エンジニアのSAO Progressive ~NPCが売ってないなら作ればいい~   作:Edward

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7 早くホルンカの村にいけよ

狼を三匹ほど狩ったところで、こっこは街道から少し外れた場所に腰を下ろした。

 

さすがに疲労を覚えていた。

 

HPバーも、それなりに減少している。

 

回復ポーションを使えば手早く回復できるのだが――。

 

「……もったいない。」

 

序盤で入手した消耗品を、最後まで使わずに取っておく。

 

そんなゲーム内での妙な倹約癖が、この男には染みついていた。

 

こっこは周囲に敵がいないことを確認すると、道中で拾っておいた枯れ枝を地面に組み、《火打ち石》を取り出した。

 

カチッ。

 

火花が散る。

 

何度か繰り返すと、枯れ枝に小さな炎が灯った。

 

「おお、やっぱりゲームだと火熾しが楽だな♪」

 

パチパチと燃える焚き火の前に腰を下ろす。

 

街まで戻って自然回復を待つことも考えたが、せっかく狼を倒したのだ。

 

ストレージを開き、ドロップした《ウルフの肉》を取り出す。

 

「ボアの肉は焼いたら食べられたし……狼もいけるんじゃない?」

 

料理スキルも取得している。

 

ならば、試してみる価値はある。

 

肉をナイフに刺し、火にかざす。

 

ジュウ……。

 

やがて、焼けた肉から湯気が立ち始めた。

 

「おっ、見た目は悪くない✨️」

 

期待しながら、一口。

 

もぐ。

 

「…………」

 

もぐもぐ。

 

「…………」

 

こっこの眉間に、深い皺が寄った。

 

「臭っ!!」

 

思わず肉を口から離す。

 

「駄目だ! この狼の肉は駄目だ! 焼いても美味しくない 」

 

《料理》スキルがあれば、何でも美味しくなる。

 

そんな都合のよい話ではなかったらしい。

 

こっこは肩を落とし、焼いた狼肉を見つめた。

 

「ボアは美味しかったのになあ……。素材によって違うのか。」

 

また一つ、学習した。

 

もっとも、失敗したところで命を落とすわけではない。

 

こうしたことは、試行錯誤を重ねながら覚えていけばいい。

 

こっこは狼肉を脇へ置き、焚き火に枯れ枝を一本追加した。

 

パチッ――。

 

火の粉が舞う。

 

「…………ん?」

 

そこで、ふと手が止まった。

 

ストレージを開く。

 

《枯れ枝》。

 

また《枯れ枝》。

 

さらに《枯れ枝》。

 

火を熾すため、フィールドを歩きながら見つけるたびに拾っていたのだ。

 

「これ……結構邪魔だな。」

 

アイテムストレージにも容量の限界がある。

 

今はまだ所持品が少ないため問題ない。

 

しかし、この先も焚き火を使うたびに枯れ枝を大量に持ち歩くのは、どう考えても効率が悪い。

 

「もっと小さくて、長く燃えるもの……」

 

こっこは焚き火を眺めた。

 

燃えていた枝の一本が崩れ、黒くなった部分が露出した。

 

「…………炭?」

 

こっこは黒くなった枝を拾い上げた。

 

「そうだ。炭を作れないかな?」

 

現実には、燃料として使われる木炭がある。

 

同じことが、この世界でもできるのではないか。

 

しかし――どうやって作る?

