エンジニアのSAO Progressive ~NPCが売ってないなら作ればいい~ 作:Edward
轟音とともに、巨大な腕が宙を舞った。
「ぬぅぅぅぅん!!」
サタンが投げたのだ。
つい先ほどまで《Fuscus the Vacant Colossus》の身体の一部だった巨大な右腕が、回転しながら宙を飛び――。
ドゴォォォォォン!!
巨像の胸部へ直撃した。
「…………。」
攻略組が固まった。
キリトの口が半開きになる。
アスナは額に手を当てた。
エギルは遠い目をしている。
こっこだけが拍手した。
「おおー✨️」
リズが振り返る。
「感心してる場合!?」
「いや、だって……。」
こっこはサタンを見る。
「投げ技の修行、ちゃんと役に立ってる✨️」
「そういう問題ですか!?」
シリカが叫んだ。
サタンは満足そうに腕を組んだ。
「フン! 老師め、無駄な修行をさせていると思っていたが――」
ボスを見る。
「役に立つではないか!」
その頃。
遥か下層の老師の庵では――。
老師「……。」
商人「どうしたアル?」
老師「嫌な予感がする。」
商人「たぶん正解アル。」
――そして第五層。
腕をぶつけられた《Fuscus》が大きくよろめく。
しかも。
その胸部。
装甲の一部が割れていた。
キリトの目が変わる。
「待て!」
全員が注目する。
「今ので……ダメージが入っただけじゃない。」
アスナも気づいた。
「装甲が壊れてる!」
《王家の鍵》をきっかけに現れた国王軍。
彼らの動きによって攻略組が気づいた、この部屋の本当のギミック。
ボスの身体。
床。
壁。
そして――破壊されたボス自身の部位。
すべてが連動している。
「そうか!」
ディアベルが叫んだ。
「外れた部位もギミックの一部なんだ!」
こっこがサタンを見る。
「つまり……。」
サタンもこっこを見る。
二人同時に。
「「まだ投げられる!」」
「そこに食いつくな!!」
リズのツッコミが炸裂した。
だが。
冗談ではない。
《Fuscus》の残った左腕が床へ叩きつけられる。
床の紋様が光る。
「来るぞ!!」
攻略組が散開。
巨大な左腕が横薙ぎに振られる。
キリト。
アスナ。
エギル。
ディアベル。
次々と回避する。
そして。
「こっこさん!」
シリカが叫んだ。
「はい!」
こっこの左手が動く。
《ブラインドタッチ》。
視線は巨像から外さない。
左手だけでストレージを操作。
取り出したのは――。
鋼線。
「またそれ!?」
リズが叫ぶ。
「三層で実績があります✨️」
「ゴーレムさんに謝れ!!」
鋼線が左腕へ絡む。
一本では足りない。
攻略組のエンジニアたちも動いた。
「固定!」
「引け!」
「もう一本!」
複数の鋼線が張られる。
巨像が腕を振り上げる。
その瞬間。
「今だ!!」
エギルの斧。
キバオウのトンガリソード。
リズの《アースシェイカー》。
三つの重量攻撃が、同じ関節へ叩き込まれた。
ガギィィィィン!!
左腕が――外れる。
ゴトォォォン!!
床へ落下。
攻略組全員の視線が。
ゆっくり。
サタンへ向いた。
「……。」
サタンも腕を見る。
「…………。」
キリトが呟く。
「まさか。」
アスナ。
「やるつもりね。」
キバオウ。
「やめろぉぉぉ!!」
サタンが腕を抱えた。
「ぬぅぅぅぅん!!」
「また持ち上げたぁぁぁ!!」
シリカが絶叫する。
しかし。
さっきとは違う。
サタンは、そのまま投げない。
腰を落とす。
相手の重量。
重心。
運動エネルギー。
老師の元で繰り返した投げ技修行。
牛の突進を利用して覚えた巴投げ。
そして。
今回習得した――。
投げた相手を空中へ持ち上げ、さらに次の技へ繋ぐ動作。
サタンが笑った。
「老師……。」
巨大な腕を抱えたまま。
「こういうことか!!」
「絶対違うと思う。」
こっこが呟いた。
サタンが身体を倒す。
「ぬおおおおおおお!!」
巨腕が浮いた。
巴投げ。
ただし相手は腕。
その勢いを殺さない。
サタン自身も跳ぶ。
キリトの顔が引きつった。
「おい……。」
アスナも。
「まさか……。」
空中。
サタンが巨腕を掴み直す。
上下反転。
「パァァァァイル――!!」
攻略組。
「ええええええええ!?」
「ドライバァァァァァァ!!」
ズッッッガァァァァァァン!!
