エンジニアのSAO Progressive ~NPCが売ってないなら作ればいい~   作:Edward

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93 飛び道具は卑怯だけどあちらは空とんでますよ

《Elder Gargoyle》の巨大な翼が、大きく広がった。

 

ディアベル「来るぞ! 全員、姿勢を低くしろ!!」

 

次の瞬間――。

 

バサァァァァァン!!

 

猛烈な風が荒野を駆け抜けた。

 

キバオウ「うおおおっ!?」

 

エギル「ぐっ……!」

 

大斧を地面に突き立て、エギルが辛うじて踏みとどまる。

 

だが、軽装のプレイヤーたちはそうはいかない。

 

「うわああっ!」

 

何人かが吹き飛ばされ、岩場を転がっていく。

 

幸いHPへのダメージは大きくない。

 

問題は――。

 

ディアベル「くそっ……時間を稼がれている……!」

 

口の中で噛んでいた《酸素の葉》の残り効果時間を見る。

 

もう、それほど余裕はなかった。

 

この第9層の高山地帯では、激しく動けば動くほど酸素不足によるデバフが蓄積する。

 

《酸素の葉》がある間は無視できる。

 

だが、その効果が切れれば――。

 

攻略組全体の戦闘能力が、一気に落ちる。

 

ディアベル「次の攻撃で数を減らす! 取り巻きを優先だ!」

 

キバオウ「おう!!」

 

攻略組が散開する。

 

エギルの大斧が一体のガーゴイルを叩き落とし、キバオウたちが地上へ落ちた個体へ殺到する。

 

「あと三体!」

 

「いけるぞ!」

 

しかし――。

 

《Elder Gargoyle》のHPバーが一定値を下回った瞬間。

 

ギャオオオオオオオッ!!

 

耳をつんざくような咆哮が響いた。

 

ディアベル「……まさか!」

 

遠くの岩山から、いくつもの黒い影が飛び立つ。

 

一体。

 

二体。

 

三体。

 

四体――。

 

キバオウ「また増えよったぞ!!」

 

エギル「取り巻きを減らすと補充するタイプか!」

 

最悪だった。

 

倒しても、一定以下になれば《Elder Gargoyle》が新たなガーゴイルを呼び寄せる。

 

しかも敵は飛行型。

 

近接職主体の攻略組では、飛んでいる間は満足に攻撃できない。

 

アルゴから情報を得て、ようやく確保した《酸素の葉》。

 

それにも限りがある。

 

ディアベルは自分の残り時間を見る。

 

そして周囲を見る。

 

仲間たちの動きにも、わずかに焦りが出始めていた。

 

ディアベル「……まずいな。」

 

長期戦になればなるほど、こちらが不利になる。

 

敵のHPではない。

 

時間そのものが、攻略組の敵になっていた。

 

その時だった。

 

――ドンッ!!

 

遠くで、何か重いものを地面へ置く音がした。

 

キバオウ「……あ?」

 

振り返る。

 

荒野の向こうから、大勢のプレイヤーが資材を担いで走ってくる。

 

木材。

 

ロープ。

 

金具。

 

滑車。

 

そして、巨大な木製アーム。

 

先頭の男が叫んだ。

 

「エンジニア部隊、到着しました!!」

 

ディアベル「エンジニア……!?」

 

キバオウ「おおっ! 来よったか!!」

 

ディアベル「知っていたのか!?」

 

キバオウ「こっこに頼んどったんや!俺達だけでキツそうやから手ぇ貸してくれってな!」

 

「組み立て開始!」

 

「土台固定!」

 

「アーム持ってこい!」

 

「そっちのピンを先に入れろ!」

 

彼らは戦場へ到着するなり、その場で作業を始めた。

 

ディアベル「……何を作ってるんだ?」

 

キバオウ「アイツラにおあつらえ向きのええ兵器や!みんなでヤツらに攻撃いかんようにフォローしてくれ!」

 

数分後。

 

ディアベル「…………。」

 

巨大な木製兵器が荒野に鎮座していた。

 

《投石機》。

 

しかも――一基ではない。

 

「一号機、完成!」

 

「二号機いけます!」

 

「三号機、あと三十秒!」

 

攻略組「…………。」

 

キバオウ「相変わらず仕事早い連中やな……。」

 

エギル「クロスボウじゃ、あの石の身体には威力不足だったからな。」

 

ディアベルも理解した。

 

クロスボウは優れた遠距離武器だ。

 

だが相手は岩石の身体を持つガーゴイル。

 

小さな矢を何本突き刺しても、決定打にはなりにくい。

 

ならば――。

 

「装填!!」

 

拳ほどの石ではない。

 

数人がかりで持ち上げる巨大な岩が、投石機へ載せられた。

 

「仰角調整!」

 

「飛行高度、合わせます!」

 

「一号機、準備完了!」

 

エルダーガーゴイルが翼を広げる。

 

再び強風を起こそうとしていた。

 

ディアベル「来るぞ!!」

 

だが。

 

「撃てぇぇぇぇ!!」

 

ドンッ!!