 

こっこはウインドウを呼び出し、スキル一覧を開いた。

 

指で項目を送りながら、それらしいものを探していく。

 

「木工……? いや、少し違うな。鍛冶……これはもっと違う。」

 

そして。

 

一つの項目で指が止まった。

 

《クラフト》

 

「……クラフト?」

 

詳細を開く。

 

そこには、素材の加工や簡易的な製作に関する説明が表示されていた。

 

さらに熟練度を上げ、製作を重ねることで、より専門的な生産分野へ発展していくこともできるらしい。

 

「へえ……」

 

こっこの目が輝く。

 

「ここから分岐して、専門職のようになっていくのか。」

 

通常であれば。

 

デスゲームとなったこの世界で、生き残ることを最優先にするなら。

 

戦闘に直接役立つスキルを選ぶべきなのかもしれない。

 

攻撃。

 

防御。

 

索敵。

 

隠密。

 

より効率的な選択肢はいくらでもあるだろう。

 

だが、こっこが見ているのは――。

 

焚き火の横に積まれた大量の枯れ枝だった。

 

「…………邪魔なんだよなあ。」

 

理由は、それだけだった。

 

攻略における最適解でもない。

 

強くなるためでもない。

 

ただ――。

 

目の前に不便なものがある。

 

ならば、改善したい。

 

「よし!」

 

迷いは短かった。

 

《クラフト》を選択。

 

スキルスロットへ登録する。

 

――《クラフト》習得。

 

「これで炭が作れるか、試してみよう✨️」

 

こっこはさっそく枯れ枝を何本か集めた。

 

そして焚き火へ投入する。

 

しばらく待つ。

 

燃える。

 

さらに待つ。

 

燃える。

 

やがて――。

 

サラサラ……。

 

枝は灰になった。

 

「…………」

 

こっこは無言で灰をつまんだ。

 

「……炭じゃない。」

 

当然である。

 

普通に燃やしただけなのだから。

 

「むむむ……」

 

腕を組む。

 

もう一度、焚き火を見る。

 

燃えるということは、酸素と反応している。

 

ならば完全に燃やさず、途中で空気を遮断すれば――。

 

「そうか。蒸し焼きのようにすればいいのかな?」

 

こっこは立ち上がった。

 

石を集める。

 

土を掘る。

 

枯れ枝を並べる。

 

火を入れる。

 

そして、空気が入りすぎないように土を被せてみる。

 

失敗。

 

もう一度。

 

今度は火が消えた。

 

「違うか……」

 

もう一度。

 

「これなら……?」

 

失敗。

 

「うーん。」

 

また試す。

 

失敗。

 

「もう少しかな?」

 

また試す。

 

いつの間にか。

 

HPを自然回復させるために休憩していたはずの男は、地面にしゃがみ込み、夢中になって炭焼きの実験を始めていた。

 

なぜ自分がこんなことをしているのか。

 

本人にも、よく分かっていない。

 

ただ一つだけ確かなのは――。

 

不便だったから。

 

もっと便利にできると思ったから。

 

だから試した。

 

それだけだった。

 

《料理》を取得したのも、同じ理由だった。

 

食事で回復できれば便利だと思った。

 

《クラフト》を取得したのも、同じ理由だった。

 

枯れ枝を大量に持ち歩くより、炭にできれば便利だと思った。

 

戦闘とは直接関係ない。

 

攻略の最短ルートでもない。

 

それでも――。

 

この小さな選択が。

 

やがて数多くの職人を生み。

 

武器を作り。

 

防具を作り。

 

店を作り。

 

クロスボウを作り。

 

船すら造り。

 

千人ものプレイヤーを抱える巨大な《Engineer》へと繋がっていくことを――。

 

このときのこっこは、まだ知らない。

 

「おっ!」

 

土をどけたこっこの顔が明るくなる。

 

中から出てきたのは、真っ黒になった一本の枝。

 

灰にはなっていない。

 

指で触れてみる。

 

「これ……炭じゃない!?」

 

システムウインドウを開いて確認する。

 

《粗悪な木炭》

 

「…………」

 

品質表示を見つめる。

 

粗悪。

 

「まあ……最初だからね 」

 

それでも。

 

こっこは嬉しそうに、その一本をストレージへ収納した。

 

《クラフト》熟練度が、ほんの少しだけ上昇する。

 

「よし! もっと作ってみよう✨️」

 

