エンジニアのSAO Progressive ~NPCが売ってないなら作ればいい~   作:Edward

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76 RPGの魅了ってやばいです

第七層――決戦

 

第七層迷宮区、最上部。

 

巨大なボス部屋の扉の前には、もはや恒例となった光景が広がっていた。

 

簡易厨房から漂う料理の匂い。

 

リズベットを中心とした武器、防具の最終整備。

 

シリカは回復アイテムを配りながら、ピナと一緒に攻略組の間を走り回っている。

 

そして――。

 

「今回も来ないな……」

 

こっこは迷宮区へ続く通路を眺めた。

 

サタンの姿はない。

 

老師から《合気》と、その先にある《闘気》の修行を言い渡され、今回はまだ戻ってきていなかった。

 

「サタン抜きか」

 

エギルが腕を組む。

 

「火力としては痛いな」

 

「まあ、今回は人数もいるから何とかなるでしょ」

 

こっこが軽く答える。

 

その言葉を聞いたキリトが、ちらりと彼を見る。

 

「……そういう時のお前、だいたい何かやらかすよな」

 

「失礼な」

 

「事実でしょ」

 

アスナが即答した。

 

「 」

 

その横でディアベルが苦笑する。

 

第六層。

 

黄金のキューブを巡る激戦の末、最後の一撃を決めたのはディアベルだった。

 

《The LAST PIECE》。

 

それが彼の手にしたラストアタックボーナス。

 

そして今。

 

攻略組を率いる指揮官として、ディアベルは再び最前線に立っている。

 

「みんな、準備はいいね」

 

ディアベルが振り返る。

 

第一層の頃とは違う。

 

キバオウたちアタッカー。

 

シヴァタを中心としたタンク部隊。

 

エギル率いる重量武器組。

 

TPOを束ねるディアベル。

 

エンジニアに合流した元MMOトゥデイの情報網。

 

アルゴの攻略情報。

 

迷宮区の罠を解析し、安全な進軍路を作るエンジニア部隊。

 

攻略組はすでに、一つの軍隊に近い組織へ成長していた。

 

だからこそ――。

 

誰も予想していなかった。

 

第七層のボスが狙っていたものが、

 

攻略組の強さそのものだったことを。

 

---

 

巨大な扉が開いた。

 

冷たい空気が流れ出す。

 

内部は石造りの大広間。

 

壁には無数の燭台。

 

天井には、月を模した巨大な青白い結晶が浮かんでいる。

 

そして最奥。

 

巨大な棺。

 

ギギギ……。

 

重い音とともに蓋が開く。

 

中からゆっくりと人影が起き上がった。

 

黒い礼装。

 

青白い肌。

 

長い銀髪。

 

そして口元から覗く二本の牙。

 

頭上に表示された名前。

 

《Nosferatu Lord Valtheris》

 

――吸血鬼王ヴァルセリス。

 

四段のHPバーが出現する。

 

「来るぞ!」

 

ディアベルの号令。

 

攻略組が一斉に展開した。

 

---

 

序盤。

 

戦闘は驚くほど順調だった。

 

タンク部隊が爪撃を受け止める。

 

エギルたちが側面から削る。

 

キリトとアスナが高速で切り込む。

 

ディアベルが全体を制御する。

 

こっこは前衛と後衛の中間。

 

メインアーム《ローグサーベル》を抜きながら、ヴァルセリスの動きを観察していた。

 

「……妙だな」

 

「何が?」

 

リズが聞く。

 

「弱い」

 

「え?」

 

「いや……違う」

 

こっこは目を細めた。

 

「こいつ、僕らを殺そうとしてない」

 

ヴァルセリスは攻撃を受けながらも、どこか余裕を残している。

 

まるで。

 

こちらを観察しているように。

 

「ディアベル!」

 

「何だい!?」

 

「一回、距離を――」

 

その瞬間。

 

ヴァルセリスの瞳が真紅に染まった。

 

《Blood Covenant》

 

赤黒い霧が爆発した。

 

「散開!!」

 

ディアベルが叫ぶ。

 

攻略組が一斉に飛び退く。

 

しかし――二人だけ遅れた。

 

「くっ!」

 

キリト。

 

そして。

 

「しまった……!」

 

ディアベル。

 

赤い霧が二人の身体へ絡みつく。

 

HPダメージはない。

 

