エンジニアのSAO Progressive ~NPCが売ってないなら作ればいい~   作:Edward

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86 別れと再会

鬼との死闘を終え、二人は庵へと戻ってきた。

 

滝の音だけが、いつもと変わらず山間に響いている。

 

サタンは老師の横を歩きながら、何度もその姿を気にしていた。

 

鬼との戦いで見せた、老師の本気。

 

あれほどの力を解放したのだ。

 

いくら老師とはいえ、無事で済むはずがない。

 

サタン「師匠。今日はもう休めよ」

 

老師「なんじゃ、急に」

 

サタン「急にじゃねえよ。あれだけ無茶したんだ。今日は修行も何もなしだ」

 

老師「ほっほっほ。修行なら、もう終わっとるわい」

 

サタン「……あ?」

 

老師はそれ以上答えず、庵の中へ入っていった。

 

そして、しばらくして戻ってくる。

 

その手には、一つの古びた包みがあった。

 

老師「サタン」

 

サタン「ん?」

 

老師「これを持っていけ」

 

放り投げられた包みを、サタンが慌てて受け取る。

 

ずしり、と重い。

 

布を開いた瞬間、サタンの目が見開かれた。

 

黒鉄を基調とした、重厚な一対の手甲。

 

装飾らしい装飾はほとんどない。

 

だが、鍛え抜かれた金属の光沢、継ぎ目の精密さ、拳を守るために徹底して洗練された形状。

 

今までサタンが使ってきた《アイアンナックル》とは、明らかに格が違う。

 

ウインドウが開く。

 

《鉄王の手甲》

 

サタン「……なんだよ、これ」

 

老師「昔、とある武人が使っておったものじゃ」

 

サタン「武人?」

 

老師「己の拳だけで頂を目指した、大馬鹿者じゃよ」

 

老師は懐かしそうに目を細める。

 

「剣も槍も持たず、ただ己の肉体を鍛え続けた。じゃが、どれほど鍛えても拳は拳。骨は折れ、皮は裂ける」

 

老師は手甲を指差した。

 

「そこで、その男のために鍛冶師が打った。拳を武器にするためではない――拳を壊さぬためにな」

 

サタンは黙って手甲を見る。

 

老師「ドワーフの王が作った逸品じゃ、今のお前さんなら使いこなせるじゃろう。お前の旅路でもし9層に行くことがあったら、南端の底なしの洞窟にでも寄ってくれ、古い友人がそこにおる。」

 

サタン「……そんな大事なもん、俺がもらっていいのか?」

 

老師「だから、お前にやるんじゃ」

 

サタン「意味わかんねえよ」

 

老師「そのうち分かる」

 

いつもの、少し意地の悪い笑顔だった。

 

サタンはしばらく手甲を見つめ――

 

ゆっくりと装備した。

 

カチリ。

 

驚くほど自然に、腕へ馴染んだ。

 

まるで最初から、自分のために作られていたかのように。

 

サタン「……すげえ」

 

老師「使いこなせ。道具に使われるな」

 

サタン「ああ」

 

老師「それと――」

 

老師は庵の外を指した。

 

老師「さっさと行け」

 

サタン「……は?」

 

老師「修行は終わった。いつまでこんな山奥におるつもりじゃ」

 

サタン「いやいやいや!」

 

サタンは思わず立ち上がった。

 

サタン「今日くらいいいだろ! 魚とか狩ってくるからさ。修行終了の祝杯くらいあげようぜ」

 

老師「いらん」

 

サタン「即答かよ!」

 

老師「そんな暇があるなら、仲間のところへ帰れ」

 

サタン「一日くらい変わらねえって」

 

老師「変わる」

 

珍しく、老師が強い口調で言った。

 

サタンが黙る。

 

しかし老師は、すぐにいつもの笑顔へ戻った。

 

老師「お前がここで修行している間にも、仲間たちは前へ進んどる」

 

サタン「……」

 

老師「待っとるぞ。みんな」

 

サタンは頭を掻いた。

 

サタン「でもよ……」

 

老師「行け」

 

サタン「酒くらい――」

 

老師「いらん」

 

サタン「魚――」

 

老師「いらん」

 

サタン「肉――」

 

老師「しつこいわ!」

 

サタン「なんだよ! せっかく弟子が師匠孝行しようってのによ!」

 

老師「弟子なら師匠の言うことを聞かんか!」

 

サタン「修行終わったんだろ!」

 

老師「ならなおさら帰れ!」

 

サタン「どっちだよ!」

 

