エンジニアのSAO Progressive ~NPCが売ってないなら作ればいい~   作:Edward

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71 器用貧乏って重宝されるよ

第7層――主街区《ヴォルプータ》

 

第六層《スタキオン》を突破した攻略組は、転移門を抜け――ついにアインクラッド第七層へと足を踏み入れた。

 

転移した先は、第七層の主街区。

 

《ヴォルプータ》――。

 

「…………おお」

 

こっこが思わず声を漏らした。

 

これまでの街とは、明らかに空気が違う。

 

煌びやかな照明。

 

通りを飾る派手な看板。

 

NPCたちの威勢のいい呼び込み。

 

そして何より目につくのは、街のあちこちに並ぶ――カジノ。

 

カード。

 

ダイス。

 

ルーレット。

 

様々なゲームを象徴する装飾が軒先を彩り、店の中からは絶え間なくチップの音と歓声が聞こえてくる。

 

シリカが目を丸くした。

 

「すごいです……! 街全体がお祭りみたいですね!」

 

「浮かれちゃ駄目よ」

 

アスナはそう言いながらも、興味深そうに周囲を見回している。

 

キリトは逆だった。

 

「……こういう層ほど嫌な仕掛けがありそうなんだよな」

 

「同感だ」

 

エギルが頷く。

 

ディアベルは早速、第七層の地図を呼び出した。

 

「まず《ヴォルプータ》で情報収集だ。迷宮区へのルート、周辺クエスト、フィールド情報。それから――」

 

ピコン♪

 

「む?」

 

サタンが止まった。

 

商人も止まった。

 

「…………」

 

二人同時に嫌な顔をする。

 

サタンがメッセージウィンドウを開いた。

 

差出人――老師。

 

«《合気と闘気を教える。帰ってこい!》

 

《今回で最後となろう……》»

 

サタンの表情が変わった。

 

「ついに……最後か」

 

商人は別の意味で感動していた。

 

「やっと最後アルか…… 」

 

「では皆、儂は行く!」

 

「第七層に来たばっかりでしょうが!! 」

 

リズの怒声も虚しく、サタンと商人は再び転移門へ。

 

サタンは老師のもとへ。

 

残った攻略組は《ヴォルプータ》の探索へ――

 

「よし」

 

キリトが剣の位置を直す。

 

「俺はクエスト情報を集めてくる」

 

「私は宿屋と商店を見てくるわ」

 

アスナ。

 

「俺は武器屋と素材相場だな」

 

エギル。

 

「じゃ、あたしとシリカは生産関係を――」

 

そこでリズが気づいた。

 

「…………あれ?」

 

一人足りない。

 

振り返る。

 

こっこはいた。

 

ただし――

 

カジノの巨大な看板の真下に。

 

「…………」

 

目が輝いている。

 

✨️ ✨️

 

「こっこ?」

 

「カジノ……」

 

「うん」

 

「経営……」

 

「……うん?」

 

こっこが勢いよく振り返った。

 

「カジノ経営! 気になる!!✨️」

 

その声は、攻略会議でボスの弱点を発見したときよりも弾んでいた。

 

リズの眉が跳ね上がった。

 

「待って」

 

「僕、ちょっとアルバイト募集してないか聞いてくるね✨️」

 

「待ちなさい」

 

「カジノの運営補助、ディーラー、チップ整理、呼び込み……何でもやります!」

 

「職種を具体的にするな!」

 

「経験不問って書いてある店から順番に当たってみるね!」

 

「看板のどこにそんな求人情報が出てるのよ!?」

 

こっこはすでに、看板、店先、掲示板、さらには通りすがりのNPCの胸元にある名札まで確認し始めていた。

 

「すみません! こちら、従業員募集は――」

 

「こっこ、NPCにいきなり面接を申し込むな!」

 

「履歴書、今から書けるよ! 志望動機は『カジノが好きだから』でいいかな!?」

 

「それは志望動機じゃなくて、ただの感想!」

 

「じゃあ『街全体を盛り上げる経営者になりたい』!」

 

「急に社長志望になるな!!」

 

こっこは聞いているのか聞いていないのか、次の店へ向かって駆け出した。

 

「行ってきまーす! まずは三軒、いや十軒くらい面接を――」

 

ダッ!!

