エンジニアのSAO Progressive ~NPCが売ってないなら作ればいい~   作:Edward

95 / 96
95 秘鍵の祭壇

《底なしの洞窟》。

 

その名を聞いた時、こっこはもっと狭く、暗い縦穴のようなものを想像していた。

 

だが――実際はまるで違った。

 

こっこ「……でか……」

 

洞窟へ足を踏み入れた一行は、その場で立ち止まった。

 

天井が見えない。

 

いや、正確には遥か上方にあるらしいのだが、暗闇に溶け込んでしまい、松明の光など到底届かない。

 

左右も同じだった。

 

巨大な岩壁がどこまでも続き、その間を縫うように、一本の道が地下深くへと伸びている。

 

リズ「これ……洞窟っていう規模じゃないわよ」

 

シリカ「地下に、もう一つフィールドがあるみたいです……」

 

ピナ「きゅる……」

 

サタン「俺が見たのは、やっぱりここだったか……」

 

ランスロットも無言で周囲を見回していた。

 

森エルフである彼ですら、この場所については何も知らない。

 

こっこはしゃがみ込み、地面へ手を触れた。

 

――温かい。

 

外は凍傷デバフに苦しめられるほどの極寒だったというのに、この洞窟内部は明らかに気温が高い。

 

そして――。

 

こっこ「……硫黄?」

 

鼻をつく、独特の匂い。

 

リズ「じゃあ、ここって火山なの?」

 

こっこ「死火山じゃないと思う。少なくとも地下では、まだ何かが活動してる」

 

岩の隙間からは、ときおり白い蒸気が噴き出している。

 

さらに奥へ進むにつれ、岩肌の裂け目から赤い光が漏れ始めた。

 

地下深くを流れる――溶岩。

 

こっこ「……外と環境が違いすぎる」

 

その言葉を証明するように。

 

暗闇の奥から、低い唸り声が響いた。

 

グルルルルル……。

 

シリカ「来ます!」

 

飛び出してきたのは狼だった。

 

だが、外で遭遇したモンスターとはまるで違う。

 

黒い体毛。

 

その背中から――炎が噴き上がっている。

 

《Blaze Wolf》

 

リズ「狼が燃えてる!?」

 

こっこ「見たまんまだね、散開!」

 

炎狼が地面を蹴った。

 

速い。

 

こっこの横をすり抜けると同時に、尾から撒き散らされた火の粉が地面へ燃え移る。

 

サタン「ふんっ!」

 

踏み込んだサタンの蹴りが、炎狼の横腹を正確に捉えた。

 

ドンッ!!

 

狼が岩壁へ叩きつけられる。

 

だが――。

 

サタン「熱っ!!」

 

こっこ「素手で行くなよ!」

 

サタン「足だ!!」

 

リズ「どっちでも同じでしょ!」

 

さらに岩陰から、小型のトカゲが何匹も這い出してきた。

 

口元が赤く輝く。

 

ランスロット「伏せろ!」

 

直後。

 

ボウッ!!

 

炎が横薙ぎに洞窟を走った。

 

こっこ「火まで吐くの!?」

 

シリカ「ピナ、《水》!」

 

ピナ「きゅるるるっ!」

 

放たれた水流が炎と激突し、大量の水蒸気が周囲へ広がる。

 

その隙にリズが跳んだ。

 

リズ「《アースシェイカー》!!」

 

轟音。

 

地面ごと叩き割る一撃によってトカゲたちが弾き飛ばされ、ランスロットの剣が残った個体を切り伏せていく。

 

ようやく戦闘が終わった。

 

しかし――。

 

こっこ「……これ、外より面倒じゃない?」

 

リズ「外は寒さ。中は炎。どういう嫌がらせよ……」

 

サタン「暖かいだけマシだろ」

 

こっこ「君は数日前まで外で凍死しかけてたからね」

 

サタン「……」

 

シリカ「サタンさん?」

 

サタン「……暖かいって素晴らしいな」

 

リズ「実感こもってるわね……」

 

だが。

 

洞窟の本当の脅威は、モンスターではなかった。

 

さらに地下へ進んだ時だった。

 

こっこの視界に、見慣れない警告アイコンが点灯する。

 

《WARNING》

 

こっこ「止まって!」

 

全員が足を止めた。

 

前方の岩壁。

 

無数の亀裂から、薄黄色の煙が噴き出している。

 

シュウウウウウ……。

 

そしてステータス欄に、新たな異常が表示された。

 

《Poisonous Gas》

 

シリカ「毒!?」

 

ランスロット「いや……違う。これは――」

 