老師「ほっほっほっほ!」

 

いつものやり取り。

 

いつもの老師。

 

拍子抜けしたサタンは、大きくため息をついた。

 

サタン「……分かったよ」

 

老師「うむ」

 

サタンは荷物を背負う。

 

そして、新しい《鉄王の手甲》を軽く打ち合わせた。

 

――ガンッ。

 

澄んだ金属音が響く。

 

サタン「じゃあさ」

 

老師「なんじゃ」

 

サタン「今度、うまい酒とメシが手に入ったら持ってくる」

 

老師「……」

 

サタン「その時は付き合えよ。修行じゃねえぞ。飲むだけだからな」

 

老師は、少しだけ目を細めた。

 

老師「……好きにせい」

 

サタン「へへっ。決まりだな」

 

サタンは背を向けた。

 

老師「サタン」

 

サタン「ん?」

 

振り返る。

 

老師は笑っていた。

 

老師「達者でな」

 

サタン「おう!」

 

サタンは大きく手を振った。

 

老師も手を振る。

 

サタンは山道を下っていく。

 

十歩ほど歩いて――

 

また振り返った。

 

老師はまだ手を振っている。

 

サタン「じゃあな、師匠!」

 

老師「うむ!」

 

さらに歩く。

 

もう一度、振り返る。

 

まだいる。

 

老師は笑っていた。

 

サタン「ちゃんと休めよー!」

 

老師「早う行け!」

 

サタン「はははっ!」

 

また歩く。

 

そして――

 

老師の姿が小さくなる。

 

サタンは最後にもう一度、大きく手を振った。

 

老師も、それに応えた。

 

やがてサタンは岩場の曲がり道へ差しかかる。

 

その向こうへ消える寸前。

 

サタンはもう一度だけ顔を出した。

 

サタン「絶対また来るからなー!」

 

老師「……ああ」

 

サタンは満足そうに笑い、今度こそ姿を消した。

 

足音が遠ざかっていく。

 

老師は、ずっと手を振っていた。

 

誰もいなくなった山道へ向かって。

 

しばらくして。

 

老師の身体から、小さな光がこぼれた。

 

ひとかけら。

 

また、ひとかけら。

 

ポリゴン片が風に乗り、静かに消えていく。

 

老師「……やれやれ」

 

上げていた左腕が、崩れ始める。

 

指先から。

 

手のひらへ。

 

手首へ。

 

もう、痛みなどなかった。

 

鬼を封じ続けるため、この場所に留まり続けた長い年月。

 

そして今日。

 

最後に残ったすべての力を使った。

 

老師の左手が完全に消える。

 

それでも老師は、サタンが消えた曲がり道を見つめていた。

 

老師「……最後まで、騒がしい奴じゃった」

 

笑う。

 

その声は、少し震えていた。

 

老師「じゃが――」

 

身体が、さらに光へ変わっていく。

 

老師は残った右手を見る。

 

つい先ほどまで、その手で振っていた。

 

弟子に向かって。

 

老師「楽しかったぞ」

 

滝が流れている。

 

木々が揺れている。

 

いつもの修行場。

 

サタンが何度も投げ飛ばされた地面。

 

拳を打ち込んだ木人。

 

滝に打たれ続けた岩場。

 

怒鳴った。

 

叱った。

 

笑った。

 

何度倒れても、あの男は立ち上がった。

 

老師「サタン」

 

もう届かないと分かっていながら、老師は呟いた。

 

「ありがとう」

 

胸元から光が溢れる。

 

老師は最後に、穏やかに笑った。

 

「……死ぬなよ」

 

――パキン。

 

小さな音だった。

 

老師の身体が、無数の光となって砕け散った。

 

それに呼応するように。

 

長年そこにあった庵が光に包まれる。

 

木人が砕ける。

 

修行に使われた道具も。

 

古びた寝床も。

 

囲炉裏も。

 

すべてがポリゴン片となり、空へ消えていく。

 

やがて――

 

そこには何もなくなった。

 

庵も。

 

木人も。

 

老師も。

 

最初から、そこには何もなかったかのように。

 

ただ一つ。

 

滝だけが残った。

 

変わらぬ水音を響かせながら。

 

その頃。

 

何も知らないサタンは山道を歩いていた。

 

新しい手甲を眺めながら、笑っている。

 

サタン「酒は何がいいかな……。あのジジイ、意外と高い酒じゃねえと文句言いそうだな」

 

《鉄王の手甲》が、陽の光を受けて鈍く輝く。

 