毒でも麻痺でもない。

 

状態異常表示すら――ない。

 

「何だ……?」

 

キリトが自分の身体を見る。

 

ヴァルセリスが指を鳴らした。

 

二人のカーソルへ、紫色の縁取りが浮かび上がった。

 

《眷属》

 

「……は?」

 

キバオウが固まる。

 

キリトがゆっくり顔を上げた。

 

瞳が――赤い。

 

ディアベルも同じだった。

 

そして。

 

二人が同時に攻略組へ武器を向ける。

 

「みんな、防御して!!」

 

アスナが叫んだ。

 

直後。

 

キリトが消えた。

 

「速っ――!」

 

最初に狙われたのは。

 

こっこだった。

 

「なんで僕!?」

 

だが、当然だった。

 

キリトの中には蓄積された戦闘経験がある。

 

煙玉。

 

閃光。

 

クロスボウ。

 

罠。

 

巨大ハサミ。

 

フライパン。

 

カッター。

 

ローグ技能。

 

ピナとの連携。

 

そして何度となく繰り広げられた、こっことの戦闘。

 

そのすべてを――。

 

キリトは覚えている。

 

しかも今のキリトには迷いがない。

 

怒りもない。

 

呆れもない。

 

ツッコミすらない。

 

ただ最適解だけを選択する。

 

「うわっ、これ一番ダメなキリト君だ!!」

 

こっこが煙玉へ手を伸ばす。

 

その手首をキリトの剣の柄が弾いた。

 

「煙玉」

 

「え」

 

次に閃光弾。

 

投げる前に蹴り飛ばされる。

 

「閃光」

 

「ちょっと!」

 

罠を設置しようとする。

 

踏み込まれて潰される。

 

「設置させない」

 

「ピナ!」

 

キリトが即座にシリカとの間へ移動した。

 

「霧、泡、水――全部知ってる」

 

「全部対策されてる 」

 

これまで散々キリトを苦しめてきた戦法。

 

それが今。

 

すべて自分へ返ってきていた。

 

---

 

だが。

 

本当に恐ろしかったのはディアベルだった。

 

「右翼、回り込め」

 

ボスが召喚した蝙蝠型モンスターが動く。

 

「後衛を分断」

 

蝙蝠群が一斉に散開する。

 

エギルが青ざめた。

 

「おいおい……」

 

アスナも気づく。

 

「ディアベルさんの指揮能力まで利用してる……!」

 

個の戦闘力ではキリト。

 

集団戦ではディアベル。

 

そして中央には吸血鬼王ヴァルセリス。

 

玉座へ座り、悠然と笑っている。

 

自分で戦う必要などない。

 

強いプレイヤーを奪えばいい。

 

その瞬間。

 

攻略組全員が理解した。

 

このボスの恐ろしさは、攻撃力でもHPでもない。

 

攻略組が強ければ強いほど、ヴァルセリスも強くなる。

 

---

 

「ボスを狙え!」

 

エギルが叫んだ。

 

「キリトとディアベルを倒すんじゃねえ! 元凶を潰すぞ!」

 

攻略組がヴァルセリスへ殺到する。

 

第二HPバー。

 

《Night Dominion》

 

燭台の炎がすべて消えた。

 

天井の月だけが青白く輝く。

 

夜。

 

ヴァルセリスの能力が上昇する。

 

さらに――。

 

キリトとディアベルのステータスまで強化された。

 

「夜属性か!」

 

アルゴが叫ぶ。

 

キリトが再びこっこへ向かう。

 

「また僕!?」

 

ローグサーベルで受ける。

 

重い。

 

正面からでは勝てない。

 

ならば――。

 

こっこはローグサーベルを手放した。

 

キリトの視線が動く。

 

「体術」

 

「それも知ってるの!?」

 

拳。

 

回避。

 

掴み。

 

逆に腕を取られる。

 

老師から教わった《体術》はまだLv0。

 

そして何より。

 

キリトはこっこの戦い方を知り尽くしている。

 

だから。

 

こっこは抵抗をやめた。

 

「……?」

 

キリトが一瞬だけ迷う。

 

そのまま投げられる。

 

「ぐえっ!」

 

床を転がる。

 

「何やってんのよ!」

 

リズの怒声。

 

しかし。

 

転がった先。

 

そこには――。

 

ヴァルセリスがいた。

 

「よし!」

 