こっこ「空気そのものが駄目なんだ」

 

試しに一歩近づくだけで、HPとは別に呼吸を示す異常表示が急速に増えていく。

 

外では薄い酸素。

 

地下では火山性のガス。

 

第9層は、どこまで行ってもプレイヤーにまともな空気を吸わせる気がないらしい。

 

こっこ「 」

 

リズ「怒ってる場合じゃない!」

 

こっこ「《酸素の葉》!」

 

全員が一斉に葉を口へ入れる。

 

途端に警告表示が弱まった。

 

こっこ「行ける! 効果時間十五分! ここでモンスターに絡まれたら無視できる奴は無視する!」

 

ランスロット「走るぞ!」

 

そこからは時間との戦いだった。

 

蒸気。

 

毒性ガス。

 

吹き上がる熱風。

 

時折、岩の裂け目から噴き出す炎。

 

そして――その環境をものともせず襲ってくる炎属性のモンスターたち。

 

こっこ「右から来る!」

 

サタン「任せろ!」

 

リズ「前! 三匹!」

 

シリカ「ピナ、《霧》!」

 

視界を奪い、突破する。

 

倒す必要のない敵とは戦わない。

 

ただひたすら――奥へ。

 

残り時間。

 

八分。

 

五分。

 

三分。

 

こっこ「出口は!?」

 

ランスロット「分からん! だが風が流れている!」

 

こっこ「風!?」

 

確かに。

 

熱気の中に、わずかな空気の流れがある。

 

こっこは顔を上げた。

 

洞窟の遥か先。

 

小さな――光。

 

こっこ「あそこだ!!」

 

全員が走った。

 

一分。

 

三十秒。

 

そして――。

 

視界が開けた。

 

こっこ「――え?」

 

誰もが。

 

足を止めた。

 

そこにあったものを、理解するまでに時間がかかった。

 

巨大な空間。

 

これまで歩いてきた洞窟など、単なる通路に過ぎなかったのだ。

 

地下深くに広がるその空洞は――一つの世界だった。

 

天井から垂れ下がる巨大な鍾乳石。

 

岩壁には無数の光る鉱石が埋まり、星空のように地下世界を照らしている。

 

遥か下方には赤々とした溶岩の川が流れ、その熱を利用するかのように巨大な水車や歯車がゆっくりと回転していた。

 

ガコン――。

 

ガコン――。

 

規則正しい重低音。

 

そして。

 

カンッ!

 

カンッ!

 

カンッ!

 

金属を打つ音。

 

一つではない。

 

何十。

 

何百。

 

地下空間全体から、槌音が響いている。

 

岩壁を削り出して作られた建物。

 

幾重にも連なる石造りの橋。

 

巨大な炉。

 

鉱石を満載して走るトロッコ。

 

地下の岩盤をくり抜いて作られた、途方もない規模の街。

 

シリカ「……街……?」

 

リズは鍛冶師として、その光景から目を離せなかった。

 

リズ「……嘘……」

 

森エルフの村とは違う。

 

闇エルフの首都とも違う。

 

しかし、その規模だけなら――。

 

こっこ「……キリト君から聞いた、闇エルフのリーンガルドみたいだ……」

 

地下に存在する巨大都市。

 

その入口。

 

石柱に刻まれた紋章を見た瞬間。

 

ランスロットの目が大きく見開かれた。

 

交差する二本の槌。

 

その中央に――炎。

 

ランスロット「……まさか……」

 

サタンも、自らの手を見る。

 

老師から託された――《鉄王の手甲》。

 

その表面に刻まれている紋章。

 

同じだった。

 

サタン「……これ……」

 

その時だった。

 

ガシャン。

 

重い音が響く。

 

巨大な石門の前に立つ、小柄で屈強な人影。

 

一人ではない。

 

何人もいる。

 

背は低い。

 

しかし肩幅は広く、分厚い革と金属の装備を身につけ、その手には槌や斧が握られている。

 

長い髭。

 

煤に汚れた顔。

 

その一人が、一行へ武器を向けた。

 

???「止まれ。」

 

低く。

 

岩そのものが喋ったかのような声だった。

 

???「地上の者が、なぜここへ来た。」

 

こっこは息を呑んだ。

 

第3層から始まったエルフ戦争。

 

秘鍵。

 

古文書。

 

失われた魔法。

 

そして第6層で知った――その鍵を作った種族。

 

ずっと探していた。

 

情報すらなかった。

 

どこにいるのかも分からなかった。

 

そして今。

 

ついに――。

 

こっこ「……いた……」

 