サタン「まあいいや」

 

拳を握る。

 

サタン「攻略終わったら、死ぬほどうまい酒持ってきてやるよ」

 

そしてサタンは、仲間たちの待つ場所へ向かって歩いていった。

 

一度も――

 

後ろを振り返ることなく・・・。

 

 

 

 

第八層迷宮区――。

 

最上部にあるボス部屋を最初に発見したのは、ディアベルだった。

 

迷宮区の探索も終盤に入り、攻略組はいよいよ第八層フロアボス攻略へと動き始める。

 

ただし、今回は攻略開始の時間に少々事情があった。

 

攻略組トップクラスのプレイヤーであるキリト。

 

そして各パーティをまとめ、戦線全体のバランサーを務めるディアベル。

 

この二人が確実に活動できる時間――つまり、日没後から攻略を開始することになったのである。

 

理由は単純だった。

 

現在、キリトは《眷属》状態にある。

 

日光の下では活動できない。

 

だから――。

 

「よいしょ、よいしょ」

 

迷宮区の階段を、こっこたちは登っていた。

 

その中央には――。

 

棺桶。

 

こっこ「というわけで、棺桶にキリトくんを詰めて迷宮区へ向かっています✨」

 

キリト「おにぎり詰めるみたいに言うな 」

 

棺桶の中から怒声が響いた。

 

こっこ「まあまあ」

 

キリト「『まあまあ』じゃない!」

 

リズ「普通、主人公格のトッププレイヤーを棺桶で運搬する?」

 

シリカ「しかも本人、完全に荷物扱いですね……」

 

ピナ「きゅるるー♪」

 

キリト「ピナ、その鳴き方は絶対楽しんでるだろ!」

 

アスナ「ごめんね、キリトくん。もう少しだから」

 

キリト「アスナ……」

 

アスナ「でも、ちょっと面白い」

 

キリト「アスナまで!?」

 

こっこ「大丈夫だよ。取扱注意だから✨」

 

キリト「俺は荷物じゃない!!」

 

迷宮区にキリトの叫びが響いた。

 

本来ならアスナがキリトを連れてくる予定だったのだが、さすがに一人で棺桶を抱えて迷宮区を進ませるわけにはいかない。

 

そのため今回はアスナも、こっこ、リズ、シリカ、ピナの一行に加わっていた。

 

エンジニア代表のこっこは、攻略組をボス部屋前で迎えるため、他の攻略組より一足先に迷宮区へ入っている。

 

補給拠点を設営するためだ。

 

そして――。

 

一行がボス部屋前へ到着した頃。

 

迷宮区の高窓から差し込む西日は赤く染まり、あと少しで地平へ沈もうとしていた。

 

すでに先行していたエンジニアたちが忙しく動き回っている。

 

簡易調理場。

 

武器修繕所。

 

防具修繕所。

 

回復アイテムや消耗品の販売所。

 

ボス攻略前の最後の補給を行うための臨時店舗が、巨大なボス部屋の扉の前に着々と組み上げられていた。

 

こっこ「おー、早い早い。いい感じ✨」

 

リズ「相変わらずこういう時だけは組織力がすごいわね」

 

こっこ「こういう時だけって何さ!」

 

そんなやり取りをしながら、こっこは周囲を見回した。

 

そこで――。

 

見慣れない一団に気づいた。

 

赤を基調とした装備。

 

刀や曲刀を腰に差し、どことなく戦国武将を思わせる男たち。

 

こっこ「……ん?」

 

思わず二度見する。

 

こっこ「武士集団?」

 

リズ「違うでしょ」

 

どうやら彼らも、これから集まってくる攻略組を待っているようだった。

 

その中から、バンダナを巻いた男が一歩前へ出てくる。

 

こっこ「君たちは?」

 

男は少し緊張した様子を見せながらも、はっきりと名乗った。

 

クライン「あっ、お邪魔してます。ギルド《風林火山》のリーダー、クラインです」

 

こっこ「風林火山?」

 

クライン「はい。今回のボス攻略……もしレイドに空きがあるなら、俺たちも参加させてもらえないかと思いまして」

 

その瞬間。

 

棺桶の中から声がした。

 

キリト「――クライン?」

 

クライン「ん?」

 

キリト「クライン! クラインか!?」

 

クラインは周囲を見回した。

 

クライン「……誰か俺のこと呼んだか?」

 

こっこ「あー」

 

こっこは何でもないことのように、足元の棺桶を指差した。

 

こっこ「ここだよ、ここ」

 

