エンジニアのSAO Progressive ~NPCが売ってないなら作ればいい~   作:Edward

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78 RPGに棺桶は必須だよね

第八層――棺桶の勇者たち

 

第七層が攻略され、新たな転移門が開放された。

 

攻略組は休息を挟みながら、順次その先へと足を踏み入れていく。

 

――アインクラッド第八層。

 

転移門を抜けたこっこは、新たなフィールドを前に目を細めた。

 

起伏のある大地に街道が伸び、その先には森や山々が広がっている。

 

新しい層。

 

新しい街。

 

新しい素材。

 

新しいモンスター。

 

普段なら真っ先に目を輝かせ、あちらこちらへ走り回るところだった。

 

しかし――。

 

「…………」

 

こっこは振り返った。

 

第八層へ続く転移門。

 

次々とプレイヤーが現れる。

 

だが。

 

待っている男は、いつまで経っても姿を見せなかった。

 

「……サタン、来ないね」

 

リズも転移門へ視線を向ける。

 

「第七層も、結局最後まで来なかったわね」

 

「うん……」

 

サタンは老師に呼び戻されていた。

 

《合気》。

 

そして、その先にある《闘気》。

 

これまでとは比較にならないほど難しい、最後の修行。

 

分かっている。

 

あの男なら、そう簡単にどうにかなるはずはない。

 

それでも。

 

これまで何度も、とんでもないタイミングで戦場へ現れてきたサタンが、第七層では最後まで来なかった。

 

それが妙に引っ掛かる。

 

「大丈夫かな……」

 

珍しく、こっこの声には不安が混じっていた。

 

シリカが微笑む。

 

「きっと大丈夫ですよ。サタンさんですから」

 

「きゅるっ!」

 

ピナも元気よく鳴く。

 

「……そうだね」

 

こっこも小さく笑った。

 

今は信じて待つしかない。

 

そして――。

 

第八層には、もっと差し迫った問題があった。

 

◇

 

「熱っ!!」

 

建物の影から指先だけを日向へ出したキリトが、即座に手を引っ込めた。

 

「……やっぱり駄目かい?」

 

隣にいたディアベルが尋ねる。

 

「駄目ですね。かなりきついです」

 

「僕も試してみたけど、同じだよ」

 

第七層ボス戦。

 

その結果として《眷属》となってしまった二人。

 

夜間であれば、ほぼ問題なく活動できる。

 

しかし――。

 

太陽の光が降り注ぐ昼間は、まともに外を歩けない。

 

攻略組にとっては洒落にならない問題だった。

 

ディアベルは攻略組全体をまとめる指揮官。

 

そしてキリトは、最前線でも屈指の戦闘力と索敵能力を持つ。

 

その二人が昼間に行動できない。

 

アスナが心配そうにキリトを見る。

 

「日が沈むまで待つしかないの?」

 

「今のところは……」

 

エギルも腕を組む。

 

「毎日それじゃ攻略に響くぞ」

 

「うーん……」

 

こっこも考え込んだ。

 

そして――。

 

ピコン 

 

「あっ!」

 

リズの顔が引きつる。

 

「……何か思いついた?」

 

「うん✨️」

 

「嫌な予感しかしないわ」

 

こっこは嬉々としてメニューを開いた。

 

「RPGでさ」

 

「うん」

 

「仲間が死んだ時って――」

 

キリトが嫌な顔をする。

 

「待て」

 

「棺桶になってついてくるよね?」

 

「待てって!!」

 

こっこの目が輝いた。

 

「《棺桶》作ろう✨️」

 

「なんでだよ!!」

 

◇

 

――しばらく後。

 

エンジニアの臨時工房。

 

そこには二基の棺桶が並んでいた。

 

しかも――。

 

無駄に立派だった。

 

「じゃーん✨️」

 

こっこが胸を張る。

 

「《携行型・完全遮光棺桶》完成!」

 

「…………」

 

キリトは無言。

 

「…………」

 

ディアベルも無言。

 

だが、こっこは構わず説明を始める。

 

「まず安心の二重構造!」

 

コンコン。

 

外板と内板の間には空間が設けられている。

 

「直射日光と熱が内部へ伝わりにくいようにしてあります!」

 

エギルが感心したように触る。

 

「……妙なところで本気だな」

 

「さらに通気性!」

 

側面には光が直接入り込まないよう工夫された通気口。

 

「中で長時間過ごしても大丈夫!」

 

シリカが中を覗く。

 

「あ、クッションまでありますよ」

 

「もちろん✨️」

 

内部には敷物。

 

枕。

 

小物収納。

 

さらには非常用の水まで置ける。

 

そして。

 

こっこは棺桶の下を指差した。

 

「最大の特徴!」

 

