エンジニアのSAO Progressive ~NPCが売ってないなら作ればいい~ 作:Edward
サタンの修行! 投げ技編
第四層を離れ、老師のもとへ戻ってきたサタン。
上半身、下半身、柔の動き――。
これまで散々しごかれてきた彼を待ち受けていたのは、ついに本格的な《投げ技》の修行であった。
「よく戻ったな」
滝の前。
腕を組んだ老師が、静かにサタンを迎える。
サタンは嫌な予感しかしなかった。
「……師匠。今度はいったい何をやるんだ?」
「うむ。今のお主に足りぬもの――それは、相手の力と重さを利用し、己の技へと変える投げの極意じゃ」
「おお……!」
珍しくまともそうな話に、サタンの目が輝いた。
老師は杖を持ち上げ、滝の上流を指す。
「そこで、あれじゃ」
「……あれ?」
上流から――
どんぶらこ。
どんぶらこ。
人間ほどの大きさの《木人》が流れてきた。
そして、そのまま滝から落下する。
「…………」
「…………」
サタンと商人が無言で見送る。
老師は平然と言った。
「まず対岸から助走をつけ――」
嫌な予感が加速する。
「滝から落ちる木人へ飛び移る!」
「は?」
「空中で木人を逆さに抱え!」
老師が両腕を大きく広げる。
「そのままパイルドライバーの体勢に入り――」
滝壺の横には、なぜか巨大な岩が設置されている。
「――あの岩へ叩き落とすのじゃ!!」
「…………」
商人が震える指で老師を指した。
「これキ◯肉マン!! キ◯肉ドライバーの特訓!!」
老師が目を輝かせる。
「おお、知っておるか。その者も、この修行を✨️」
「パクったアルナ 」
「失礼な、オマージュというのだ」
「言い換えただけアル 」
しかし――。
サタンは違った。
「なるほど……!」
「納得するなアル!!」
サタンはすでに助走位置へ移動していた。
「よし……行くぞ!!」
「待つアル! 普通に考えて無理アル!!」
木人が滝へ近づく。
サタン、全力疾走。
「うおおおおおおお!!」
大跳躍。
――ガシッ!!
見事、落下する木人へ飛び移った。
「おお!」
老師が喜ぶ。
しかし。
滝の水をたっぷり浴びた木人は――
つるっ。
「ぬおっ!?」
つるつるだった。
サタンの腕から木人がすっぽ抜ける。
「ぬおおおおおおお――!?」
ザッパァァァン!!
サタン、滝壺へ落下。
木人も普通に落下。
商人は額を押さえた。
「物理的に無理ある あれはアニメだから出来ただけアル」
老師が首を傾げる。
「失敗じゃったか?」
「あんたな……」
――数分後。
「もう一度だ!!」
びしょ濡れのサタンが崖を登ってきた。
「まだやるアル!?」
再挑戦。
跳躍。
木人を捕まえる。
逆さにする。
つるっ。
「ぬおおおおお!!」
ザッパァァァン!!
三回目。
「うおおおお!!」
つるっ。
ザッパァァァン!!
七回目。
「今度こそおおお!!」
木人の向きを変えるところまでは成功。
しかし自分の体勢が崩れる。
「あっ」
ザッパァァァン!!
商人は呆れ果てていた。
「これ投げ技の修行じゃなくて、滝壺への飛び込み練習アル……」
だが――。
老師だけは、いつの間にか真剣な顔になっていた。
サタンの動きが、少しずつ変わっていたからだ。
最初は木人を《掴もう》としていた。
だが水で滑る。
ならば、掴まなければいい。
木人へ飛び移る瞬間。
腕だけではなく、脚を絡める。
さらに落下する木人の勢いを殺そうとするのではなく――その回転へ自分の身体を合わせる。
老師から教え込まれた《柔》。
相手の力に逆らわず、受け流す。
そして――。
利用する。
「…………!」
老師の目が細くなった。
「気づきおったか」
サタンが走る。
「うおおおおおお!!」
跳躍。
木人へ飛び移る。
だが、今度は無理に固定しない。
木人とともに落下しながら身体を回転。
脚を絡ませ――
腰を入れる。
そして落下エネルギーそのものを利用して――。
木人を完全に逆さへ。
「おおおおおおおおおおおおおお!!」
サタンと木人が一体となって落下する。
その姿は――
紛れもなく。
「パイルドライバーアル!!」
ズッドォォォォォォン!!