巨腕が。
巨像の頭へ垂直に突き刺さった。
《Fuscus》が沈む。
HPゲージが――。
ゴッソリ減った。
「…………。」
こっこが呟く。
「老師、こんなの教えたの?」
リズが即答した。
「絶対教えてない。」
シリカも。
「サタンさんが勝手に応用してます。」
エギルが頭を抱える。
「第五層のボス戦だよな、これ?」
キリトは笑うしかなかった。
「俺にも分からなくなってきた。」
だが。
《Fuscus》はまだ倒れない。
残りHP。
最後の一本。
あと僅か。
巨像の全身が赤く染まる。
「発狂モード!」
アルゴが叫ぶ。
「全員、気ィつけろ! 最後が来るゾ!」
床全面へ紋様が走った。
壁が動く。
石槍。
落石。
脚部からの踏みつけ。
両腕を失った巨像が、残されたすべての攻撃手段を使い始める。
「盾隊、前へ!」
ディアベル。
「回復を惜しむな!」
シンカー。
「負傷者は下げます!」
ユリエール。
攻略組が動く。
もう混乱はない。
国王軍が残してくれた答え。
そしてここまでの戦闘で得た経験。
「右!」
キリト。
「次、床!」
アスナ。
「石槍来るぞ!」
エギル。
「ピナ、風!」
シリカ。
「きゅるるる!!」
砂埃が吹き飛ぶ。
床の紋様が見える。
「リズ!」
「任せなさい!」
《Leaper》。
リズが跳ぶ。
《アースシェイカー》が石槍を叩き割る。
「キバオウ!」
「分かっとるわ!」
トンガリソードが別の石槍を粉砕。
「なんやねんこの剣! こういう時だけ妙に使いやすいな!!」
「鈍器だからじゃない?」
こっこ。
「剣や!! 」
時計が視界の端に見える。
《23:59:20》
アスナが気づいた。
「あと四十秒……。」
「何が?」
リズが聞く。
こっこが答えた。
「今年。」
一瞬。
全員が黙った。
2022年。
11月6日。
SAOに閉じ込められた。
あの日から。
まだ二か月にも満たない。
だが。
あまりにも長かった。
失った者もいる。
出会った者もいる。
守るものができた者もいる。
ディアベルはサーシャと子供たちを思う。
キリトは剣を握る。
アスナが隣へ立つ。
エギル。
リズ。
シリカ。
ピナ。
キバオウ。
シヴァタ。
アルゴ。
そして。
こっことサタン。
誰か一人がここまで来たのではない。
「だったら。」
こっこが《ノーグサーベル》を構えた。
「今年のボスは――今年のうちに倒そう✨️」
キバオウが笑う。
「大掃除みたいに言うなや!」
「いいじゃない。」
アスナも笑った。
キリトが時計を見る。
「三十秒!」
巨像が最後の踏みつけを繰り出す。
「避けろ!!」
ズガァァァァン!!
床が割れる。
その下。
最後の紋章が輝いた。
巨像の胸部が完全に開く。
弱点。
「今だ!!」
攻略組が一斉に走る。
「二十秒!」
アスナのレイピア。
キリトの剣。
エギルの斧。
ディアベルの剣。
リズのメイス。
シリカのダガー。
キバオウのトンガリソード。
次々と弱点へ突き刺さる。
HPが減る。
「十秒!!」
あと少し。
こっこも走る。
サタンも走る。
「サタン!」
「なんだ!」
「LA四回目は禁止ね!」
「知らん!!」
「やっぱり怖い!!」
九。
八。
七。
巨像が最後の攻撃を繰り出す。
六。
「スイッチ!!」
五。
キリトが退く。
アスナが入る。
四。
アスナの一撃。
残る。
三。
ディアベル。
残る。
二。
こっこが《ノーグサーベル》を振り抜く。
――まだ、僅かに残る。
一。
「うおおおおおおお!!」
サタンが飛び込んだ。
全員。
「やっぱりお前かぁぁぁぁぁぁ!!」
サタンの拳が輝く。
だが。
その拳が届く――。
ほんの一瞬前。
ヒュン。
小さな何かが。
サタンの横を通り過ぎた。
「む?」
くるくる回転する。
小さなダガー。
シリカ。
「え?」
《キュートダガー》。
戻ってくる投剣。
先ほど投げた一撃が――。
巡り巡って。
巨像の背後から弱点へ突き刺さった。
ピッ。
HP。
ゼロ。
《00:00:00》
「…………。」
サタンの拳が。
HPの消えたボスを空振りした。
「ぬおっ!?」
バァァァァァァァン!!
