エンジニアのSAO Progressive ~NPCが売ってないなら作ればいい~ 作:Edward
森エルフの王都。
白い石と巨大な樹木が絡み合うように築かれた街を歩きながら、こっこはランスロットに事情を説明していた。
「――というわけでね。キリトくん、今こんな感じ」
こっこがウインドウを操作する。
そこに映し出されたのは――棺桶。
ランスロットはしばらく無言だった。
「……死んだのか?」
「生きてる、生きてる 」
「では、なぜ棺に?」
「説明すると長いんだけど、運搬効率が良くて」
リズが額を押さえる。
「そこじゃないでしょ!」
シリカも苦笑した。
「キリトさん、第七層のボス戦で《眷属》にされちゃったんです」
その言葉を聞いた瞬間。
ランスロットの表情が変わった。
「……眷属化、か」
先ほどまでの穏やかな顔から、わずかに血の気が引く。
こっこはそれを見逃さなかった。
「何か知ってる?」
ランスロットは少し迷ってから答えた。
「古い記録にある。生命そのものを変質させられた者を、元の姿へ戻す術が存在したと」
「おお!」
こっこの目が輝く。
「ただし――」
ランスロットは静かに首を振った。
「それは、魔法だ」
三人が黙った。
森エルフから失われたもの。
かつて大地が切断されたことで、この世界から奪われた力。
そして今、秘鍵を巡って森エルフと闇エルフが争っている理由そのもの。
「我々には、もう使えない」
ランスロットは悔しそうに拳を握った。
「魔法さえ残っていれば……その者を救えた可能性はある。しかし今は――」
「そっか」
こっこはあっさり答えた。
「じゃあ魔法が復活するまでお預けだね」
「…………」
ランスロットが顔を上げる。
リズも振り返った。
「ちょっと待ちなさい」
「ん?」
「魔法が復活する前提で行く気? この男は」
「だって復活させるんでしょ?」
「そういう問題じゃないわよ!」
シリカが困ったように笑う。
「ま、まあ……前向きで良いですけどね 」
こっこの中では、すでに話が終わっていた。
魔法がない。
ならば復活させる。
復活すればキリトを戻せる。
――以上。
ランスロットはそんな三人を見つめ、やがて小さく笑った。
「……そなた達は、本当に変わっているな」
「よく言われる✨️」
「褒めてないと思いますよ」
シリカが小声で付け加えた。
そして――。
こっこは何でもないことのように次の話題を口にした。
「ところでランスロットさん」
「なんだ?」
「サーベントさんに会いたい」
ランスロットの足が止まった。
「…………何?」
今度こそ、本気で驚いていた。
「長老補佐のサーベントだよ。会わせてもらえない?」
「なぜだ」
「相手を見ておかないと、計画を立てられないからね」
にこっ。
ランスロットの顔が引きつった。
リズが腕を組む。
「出たわね」
「何が?」
「面倒事に自分から顔突っ込む時の顔」
「失礼な 」
しかしランスロットは笑わなかった。
「……私は、あの男が苦手だ」
珍しい言葉だった。
武官であるランスロットと、文官として長老の側近にまで上り詰めたサーベント。
二人はほぼ同時期に王都で役目を与えられた者だった。
だが、その歩んだ道はまるで違う。
「奴は頭が切れる。私などとは比較にならん」
「へえ」
「言葉を選び、相手が何を望んでいるかを読み、その者自身が選んだと思わせながら……自分の望む方向へ導く」
こっこの笑顔が少し消えた。
「……なるほど」
「しかも、決して嘘は言わない」
「うわ」
リズが露骨に嫌そうな顔をした。
こっこは逆だった。
目が輝いた。
「会いたくなってきた✨️」
「なぜだ!?」
結局。
心底嫌そうなランスロットに案内され、一行は王都の中心部へ向かった。
◇
巨大な古木の内部。
その空洞を利用して作られた長老の館は、豪華というより静謐という言葉が似合った。
そして最奥。
「久しいな、人の子よ」