木人の頭部が岩へ激突。
岩が砕け散る。
木人が地面へ突き刺さった。
そしてサタンは――
その上に座り込んでいた。
「…………」
しばし沈黙。
やがてサタンが拳を握る。
「できた……!」
老師も感極まったように頷く。
「見事じゃ……!」
商人も思わず拍手する。
「本当にやりやがったアル……」
サタンは立ち上がった。
何十回と滝壺へ叩き落とされながらも、ついに身につけた新たなる投げ技。
《パイルドライバー》。
老師の無茶苦茶な修行を、自力で成立させてしまった瞬間だった。
「師匠!」
「うむ!」
「これで完成だな!!」
「…………」
老師の笑顔が止まる。
商人も固まった。
「…………」
二人は顔を見合わせる。
商人が、小声で老師へ囁いた。
「老師……」
「なんじゃ」
「ワタシ、今思い出したアル」
「何をじゃ?」
「あの漫画……この特訓で完成した技……」
「うむ」
商人は老師の耳元で囁く。
「――不完全だったアルヨ」
「…………」
老師の目が見開かれた。
「マジか!?」
「マジアル」
「…………」
二人はもう一度、サタンを見る。
サタンは満面の笑顔だった。
「ついに完成したぞ!!」
老師と商人。
「…………」
「…………」
老師は静かに親指を立てた。
「――見事じゃ✨️」
「老師!?」
「言えるか!! あれだけ滝壺に落ちた男に!!」
「それはそうアルけど!!」
「今日は祝ってやろう!」
「問題を先送りしたアル!!」
何も知らないサタンは、達成感いっぱいに自分の拳を見つめていた。
「これが……俺の新しい必殺技……!」
その背後。
老師と商人は青ざめながら相談する。
「どうするアル?」
「…………」
「まだ不完全アルヨ?」
「…………次の修行で直せばよい」
「どんな修行アル?」
「それは……」
老師は遠い目で滝を眺めた。
「これから考える」
「やっぱり何も考えてなかったアルナ 」
こうして――。
サタンは《投げ技》の新たな境地へ到達した。
ただし。
本人だけはまだ知らない。
その必殺技が、未完成であることを――。
サタンの修行! 投げ技編――後半戦
滝壺の横。
何度となく水面へ叩き落とされながら、ついに落下する木人へ《パイルドライバー》を決めたサタン。
「できた……!」
岩へ突き刺さった木人を前に、サタンは拳を握りしめる。
老師も腕を組み、満足そうに頷いていた。
「うむ。見事じゃ」
「師匠! これで完成だな!」
「…………」
「…………」
老師と商人の間に、気まずい沈黙が流れる。
先ほど商人から告げられた事実。
――あの特訓だけでは、技はまだ不完全。
しかし、それをサタン本人に言えるはずもない。
老師は腕を組んだまま考える。
「…………」
「老師?」
「…………」
「どうするアル?」
「…………」
そのとき。
老師の頭上に――
何かが閃いた。
商人の顔が引きつった。
「……やな予感」
老師は突然、木人を指差した。
「サタン!」
「おう!」
「木人と組め!」
「なに?」
「今すぐじゃ!」
「…………?」
意味が分からないまま、サタンは地面に突き刺さっていた木人を引き抜く。
老師は、さも最初からすべて計画していたかのような顔で髭を撫でた。
「先ほどまでの修行は――空中で相手へパイルドライバーを決める方法を身につけるためのものじゃった」
商人が目を細める。
「…………」
「なんじゃ?」
「いや、続けるアル」
老師は咳払いする。
「しかし考えてみよ。実戦で敵が都合よく滝から落ちてくれると思うか?」
サタンがハッとする。
「……確かに!」
「つまり!」
老師が杖を突き出した。
「今度は――相手を空中へ持ち上げる方法を身につけるのじゃ!」
「なるほど!!」
サタンの目が輝いた。
商人だけは冷めた目をしている。