リズ「こっこ……」

 

こっこ「いたよ……」

 

サタンを見る。

 

サタンも、こっこを見る。

 

数日前。

 

酸素の葉すら持たず。

 

事情も聞かず。

 

一人で山へ突っ込み。

 

遭難して。

 

死にかけて。

 

偶然この洞窟を見つけた男。

 

こっこの頬が引きつった。

 

サタン「……なんだ?」

 

こっこ「…………。」

 

サタン「おい。」

 

こっこ「サタン……」

 

サタン「なんだよ。」

 

こっこは両手で頭を抱えた。

 

こっこ「こんなの分かるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! 」

 

巨大な地下都市に絶叫が響き渡った。

 

リズ「うるさい!!」

 

シリカ「こっこさん! ドワーフさん達が警戒してますって!!」

 

ランスロット「今は感動するところではないのか!?」

 

こっこ「だってノーヒントだよ!? こんなのサタンが遭難しなかったら見つからないじゃん!! 」

 

サタン「俺は遭難してない!!」

 

こっこ「死にかけて運ばれてきただろ!! 」

 

サタン「修行だ!!」

 

リズ「どう見ても遭難よ!!」

 

???「…………」

 

ドワーフ達は武器を構えたまま、顔を見合わせていた。

 

こうして――。

 

数々の偶然と。

 

一人の男の無茶苦茶な修行と。

 

盛大な遭難の果てに。

 

こっこ達はついに。

 

アインクラッド第9層――地下深くに隠された、

 

《ドワーフの国》へと辿り着いたのであった。

 

 

 

ドワーフの集落へ足を踏み入れてから、どれほど歩いただろう。

 

巨大な地下空間のさらに奥。

 

岩盤そのものを削り出して造られた大広間へ、こっこたちは案内されていた。

 

天井から垂れ下がる巨大な鍾乳石。

壁面には幾何学的な紋様が刻まれ、その隙間を赤々とした溶岩の光が照らしている。

 

そして、その最奥。

 

巨大な石造りの椅子に腰掛けていたのは――。

 

ドワーフ王だった。

 

長く編み込まれた灰色の髭。

丸太のように太い腕。

その姿は王というより、長年炉の前に立ち続けてきた一人の職人そのものだった。

 

ランスロットが一歩前へ出る。

 

「森エルフの騎士、ランスロットと申します。突然の訪問、無礼をお許しください」

 

ドワーフ王は顔すら上げなかった。

 

その手には小さな金属片。

 

細い工具を使い、何かのアクセサリーを加工している。

 

カン。

 

カン。

 

小さな槌の音だけが広間に響く。

 

ランスロットは続けた。

 

「我々がここへ参ったのは、古き時代に失われた魔法について、お力を――」

 

「帰れ」

 

短い言葉だった。

 

ランスロットの言葉が止まる。

 

「……しかし」

 

「聞こえなかったか」

 

ドワーフ王は作業を続けたまま言った。

 

「帰れ」

 

こっこたちは顔を見合わせる。

 

リズが小声で囁いた。

 

「……取り付く島もないわね」

 

シリカも困ったように眉を下げる。

 

「せっかく、ここまで来たのに……」

 

ランスロットは、それでも諦めなかった。

 

「王よ、我々は争いを望んでいるのではありません。森と闇――二つに分かれてしまったエルフの民に、再び――」

 

「知らん」

 

カン。

 

「地上の政などに興味はない」

 

カン。

 

「森が誰を王と呼ぼうが、闇が誰に剣を向けようが、我らには関係のないことだ」

 

カン。

 

ドワーフ王は、そこでようやく顔を上げた。

 

「この地を脅かす者でなければ、危害を加えるつもりもない」

 

そして再び視線を手元へ戻す。

 

「だから帰れ」

 

「…………」

 

完全な拒絶だった。

 

ランスロットですら、次の言葉を失う。

 

こっこは腕を組んだ。

 

(困ったな……)

 

ここへ来るまでに、どれだけの偶然が重なったことか。

 

第六層で手に入れた《エルフの古文書》。

 

そこに記されていた、失われた魔法。

 

ドワーフによって作られた秘鍵。

 

第八層まで続いた森エルフと闇エルフの争奪戦。

 

そして――壊れてしまった一本の秘鍵。

 

ようやく、その鍵を直せるかもしれないドワーフへ辿り着いたというのに。

 

肝心の王がこれでは話にならない。

 

だが。

 

「…………」

 

こっこは、ふとドワーフ王の手元を見た。

 

先ほどからずっと何かを作っている。

 