クライン「…………」

 

棺桶を見る。

 

もう一度、こっこを見る。

 

また棺桶を見る。

 

クライン「……死人ですか?」

 

キリト「死んでない……」

 

クライン「しゃべった!?」

 

アスナ「ぷっ!」

 

アスナが口元を押さえる。

 

リズ「駄目……私もう……!」

 

肩を震わせている。

 

キリト「クライン! 俺だ! キリトだ!」

 

クライン「キリト!?」

 

クラインは棺桶の前へ駆け寄った。

 

クライン「キリトか! 会いたかったぜ!」

 

キリト「クライン……!」

 

クライン「…………」

 

しばし沈黙。

 

クラインは棺桶を見下ろした。

 

クライン「あの……」

 

キリト「なんだ?」

 

クライン「出てきてくれませんか?」

 

キリト「出られたら出てるよ!!」

 

クライン「いや、だって俺……棺桶に知り合いはいないんだけど……」

 

アスナ「ぷっ……!」

 

リズ「もう無理……!」

 

シリカ「あははははっ!」

 

ついにシリカが耐えきれなかった。

 

その笑いにつられ、アスナもリズも吹き出す。

 

風林火山のメンバーたちまで笑い始めた。

 

ピナ「きゅるるるー♪」

 

キリト「ピナまで笑うな!!」

 

こっこ「いやあ、感動の再会だね✨」

 

キリト「どこがだ!!」

 

ひとしきり笑ったあと、こっこは事情を説明した。

 

こっこ「すまない、クライン君。実はキリトくん、《眷属》になっちゃってね」

 

クライン「眷属?」

 

こっこ「日光を浴びられないんだよ」

 

クライン「…………」

 

クラインは棺桶を見る。

 

そして、もう一度確認するように聞いた。

 

クライン「マジかよ。ソードアート・オンラインにそんなバッドステータスがあるのか」

 

キリト「俺も知りたくなかったよ……」

 

クライン「だから棺桶?」

 

こっこ「うん✨」

 

キリト「嬉しそうに言うな 」

 

クラインは頭を掻いた。

 

クライン「いや……俺が知ってるキリトって、黒い服着て剣持って走り回ってる奴なんだけどよ」

 

キリト「俺だよ」

 

クライン「棺桶に収納されてるキリトは知らねえんだよ」

 

キリト「俺だって知らねえよ!!」

 

再び笑いが起きる。

 

だが――。

 

クラインは棺桶を見ながら、ふっと表情を緩めた。

 

クライン「……でも、まあ」

 

キリト「?」

 

クライン「声聞けて安心したぜ」

 

棺桶の中が静かになった。

 

デスゲーム開始の日。

 

二人は出会った。

 

そして、それぞれ別の道を選んだ。

 

キリトは攻略の最前線へ。

 

クラインは仲間たちとともに。

 

それ以来、二人はほとんど顔を合わせることなく、それぞれの場所で戦い続けてきた。

 

キリト「……クライン」

 

クライン「生きてたんだな」

 

キリト「ああ」

 

クライン「俺もだ」

 

ほんの一瞬だけ。

 

周囲から笑いが消えた。

 

言葉はそれだけだった。

 

だが、この世界では――。

 

「生きていた」

 

それだけで十分だった。

 

そして。

 

迷宮区の窓から差し込んでいた最後の西日が、石床から消えた。

 

アスナ「あ……」

 

こっこ「日が落ちた」

 

ガタッ。

 

クライン「!?」

 

棺桶が動いた。

 

ギィィィ……。

 

蓋が、ゆっくりと開く。

 

クライン「ちょ、ちょっと待て! 怖い怖い怖い!」

 

暗闇の中から――。

 

黒髪の少年が、むくりと起き上がった。

 

キリト「…………」

 

クライン「…………」

 

キリト「久しぶり、クライン」

 

クライン「出てきたああああああっ!!」

 

キリト「知ってただろ!?」

 

クライン「知ってても怖えよ!! 普通に出てこいよ!」

 

こっこ「じゃーん✨ キリトくん復活!」

 

キリト「お前は黙ってろ 」

 

アスナは笑いながら、キリトに預かっていた装備を渡した。

 

アスナ「はい、キリトくん。そろそろ攻略組のエースに戻って」

 

キリト「ああ」

 

黒い装備を整える。

 

腰には愛剣。

 

剣帯を締めた瞬間――。

 

雰囲気が変わった。

 

クラインの表情からも笑みが消える。

 

立ち姿。

 

