エンジニアのSAO Progressive ~NPCが売ってないなら作ればいい~   作:Edward

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73 独占禁止法の意味ってしってますか?

カジノからの脱出後――。

 

こっこ、リズ、シリカの三人は、しばらくカジノに近づくことすら避けていた。

 

いや。

 

正確には。

 

「もう一回だけ――」

 

「ダメ」

 

「でも支配人として引き継ぎを――」

 

「ダメ」

 

「スタッフのみんなに挨拶くらい――」

 

「絶対ダメ 」

 

リズによって完全に阻止されていた。

 

そもそも、あのカジノを経営するNPC一家から、

 

《施設への過度な詮索は無用》

 

と警告された直後に、侵入禁止区域へ潜入したのである。

 

もう一度顔を出して、

 

『経済政策について相談があります✨️』

 

などと言おうものなら、どうなるか。

 

「……出禁かな?」

 

「その程度で済めばいいわね 」

 

シリカも苦笑した。

 

「しばらく近づかないほうがいいと思います……」

 

「なんで 」

 

そんな三人が《エンジニア》本部へ戻ると――。

 

別の問題が待っていた。

 

会議室。

 

シンカー。

 

ユリエール。

 

エギル。

 

ディアベル。

 

そして各部門の責任者たち。

 

テーブルの上には大量の帳簿。

 

こっこは席に座った瞬間、嫌な予感がした。

 

「……怒ってる?」

 

シンカーは答えなかった。

 

ユリエールが一枚の資料を置く。

 

「第七層到達後のエンジニアの売上です」

 

「おお✨️」

 

「喜ばないでください」

 

「はい」

 

グラフは明らかに異常だった。

 

それまで階層が進むにつれて緩やかに増えていた売上が、第七層だけ跳ね上がっている。

 

理由は明白だった。

 

カジノ。

 

こっこがアルバイトとして入り込み、

 

『ここに照明が欲しい』

 

『料理を充実させよう』

 

『景品も増やそう』

 

『壊れるなら修理すればいい』

 

『業者さん? 紹介しますよ✨️』

 

とやった結果。

 

料理。

 

武器。

 

修理。

 

裁縫。

 

家具。

 

装飾。

 

設備。

 

素材。

 

輸送。

 

サービス。

 

次々とエンジニア所属の職人たちがカジノ経済へ入り込んだ。

 

最初は小さな取引だった。

 

しかし、いつの間にか巨大な商流になっていた。

 

シンカーが頭を抱える。

 

「カジノを改善してくれなんて、誰が頼んだんですか……」

 

「NPC」

 

「そういう意味じゃありません!」

 

エギルが帳簿をめくりながら唸った。

 

「しかし、これは洒落にならんな」

 

ディアベルも数字を見つめる。

 

「攻略組の人数が急増したわけじゃない。それなのに生産量も取引量も一気に増えている」

 

ユリエールが頷いた。

 

「NPC経済との取引が原因です」

 

プレイヤーがカジノへコルを落とす。

 

カジノがその資金を使って物資やサービスを調達する。

 

その発注先にエンジニアが大量に入り込んだ。

 

そしてエンジニアには千人を大きく超える人員がいる。

 

NPC経済とプレイヤー経済を隔てていた壁に――。

 

巨大な穴が開いた。

 

原因。

 

こっこ。

 

「…………」

 

全員の視線が集まる。

 

「なんで 」

 

リズが机を叩いた。

 

「あんたが開けた穴でしょうが 」

 

だが――。

 

ここで問題が一つあった。

 

シンカーが腕を組む。

 

「カジノそのものには、もう介入できません」

 

部屋が静かになる。

 

「あそこはNPCが運営する施設です。俺たちが景品を変えたり、価格を操作したり、経営方針を変更したりする権限はない」

 

ましてや――。

 

こっこ達は、あの一家の秘密にまで踏み込んだ。

 

再び支配人として乗り込んで経営改革など、できるはずがない。

 

「じゃあ」

 

こっこが手を挙げた。

 

「取引全部やめよう✨️」

 

ユリエールが即答した。

 

「それもダメです」

 

「なんで!?」

 

「急に止めれば別の混乱を起こします」

 

カジノ側は、すでにエンジニアからの供給を前提として動いている。

 

料理。

 

修理。

 

消耗品。

 

設備部品。

 