 

巨大なアームが跳ね上がった。

 

岩塊が空を切り裂く。

 

――直撃。

 

バゴォォォン!!

 

「ギャアアアッ!!」

 

一体のガーゴイルが空中で大きく弾かれ、そのまま地面へ墜落した。

 

攻略組「おおおおおおっ!!」

 

「二号機、発射!!」

 

ドンッ!!

 

さらに一体。

 

「三号機!!」

 

ドンッ!!

 

また一体。

 

クロスボウでは削るだけだったガーゴイルのHPが、一撃で大きく吹き飛んでいく。

 

エギル「なるほどな……!」

 

キバオウ「空飛んどるなら、叩き落としたらええんや!!」

 

そして――。

 

《Elder Gargoyle》が再び大きく翼を広げた。

 

「ボス、羽ばたきモーション!」

 

「照準合わせろ!!」

 

「一号、二号――同時射撃!!」

 

ドンッ!!

 

ドンッ!!

 

二つの岩塊が飛ぶ。

 

一発目が翼を直撃。

 

《Elder Gargoyle》の巨体が傾く。

 

二発目――。

 

バゴォォォォン!!

 

胴体へ命中。

 

巨体が空中で完全にバランスを失った。

 

ギャオオオオオオオッ!!

 

ズズゥゥゥン!!

 

地響きを立て、《Elder Gargoyle》が荒野へ墜落する。

 

ディアベルの目が見開かれた。

 

今だ。

 

この瞬間しかない。

 

剣を高く掲げる。

 

ディアベル「全員――突撃!!」

 

「おおおおおおおおおおっ!!」

 

攻略組が一斉に駆け出した。

 

エギルが先頭へ出る。

 

エギル「俺が頭を押さえる! 左右から回れ!!」

 

巨大な斧がガーゴイルの頭部へ叩き込まれる。

 

ドゴォン!!

 

起き上がろうとした巨体が、再び地面へ沈んだ。

 

キバオウ「ええ仕事するやないか!!」

 

エギル「喋ってないで叩け!!」

 

キバオウ「言われんでも分かっとるわ!!」

 

剣。

 

槍。

 

斧。

 

曲刀。

 

次々とソードスキルが炸裂する。

 

《Elder Gargoyle》のHPバーが猛烈な勢いで減っていく。

 

黄色。

 

赤。

 

残りわずか――。

 

だが、エルダーガーゴイルが再び咆哮しようと頭を上げる。

 

ディアベル「増援を呼ばせるな!!」

 

その声に応えたのは、攻略組ではなかった。

 

「投石機――再装填完了!」

 

ディアベル「撃て!!」

 

ドンッ!!

 

飛来した岩塊が、エルダーガーゴイルの顔面へ直撃する。

 

バゴォォォン!!

 

咆哮が強制的に中断された。

 

キバオウ「むちゃくちゃしよるで、あいつら!!」

 

エギル「だが、助かった!」

 

ディアベルは笑った。

 

ディアベル「これで終わりだ! 一気に削り切れ!!」

 

最後の一斉攻撃。

 

無数のソードスキルの光が、巨大な石像を包み込んだ。

 

《Elder Gargoyle》のHPバーが――。

 

ゼロになる。

 

ガキィィィィン!!

 

巨大な身体に無数の亀裂が走り。

 

次の瞬間。

 

パァァァァァン!!