「今思いついたアルナ?」
「最初から考えておった」
「嘘つけアル」
老師は無視した。
「サタンよ。お主はこれまでの戦いで、巨大な敵を何度も投げ飛ばしてきた」
「おう」
「第二層――ここに来るときの事を覚えておるな?」
サタンの脳裏に、あの戦いが蘇る。
猛烈な勢いで突進してくる牛型モンスター。
普通なら正面から受ければ吹き飛ばされる。
だがサタンは――
その突進を真正面から受け止めなかった。
まだ《体術》スキルがなかった時・・・
相手の力に逆らわず、その勢いを利用する。
突進してくる牛の身体を掴み――
自ら後方へ倒れ込みながら。
蹴り上げる。
《巴投げ》。
突進エネルギーを殺すことなく、そのまま上方向へ変換。
巨大な牛が信じられない高さまで舞い上がり――
そのまま地面へ激突。
落下ダメージでHPを削り切った。
老師がニヤリと笑った。
「お主がもっとも敵を高く打ち上げられる技――」
サタンも気づく。
「巴投げ……!」
「そうじゃ!」
老師が木人を指す。
「巴投げで相手を空中へ打ち上げる!」
「おう!」
「そして――」
老師自身も勢いよく跳び上がる仕草をする。
「お主も即座に跳躍!」
「おお!」
「空中で相手へ追いつき!」
「おおお!」
「先ほど完成させたパイルドライバーへ移行!」
「おおおおお!!」
サタンの全身に闘志が漲る。
「なるほど!! 全部つながっていたのか!!」
「その通りじゃ✨️」
「…………」
商人は老師を睨む。
「いきあたりばったりアル 」
「結果よければよし✨️」
「まだ結果出てないアル!!」
だが――。
言うは易し。
実際にやってみれば、とんでもなく難しい。
「行くぞ!!」
サタンが木人を立たせる。
木人を自分へ向けて倒し、その勢いに合わせ――
「ふんっ!!」
巴投げ。
木人が宙を舞う。
「今だ!!」
サタンが起き上がる。
そしてジャンプ。
しかし――
遅い。
木人はすでに落下を始めていた。
「あ」
ドゴン!!
「…………」
「…………」
地面に落ちた木人を、三人で見つめる。
商人が口を開く。
「間に合わないアル」
「もう一度だ!!」
二回目。
「ふんっ!!」
木人が舞う。
サタンが起き上がる。
ジャンプ。
やはり遅い。
ドゴン!!
三回目。
巴投げ。
起き上がる。
ジャンプ。
木人の足には触れた。
しかし掴めない。
ドゴン!!
「くそっ!!」
サタンが地面を殴る。
老師も険しい顔になる。
「やはり問題はここか……」
巴投げは、自ら後方へ倒れ込む技。
相手を空中へ放り上げることはできる。
しかしその直後――
自分は地面に寝ている。
そこから起き上がり、さらにジャンプして追いつかなければならない。
商人が腕を組む。
「無理アル。巴投げで高く上げても、自分が寝てるアル。起き上がってジャンプしてたら敵が落ちてくるアルヨ」
老師が頷く。
「うむ」
「うむ、じゃないアル 」
だが老師は、サタンを見つめた。
「――ならば、そこを縮めればよい」
「?」
「巴投げを放った直後――その反動を利用して起き上がれ」
サタンが目を見開く。
「反動を……?」
「敵を蹴り上げた脚を、そのまま振り戻す。その勢いで上体を起こすのじゃ」
老師が地面を指す。
「そして手をつく」
「手を?」
「腕で地面を押し――脚の振り戻しと同時に跳ね起きる」
サタンが理解する。
「……そうか!」
ただ起き上がるのではない。
巴投げ。
蹴り上げ。
反動。
腕で地面を押す。
跳ね起き。
そして――
そのまま跳躍。
すべてを一連の動作にする。
「やってみる!」
サタンは木人を構えた。
「ふんっ!!」
巴投げ。
木人が空高く舞う。
その瞬間――
サタンの脚が振り戻される。
両手を地面へ。
「ぬおおおっ!!」
バンッ!!