景品。

 

そこから突然エンジニアが撤退すれば、供給不足が発生する。

 

そしてエンジニア側にも、カジノ関連の仕事を担当する職人たちがいる。

 

巨大な取引を一夜で消せば――。

 

今度は逆方向のショックが起こる。

 

エギルが腕を組んだ。

 

「増やしすぎてもダメ。急に減らしてもダメ、か」

 

「はい」

 

シンカーが立ち上がった。

 

そして黒板に大きく書く。

 

《カジノには触らない》

 

その下へ。

 

《自分たちを変える》

 

「これが基本方針です」

 

第一段階。

 

《カジノ依存率の段階的引き下げ》

 

新規のカジノ関連事業への参入を停止。

 

既存契約は維持する。

 

ただし、契約更新時に供給量を少しずつ減らす。

 

同時に、エンジニアが担っている仕事を外部の生産職へ紹介していく。

 

こっこが首を傾げる。

 

「他の人に仕事を渡すの?」

 

「そうです」

 

「儲からなくなるよ?」

 

「それが目的です」

 

「ええっ!?」

 

ユリエールはため息をついた。

 

「エンジニアだけが儲かりすぎている状態を直すんです!」

 

そして第二段階。

 

《カジノ利益の市場還流》

 

ここまでカジノから得たコルを、エンジニア内部に貯め込まない。

 

攻略組が持ち帰った素材を適正価格で買う。

 

小規模な鍛冶屋から部品を買う。

 

料理人から食材や加工品を仕入れる。

 

裁縫職へ衣装を発注する。

 

情報屋へ調査を依頼する。

 

運搬専門のプレイヤーへ輸送を任せる。

 

そして――。

 

攻略に必要な消耗品の備蓄。

 

安全地帯への補給拠点。

 

ボス攻略前の休憩施設。

 

迷宮区へ向かうプレイヤーへの装備修理。

 

そうした、これまでエンジニアが自前でやっていた仕事にも、外部の人間を積極的に参加させる。

 

ディアベルが気付いた。

 

「つまり、カジノから入った金を攻略経済へ戻すのか」

 

「そうです」

 

ユリエールが頷く。

 

「カジノから流れ込んだコルを、エンジニアの金庫で止めない」

 

エギルがニヤリとした。

 

「金は血液みてえなもんだからな。溜め込むより流したほうがいい」

 

そして第三段階。

 

《新規生産職育成枠》

 

ここで、こっこが口を開いた。

 

「だったらさ」

 

全員が見る。

 

「僕たちから買うんじゃなくて、僕たちが買う側になればいいんじゃない?」

 

ユリエールが眉を上げた。

 

「と言いますと?」

 

「エンジニアって、もう大きすぎるでしょ?」

 

料理。

 

クラフト。

 

鍛冶。

 

裁縫。

 

設備。

 

運搬。

 

情報。

 

そして、かつてのMMOトゥディも合併し、現在では情報部門までエンジニアの中に存在している。

 

気が付けば、ほとんどの仕事を自前で完結できる組織になっていた。

 

「今から生産職を始める人が、僕らと競争するのって無理じゃない?」

 

部屋が静かになる。

 

「だから――」

 

こっこは黒板へ書いた。

 

《買い取り》

 

「初心者が作った物でも、使えるならエンジニアが買う」

 

料理でもいい。

 

ポーションでもいい。

 

革製品でもいい。

 

矢でもいい。

 

衣服でもいい。

 

「最初は下手でもいい。売れる場所があれば続けられる。その人が上手になったら、いつか僕らから仕事を奪うくらいになればいい」

 

リズが少し驚いた顔をする。

 

「……あんた、自分の店のライバル育てるつもり?」

 

「うん✨️」

 

「即答!?」

 

シンカーはしばらく考えていた。

 

そして。

 

「採用しましょう」

 

ユリエールも頷く。

 

「カジノから得た利益の使い道としては合理的です」

 

第四段階。

 

《攻略への再投資》

 

カジノ関連へ集中していた人員を、段階的に本来の仕事へ戻す。

 

武器開発。

 

防具。

 

クロスボウ。

 

料理。

 

迷宮区補給。

 

地図。

 

情報収集。

 

安全設備。

 

そして次の階層へ向けた研究。

 

シンカーは言った。

 

「俺たちはカジノ会社じゃありません」

 