 

「待てぇぇぇぇ!! 」

 

リズが慌てて追いかける。

 

こっこは振り返りながら、さらに声を張り上げた。

 

「採用されたら、みんなに社員割引で遊ばせてあげるねー!!」

 

「遊ぶ前提で就職活動するなぁぁぁ!!」

 

《ヴォルプータ》の雑踏へ消えていくこっこ。

 

キリト  

 

アスナ  

 

シリカ  

 

ディアベル  

 

エギル  

 

リズ  

 

第七層攻略開始から――数分。

 

サタン、修行のため離脱。

 

こっこ、カジノへの情熱と就職活動のため離脱。

 

エギルが静かに呟いた。

 

「……ディアベル」

 

「なんだい?」

 

「俺たち、本当に攻略組だよな?」

 

「…………たぶん」

 

「しかも、あいつは攻略より先に就職を決める気らしいぞ」

 

「……攻略組の定義を、少し考え直したほうがいいかもしれない」

 

こうして主街区《ヴォルプータ》から始まった第七層攻略。

 

誰も予想していなかった。

 

この直後、こっこがカジノの裏側へ入り込み、面接と称して経営会議に乱入し、第七層そのものを動かす騒動に首を突っ込むことになるとは――。

 

 

 

第七層《ラーヴェルグ》。

 

巨大なカジノが街の中心にそびえるこの層で、攻略組がそれぞれ情報収集へ散っていった、その日のことだった。

 

こっこは一人、満面の笑みでカジノの従業員用入口に立っていた。

 

「アルバイト募集してませんか✨」

 

そして――。

 

数日後。

 

「おい、そこの樽を倉庫まで運んでくれ」

 

「はーい!」

 

最初の仕事は、本当にただの雑用だった。

 

床掃除。

 

テーブル拭き。

 

酒樽運び。

 

倉庫整理。

 

壊れた椅子の撤去。

 

カジノチップの補充。

 

客が散らかしたゴミの片付け。

 

華やかなディーラーでもなければ、ゲームを仕切るスタッフですらない。

 

完全なる裏方。

 

それでも本人は妙に楽しそうだった。

 

「へえー、NPCってこうやってシフト組まれてるんだ……」

 

掃除をしながら厨房を覗き。

 

荷物を運びながら倉庫の在庫を確認し。

 

天井を見上げて照明設備を観察する。

 

そして、ある日。

 

こっこが何気なく言った。

 

「ここに、照明がもう一個あった方がいいんじゃない?」

 

NPCスタッフが振り返る。

 

「照明?」

 

「うん。ここのテーブルだけ暗いから、カードの絵柄が見えにくいよ」

 

しばらくして、本当に照明が追加された。

 

客の滞在時間が伸びた。

 

「……?」

 

スタッフたちは首を傾げた。

 

翌日。

 

「交換商品、もっと色々あった方がいいよね?」

 

「しかし、仕入先が……」

 

「業者さん? 紹介するよ✨」

 

数時間後。

 

エンジニアギルドから大量の商品が搬入された。

 

装飾品。

 

便利道具。

 

ちょっとした防具。

 

珍しい素材。

 

カジノ限定カラーに加工された小物まで並び始める。

 

NPCスタッフたちがざわついた。

 

さらに翌日。

 

こっこは厨房で腕を組んでいた。

 

「ごはん、もうちょっと充実させようよ」

 

「食材の安定供給が難しく――」

 

「業者さん? 紹介するよ✨」

 

また来た。

 

今度は料理スキル持ちのエンジニアたちだった。

 

肉料理。

 

魚料理。

 

パン。

 

菓子。

 

飲み物。

 

軽食。

 

それまで「ゲームの合間に最低限腹を満たす場所」だった飲食スペースが、数日のうちに立派なレストランへ変貌した。

 

さらに――。

 

「支配人! 飼育区画のモンスターが暴れています!」

 

「モンスター?」

 

こっこが振り返る。

 

「あ、それならいい人知ってます」

 

呼び出されたシリカは、事情を聞いて絶句した。

 

「……私、攻略してたんですけど?」

 

「お願い♥」

 

「もう……」

 

ピナが、

 

「きゅるる♪」

 

と鳴きながらモンスターへ近づく。

 

シリカのテイム知識によって飼育方法まで改善された。

 

さらに数日後。

 

「ショー用モンスターの武器が破損しました!」

 

「武器?」

 

こっこがまた振り返る。

 

「いい人知ってますよ✨」

 

嫌な予感しかしなかった。

 

そして――。

 

「なんで私がカジノのモンスターの武器を直してんのよ 」

 

リズだった。

 

「だって鍛冶屋さんだから」

 

「私はあんたの便利屋じゃないわよ!」

 

カンッ!!