ガバッ。

 

「捕まえたぁぁぁ!」

 

足首へしがみつく。

 

「貴様!?」

 

ヴァルセリスが初めて動揺した。

 

「エギル!」

 

「そういうことか!」

 

巨大な斧が振り下ろされる。

 

アスナも突撃。

 

リズ。

 

シリカ。

 

攻略組全体が集中攻撃する。

 

第三HPバー。

 

第四HPバー。

 

ついにヴァルセリスが激昂した。

 

《Crimson Feast》

 

床一面へ赤い魔法陣が広がる。

 

攻略組のHPが吸収される。

 

減ったHPがヴァルセリスへ流れ込む。

 

「長期戦は無理だ!」

 

エギルが叫ぶ。

 

残り二割。

 

一割。

 

だが攻略組も限界に近い。

 

そして――。

 

キリトの剣がこっこの首元へ迫った。

 

避けられない。

 

「こっこさん!」

 

シリカが叫ぶ。

 

その瞬間。

 

剣が止まった。

 

数センチ。

 

キリトの腕が震えている。

 

「……?」

 

赤い瞳が揺れた。

 

「キリトくん……?」

 

アスナが気づく。

 

「…………アス……ナ……」

 

ヴァルセリスが立ち上がった。

 

「抗うな!」

 

強制命令。

 

キリトの身体が震える。

 

同時に。

 

ディアベルも頭を押さえていた。

 

「みんな……!」

 

彼は必死に声を絞り出す。

 

指揮官として。

 

最後の命令を。

 

「僕たちを見るな……!」

 

ヴァルセリスが睨む。

 

「黙れ!」

 

ディアベルは叫んだ。

 

「ボスを見ろ!!」

 

攻略組の視線が一斉にヴァルセリスへ向く。

 

「全員――攻撃!!」

 

それは。

 

眷属としての命令ではない。

 

攻略組指揮官。

 

ディアベルの号令だった。

 

「うおおおおっ!!」

 

総攻撃。

 

ヴァルセリスのHPが削れる。

 

5%。

 

3%。

 

2%。

 

そこでヴァルセリスが最後のスキルを発動した。

 

《Blood Sacrifice》

 

「ぐっ!」

 

キリト。

 

「うあっ……!」

 

ディアベル。

 

二人のHPが強制的に減少する。

 

そのHPがヴァルセリスへ転送される。

 

攻撃すれば二人が危ない。

 

攻略組の動きが止まった。

 

「ははははは!」

 

ヴァルセリスが笑う。

 

だが。

 

「ピナ!」

 

シリカが叫んだ。

 

「お願い!」

 

ピナが羽ばたく。

 

《ヒーリングブレス》

 

淡い光がキリトとディアベルを包む。

 

減少。

 

回復。

 

減少。

 

回復。

 

「ピナ、頑張って!」

 

ピナが必死に鳴く。

 

均衡した。

 

ほんの数秒。

 

だが――十分だった。

 

「今です!!」

 

シリカが叫ぶ。

 

再び攻略組が突撃する。

 

2%。

 

1%。

 

ヴァルセリスが絶叫する。

 

「キリト君!!」

 

アスナの声。

 

赤い瞳が揺れる。

 

「戻ってきて!!」

 

キリトの右手が震える。

 

握られている剣。

 

それが――。

 

ゆっくりと。

 

こっこから離れた。

 

「……俺は……」

 

ヴァルセリスが命じる。

 

「殺せ!」

 

「俺は――」

 

キリトが顔を上げる。

 

赤い瞳の奥に。

 

元の黒い瞳が戻る。

 

「お前の剣じゃない!!」

 

身体が反転した。

 

「なにっ!?」

 

キリトが走る。

 

ヴァルセリスへ。

 

支配が完全に解けたわけではない。

 

身体は重い。

 

視界も赤い。

 

強制命令が何度も思考へ割り込む。

 

止まれ。

 

戻れ。

 

殺せ。

 

それでも。

 

走る。

 

アスナが道を開く。

 

エギルが蝙蝠を吹き飛ばす。

 

リズが横から迫った敵を叩き落とす。

 

シリカとピナが二人のHPを支える。

 

そして。

 

ディアベルが叫んだ。

 

「行け――キリト!!」

 

キリトが跳んだ。

 

剣が光る。

 

ヴァルセリスが腕を交差する。

 