四隅には――。

 

キャスター。

 

「持ち運びも楽々です✨️」

 

リズが頭を抱えた。

 

「なんで棺桶にそこまで情熱注げるのよ……」

 

「機能美です✨️」

 

キリトは即答した。

 

「入らない」

 

「え?」

 

「絶対入らない」

 

ディアベルも苦笑する。

 

「こっこさん。せっかく作ってくれたところ悪いんだけど、僕にも攻略組を率いる立場というものがあってね……」

 

「じゃあ昼間はここで待ってます?」

 

「…………」

 

「僕たち、先に行きますけど」

 

「…………」

 

「夜まで」

 

二人は黙った。

 

◇

 

五分後。

 

ぱたん。

 

キリトが棺桶に入った。

 

「……屈辱だ」

 

ぱたん。

 

ディアベルも入った。

 

「……僕は何をやっているんだろう」

 

こっこは満足そうに頷く。

 

「よし! 出発!」

 

ガラガラガラガラ――。

 

第八層の街道を、一行は進んでいく。

 

そしてその後方には――。

 

二つの棺桶。

 

ピナはシリカの肩から飛び立つと、キリトの棺桶の上に着地した。

 

「きゅるっ♪」

 

「ピナ! 頼むからそこに乗らないでくれ!」

 

通りすがりのプレイヤーが二度見する。

 

「……誰か死んだ?」

 

「二人?」

 

棺桶から声が響いた。

 

「生きてる!!」

 

「僕も生きてるよ!!」

 

「うわっ、しゃべった!?」

 

こっこは笑顔で手を振った。

 

「大丈夫でーす✨️」

 

「何が大丈夫なんだよ!!」

 

エギルは顔を覆った。

 

「攻略組の中核二人が棺桶で運ばれるMMOなんて、俺は知らんぞ……」

 

「合理的でしょ?」

 

「合理的なのが余計に腹立つんだよ」

 

◇

 

しばらく街道を進んだところだった。

 

アスナは、二つの棺桶をじっと見ていた。

 

二重構造。

 

遮光。

 

通気口。

 

クッション。

 

キャスター。

 

ここまで作れるのなら――。

 

「ねえ、こっこさん」

 

「なに?」

 

「こんな立派な棺桶を作れるなら……」

 

アスナは何気なく尋ねた。

 

「馬車とか作れますよね?」

 

「…………」

 

こっこの足が止まった。

 

ガラ……。

 

棺桶も止まる。

 

その瞬間。

 

こっこの頭の中で――。

 

すべてが繋がった。

 

(…………馬車)

 

幌。

 

荷台。

 

車輪。

 

遮光。

 

座席。

 

そして。

 

かつて第四層で自分が作った――。

 

船。

 

(…………)

 

(馬車でよかったんだ)

 

「 」

 

こっこの顔から血の気が引いた。

 

(しまったぁぁぁぁぁぁ!!)

 

棺桶の中。

 

キリトとディアベルも反応した。

 

「!?」

 

「!?」

 

(なんで僕、真っ先に棺桶作ったの!?)

 

理由は分かっている。

 

RPG。

 

仲間が死ぬ。

 

棺桶。

 

その連想が成立した瞬間――。

 

こっこの頭から他の選択肢が全部消えたのだ。

 

(僕ってこういう時だけ視界が狭くなるよね……)

 

しかし。

 

今さら、

 

『あっ、馬車があった!』

 

とは言えない。

 

そこでこっこは――。

 

ちらっ。

 

アスナを見る。

 

(…………)

 

(よし)

 

(うっかりさんというキャラで行こう!)

 

そして。

 

「うん、作れるね!」

 

なぜか胸を張った。

 

アスナ「……作れるんですか?」

 

「もちろん✨️」

 

さらに。

 

こっこは余計なことを始めた。

 

「むしろ簡単だよ!」

 

棺桶の中。

 

「…………」

 

「…………」

 

アスナ「じゃあ、幌を付ければ……」

 

「完全遮光できるよ!」

 

「通気性は?」

 

「この棺桶と同じ方式で問題なし!」

 

「二人が休めるスペースも?」

 

「荷台を大きくすれば余裕!」

 

アスナの表情が明るくなる。

 

「それなら、二人とも怪しまれずに昼間から移動できますね!」

 

「そうそう✨️」

 

アスナが感心している。

 

――これがいけなかった。

 

(おっ✨️)

 

こっこは完全に調子に乗った。

 

「幌は二重にして断熱性も上げよう!」

 

「はい!」

 

「荷台にはクッション!」

 

「いいですね!」

 

「装備収納も作れる!」

 

「便利!」

 

「後部扉から緊急展開も可能!」

 

「すごい!」

 