 

怒りながらも完璧に修理する。

 

しかもリズは気づいてしまった。

 

「……これ、重心悪くない?」

 

改良が始まった。

 

エンジニアたちも寄ってきた。

 

「軸受け変えよう」

 

「いや、耐久値なら素材変更だろ」

 

「交換式にした方が保守しやすい」

 

「予備品管理も必要ですね」

 

気づけば、カジノの裏側に小さな整備工房まで誕生していた。

 

照明設備改善。

 

商品流通改善。

 

飲食部門拡張。

 

モンスター管理改善。

 

装備保守体制構築。

 

そして何より恐ろしいのは――。

 

こっこ本人は、まだ自分を、

 

《カジノのアルバイト》

 

だと思っていたことである。

 

 

一方その頃。

 

攻略情報を探していたキリトは、カジノの入口で足を止めた。

 

「……あれ?」

 

見覚えのある男たちが、次々と従業員用入口へ入っていく。

 

工具箱。

 

資材。

 

食材。

 

交換商品。

 

「このカジノ、プレイヤーが結構出入りしてる」

 

アスナが一人を見て目を細める。

 

「……エンジニアの人よ」

 

「え?」

 

さらに三人。

 

さらに五人。

 

奥では台車を押すプレイヤーまでいる。

 

そこへエギルが走ってきた。

 

「おい!」

 

珍しく慌てている。

 

「すごい勢いでカジノが成長しているぞ!」

 

「成長?」

 

「昨日までなかった交換所が増えてる! 飯も明らかに良くなってる! 休憩スペースまでできてるぞ!」

 

アスナの眉がぴくっと動いた。

 

「……まさか」

 

三人は顔を見合わせた。

 

その時だった。

 

「失礼します!」

 

NPCスタッフが廊下を走っていく。

 

「支配人! こちらお願いします!」

 

「…………支配人?」

 

キリトたちは、そのNPCの向かった先を見る。

 

そこには――。

 

書類を抱え。

 

従業員に指示を出し。

 

エンジニアと設備配置について話し。

 

シリカにモンスター飼育区画の相談をし。

 

リズに修理品を渡している男がいた。

 

ちょうど視察に来ていたディアベルも、その姿を見つけた。

 

「…………」

 

二度見。

 

三度見。

 

そして指を差した。

 

「あれが支配人って――」

 

声が裏返った。

 

「こっこさん!?」

 

「ん?」

 

こっこが振り返る。

 

キリト。

 

アスナ。

 

エギル。

 

ディアベル。

 

全員いる。

 

「…………」

 

こっこは手に持っていた書類を、そっと背中に隠した。

 

「あっ」

 

一秒。

 

「ヤベ 」

 

二秒。

 

「バレちゃった♥」

 

「何やってんだよ!! 」

 

キリトの声がカジノ中に響いた。

 

「アルバイト」

 

「どこがだよ!!」

 

「最初は床掃除だったんだよ!?」

 

「今なんでNPCから支配人って呼ばれてんだよ!」

 

「なんかね、困ってること聞いてたらこうなった」

 

エギルが頭を抱える。

 

「普通はならねえんだよ……」

 

アスナは周囲を見渡した。

 

確かにカジノは以前より遥かに活気づいている。

 

プレイヤーが食事を楽しみ。

 

交換所には人が並び。

 

整備された施設ではNPCが効率よく働いている。

 

「でも……」

 

アスナが困ったように笑う。

 

「本当に良くなってるのが腹立つわね」

 

リズが即答した。

 

「そうなのよ 」

 

シリカも苦笑する。

 

「私たちまで巻き込まれてますけどね……」

 

その光景を――。

 

遥か彼方。

 

システムログ越しに見ていた男がいた。

 

 

紅玉宮。

 

茅場晶彦は無言だった。

 

表示されているログには、

 

《NPC施設利用率上昇》

 

《プレイヤー滞在時間増加》

 

《商品流通量増加》

 

《NPC業務効率変動》

 

《外部プレイヤーによる施設補助》

 

次々と想定外の数字が並んでいた。

 

茅場は額を押さえる。

 

「…………」

 

第六層では、黄金のキューブを使ってボス攻略機構そのものを利用した。

 

その前には船を造った。

 

クロスボウを量産した。

 

露店を拡張した。

 

組織を作った。

 

そして今度は――。

 

カジノへアルバイトに入ったと思ったら、NPC施設の経営改善を始めている。

 

「…………あいつ」

 

同じ頃。

 

カジノではキリトが叫んでいた。

 

「何やってんだよ 」

 

紅玉宮でも茅場が呟いた。

 

「何をやっているんだ 」

 

奇しくも。

 

攻略者とゲームマスターの意見が、完全に一致した瞬間だった。

 

そして当の本人は――。

 

「でもさ✨」

 

新しい企画書を取り出した。

 

「次、宿泊施設併設したらもっと滞在時間伸びると思うんだよね」

 

「やめろおおおおお!!」

 

第七層。

 

攻略開始から、まだそれほど日数は経っていない。

 

なのに攻略組とはまったく別方向で――。

 

カジノ経営攻略が、猛烈な勢いで進行していた。

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