――始まりは、たった一本の炭だった。

 

 

薪を使い、まずは《炭》の製作を試みる。

 

火を熾し、その中へ薪を入れて、しばらく待つ。

 

こっこ「そろそろかな?」

 

火ばさみ代わりの枝で、黒くなった薪を取り出してみる。

 

こっこ「おっ! それっぽい!」

 

期待しながら手に取った瞬間――。

 

《薪の燃えカス》

 

パサッ……。

 

こっこ「あっ」

 

黒い塊は手の中で崩れ、細かな粒子となって飛散した。

 

こっこ「……炭じゃない 」

 

???「にゃはははは♪ 面白いことをしているナ」

 

こっこ「だれ!?」

 

反射的に立ち上がり、左手を剣の柄へ伸ばす。

 

街道脇の茂みがガサガサと揺れ、そこから小柄な人影が姿を現した。

 

深く被ったフードのせいで顔はよく見えない。

声から判断すると、女性――いや、少女だろうか。

 

???「初日からレベル4で《クラフト》スキルを迷わず取得するなんて、随分と変わった奴だナ。本当にβテスターではないのカ?」

 

こっこ「βテスターではないよ」

 

???「…………マジ?」

 

少女の動きが止まった。

 

???「このタイミングでこの辺りにいる奴なんて、βテスターくらいなものダ。……それとも自殺志願――」

 

少女は焚き火へ視線を向けた。

 

その横には焼いた狼肉。

集められた薪。

そして、炭にしようとして失敗した燃えカス。

 

???「……ではないナ。肉を焼いて、炭まで作ろうとしているからナ 」

 

こっこ「夜になったから休憩しているんだよ。ポーションももったいないし」

 

???「…………」

 

こっこ「なに?」

 

???「いや。自殺志願ではないのは分かったけど、別の意味で変わった奴だナと思って」

 

こっこ「失礼な! 」

 

少女は焚き火のそばまで近づくと、地面に散った《薪の燃えカス》を覗き込んだ。

 

???「それで? 何を作ろうとしていたんダ?」

 

こっこ「炭」

 

???「炭?」

 

こっこ「うん。枯れ枝や薪をそのままストレージに入れて持ち歩くと邪魔だろ? だったら加工して、もっと効率のいい燃料にできないかなって。《クラフト》を取得したら作れるかと思ったんだけど……」

 

こっこは《薪の燃えカス》を指差した。

 

こっこ「こうなった 」

 

???「にゃははははは!」

 

こっこ「笑うなよ! 」

 

???「いやいや、悪かったナ。でも面白いナ。普通、初日に《クラフト》を取得したら、何が作れるかメニューを確認するだろ?」

 

こっこ「見たよ。でも炭がなかった」

 

???「だから薪を焼いたのカ?」

 

こっこ「うん」

 

???「…………」

 

少女が再び黙り込んだ。

 

こっこ「だから、なに?」

 

???「やっぱり変な奴だナ」

 

こっこ「二回言った! 」

 

???「でも――」

 

少女はしゃがみ込み、燃えカスを指先でつついた。

 

???「考え方自体は、悪くないかもしれないナ」

 

こっこ「!」

 

???「このゲームは、《スキルを取得した=すべて作れる》というわけではない。条件を満たしたり、作業を繰り返したり、レシピを見つけたりして、初めて作成可能になるものもある」

 

こっこ「……つまり、炭も作れる可能性がある?」

 

???「さあナ?」

 

こっこ「知らないの!?」

 

???「にゃはは♪ そこから先は――」

 

少女が親指と人差し指で輪を作った。

 

???「情報料だナ」

 

こっこ「お金取るの!?」

 

???「当然。オレっちは情報屋だからナ」

 

こっこ「情報屋……?」

 

少女は立ち上がると、フードの奥からニッと笑った。

 

アルゴ「《鼠のアルゴ》。よろしくナ、炭焼きの兄ちゃん」

 