「貴様は我が眷属だ!!」

 

キリトは答えた。

 

「それでも――」

 

ソードスキルが発動する。

 

「主人を倒せないなんてルール――」

 

黒い剣閃。

 

「SAOにはない!!」

 

剣がヴァルセリスの胸を貫いた。

 

HPバー。

 

残り――ゼロ。

 

一瞬の静寂。

 

そして。

 

ヴァルセリスの身体が青いポリゴン片へ変わる。

 

爆散。

 

《CONGRATULATIONS》

 

巨大な文字がボス部屋へ浮かんだ。

 

その直後。

 

もう一つ。

 

《LAST ATTACK BONUS》

 

表示されたプレイヤー名は――。

 

《Kirito》

 

キリトは。

 

固まった。

 

「…………」

 

アスナが駆け寄る。

 

「キリト!」

 

「…………アスナ」

 

「大丈夫!?」

 

「…………取った」

 

「え?」

 

「ラストアタック」

 

攻略組が静かになる。

 

キリトの声が震えた。

 

「俺……ラストアタック取った……」

 

アスナも気づいた。

 

第一層。

 

第二層。

 

第三層。

 

第四層。

 

第五層。

 

第六層。

 

主人公格でありながら――。

 

一度も取れていない。

 

そして第七層。

 

ついに。

 

キリト――初ラストアタック。

 

こっこが涙を拭った。

 

「キリトくん…… 」

 

「なんでお前が泣いてるんだよ」

 

「長かったね 」

 

「誰のせいだと思ってる!!」

 

エギルが豪快に笑う。

 

「まあいいじゃねえか! 今回は文句なしだ!」

 

ディアベルも笑った。

 

「おめでとう、キリト君」

 

第六層LA取得者。

 

《The LAST PIECE》を持つディアベルからの祝福。

 

キリトはようやく笑った。

 

「……ありがとう」

 

---

 

だが。

 

問題は終わっていなかった。

 

ボスが消滅したことで《眷属》の支配効果は解除された。

 

キリトの瞳。

 

ディアベルの瞳。

 

ともに元へ戻る。

 

「終わった……」

 

アスナが安堵する。

 

しかし。

 

キリトがステータス画面を開いて――。

 

固まった。

 

「……え?」

 

ディアベルも画面を見る。

 

「これは……」

 

そこには。

 

《種族補正:眷属》

 

《夜間能力補正》

 

《日光弱体》

 

《吸血衝動》

 

そして。

 

《???》

 

ボスは倒した。

 

洗脳も解けた。

 

なのに。

 

眷属化したパラメータだけが残っている。

 

「……マジ?」

 

「……マジみたいだね」

 

キリトとディアベルが顔を見合わせる。

 

そして。

 

こっこの目が輝いた。

 

「✨️」

 

二人が同時に振り返った。

 

「何を考えてる」

 

「いや、RPGで吸血鬼といえばさ」

 

「やめろ」

 

「昼間の移動なんだけど――」

 

「やめろ!!」

 

---

 

数日後。

 

エンジニア工房。

 

そこには。

 

二基の棺桶があった。

 

豪華な内張り。

 

完全遮光。

 

安心の二重構造。

 

さらに。

 

車輪付き。

 

こっこが胸を張る。

 

「完璧✨️」

 

リズが頭を抱える。

 

「何作ってんのよ……」

 

こっこは棺桶へプレートを取り付ける。

 

《KIRITO》

 

《DIAVEL》

 

その下には。

 

《昼間移動用》

 

「夜の眷属といえば棺桶! RPGの定番! しかも車輪付きだから移動も楽!」

 

シリカが困った顔で棺桶を見る。

 

「なんか……違うような……」

 

エギルが呟く。

 

「もう霊柩車の発想だぞ……」

 

こっこはさらに何かを書こうとする。

 

「そうだ! 二人が中で笑ったら――」

 

キリトが棺桶から顔を出した。

 

「こっこ」

 

もう一基からディアベルも顔を出す。

 

「こっこさん」

 

「ん?」

 

二人は笑った。

 

牙が見えた。

 

「夜になったら――」

 

「噛み付いてやる」

 

「 」

 

第七層――攻略完了。

 

《LAST ATTACK》

 

Kirito

 

そして彼のストレージには。

 

待ち続けた最初のラストアタックボーナスが――。

 

静かに追加されていた。

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