地面を押す。
身体が跳ね起きた。
そのまま――
ジャンプ!
「おおっ!?」
商人が驚く。
先ほどまでとは明らかに違う。
サタンの手が――
空中の木人へ届いた。
ガシッ!!
「捕まえた!!」
「やったアル!!」
「まだじゃ!!」
老師が叫ぶ。
「ここからが本番じゃ!!」
サタンは空中で木人を抱える。
身体を捻る。
先ほど滝で何十回も失敗しながら身体へ叩き込んだ動き。
落下する相手へ身体を合わせる。
脚を絡める。
腰を入れる。
そして――
逆さへ。
「うおおおおおおおおおおお!!」
サタンと木人が一体となって落下する。
ズッドォォォォォン!!
地面が震えた。
土煙が舞い上がる。
「…………」
「…………」
「…………」
煙が晴れる。
そこには――
頭から地面へ突き刺さった木人。
そして、その上で荒い息をするサタン。
「はぁ……はぁ……」
老師の目が見開かれる。
商人も言葉を失っていた。
サタンはゆっくりと立ち上がった。
「できた……」
拳を握る。
「巴投げから……つながった……!」
老師の顔に笑みが浮かぶ。
「うむ」
今度こそ――胸を張って言った。
「完成じゃ!」
サタンが満面の笑顔になる。
「よっしゃああああ!!」
商人も思わず拍手した。
「本当に完成させたアル……」
そして老師へ顔を向ける。
「でも老師」
「なんじゃ?」
「最初からこの修行考えてたわけじゃないアルナ?」
「…………」
「滝から木人落とした時点では、絶対ここまで考えてなかったアルナ?」
「…………」
老師は遠くの山を見る。
「修行とは……弟子と師が、ともに答えを見つけるものなのじゃ」
「いいこと言って誤魔化すなアル 」
サタンはそんな二人の会話など聞いていなかった。
自分の両手を見つめる。
突進する敵の力を利用した《巴投げ》。
その反動を利用した《跳ね起き》。
即座に敵を追って《跳躍》。
そして空中で捕らえ――
《パイルドライバー》。
これまで別々だった技が、一つの流れとしてつながった。
老師は満足そうに頷く。
「覚えておけ、サタン」
「おう!」
「強敵であればあるほど、突進の力も大きい」
「……!」
「つまり――」
老師がニヤリと笑う。
「勢いよく突っ込んでくる巨大な敵ほど、高く飛ぶ✨️」
サタンもニヤリと笑った。
「なるほど!」
商人だけが青ざめた。
「待つアル」
二人が振り返る。
「なんじゃ?」
「それ……次に巨大なフィールドボスが突進してきたら――」
商人は震える指でサタンを指した。
「こいつ、絶対やるアルヨ」
「…………」
老師もサタンを見る。
サタンは――
すでに最高の笑顔だった。
「試してえな!!」
「やっぱりアルー!! 」
こうしてサタンは、新たな投げ技を完成させた。
だがこのとき、攻略組の誰も知らなかった。
次にサタンの前へ現れる巨大モンスターが――
自分の突進エネルギーを利用され、空高く打ち上げられる運命にあることを。
そして後日。
その光景を目撃したキリトが、
「……体術って、そういうスキルだったか?」
と真顔で呟くことになるのだが――。
それは、また別の話である。