「そうだった!」

 

「忘れてたんですか!?」

 

会議室に総ツッコミが響いた。

 

こうして――。

 

《第七層経済安定化計画》

 

が始まった。

 

カジノは触らない。

 

NPCの経営にも干渉しない。

 

既存取引も突然切らない。

 

しかし新規投資は止め、少しずつ依存度を下げる。

 

そして得てしまった巨大な利益を、素材購入、外部発注、新人生産職育成、攻略支援へと流していく。

 

数日後。

 

効果が現れ始めた。

 

「素材買います!」

 

「矢、一束納品できます!」

 

「料理スキル上げてるんですけど!」

 

「買います✨️」

 

「革細工できます!」

 

「買います✨️」

 

「情報あります!」

 

「情報部へどうぞ✨️」

 

「家具作りました!」

 

「買います✨️」

 

リズが青ざめた。

 

「ちょっと待って」

 

「ん?」

 

「買いすぎじゃない?」

 

ユリエールが走ってきた。

 

「こっこさん 」

 

「はい」

 

「《買い取り予算》という言葉を知っていますか?」

 

「……知らない✨️」

 

「覚えてください!!」

 

再び修正が入った。

 

買い取り上限。

 

品質基準。

 

月間予算。

 

在庫管理。

 

需要予測。

 

そして――。

 

《こっこの単独発注禁止》

 

「最後の項目だけおかしくない!?」

 

「一番重要です」

 

「なんで 」

 

だが。

 

少しずつ。

 

本当に少しずつ。

 

アインクラッドの経済は落ち着き始めた。

 

カジノから流れ込んだ富は、一つの巨大組織へ集中するのではなく――。

 

採集者へ。

 

職人へ。

 

商人へ。

 

攻略組へ。

 

情報屋へ。

 

新人生産職へ。

 

再び流れていった。

 

その頃――。

 

紅玉宮。

 

茅場晶彦は無言でモニターを見ていた。

 

第七層到達直後から乱れていた経済指標。

 

NPC・プレイヤー間取引量。

 

地域別物価。

 

生産職所得。

 

コル流通量。

 

その数値が――。

 

ゆっくり正常域へ戻り始めている。

 

「…………」

 

神代凛子が横から覗き込んだ。

 

「あら」

 

「…………」

 

「直ってきたわね✨️」

 

「……そうだな」

 

茅場は腕を組む。

 

カーディナルによる強制修正は行っていない。

 

NPCカジノの設定変更もしていない。

 

プレイヤー側が自分たちの行動を変えることで、経済が自律的に調整され始めていた。

 

それ自体は――。

 

非常に興味深い。

 

「人間が世界の仕組みを理解し、自分たちで均衡を取り戻す……」

 

茅場は僅かに笑った。

 

「私が見たかったものの一つではある」

 

凛子も微笑む。

 

「じゃあ良かったじゃない」

 

「ただし」

 

画面が切り替わる。

 

そこには――。

 

《エンジニア 第七層新規事業企画》

 

嫌な文字が表示されていた。

 

茅場の表情が止まる。

 

『カジノ依存率を下げるため、新規事業を募集します✨️』

 

その下。

 

『温泉事業』

 

『移動販売』

 

『宿泊施設』

 

『観光』

 

『テーマレストラン』

 

『ピナ関連商品』

 

『――』

 

「待て」

 

凛子が笑いを堪える。

 

「経済を分散させるんでしょう?」

 

「そういう意味ではない」

 

画面の向こうでは、こっこが嬉しそうに話していた。

 

『カジノ一個に集中したのがダメだったんだよ!』

 

シンカー。

 

『嫌な予感がする』

 

ユリエール。

 

『私もです』

 

こっこは満面の笑みで言った。

 

『アインクラッド全体で商売すればいいんだ✨️』

 

茅場が立ち上がった。

 

「違う 」

 

凛子がついに吹き出した。

 

「今度はアインクラッド全体よ✨️」

 

「経済を修正しろと言ったのであって、事業を多角化しろとは言っていない!!」

 

その頃。

 

何も知らないこっこは――。

 

次なる企画書を書いていた。

 

《第八層新規事業計画》

 

カーディナル。

 

――警戒度、上昇。

 

茅場。

 

「だから経済をかき回すな 」

 

こっこ。

 

「なんで 」

 

 

 

 

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