 

青いポリゴン片となって、荒野いっぱいに砕け散った。

 

しばしの静寂。

 

そして――。

 

「うおおおおおおおおおお!!」

 

攻略組から大歓声が上がった。

 

ディアベルは剣を下ろし、残っていた《酸素の葉》を確認する。

 

あと少し。

 

本当に、ギリギリだった。

 

ディアベル「……助かったよ。」

 

エンジニアの一人が笑う。

 

「こっこさんから伝言です。」

 

ディアベル「伝言?」

 

「『空を飛んでて剣が届かないなら、届く物を作ればいい』だそうです。」

 

ディアベル「…………。」

 

エギル「ははっ。あいつらしいな。」

 

キバオウ「せやけどな――」

 

キバオウは、ずらりと並んだ投石機を見る。

 

「普通、現地で投石機から作るか?」

 

エンジニア達「いえ!これは移動も計算に入れた分解、組み立ての早い投石機です!岩は現地調達になりますが、ここは岩場だったので問題ないかと思いました!!」

 

キバオウ「こっこみたいなやつを量産すんなや・・・ 。」

 

ディアベル「まったく、あの人はいなくても存在感があるな。」

 

エギル「本人に伝えておくよ。」

 

クライン「すげえやつだな・・・こっこ・・・ 。」

 

 

 

東の森エルフ駐留地――。

 

こっこたちは、一縷の望みを託して南方へ向かっていた。

 

ランスロットから聞いた話では、この先に広大な山岳地帯が広がっているという。

 

だが――実際に足を踏み入れてみれば、それは「山岳地帯」などという生易しいものではなかった。

 

「……エベレスト級だよ……」

 

こっこが白い息を吐きながら呟く。

 

視界いっぱいに広がるのは、雪と岩。

 

見上げても頂上すら見えないほどの山々が幾重にも連なり、猛烈な風が雪煙を巻き上げていた。

 

そして何より厄介なのが――高山デバフ。

 

《Oxygen Leaf――酸素の葉》

 

これをほとんど常時噛み続けていなければ、たちまち身体能力低下のアイコンが点灯する。

 

それだけではない。

 

一定時間ごとに風を避け、焚き火などで身体を温めなければ――。

 

《Frostbite》

 

凍傷デバフまで追加される。

 

リズが両腕を抱きながら叫んだ。

 

「こっこ、もう駄目よ! 引き返すわよ!!」

 

「……うん」

 

さすがのこっこも反論できなかった。

 

何より――。

 

「ピナ! しっかりして……!」

 

シリカの腕の中で、ピナがぐったりしていた。

 

「きゅ……」

 

普段なら元気いっぱいに飛び回っているフェザーリドラも、この極寒と低酸素環境には耐えられないらしい。

 

シリカの胸元に身体を埋め、ほとんど眠ったままだった。

 

「もういい。戻ろう」

 

こっこは即座に探索を打ち切った。

 

まだ酸素の葉には余裕がある。

 

だが――ここで無理をして消耗する意味はない。

 

目的地どころか、手掛かりすらないのだ。

 

方角だけを頼りに、この山脈を闇雲に探索するなど自殺行為に近い。

 

こうして一行は、南方探索を断念した。

 

     ◇ ◇ ◇

 

数時間後。

 

東の森エルフ駐留地。

 

天幕の中では焚き火が赤々と燃えていた。

 

その傍らで、シリカが毛布に包んだピナを抱えている。

 

「ピナ……暖かくなってきた?」

 

「きゅる……」

 

ようやく小さな返事が返ってきた。

 

シリカはほっと胸を撫で下ろす。

 

その向かいでは、こっことリズ、そしてランスロットが地図を囲んでいた。

 

ランスロットが険しい表情で地図を見る。

 

「……聞いていた以上の過酷さですね」

 

「うん……」

 

こっこは地図上の南方を指でなぞった。

 

「山があるっていう情報だけじゃ無理だ。範囲が広すぎる。せめて谷とか洞窟とか、何か目印があれば……」

 

ピンポイントで場所さえ分かれば、酸素の葉を大量に持ち込んで突破する方法も考えられる。

 

だが今の状況では――。

 

ただ山脈を彷徨うだけだ。

 

リズが腕を組んだ。

 

「やっぱり、一度下層まで戻って情報を洗い直す?」

 

「……それしかないかな」

 

「ここまでイベントを進めたんだから、前は出なかった情報が解放されてるかもしれないでしょ?」

 

「あり得るね」

 

シリカもピナを抱きしめながら俯いた。

 

「でも……こんなの、おかしいですよ」

 

「シリカ?」

 

「ヒントすら出てこないなんて……」

 

その声には悔しさが滲んでいた。

 

六層で古文書を発見した。

 

森エルフと闇エルフ、双方との関係も築いた。

 

秘鍵も集めた。

 

そして第九層まで辿り着いた。

 

なのに――最後の最後で。

 