森エルフの長老が座っていた。
こっこは深々と頭を下げる。
「お久しぶりです✨️」
長老は目を細めた。
「……薬草は、もう抜いておらぬだろうな?」
「…………」
リズが吹き出す。
シリカは慌てて口を押さえた。
こっこの額から汗が流れる。
「その節は大変申し訳ございませんでした 」
下層で初めて会った時。
珍しい薬草を見つけたこっこが、
『これ素材になるかな?✨️』
と引っこ抜いたものが、森エルフにとって極めて大切な植物だった。
長老に本気で怒られた。
「反省しております」
「本当か?」
「はい」
「目が泳いでおるぞ」
「気のせいです」
その時だった。
「長老」
静かな声が響いた。
「その方々が、例の人間たちですか?」
こっこが振り返る。
細身の森エルフ。
派手な装備はない。
剣すら持っていない。
衣服も武官のランスロットとは対照的で、長い文官服を整然と着込んでいる。
年齢はランスロットとさほど変わらないように見える。
だが――。
視線が違った。
こちらを見ている。
いや。
観察している。
こっこは直感した。
――この人だ。
長老が紹介する。
「我が補佐を務めるサーベントだ」
サーベントは丁寧に頭を下げた。
「お初にお目にかかります」
そしてランスロットを見る。
「久しいな」
「……ああ」
「相変わらず、王都には寄り付かないようだ」
「私には現場の方が向いている」
「そうか。君らしい」
笑顔。
嫌味にも見えない。
侮辱でもない。
しかしランスロットの表情がわずかに硬くなる。
こっこは、それを横目で確認した。
――なるほどね。
「こっこと申します」
こっこも笑顔で頭を下げる。
「あなたの話はランスロットさんから聞いています」
「ほう」
一瞬。
サーベントの視線がランスロットへ移った。
ほんの一瞬だった。
「どのような話でしょう?」
「優秀な人だって✨️」
ランスロットがこっこを見る。
――そんな言い方はしていない。
だが、こっこは無視した。
サーベントは微笑む。
「過分な評価です」
「長老を補佐されているとか」
「ええ。私は剣に恵まれませんでしたから」
サーベントは自分の細い腕を見る。
「ランスロットのような才能はなかった。ゆえに私は、別の方法で森に尽くすことを選んだだけです」
ランスロットは何も言わない。
こっこは雑談を続ける。
王都について。
秘鍵について。
失われた魔法について。
そして。
「もし魔法が戻ったら、森エルフの皆さんはどうするんです?」
サーベントの笑顔は変わらなかった。
「取り戻すべきものを取り戻す。それだけです」
「闇エルフも?」
「無論、彼らにも歴史があります」
完璧な回答。
「人間は?」
「この世界に住む者同士、共存すべきでしょう」
完璧。
「ドワーフは?」
「彼らにも敬意を払うべきです」
完璧。
こっこは笑っていた。
「なるほど✨️」
だが。
その頭の中では、まったく別の評価が進んでいた。
――この人。
――一度も《平等に魔法を戻す》とは言ってない。
嘘はない。
だが、核心にも触れない。
こちらが聞きたい言葉だけを巧妙に避けている。
さらに厄介なのは――。
サーベントの主張には、部分的には正しさがあることだった。
森エルフは長い間、魔法を奪われてきた。
自分たちの文化を取り戻したい。
王族がそれを望む。
民を守るため、他勢力より先に力を確保したい。
一つ一つ切り取れば、理解できる。
だからこそ危険だった。
こっこは仕事で何度も見てきた。
組織が壊れる時。
最初から『組織を壊そう』とする者など、ほとんどいない。
自分こそが正しい。
自分こそが会社を守っている。
自分だけが将来を理解している。
そう信じた人間が周囲を少しずつ分けていく。
賛同する者。
反対する者。
役に立つ者。
邪魔な者。
気付いた時には、同じ組織の中に二つの組織ができている。
こっこは笑顔のまま思った。