《Fuscus the Vacant Colossus》が青いポリゴンとなって爆散する。
そして。
シリカの目の前。
《LAST ATTACK BONUS》
「…………え?」
全員。
「…………。」
シリカ。
「わ、私ぃぃぃぃぃ!?」
「きゅるるるるるる!!」
ピナが大喜びでシリカの周りを飛ぶ。
キリトが吹き出した。
アスナも笑い出す。
リズがシリカへ飛びつく。
「やったじゃない!!」
「狙ってませんよぉぉぉ!!」
サタンは拳を握ったまま固まっている。
こっこが肩を叩いた。
「惜しかったね✨️」
「……。」
「あと0.1秒くらい。」
「…………。」
「四回目。」
「ぬおおおおおおおお!!」
サタンの絶叫。
攻略組、大爆笑。
そして。
視界に新しい表示が現れる。
《January 1, 2023》
《HAPPY NEW YEAR》
一瞬。
誰も声を出さなかった。
やがて。
ディアベルが静かに笑う。
「……新年か。」
キリトがアスナを見る。
アスナも笑う。
「明けましておめでとう。」
「ああ。今年もよろしく。」
エギルが大きく息を吐く。
キバオウが剣を掲げる。
アルゴが笑う。
リズがシリカを抱きしめる。
ピナが鳴く。
サタンも腕を組んで笑った。
そして。
こっこが両手を上げる。
「みんな!」
攻略組が振り返る。
「あけまして――」
少し間を置いて。
「第五層攻略、おめでとう!!」
「おおおおおおおおおおお!!」
歓声が爆発した。
武器が掲げられる。
抱き合う者。
泣く者。
笑う者。
2023年。
アインクラッドで迎えた、最初の新年。
まだ。
現実へ帰る道は遠い。
それでも。
一層。
また一層。
彼らは確実に上へ進んでいる。
そして――。
「ところでシリカ。」
こっこが聞いた。
「LAボーナス、何だった?」
「あっ!」
シリカがウインドウを開く。
全員が集まる。
表示されたアイテム名を見て――。
「…………。」
サタンまで覗き込む。
シリカが目を丸くした。
「これ……なんですか?」
こっこがニヤリと笑う。
「おお……。」
第五層。
ラストアタックボーナス。
その正体は――。
まだ誰も知らない。
第六層への扉が。
静かに開いた。
ボスが砕け散った。
巨大な身体を構成していたポリゴン片が、青白い光となって天井へと舞い上がっていく。
長かった第五層攻略戦。
崩壊しかけた戦線。
《王家の鍵》によって偶然見つけた攻略の糸口。
そして最後の最後――。
小さな少女が放った一撃が、第五層フロアボスの残りわずかなHPを完全に消し飛ばした。
一瞬の静寂。
その直後だった。
シリカの目の前に、見慣れないウインドウが出現する。
《CONGRATULATIONS!!》
《LAST ATTACK BONUS》
「…………え?」
シリカは固まった。
ピナも肩の上で首を傾げる。
「きゅる?」
「え……ええええええっ!?」
シリカの絶叫がボス部屋いっぱいに響き渡った。
「わ、私ですか!? 私がラストアタックなんですか!?」
キリトが剣を下ろしながら苦笑する。
「ああ。間違いないよ」
アスナも嬉しそうに頷いた。
「おめでとう、シリカちゃん!」
「やったじゃない!」
リズがシリカの背中をばんばん叩く。
「いたっ、いたいですリズさん!」
その横で、こっこは腕を組んで深々と頷いていた。
「うむ。ついにシリカもこちら側の人間になったか……」
「どちら側ですか!?」
「ラストアタックを取って、変なアイテムを押しつけられる側」
「変なアイテムって言うな!」
キバオウの怒声が飛んできた。
第四層でラストアタックを奪取した男としては聞き捨てならないらしい。
さらにサタンまで腕を組む。
「そうだ。ラストアタックボーナスとは、己の戦いの証だ!」
腰にはチャンピオンベルト。
装備には《Grasp of Nerius》。
妙に説得力があるような、ないような姿だった。
「サタンさんの場合、全部クセが強すぎるんですよ……」