王座に座っているというのに、政治の書類を見るでもない。

 

武器を磨くでもない。

 

小さな金属を削り、磨き、宝石らしきものを嵌め込んでいる。

 

こっこは少しだけ横へ移動した。

 

「…………」

 

もう少し。

 

「…………」

 

さらに横へ。

 

リズが呆れた顔をする。

 

「何してんの?」

 

「いや……何作ってるのかなって」

 

「今それ!?」

 

だが、もう一人。

 

同じように興味を示した男がいた。

 

サタンだった。

 

「……細けぇ仕事だな」

 

いつの間にか、こっこと並んで覗き込んでいる。

 

「だよね。あれ、銀かな?」

 

「いや。色が違う。合金じゃねぇか?」

 

「宝石留める爪、めちゃくちゃ細かいよ」

 

「おう」

 

二人して、じーっと覗き込む。

 

ランスロットが額を押さえた。

 

「お二人とも……今は、そのような場合では……」

 

その時だった。

 

ドワーフ王の手が止まった。

 

「…………」

 

視線が上がる。

 

こっこは慌てて姿勢を正した。

 

「す、すみません。邪魔しました」

 

だが。

 

王が見ていたのは、こっこではなかった。

 

サタンだった。

 

いや――。

 

正確には。

 

その腕。

 

「……お前」

 

サタンが自分を指差した。

 

「俺か?」

 

「その手甲を見せろ」

 

「?」

 

サタンは両腕を見る。

 

老師との修行を終えた今も装備している手甲。

 

《鉄王の手甲》。

 

「これか?」

 

ドワーフ王が立ち上がった。

 

今まで何を言われても動かなかった男が。

 

初めて王座を離れた。

 

「……こちらへ来い」

 

サタンが訝しげな顔をしながら近づく。

 

ドワーフ王は、その手甲を掴んだ。

 

表面を指でなぞる。

 

裏返す。

 

留め具を見る。

 

そして――小さく息を呑んだ。

 

「……間違いない」

 

広間の空気が変わった。

 

こっこが目を細める。

 

「何か知ってるんですか?」

 

王は答えない。

 

サタンへ問いかけた。

 

「これを、どこで手に入れた」

 

「師匠から貰った」

 

「師匠?」

 

「老師だ」

 

その瞬間。

 

ドワーフ王の目が見開かれた。

 

「……2層に住む、体術使いの男か。」

 

サタンの表情が変わる。

 

「老師を知っているのか?」

 

長い沈黙。

 

やがてドワーフ王は、懐かしむように手甲を撫でた。

 

「……古い友だ」

 

こっこが目を見開いた。

 

ランスロットも息を呑む。

 

老師が言っていた。

 

――南の果て。

 

――底なしの洞窟。

 

――古い友。

 

そしてサタンへ託された。

 

《鉄王の手甲》。

 

すべてが。

 

ここで初めて繋がった。

 

ドワーフ王はサタンを見る。

 

先ほどまでとは、まるで違う目だった。

 

「座れ」

 

「おう」

 

「お前たちもだ」

 

こっこが思わずランスロットを見る。

 

ランスロットも驚いている。

 

リズが小声で言った。

 

「……話、聞いてくれるみたいね」

 

シリカがほっと息を吐いた。

 

「サタンさん……すごいです」

 

「俺、何もしてねぇぞ?」

 

「それはそう」

 

こっこが即答した。

 

「おい 」

 

だが。

 

ここからだった。

 

ドワーフ王は、ランスロットが持っていた《エルフの古文書》を受け取った。

 

そして、その内容へ目を通す。

 

「……なるほどな」

 

ランスロットが尋ねる。

 

「ご存じなのですか?」

 

「知っている」

 

王は古文書を机へ置いた。

 

「お前たちエルフが《秘鍵》と呼んでいる物」

 

一同の視線が集まる。

 

「あれを作ったのは――我らドワーフだ」

 

「……!」

 

ランスロットが息を呑んだ。

 

こっこはストレージを操作する。

 

取り出したのは。

 

一本の――壊れた鍵。

 

これまでの長い旅の末に集められた秘鍵の一つ。

 

しかし、その一部は欠損し、亀裂が走っている。

 

「これです、長い間安置台が壊れて見つけたときには破損してまひた。」

 

ドワーフ王は受け取った。

 

そして。

 

じっと見つめる。

 

「……懐かしい」

 

「直せますか?」

 

こっこの問いに。

 

王は即答した。

 

「直せる」

 

「!!」

 

リズが思わず立ち上がった。

 

「本当に!?」

 

「ああ」

 