こっこの胸がどんどん張られていく。

 

そして――。

 

とうとう言ってしまった。

 

「まあ、僕にかかれば――」

 

ドヤッ。

 

「馬車なんてプラモ作るのと同じだよ✨️」

 

「…………」

 

リズが半眼になる。

 

「…………」

 

エギルも黙る。

 

シリカは困った顔をする。

 

アスナは――。

 

にっこり笑った。

 

「そんなに簡単なんですね?」

 

「うん✨️」

 

「…………」

 

「…………あ」

 

遅かった。

 

リズが、ぼそり。

 

「アスナの前でカッコつけて、アホね」

 

「!!」

 

こっこの顔が再び青ざめた。

 

アスナの笑顔が深くなる。

 

「こっこさん?」

 

「……はい」

 

「馬車なら幌がありますよね」

 

「……あります」

 

「二人とも人目につかず移動できますよね」

 

「……できます」

 

「座って移動できますよね」

 

「……はい」

 

「装備も積めますよね」

 

「……はい」

 

「しかも――」

 

アスナは棺桶を指差した。

 

「棺桶よりずっと普通ですよね 」

 

「…………はい」

 

ギィィィ……。

 

背後で。

 

棺桶の蓋が開いた。

 

黒い布を頭から被ったキリトが、ゆっくり起き上がる。

 

「へえ……」

 

反対側。

 

ディアベルも起き上がった。

 

「馬車なんてプラモデルと同じ……ですか」

 

「…………」

 

こっこは一歩後退した。

 

「いや……これは、その……」

 

カチャリ。

 

ディアベルが剣をわずかに抜く。

 

笑顔だった。

 

「こっこさん」

 

「……はい」

 

「ちょっと圏外に出てもらいませんか?」

 

「え?」

 

今度はキリト。

 

カチャリ。

 

「そうですね」

 

「キ、キリト君?」

 

「そこで少し話しましょうか」

 

「…………」

 

こっこは二人を見る。

 

剣。

 

笑顔。

 

圏外。

 

「ぎゃーす 」

 

全力で逃げ出した。

 

「待て、こっこ!!」

 

「待ってください、こっこさん!」

 

「嫌だぁぁぁ!! 話し合いに剣はいらないでしょぉぉぉ!!」

 

「安心しろ! すぐ終わる!」

 

「何がぁぁぁ!?」

 

三人が街道を走っていく。

 

その姿を眺めながら。

 

リズが呆れたように腰へ手を当てる。

 

「黙って『馬車忘れてた』って言えば、それで済んだのに」

 

エギルが深く頷いた。

 

「途中から自分で逃げ道を全部塞いでいったな」

 

シリカも苦笑する。

 

「どうして最後に自慢しちゃったんでしょう……」

 

アスナは少し首を傾げる。

 

「でも、急にすごく得意そうになりましたよね?」

 

リズは即答した。

 

「アスナに褒められたかったのよ」

 

「えっ?」

 

アスナが固まる。

 

リズも固まる。

 

シリカが「あっ」という顔をする。

 

エギルは天を仰いだ。

 

その瞬間。

 

遥か遠くから。

 

「リズぅぅぅぅ!! 余計なこと言わないでぇぇぇぇ!! 」

 

「聞こえてた!?」

 

第八層の草原に。

 

今日もまた、こっこの悲鳴が響き渡った。

 

◇

 

――しばらく後。

 

どうにか圏内まで逃げ帰ったこっこは、地面にへたり込んでいた。

 

「ひどい目に遭った…… 」

 

「自業自得よ」

 

リズの一言が容赦なく突き刺さる。

 

少し遅れて戻ってきたキリトとディアベルは、再び日陰へ避難していた。

 

そして。

 

二人の前には――。

 

例の棺桶。

 

「…………」

 

キリトが睨む。

 

「もう入りたくない」

 

ディアベルも深く頷いた。

 

「僕も同感だね」

 

「えー。出来は良いのに……」

 

「そういう問題じゃない!」

 

そんな三人を見ていたアスナが、ふと真面目な表情になった。

 

「でも……本当に馬車を作った方がいいと思います」

 

こっこが顔を上げる。

 

「やっぱり?」

 

「はい」

 

アスナはキリトを見る。

 

「昼間にキリト君たちだけ行動できないのは、攻略にも影響します」

 

ディアベルも頷いた。

 

「僕自身も、それが一番心配なんだ」

 

これまで攻略組の作戦会議や偵察、迷宮区への進軍は、基本的に昼夜を問わず行われてきた。

 

しかし今は違う。

 

キリトとディアベルには、《日光》という明確な活動制限がある。

 

夜まで二人を街へ置いていけばいい。

 

――そんな単純な問題ではない。

 