(コレは厄介な人だね)
(社内にいたら分裂因子になる危険思想……)
しかも。
本人に悪意があるとは限らない。
むしろ――。
自分は森エルフを救おうとしている。
本気でそう思っているタイプかもしれない。
それが一番厄介だった。
「どうされました?」
サーベントが尋ねる。
「いえいえ✨️」
こっこは満面の笑みを浮かべた。
「ぜひ、これから仲良くしてください」
リズが横からこっこを見る。
シリカも見る。
二人には分かった。
この笑顔。
絶対に仲良くするつもりの顔ではない。
サーベントも微笑んだ。
「こちらこそ」
笑顔と笑顔。
その間で――。
ランスロットだけが、猛烈に嫌な予感を覚えていた。
長老は静かに二人を見つめている。
そしてこっこは確信する。
王族。
王族の命に拒否権を持つ長老。
その長老を補佐するサーベント。
森エルフは、一枚岩ではない。
そして秘鍵を巡る争いは、森エルフ対闇エルフという単純な構図ですらない。
――まず、組織図を作ろう。
こっこの頭の中で。
攻略ではなく。
組織解析が始まった。
夜。
第8層の空に、白い月が浮かんでいた。
森エルフの王都から離れた森林地帯。
その奥深くに、人の手によって造られた巨大な人工湖がある。
昼間ならば湖面は青く穏やかに輝いているのだろう。
だが今は、月明かりだけが黒い水面を細く照らしていた。
その中央――。
小さな島が浮かんでいる。
最後の秘鍵。
その所在について、森エルフと闇エルフの双方がほぼ同時に情報を掴んだ。
《湖心島の地下に、古き鍵は眠る》
そこまでは同じ。
当然――。
「今回も、奪い合いだ」
キリトが静かに言った。
その隣でアスナが細剣の柄に手を添える。
対岸では、こっこが腕を組んでいた。
隣にはリズ、シリカ。
そして森エルフの騎士、ランスロット。
もちろん彼らは知っている。
この争奪戦そのものが演技であることを。
最終的には、秘鍵を一か所へ集めなければならない。
しかし――。
森エルフにも。
闇エルフにも。
サーベントにも。
女王派にも。
それを悟られるわけにはいかない。
だから。
「今回は公平にしよう」
こっこが言った。
キリトが頷く。
「条件は?」
「開始時間は同じ。夜。入口の情報も同時公開」
「ルートは?」
「好きに行こう✨️」
「……それ公平って言うのか?」
「自由競争です✨️」
アスナが嫌な予感しかしない顔をした。
リズはすでに頭を抱えている。
「絶対この人、なんか仕込んでるわよ」
「失礼な。今回は正々堂々だよ」
シリカが首を傾げた。
「『今回は』?」
「…………」
「こっこさん?」
「出発!!」
「逃げた!」
そして――。
二つのパーティが同時に走り出した。
◆
最初から激戦だった。
キリトたちは湖岸を高速で移動。
最短距離から小舟を使って島へ向かう。
一方――。
「行けええええ!!」
こっこたちは違った。
ザバァァァン!!
「なんでイカダなのよ!?」
リズの絶叫が湖面に響く。
「現地調達!」
「遅いわよ!」
「シリカちゃん!」
「はい! ピナ!」
「きゅるるるっ!」
ピナが風を放つ。
帆代わりに張られた布が膨らんだ。
ドンッ!!
即席イカダが猛烈な勢いで加速する。
ランスロットが目を見開いた。
「これは……船なのですか?」
「一応!」
「一応!?」
しかし。
前方から何かが飛んできた。
――ヒュン!
こっこが首を傾ける。
矢が頬の横を通過した。
「うおっ!?」
島へ向かう別ルート。
そこにはすでにキリトがいる。
弓を持った闇エルフNPCが援護射撃していた。
キリトが叫ぶ。
「悪い、こっこ! ここからは敵同士だ!」
「やるねえ、キリト君!」
こっこは笑う。
そしてストレージを開いた。
リズの顔が引きつる。
「……何出す気?」
「こっちも遠距離戦✨️」
「まさか」
ガチャッ。
クロスボウ。
「出たぁぁぁ!!」
「撃てー!」
ボシュッ!
