どうして分かるの?」

 

「分からない方がおかしいだろ……。」

 

地下墓地の奥深く。

 

こうして――。

 

人間ローグVSラット盗賊団。

 

後に誰にも語られることのない、

 

あまりにもくだらなく、

 

そして妙に高度な、

 

《第五層地下大略奪戦》は――

 

人間側の完全勝利で幕を閉じた。

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