こっこ「誰が炭焼きの兄ちゃんだ! 」

 

 

 

アルゴに《焼いたボア肉》を渡すと、代わりにいくつかの情報を教えてもらった。

 

アルゴ「初日にボアの肉を上手に焼けるなんて、あんたには才能があるよ ️」

 

こっこ「そうかなあ✨️」

 

アルゴ「もちろん褒めてる。で、肉のお礼だ。ホルンカに行くなら、街道をそのまま進むのはやめておきな。」

 

こっこ「えっ? 道なりに進めばいいんじゃないの?」

 

アルゴ「道は分かりやすいけど、そのぶんモンスターにも遭遇しやすいんだ。少し道を外れて、岩肌沿いに進む。それが基本だな。」

 

こっこ「なるほど……ありがとう!」

 

アルゴ「まあ、それでもボアや狼くらいは出るけどな。」

 

こっこ「出るんだ 」

 

アルゴ「にゃははは♪ 死ぬなよー。」

 

そう言い残すと、アルゴは暗闇の向こうへ軽やかに消えていった。

 

こっこ(あの子、いい子だなあ✨️)

 

教えてもらったとおり、街道を外れて岩肌沿いに進む。

 

もちろん、安全というわけではない。

 

ガサッ!

 

こっこ「また狼!?」

 

《Dire Wolf》

 

こっこ「来るなら来い! さっきの戦いで少し分かったぞ!」

 

ストレージから《石》を実体化させる。

 

突進してくる狼の顔面へ投げつける。

 

ガッ!

 

狼「キャウッ!」

 

怯んだ隙に、左手の剣を振る。

 

《スラント》!

 

しかし、狼のHPを削り切ることはできない。

 

こっこ「まだか!」

 

すぐさま右手に《松明》を持ち替え、狼の鼻先へ突き出す。

 

狼「ギャン!」

 

こっこ「火を怖がるのか! よし!」

 

剣だけで戦う必要はない。

 

拾った石も、松明も使える。

 

相手の動きを止めてから、確実にソードスキルを当てる。

 

その戦法を繰り返した。

 

途中でボアにも遭遇した。

 

こっこ「君にはもう慣れた!」

 

《石》!

 

ボア「ブギッ!?」

 

《スラント》!

 

パァン――!

 

こっこ「よし!」

 

そして、肉を回収する。

 

こっこ「これは大事✨️」

 

戦利品の基準が少しずつおかしくなっていることに、本人はまだ気づいていない。

 

どれほど歩いただろう。

 

岩肌の向こうに、小さな明かりが見えた。

 

こっこ「……あれ?」

 

近づくにつれて、それが家々から漏れる灯りだと分かってくる。

 

そして、視界に地名が表示された。

 

《Horunka Village》

 

こっこ「……着いたぁぁぁ…… 」

 

ようやくたどり着いた《ホルンカの村》。

 

始まりの街を出たときは、本当に怖かった。

 

道も知らない。

 

モンスターの種類も知らない。

 

戦い方だって、まだ覚えたばかりだった。

 

それでも。

 

拾った石を投げ。

 

松明で狼を怯ませ。

 

剣を振り。

 

肉を焼き。

 

炭を作ろうとして失敗し。

 

妙な情報屋の女の子と知り合って――。

 

なんとか、生きてここまで来た。

 

こっこ「……ゲームって、本当はこういうのが楽しいんだよな。」

 

そして、ふと思い出す。

 

ここではもう、死んだら終わりなのだ。

 

こっこ「…………。」

 

村の灯りを見つめる。

 

こっこ「よし。今日はここを拠点にしよう。」

 

こうして、デスゲーム初日の夜。

 

《料理》と《クラフト》という、攻略組としては妙なスキルを抱えたプレイヤー・こっこは――

 

ようやく《ホルンカの村》へとたどり着いた。

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