しかし王は続けた。

 

「ただし、これだけでは戻らん」

 

「え?」

 

ドワーフ王は壊れた秘鍵を机へ置く。

 

「これはただの鍵ではない」

 

太い指が、鍵の紋様をなぞる。

 

「ドワーフが器を鍛え、エルフが魔法を封じた秘鍵だ。」

 

ランスロットが目を見開く。

 

「では……」

 

「ああ」

 

王は頷く。

 

「我らだけでも作れぬ。お前たちだけでも作れぬ」

 

こっこの背筋に、ぞくりとしたものが走った。

 

それは。

 

これまで集めてきた情報と完全に一致する。

 

ドワーフ王は立ち上がった。

 

「秘鍵を本来の姿へ戻す為には、色々と必要だ。」

 

こっこ「壊れた秘鍵を直すには何かが必要、と言う事ですか?」

 

ドワーフ「左様、そして直せたらその秘鍵をある場所で使う事になる。」

 

「場所?」

 

王は広間の奥。

 

さらに地下へ続く巨大な石扉を指差した。

 

「《秘鍵の祭壇》」

 

その名前を聞いた瞬間。

 

こっこの視界に。

 

――ピコン。

 

システム音が響いた。

 

ランスロットも。

 

リズも。

 

シリカも。

 

サタンも。

 

同時にウインドーを見る。

 

そこには――。

 

《Quest Updated》

 

そして。

 

長い間、断片しか表示されていなかったクエスト名が。

 

初めて完全な形で表示されていた。

 

《失われし魔法――秘鍵の祭壇》

 

こっこは言葉を失った。

 

第六層。

 

偶然見つけた黄金のキューブ。

 

そこから得た《エルフの古文書》。

 

森エルフ。

 

闇エルフ。

 

二つの勢力。

 

秘鍵を巡る争い。

 

八層で揃った鍵。

 

その中の一本だけが壊れていた。

 

そして九層。

 

何の手掛かりもない高山地帯。

 

酸素の葉。

 

吹雪。

 

サタンの遭難。

 

老師から託された手甲。

 

南の果て。

 

底なしの洞窟。

 

その最深部。

 

ドワーフの民。

 

鉄王。

 

壊れた秘鍵。

 

そして――。

 

《秘鍵の祭壇》。

 

「…………」

 

こっこは、頭を抱えた。

 

リズが振り返る。

 

「こっこ?」

 

「…………繋がった」

 

「え?」

 

こっこは顔を上げた。

 

「全部……繋がった」

 

ランスロットも静かに頷いた。

 

「そういうことだったのですね……」

 

ドワーフ王は鼻を鳴らす。

 

「何を今さら驚いている」

 

そして。

 

サタンの《鉄王の手甲》を指差した。

 

「お前の師は、最初から知っていたのだろう」

 

サタンは自分の手甲を見る。

 

老師が別れ際に託したもの。

 

単なる防具ではなかった。

 

この場所へ辿り着くための――。

 

最後の証だった。

 

サタンは、ほんの少しだけ笑った。

 

「……老師」

 

こっこも微笑む。

 

老師は何もかも説明しなかった。

 

ただ。

 

必要なものを。

 

必要な男へ託した。

 

そして、その男は――。

 

「…………」

 

こっこはサタンを見る。

 

雪山で遭難して。

 

かまくらを作って。

 

モンスターの肉を焼いて。

 

半分死にかけた状態で森エルフに拾われた男を見る。

 

「…………」

 

サタン「なんだよ」

 

こっこ「いや……」

 

ものすごく格好いい伏線だったはずなのに。

 

どうしても。

 

途中経過が締まらない。

 

こっこは小さく笑った。

 

「サタンが遭難してなかったら、俺たちここに来られなかったんだなって」

 

「遭難言うな 」

 

リズが吹き出した。

 

シリカも笑う。

 

ランスロットまで肩を震わせていた。

 

ただ一人。

 

ドワーフ王だけが怪訝な顔をしている。

 

「……お前たちは、本当に世界を救う気があるのか?」

 

こっことサタンは顔を見合わせた。

 

「ありますよ?」

 

「あるぞ?」

 

「…………」

 

ドワーフ王は深いため息をついた。

 

だが。

 

その口元には――ほんの僅かに笑みが浮かんでいた。

 

長く途切れていた道が。

 

今。

 

再び繋がった。

 

エルフ。

 

ドワーフ。

 

そしてプレイヤー。

 

失われた魔法を取り戻すための最後の物語が――。

 

《秘鍵の祭壇》へ向けて。

 

静かに動き始めた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。