周囲へ向ける視線。

 

装備を確認する手つき。

 

ゲーム開始直後に出会った頃とは明らかに違う。

 

何度も死線を越えてきた、最前線の剣士。

 

クライン「……ずいぶん先に行っちまったみてえだな」

 

キリト「そんなことないさ」

 

キリトはクラインの後ろを見る。

 

そこには風林火山の仲間たちがいる。

 

キリト「クラインだって、みんなを連れてここまで来たじゃないか」

 

クライン「……まあな」

 

クラインは鼻の下を擦った。

 

クライン「こいつらを一人も欠けさせねえって決めてるからな」

 

キリト「うん」

 

こっこは二人を交互に見る。

 

こっこ「へえー。キリトくんの知り合いだったんだ」

 

アスナ「ゲーム開始日に会ってたんだって」

 

こっこ「なるほど」

 

クライン「ところで……あんたがエンジニア代表のこっこさん?」

 

こっこ「そうだよ✨」

 

クライン「噂は聞いてますよ。店を作ったり、船を作ったり、村を作ったり、エルフとつるんだり、攻略組に変な道具を持ち込んだりする人だって」

 

こっこ「だいたい合ってる✨」

 

リズ「否定するところないわね」

 

シリカ「むしろ説明が足りないくらいです」

 

キリト「忠告しておく。関わると疲れるぞ」

 

こっこ「キリトくん 」

 

クライン「はははっ! 面白そうじゃねえか!」

 

キリト「その感想、覚えておけよ……」

 

その時だった。

 

迷宮区の奥から、複数の足音が響いてきた。

 

「おーい!」

 

攻略組本隊。

 

その先頭にいたのは――ディアベルだった。

 

こっこ「ディアベルさん!」

 

ディアベル「やっぱり先に着いていたか」

 

こっこ「もちろん! 補給所もほとんど完成してるよ✨」

 

ディアベルは臨時店舗を見渡した。

 

料理。

 

回復アイテム。

 

砥石。

 

予備装備。

 

武器と防具の修繕。

 

攻略組がボス戦へ突入する直前まで、万全の状態を整えられる。

 

ディアベル「相変わらず仕事が早いね」

 

こっこ「戦うのはみんなだからね。僕らは戦う前までが仕事!」

 

リズ「とか言いながら、どうせボス部屋にも入るんでしょ」

 

こっこ「状況次第✨」

 

リズ「入る気満々じゃない」

 

ディアベルは苦笑し――。

 

やがて、見慣れない一団に気づいた。

 

クラインも表情を引き締める。

 

クライン「ギルド《風林火山》、リーダーのクラインです」

 

一歩前へ出た。

 

クライン「今回のフロアボス攻略。もしレイドに空きがあるなら、俺たちも参加させてください」

 

ディアベルは風林火山の面々を見る。

 

装備。

 

人数。

 

そして互いの距離。

 

長く同じパーティで戦ってきた者たち特有のまとまりがあった。

 

ディアベル「フロアボス戦は?」

 

クライン「今回が初めてです。ただ、フィールドボス戦と迷宮区攻略なら経験があります」

 

ディアベル「なるほど」

 

その時。

 

キリトが一歩前へ出た。

 

キリト「ディアベル」

 

ディアベル「うん?」

 

キリト「クラインは信用できる」

 

クライン「キリト……」

 

キリト「無茶をして仲間を置いていくような奴じゃない。それに――」

 

風林火山を見る。

 

キリト「ここまで全員で来た。それだけで十分だと思う」

 

ディアベルは小さく笑った。

 

ディアベル「攻略組トッププレイヤーの推薦付きか」

 

そしてクラインへ手を差し出した。

 

ディアベル「歓迎するよ、《風林火山》」

 

クライン「――ありがとうございます!」

 

その手を強く握る。

 

ディアベル「ただし、今回は初参加だ。いきなり遊撃には置かない。既存のパーティと連携してもらう」

 

クライン「了解!」

 

ディアベル「まずは生き残ること。そして仲間を生きて帰すこと。それが最優先だ」

 

クライン「それなら――」

 

ニッと笑う。

 

クライン「俺たちがずっとやってきたことです」

 

キリトも笑った。

 

こうして――。

 

ギルド《風林火山》。

 

そのリーダー、クライン。

 

彼らが初めて、フロアボス攻略戦へと加わった。

 

そして、その前方には。

 

まだ誰も開いていない――。

 

第八層フロアボスの巨大な扉が、静かに待ち構えていた。

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