矢が飛ぶ。
当然、プレイヤーを直接狙わない。
船首。
水面。
進路。
相手を牽制するための射撃だ。
キリトたちの小舟が急旋回する。
アスナが叫んだ。
「キリト君、右!」
「分かってる!」
キリトが身を翻し――。
飛んできた矢を剣で弾いた。
カァン!
「うわ、あれ弾く!?」
こっこが楽しそうに笑う。
リズが怒鳴る。
「楽しんでるでしょ!」
「すっごく!」
「本気で悔しがるくせに!」
そして二隻は、ほぼ同時に湖心島へ到着した。
◆
そこから先は完全な競争になった。
地下遺跡。
狭い通路。
崩落した階段。
古代エルフの仕掛け。
罠。
分岐。
こっこは《The Explorer》の警戒能力とローグ系技能で罠を見抜く。
キリトは圧倒的な反応速度と戦闘能力でモンスターを突破する。
「左!」
こっこたちが左へ。
「右だ!」
キリトたちは右へ。
別れたと思えば――。
数分後。
ガチャッ。
同じ扉から出てきた。
「…………」
「…………」
こっことキリトが顔を合わせる。
次の瞬間。
ダッ!!
二人同時に走る。
「ちょっと!」
「待ちなさい!」
アスナとリズの声が重なった。
狭い廊下を、大人と少年が全力疾走する。
キリトが速い。
当然だ。
AGI型のキリトに普通の競争で勝てるはずがない。
だから。
こっこは壁に手を伸ばした。
カチッ。
「?」
キリトの足元から床が消えた。
「うわっ!?」
落とし穴。
だがキリトは空中で体勢を立て直し、壁を蹴って復帰する。
「こっこぉぉぉ!!」
「僕が作ったんじゃないよ! 遺跡の罠だから!」
「場所知ってただろ!」
「《The Explorer》が教えてくれました✨️」
「それを利用しただろ!」
「知恵です!」
後ろからアスナが追いついてくる。
「こっこさん!」
「ひえっ」
細剣が閃く。
こっこは巨大なフライパンを取り出した。
ガァン!!
「またそれ!?」
「盾じゃないから装備制限が緩い!」
リズが頭を抱えた。
「また道具でキリトたちと戦ってる……」
ランスロットだけが感心している。
「なるほど……これがプレイヤー同士の高度な戦術……」
「違います!」
シリカが即座に否定した。
◆
やがて。
争いながらも二つのパーティは、遺跡最深部へ辿り着いた。
巨大な石扉。
そこには古代文字が刻まれている。
ランスロットとギズメルが読む。
「――『大地を繋ぐ最後の鍵、この先に眠る』」
空気が変わった。
最後の秘鍵。
これまで何度も奪い合ってきた。
森エルフと闇エルフ。
長い対立。
失われた魔法。
そして古文書。
すべてを繋ぐ最後の一本。
キリトとこっこが扉に手を掛ける。
「行くぞ」
「うん」
二人で押した。
ゴゴゴゴゴ……。
石扉が開く。
月光すら届かない地下最深部。
中央には祭壇があった。
その上に――。
何かが置かれている。
全員が息を呑んだ。
「……あれが」
アスナが呟く。
こっこたちが近づく。
だが。
誰も喜ばなかった。
「……え?」
シリカが小さな声を漏らした。
祭壇が――壊れている。
正確には、秘鍵を固定していた石造りの安置台そのものが、長い年月によって崩れていた。
そして。
その瓦礫の中。
秘鍵があった。
いや。
――秘鍵だったものが。
中央から大きく折れ。
表面には亀裂が走り。
魔法的な輝きは完全に失われていた。
キリトがしゃがむ。
「……誰かに壊された?」
ランスロットが首を振った。
「違います」
彼は祭壇に積もった砂埃と崩落跡を見る。
「争った痕跡がありません」
ギズメルも膝をついた。
「これは……長い年月によるものだ」
誰かが盗んだのではない。
誰かが破壊したのでもない。
何百年。
あるいは、それ以上。
この地下で誰にも触れられることなく眠り続け――。
安置台が崩れた。
その衝撃で。
最後の秘鍵は壊れてしまったのだ。