目的地そのものが分からない。

 

「……きゅる……」

 

シリカの腕の中で、ピナが小さく鳴いた。

 

「ごめんね、ピナ……無理させちゃったね」

 

こっこ。

 

リズ。

 

シリカ。

 

そしてランスロット。

 

四人は地図を囲んだまま――。

 

「「「「はぁ…………」」」」

 

同時にため息をついた。

 

完全な手詰まりだった。

 

――その時。

 

天幕の外が、急に騒がしくなった。

 

「急げ!」

 

「毛布を持ってこい!」

 

「火を強くしろ!」

 

「回復薬もだ!」

 

ランスロットが顔を上げる。

 

「……何事だ?」

 

天幕の入口を開き、外にいた兵士へ声を掛けた。

 

「どうした?」

 

森エルフの兵士が振り返る。

 

「隊長!」

 

兵士の表情には、困惑が浮かんでいた。

 

「駐留地の外で、人が倒れているのを発見しました!」

 

「人?」

 

こっこが振り返る。

 

リズも眉をひそめた。

 

「こんなところに?」

 

「現在、救助しております!」

 

ランスロットは驚いた。

 

この駐留地まで来るだけでも、《酸素の葉》なしではまともに活動できない。

 

ましてや南方は、先ほど自分たちが身をもって危険性を確認してきたばかりだ。

 

「どこで発見した?」

 

「南です!」

 

こっこたちの表情が変わった。

 

「南……?」

 

「はい! 南方警戒線の外側です!」

 

リズが立ち上がる。

 

「ちょっと待って。南って……私たちが行ってた方角じゃない!」

 

「プレイヤーなの?」

 

シリカもピナを抱いたまま立ち上がった。

 

兵士は困惑した表情で答えた。

 

「恐らく……。しかし……」

 

「しかし?」

 

「装備が……あまりにも、この土地に適しておりません」

 

ランスロットの眉がぴくりと動いた。

 

「どういう意味だ?」

 

「その……」

 

兵士は言葉を選ぶようにして――。

 

「ほとんど薄着です」

 

「…………」

 

こっこ。

 

リズ。

 

シリカ。

 

ランスロット。

 

四人の間に、妙な沈黙が流れた。

 

「……自殺志願者?」

 

リズが呟く。

 

「いやいやいやいや」

 

こっこが首を振る。

 

こんな場所を薄着で歩き回る人間など――。

 

その時。

 

外から、担架を運ぶ森エルフたちの声が聞こえてきた。

 

「こちらへ!」

 

「意識はあるぞ!」

 

「火のそばへ運べ!」

 

そして――。

 

かすかに。

 

本当に、かすかに。

 

聞き覚えのある低い声がした。

 

「……さむ……」

 

こっこの動きが止まった。

 

「…………」

 

もう一度。

 

「……肉……」

 

こっこの目が見開かれる。

 

リズが怪訝そうに振り返った。

 

「こっこ?」

 

「…………まさか」

 

「何よ?」

 

こっこは天幕の入口を凝視した。

 

外では森エルフたちが、巨大な人影を担架に載せて運んでくる。

 

そして――。

 

「……誰か……」

 

弱々しい声。

 

「……いないのか……」

 

こっこの顔が引きつった。

 

「…………サタン?」

 

リズとシリカが同時に振り返る。

 

「「え?」」

 

次の瞬間。

 

天幕の入口が開いた。

 

担架に載せられた巨漢。

 

ボロボロになった武闘着。

 

雪まみれの身体。

 

酸素の葉――なし。

 

防寒装備――なし。

 

そして両腕には――。

 

見覚えのない、重厚な手甲。

 

ランスロットが絶句する。

 

「……この高山地帯を……このような格好で?」

 

そして心底理解できないという顔で呟いた。

 

「この者は……自殺でもしたかったのか?」

 

こっこは担架へ駆け寄った。

 

「サターーーン!! 」

 

薄く目を開いたサタンは、こっこの顔を確認すると――。

 

ほんの少しだけ笑った。

 

「……おお……」

 

そして一言。

 

「……やっと……見つけた……」

 

ガクッ。

 

「サターーーン!!」

 

「気絶しただけよ!! 」

 

リズのツッコミが天幕に響き渡った。

 

誰もまだ知らない。

 

この締まらない遭難者こそが――。

 

こっこたちが必死に探し求めていた最後の目的地へ繋がる、

 

最大の《ヒント》そのものだということを。

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