こっくりさんで呼ばれたけど、ヤンデレに捕まってしまって帰れないお狐さま

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だって私、あの日からずっと――






おいでませ、お狐さま

 

 

 

「どうしてこんなことになってるのじゃ」

十にも満たない女子(おなご)に抱き着かれて、私は頭を抱えていた。

「私に獲り憑くって、あなたが言ったんじゃない」

「言ってない!! 言ってないのじゃ!!」

断じて違う。あれは私の意志で”そうしよう”としたんじゃない。

 

 

事の発端は数時間前にさかのぼる。

 

小学校の裏には山があり、小さな稲荷社がある。

誰からも忘れられた、もう手入れする者もない、荒れ果てた小さな祠だ。

私はそこで消滅を待つ身であった。

 

「こっくりさん、こっくりさん、おいでください」

 

――私は悩んでいた。

 

「こっくりさん、こっくりさん、おいでください」

 

3人の女子たちが唱える言葉を聞きながら、悩んでいた。

落ち葉が積み重なる祠の前には白い紙が置かれている。

そこには赤い鳥居と「はい」「いいえ」の文字。

それに48音に記号を追加したものが書かれていた。

 

「こっくりさん、こっくりさん、おいでください」

 

唱えているのは小学校も半ばだろうかという年頃の娘たち。

その顔は期待と興奮に染まっている。

これがきっかけで、私の敷地で変な霊が降霊してしまうと寝つきが悪い。

 

(仕方がない。付き合ってやるか)

 

今にして思えばその気まぐれこそが、元凶だった。

私も十円玉へと指を重ねて、それを「はい」の位置へと導いてやる。

恐怖と興奮に、彼女たちの顔が引きつるのが見えた。

それは畏敬にも似た感情で、私の腹を少し満たしてくれた。

 

「あなたはどこから来ましたか?」

ひとりの少女が問いを発する。

 

     い な り

 

私は再び十円玉を動かして答える。

ごくりと、誰かが息を飲む。

少しして、ひとりの少女が問いを発する。

「あの……私はAくんと付き合えますか?」

Aくん……あの酒屋のやんちゃ坊主か。

やつの素行は褒められたものではないが、あの先祖にはいつも世話になっている。

どれ、ちゃんと占ってやるか。

尻尾の毛を抜いて紙の上に投げると、それは「はい」へと導かれた。

私は十円玉をそちらに誘導する。

 

問いを発した少女から嬌声が上がる。他の2人もどことなく嬉しそうだ。

占ってやった私も少しだけいい気分になる。

それからは順番にいろんな質問をされた。

私は参加者たちの嬉しさと恐怖の入り乱れた感情を面白く思いながら、質問に答えてやる。

 

「私とBくんは? 付き合えるかな?」

「女の子同士は恋愛できる?」

「Aくんのお嫁さんになれる?」

「C先生は結婚できるのかな?」

「歳の差の恋愛ってどう思う?」

「放課後遊んでても怒られないのはいつ?」

「Bくんの好きなタイプは?」

「人間と神様は結婚できる?」

 

 

一部やけにピンポイントな質問だなと思いながらも、素直に占い、答えてやる。

幼気(いたいけ)で純真な質問は、かえって自らの老いを感じさせる。

どっと疲れが舞い込んできたころに、すぐ近くの学校から放課後を知らせるチャイムが鳴る。

夕暮れが近い。彼女たちも家に帰らなければいけない時間だ。

少女たちが名残惜しそうにしながら、終わりの儀式を始めた。

 

「こっくりさん、おかえりください」

 

私自身楽しくないわけではなかったが、いい加減疲れた。

指を「はい」の位置へと導いて、この遊戯を終わらせようとした。

 

……したはずだった。

 

「あれ?」

 

私の口から困惑を表す声が出る。

指が、動かなかった。

 

必死に力を込めても、霊力を込めても、十円玉を動かすことができない。

「どういうことなのじゃ」

動かない。どころか、ゆっくりと私の思う方向とは違う方向へと動いていく。

やがて指を乗せた十円玉は「いいえ」という文字へと降り立つ。

 