シリカが苦笑する。
「さあ、シリカ!」
こっこが目を輝かせた。
「開けよう!」
「なんでこっこさんが一番楽しそうなんですか!」
「お宝だから✨️」
「やっぱりそれですか!」
シリカはため息をつきながら、ラストアタック報酬のウインドウに触れた。
光が弾ける。
そして――。
少女の両手に、小さな手袋が現れた。
「……グローブ?」
白を基調とした、細身のフィンガーレスグローブ。
手首から甲にかけて淡い銀色の装飾が走り、縁には小さなフリル。
さらに手の甲には、王冠を思わせる小さな紋章が刻まれている。
防具というより――。
「かわいい……!」
シリカの顔がぱっと輝いた。
リズも覗き込む。
「ちょっと待って。普通に当たりじゃない、これ」
アスナも目を輝かせた。
「シリカちゃんにすごく似合いそう!」
「えへへ……」
照れながらシリカがアイテム名を確認する。
《Princess Glove》
――プリンセス・グローブ。
「プリンセス……」
シリカの頬が赤くなる。
「シリカ姫だな」
キリトが何気なく言った。
「や、やめてくださいよぉ!」
さらに性能欄を開く。
そこには――。
《DEX +5》
《AGI +3》
《Familiar Assist》
「……ファミリア・アシスト?」
シリカが説明文を開いた。
《テイムモンスターとの連携行動時、双方の行動補正を上昇させる》
《主人と使い魔が同一対象へ連続攻撃を行った場合、二撃目に追加補正》
「ピナ!」
「きゅるるっ!」
シリカが両手を差し出すと、ピナが嬉しそうにその腕へ飛び乗った。
アスナが感心したように呟く。
「すごい……完全にシリカちゃん専用みたいな装備ね」
「ダガーにも合うな」
キリトも頷く。
投剣して戻ってくる《キュートダガー》。
そしてピナとの連携を強化する《Princess Glove》。
第五層で手に入れた二つの装備は、偶然とは思えないほど噛み合っていた。
「いいなぁ……」
こっこが羨ましそうに呟いた。
リズが横目で見る。
「何よ」
「僕がラストアタック取ってたら、何が出てたんだろ」
全員が少し考えた。
地下墓地。
ラット軍団。
ローグ。
略奪。
ディスアーム。
そして現在も、こっこの周囲には何匹かのラットが当然のように座っている。
リズが即答した。
「《Rat King's Mantle》」
「なんで!?」
「ドブネズミの親玉にぴったりじゃない」
「誰がドブネズミの親玉だ!」
シリカが吹き出した。
「ぷっ……!」
「シリカまで!?」
ピナも、
「きゅるるる♪」
と鳴く。
「ピナまで笑った!? 」
攻略組から大爆笑が起こった。
張り詰め続けていた空気が、一気にほどけていく。
そんな中。
シリカは改めて《Princess Glove》を装備した。
白銀の光が両手を包み――。
小さな手に、可愛らしいグローブが実体化する。
シリカは両手を広げて眺めた。
そして、少しだけ誇らしそうに笑った。
「……初めてです」
「ん?」
「ラストアタック」
シリカはピナを見る。
「私だけじゃありません。ピナと一緒に取ったラストアタックです」
「きゅるっ!」
ピナがシリカの頬へ頭を擦りつける。
「だから――大切にします」
アスナが微笑む。
リズも何も茶化さなかった。
キリトは静かに頷いた。
そして、こっこも笑う。
「うん。いい装備が出たね」
「はい!」
第五層。
カルルイン。
長い攻略の最後に手に入れたものは、強力なギルドフラッグだけではなかった。
小さなビーストテイマーが初めて手にした――。
自分自身の戦果の証。
《Princess Glove》。
それはやがて攻略組の中で、
「シリカとピナは二人で一人」
そう言われる戦闘スタイルを象徴する装備となっていく。
――ただし。
「ところで、こっこさん」
「なに?」
「《Rat King's Mantle》、ちょっと見たかったです」
「シリカぁ!? 」
第五層攻略戦。
最後まで笑い声の絶えない攻略となった。