静寂。
これまでの争奪戦とは違う。
奪えばいい相手がいない。
倒せばいい敵もいない。
キリトが破片を拾おうとして――。
止まる。
「どうする?」
全員の視線が集まった。
こっこは、壊れた秘鍵を見つめる。
そして。
「僕たちが持って帰ろう」
キリトが顔を上げた。
「森エルフ側へ?」
「うん」
アスナが少し意外そうな顔をする。
「どうして?」
こっこは破片を指差した。
「直せる可能性を考えたら、長老に相談するのが一番だと思う」
ランスロットが息を呑む。
こっこは続ける。
「これはもう秘鍵の争奪戦じゃない。修理できる人を探す話だよ」
リズが腕を組む。
「鍛冶スキルじゃ無理?」
「たぶんね」
リズ自身も分かっていた。
これは普通の金属製アイテムではない。
古代エルフ。
ドワーフ。
失われた魔法。
その三つが絡んだクエストアイテム。
プレイヤーの鍛冶だけで直せるとは思えない。
ギズメルが静かに頷いた。
「私も賛成する。森の長老ならば、古い伝承を知っている可能性がある」
キリトも頷く。
「決まりだな」
こっこは慎重に秘鍵の破片を回収した。
――その瞬間。
ピコン。
ウィンドウが表示される。
《破損した最後の秘鍵》
古代に造られた六本の秘鍵、その最後の一本。
長き年月による損傷により、本来の機能を失っている。
【修復不能】
「…………」
全員が固まった。
リズが呟く。
「修復不能……」
シリカの表情が曇る。
だが。
こっこだけがウィンドウを凝視していた。
「……いや」
キリトが振り返る。
「こっこ?」
「おかしい」
「何が?」
こっこはアイテム説明を指差した。
「《破壊》じゃない」
キリトの目が細くなる。
「……!」
「《修復不能》って書いてあるだけだ」
アスナも気づいた。
「つまり……プレイヤーの通常スキルでは修復できない?」
「たぶん」
こっこの口元が上がった。
「だったら――」
ランスロットを見る。
「この鍵を作った人たちを探せばいい」
ランスロットの瞳が大きくなる。
古文書に記されていた。
秘鍵を作った者。
エルフではない。
人間でもない。
――ドワーフ。
しかし彼らは、エルフ同士の争いに嫌気が差し、姿を消した。
今では誰も居場所を知らない。
キリトが小さく笑った。
「なるほど」
アスナも理解する。
「第9層……」
こっこは壊れた秘鍵をストレージへ収納した。
「まず長老に見てもらおう」
そして。
にやり。
「それでも駄目なら――ドワーフを探す✨️」
リズがため息をついた。
「やっぱりそうなるのね」
シリカは笑った。
「でも、こっこさんなら探しに行きますよね」
「もちろん!」
ランスロットは、そんな彼らを見つめていた。
失われたものを見つければいい。
壊れているなら直せばいい。
直せる者がいないなら、探せばいい。
エルフたちが何百年も諦めていた問題を。
この人間たちは、あまりにも簡単に次の問題へ変えてしまう。
ランスロットは思わず笑った。
「あなた方といると……絶望する暇もありませんね」
こっこが振り返る。
「だって、まだ試してないことあるし」
その言葉に。
ギズメルも小さく笑った。
こうして――。
最後の秘鍵争奪戦は。
誰の勝利でもなく終わった。
森エルフでもない。
闇エルフでもない。
勝者がいるとすれば――。
長い年月だった。
しかし。
その夜。
《破損した最後の秘鍵》がプレイヤーの手に渡ったことで。
止まっていたクエストが――。
再び動き始める。
そして彼らはまだ知らない。
第9層。
エルフたちさえ長く足を踏み入れていない土地で。
この壊れた鍵を見た者が。
ひどく懐かしそうに――。
こう口にすることを。
「……なんじゃ、この酷い有様は」
「こんなもの――儂らなら直せるぞ」
――ドワーフ。
数百年ぶりの再会は。
もう、すぐそこまで迫っていた。