「ヒッ」とひとりの少女が顔を引きつった声を上げる。

私含めた全員が息を飲んでいた。

指はなおも勝手に動き続ける。

 

 

 

 

 

     と

 

 

 

 

 

 

 

     り

 

 

 

 

 

 

 

     つ

 

 

 

 

 

 

 

     く

 

 

 

 

 

 

 

この場でこっくりさんを取り仕切っていた私をあざ笑うようにゆっくりと、十円玉が動く。

恐怖に堪えきれず、Aくんにご執心の女子が叫び声を上げる。

(いかん!!)と思った瞬間には彼女は指を離していた。

 

……こっくりさんの儀式(降霊術)は霊を降ろしたまま終えてしまった。

私は稲荷社に戻ることができなくなってしまった。

 

少女がふたり、絶叫を上げながらこの場を去っていく中、ひとりの女子だけがその場に残って”私を視て”いた。

その表情には淫靡な――とてもその年齢の女子がするようなものではない――笑顔を浮かべていた。

 

「契約は成立したわ。これであなたは私のもの」

 

降霊術のさなかに霊が「獲り憑く」と発言したのだ。

私は彼女に憑かざるをえなくなってしまった。

 

すでに時刻は逢魔が時。とんでもない女子に捕まってしまったものだ。

仕方なしに家へと帰る彼女付いていくと、玄関の中に入った彼女が振り向いてニヤリと笑う。

 

「いらっしゃいませ」

 

そう言った彼女の目はこちらを見ている。

その異様な霊感の高さに気づく。

 

(そうか、最初から――)

 

仕組まれたことであったのだ。

私を呼び出したのも、私の力よりも強い霊力で私の退路を断ったのも、彼女だったのだ。

そうなると、初めは意味の解らなかった彼女の質問の意図が分かり始める。

女の子同士の恋愛、歳の差の恋愛。神様との婚姻――!?

 

「どうか許してほしいのじゃ。

私には愛する旦那*1と2人の子ども*2が!!」

 

「逃げたければ逃げてもいいんですよ」

そっけない調子で返答されたが、いざ逃げようとしてもこの家には結界が張られていて外に出られそうになかった。

それに私はこの女子に縛られていた。

霊力が格上の相手に対して、契約も相まって、もはや逃げられないと悟る。

 

「さぁ、おいでませ、お狐さま。私、この時をずっと待っていたのですよ」

 

そう言って女子が私を彼女の寝床へと導く。

――私は逆らえない。

歓喜に震える指が、狂気を孕んだ瞳が、私を夜へと包み込んだ。

 

 

 

 

*1:
妄想

*2:
一姫二太郎(妄想)





「……遠い国へ嫁に行くことになりました。今までお世話になりました」

小さな稲荷社に頭を下げる女が顔を上げる。
その瞳は虚空を見つめている。

「もう戻ってくることはないでしょう」

抑揚を抑えているものの、その言葉の持つ悲痛な決意は、きっと聞くものの胸を刺すことだろう。

「……これも家のためです。仕方がありません」

それは自身に何度も言い聞かせてきた言葉なのだろう。
全く自然で、その本音を疑いようがない。
けれど――

「やっぱりあなた様はズルいです。優しくて、ズルい」

女が泣く。堰が切れて、まるで子どものように泣きじゃくる。

「今までもこれからも、私がお慕いしているのは――」

境内に吹く強い風が、女の言葉を遮ぎった。
それは神様のほんの気まぐれだったのかもしれない。
けれど、風と共にもたらされたそれは、女の心を救うには十分な一言であった。
彼女は太陽のように笑顔を輝かせると

「ありがとう。必ず戻ってきます。どれだけの命を経ても、必ずあなたのもとに――」

そう言って今度は笑顔のまま泣いた。
振り返ると、遠くの空で虹が輝いていた。





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