何か異変が起きた時。

 

攻略組が昼間に緊急出動する時。

 

フィールドで指揮が必要になった時。

 

そのたびに二人が欠けることになる。

 

エギルが腕を組んだ。

 

「笑い話みたいになってるが、馬車そのものは本当に必要だな」

 

「うん……」

 

こっこの表情も変わった。

 

技術屋の顔になる。

 

アスナが続けた。

 

「ただ日光を遮るだけじゃなくて、中で二人が普通に活動できた方がいいですよね?」

 

「…………普通に活動?」

 

こっこの眉が動く。

 

「例えば?」

 

「座って作戦会議ができるとか」

 

「なるほど」

 

ディアベルが加わった。

 

「地図を広げられる机があると助かるかな」

 

「机……」

 

キリトも考える。

 

「外の状況が分からないのは困る。光を入れずに外を確認する方法も欲しい」

 

「外を見る……」

 

エギルも口を挟む。

 

「装備や予備のポーションも積めた方がいいな」

 

「収納……」

 

シリカがおずおずと手を挙げる。

 

「あの……怪我をした人を運べたら便利じゃないですか?」

 

「負傷者搬送……」

 

リズも考え始めた。

 

「だったら簡単な修理台くらい積めるんじゃない?」

 

「修理台……」

 

アスナがさらに言う。

 

「夜になったら、二人がすぐ外へ出られるようにしてください」

 

「緊急展開用の後部扉……」

 

「御者が襲われた場合は?」

 

「内部から操作できるように……」

 

「モンスターに囲まれたら?」

 

「防御力も必要……」

 

「坂道は?」

 

「ブレーキ……」

 

「悪路は?」

 

「サスペンション……」

 

「長距離移動は?」

 

「ベッド……」

 

「…………」

 

リズが嫌な予感を覚えた。

 

「ちょっと待って」

 

しかし。

 

遅かった。

 

こっこは地面にしゃがみ込み――。

 

指で猛烈な勢いで設計図を描き始めていた。

 

「幌だけじゃ弱いな……」

 

ぶつぶつ。

 

「木製の箱型車体にして、その上から幌を被せる……二重遮光……いや三重でもいい」

 

ぶつぶつぶつ。

 

「左右にベンチ……中央に折り畳み式テーブル……床下収納……」

 

キリトが目を瞬く。

 

「おい」

 

「後部ハッチを大型化すれば負傷者もそのまま収容できる……」

 

ディアベルも覗き込む。

 

「こっこさん?」

 

「簡易工房は側面……いや振動があるから固定具が必要……」

 

こっこの目が――。

 

輝いた。

 

「✨️」

 

リズが頭を抱えた。

 

「あーあ」

 

アスナ「え?」

 

「スイッチ入っちゃった」

 

こっこは立ち上がった。

 

先ほどまで圏外へ連行されかけて泣いていた男とは思えない。

 

「面白い」

 

キリト「…………」

 

「ただの馬車じゃつまらない!」

 

ディアベル「嫌な予感がするんだけど」

 

「昼間のキリト君とディアベルさんを運べる!」

 

「うん」

 

「作戦指揮所にもなる!」

 

「……うん」

 

「負傷者も運べる!」

 

「まあ、それは助かるな」

 

「物資輸送もできる!」

 

「おい」

 

「簡易工房にもなる!」

 

「待て」

 

「店にもできる!」

 

リズが叫んだ。

 

「増やすな!!」

 

こっこは聞いていない。

 

「よーし!!」

 

拳を突き上げる。

 

「第八層攻略用――」

 

一瞬考えて。

 

「《完全遮光型・攻略支援馬車》を作ろう!!✨️」

 

キリトとディアベルは顔を見合わせた。

 

嫌な予感はする。

 

ものすごく嫌な予感はする。

 

しかし――。

 

棺桶よりはマシ。

 

二人は同時に頷いた。

 

「頼む」

 

「お願いします」

 

こっこは満面の笑みを浮かべた。

 

「任せて✨️」

 

その直後。

 

工房へ走っていこうとして――。

 

ピタッ。

 

振り返る。

 

「ところで」

 

「何?」

 

「馬って、どうやって調達するんだろう?」

 

「…………」

 

全員が固まった。

 

リズが額を押さえる。

 

「そこからなの!?」

 

――第八層。

 

棺桶から始まった、とんでもない思いつきは。

 

やがて攻略組の戦い方そのものを変える、新たな装備へと発展していくことになる。

 

次なる課題は――。

 

《馬車開発》。

 

車体。

 

遮光。

 

防御。

 

居住性。

 

そして何より。

 

――この世界で、何に牽かせるのか。

 

こっこの技術屋魂に。

 

またしても、火がついてしまった。

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